(新疆ウイグル自治区カシュガルの街角で “flickr”より By Eric Lafforgue http://www.flickr.com/photos/41622708@N00/8127164546/in/photolist-doaQSE-dwq6YC-doaHRV-dApzkT-dxVHAQ-dwjy9i-dxVJKY-dBkJpc-dAv48C-7Xg9jJ-7Xa9KL-7VK3AH-7G1CSE-7VK1Qt-7VJWkT-7Cabvc-7VDUTD-7VJZhr-7BW1Vr-7BW67k-7VH6nq-7VHa4j-7VH5vh-95kLFh-dsZKDQ-7FbBH5-dAv5um-doaNte-dveMm2-dwjtXT-dxVFzy-doaS8R-e776Dx-dBraww-dwq3RC-dxVK8s-drULQ1-dBkTkR-e776dR-dvkoGm-dveMBR-dNZUwY-dMt4fp-dvkmg3-dsZKBY-e7cJqJ-dxQeoz-dKQakq-7XfR4r-eiq43e-dMyB2m)
【散発する「テロ事件」】
新疆ウイグル自治区では、チベットと並ぶ中国の重大な民族問題が続いています。
中国政府にとっては譲る余地のない「核心的利益」ですが、イスラム教徒ウイグル人にとっては漢族による圧政への抵抗運動です。
“中国最西の広大な新疆ウイグル自治区では、過去何年にもわたり主としてイスラム教徒のウイグル人による散発的な事件が起きている。人権団体は、漢族による文化の抑圧、押し付けがましい治安対策や移住政策で、ウイグル人は追いこまれているとしている。”【1月25日 AFP】
“散発的な事件”のひとつとして、今月14日にも公安(警察)車両が武装グループに襲撃されたそうで、中国政府は「テロ事件」と断定しています。
****中国:警察車両襲撃「ウイグル族テロ」****
中国新疆ウイグル自治区西部のアクス地区で今月、警察のパトロール車などが襲撃される事件が起きたが、政府系ニュースサイト「天山網」は16日、襲撃はウイグル族によるテロ事件だったと報じた。
警察は8人を射殺し、現場周辺は、厳重な警備態勢が敷かれている模様だ。
事件は14日に起きた。報道によると、中心人物のウイグル族とみられるリーダーが、3年前から極端な思想の宣伝を開始。昨年9月から計13人のグループを組織し、襲撃を実行したとしている。【2月17日 毎日】
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1月24日には、新疆ウイグル自治区アクス地区トクス県で、爆発事件の捜査をしていた警察官に「暴徒」が爆発物を投げつけ、警察官が6人を射殺したほか、5人を拘束、別に6人が自爆して死亡したと報じられています。
襲撃者の民族は明らかにされていませんでしたが、地元公安当局は「テロ事件」と断定しています。
【締め付け強化への反発で高まる緊張】
昨年末、12月30日にも、カシュガル地区ヤルカンド県で武装グループが公安施設を襲撃する事件があり、公安当局は8人を射殺し、1人を拘束したとされています。
下記記事は、昨年6月にホータンで起きたとされる“襲撃事件”の実情を報じたものです。
****中国・習政権、ウイグル締め付け強化 モスクの礼拝中止、家に突然押しかけ****
中国の新疆ウイグル自治区で、習近平(シーチンピン)政権が少数民族のウイグル族に対する圧力を強めている。
自治区で事件が起きると、「テロ」や「過激派」の脅威を喧伝(けんでん)してさらに締め付けを強化。
一方のウイグル族には、漢族を中心とする共産党政権に対する反発が根強く、互いの不信がさらに緊張を高める状況だ。
自治区南部ホータンの農村部を訪ねると、モスクの入り口には鍵がかけられ、出入りできなくなっていた。ウイグル族の男性(32)は「モスクを使えなくするなんて、我々の宗教活動には大きな問題だ」と当局への不満を口にした。
ここに向かったのは、自治区政府系のニュースサイト「天山網」に昨年6月、不可思議なニュースが載ったからだ。「ホータンで武器を持った集団が騒ぎを起こした。公安当局が速やかに対応。騒ぎを起こした人物を拘束し、事態は静まった。大衆に死傷者はいない」
一体何が起きたのか。複数の地元住民の話によると、いきさつはこうだ。
昨年6月28日午後、当局者がモスクを訪れ、「違法な宗教活動をしている」として礼拝を中止させた。
怒った参加者から「政府に抗議しよう」との声が上がり、大勢の住民が地元政府庁舎に向かった。
警察が出動し、住民が相次いで拘束された。人数は不明だが、一連の衝突でけが人や死者も出たとみられる。
モスクは事件後、立ち入りが一部制限されたが、今年に入って完全に使えなくなってしまったという。
モスクから遠くない場所で、息子が当局に拘束されたままだという夫婦に出会った。
父親(65)によると、三男のメットルスンさん(27)は宗教指導者の立場にあったが、昨年5月に当局によって解任させられた。その後は街で鶏を売って生計を立てていたが、衝突の報を受け、その日急きょ地元に戻った。
当局からの求めに応じて派出所に出向いたところ、拘束された。「極端な宗教思想を違法に広めた」との理由だった。母親(57)は「息子は何も悪いことはしていない。無実だ」と言って泣いた。
ホータンで教育関係の仕事をしているウイグル族の20代男性は、6月の事件以降、当局による締め付けが一段と強まったと感じている。
当局者がウイグル族の家に突然押しかけたり、道で身分証の提示を求めたりすることが増えた。
「公務員になったウイグル族は職場でいつまでも出世できない。漢族とウイグル族がけんかをしても、警察はウイグル族だけ捕まえて取り調べる」と差別的な待遇を訴えた。【2月16日 朝日】
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この昨年6月28日の“ホータン襲撃事件”の直前には、6月26日にトルファン地区で派出所などが襲撃され、計35人が死亡したとされる事件があり、また、7月5日は漢族ら約200人が死亡した2009年の区都ウルムチでの大規模暴動から4年となることもあって、6月29日、習近平国家主席は早期の事態収拾と地域の安定を図るよう命じ、自治区各地で厳戒態勢が敷かれました。
その後、10月28日には「天安門突入・炎上事件」が起きています。
一方からの情報だけで即断はできませんが、上記【朝日】記事を読む限りは、地域実情を無視した当局の締め付けが住民の不満・怒りを大きくしているようにも思えます。
中国政府は、自治区の開発によって住民は大きな利益を得ているとしていますが、その開発の在り様も住民の意思や地域の文化を無視したところがあるようです。
****開発優先、墓地取り壊し****
区都ウルムチから車で約2時間。石河子には、イスラム教の慣習に従ってウイグル族の死者が埋葬されている墓地がある。200~300年ほどの歴史があるとされる。
ところが、中国メディアなどによると、開発業者が20億元(約335億円)を投資し、ここにショッピングセンターなどを建てる計画が進んでいる。地元政府は開発を認め、墓地の取り壊しを決定。すでに墓の一部が撤去されたという。
住民は2012年末から、この計画に反対の声を上げている。デモや座り込みには、多い時に約1千人が参加した。
両親と祖父母をここに葬った男性(45)は「空港や道路、学校をつくるというなら話は別だが、私企業のためというのは絶対反対だ」と語る。
親類十数人が埋葬されているという男性(47)は「イスラム教徒のことがまるで考慮されていない。開発業者の利益がそんなに大事なのか」と地元政府への怒りをぶちまけた。
墓地にはほかの少数民族が使う一画もあり、回族の住民らにも反対の声が広がっている。【同上】
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墓地を取り壊してショッピングセンターを・・・というのは、いかにも乱暴なやり方です。
これではいくら資金を投下して開発しても、ウイグル人の共感を得ることはないでしょう。
そもそも、共感を得ようとする意向がないとも思えます。
【ねじ伏せられた“漢族とウイグル族を結ぶ橋”】
“漢族とウイグル族を結ぶ橋になりたい”として、ウイグル族の境遇改善を訴えてきたウイグル族経済学者も、当局に連行されて1か月が経過しました。
****弁護士面会さえ許されず ウイグル族学者連行から1カ月****
中国でウイグル族の境遇改善を訴えてきた経済学者、イリハム・トフティ氏(45)が公安当局に連行されて1カ月が過ぎた。
家族は居場所や容疑も教えられず、弁護士は面会もできないまま。当局は政治犯として重い罪に問う構えで、関係者は懸念を深めている。
「公安が自分を捕まえようとしているようだ」
1月、北京市内の自宅を訪ねた知人に、イリハム氏は表情を曇らせて語った。
昨年10月、天安門前に車両が突入した事件の後、イリハム氏の車に当局の車が衝突するなど圧力が高まっていた。
新疆ウイグル自治区ウルムチ市公安局がイリハム氏拘束への協力を北京市公安局に求めているとの情報を耳にしていたらしい。
数日後の15日、イリハム氏の自宅に両市の公安当局者数十人が押しかけた。前後して連行された中央民族大学のウイグル族学生らの消息も途絶えたままだ。
弁護士は同月27日、ウルムチ市に向かい公安当局に面会を求めたが、「調査中」を理由に拒まれた。
同市公安局はその2日前、ブログで、イリハム氏が「(大学の)授業でウイグル族による暴力抗争を呼びかけた」などとして「国家分裂活動に従事していた確かな証拠がある」と宣伝。
当局はイリハム氏を国家分裂罪などの重罪に問おうとしているとの見方が関係者の間で強まっている。
イリハム氏と親交のある漢族男性は「彼が訴えたのはウイグル族による自治だ。独立志向の強い在外ウイグル組織とは距離を置いていた」と話し、「彼は漢族とウイグル族を結ぶ橋になりたいと言っていた。その彼を追い込めば、徹底抗戦を唱える過激派の主張が説得力を持つことになるだろう」と懸念する。【2月16日 朝日】
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歴代共産党政権と同様に習近平政権も、チベットやウイグルという「核心的利益」で譲る気配はなく、強圧的な施策を強めています。
この民族問題に関する頑なさは、単に共産党政権の姿勢というだけでなく、漢族国民の意向でもあるでしょう。
国内の政治・経済・社会問題に関しては、国民の不満への対応として共産党政府の施策が変化する余地もありますが、漢族国民への共感が広がらない民族問題については、残念ながら政権の姿勢変化も望めません。
押さえつけられた不満・怒りは、いつかまた何かの機会に暴発するのでしょう。