(首都キエフだけがウクライナではありません。東部ハリコフ中心部にあるレーニン像の撤去を阻止するためバリケードを築く住民たち=2014年2月25日、田中洋之撮影【2月25日 毎日】)
【「落ち武者」】
大統領職を議会によって解任されたウクライナのヤヌコビッチ氏は、与党からも離反が相次ぐなかで、“行方をくらまして議会に解任されたヤヌコビッチ前大統領の出没情報が、ウクライナ南東部で相次いでいる。ロシアと結びつきが強く自らの支持者も多い地域を「落ち武者」のように逃げ回っているようだ。”【2月25日 朝日】とのことです。
****まずヘリで移動、小型機は離陸阻止…最後は車で****
ウクライナのアワコフ内相代行は24日、フェイスブックで同国南部クリミア半島に潜伏中とみられるヤヌコビッチ氏の逃走路を示した。
ヤヌコビッチ氏は21日、側近を伴い首都キエフから東部ハリコフまでヘリコプターで飛んだ。22日はハリコフの公邸で過ごし、地元テレビのインタビューで「辞任しない」と述べた。その後、ヘリで東部ドネツクへ移動。小型機に乗り換えたが、国境警備隊に離陸を阻止された。このためドネツクの公邸に向かい数時間の滞在後、22日深夜に車でクリミアへ向かった。
クリミアには23日に到着し、民間の保養所に宿泊。その後、空港へ向かおうとしたが取りやめた。その際、同氏は護衛を集め、自分と行動を共にするかどうか尋ねた。残ることを望んだ護衛に「国家による護衛を辞退する」との手書きの紙を手渡したという。側近を連れ、3台の車で走り去った。【2月24日 読売】
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大量殺人容疑で指名手配されていますので、おそらく拘束は時間の問題とも思われます。
しかし、その後の処遇をどうするかは、“東西分裂”状態の国民感情対立を煽る火種にもなりかねません。
ロシアあたりに亡命してくれた方が、ウクライナにとっては無難なような気がします。
【大統領選で西部の親EU派、東部の親ロシア派が激突する見通し】
想定外の政権崩壊という急展開によって、今のウクライナは政治的には“過去の人”となったヤヌコビッチ氏にこだわっている余裕はなく、難問が山積しています。
先ずは、政権崩壊で生じた“権力の空白”を早急に埋める必要がありますが、親欧米の西部と親ロシアの東部、南部の住民感情対立が今回の“クーデター”で先鋭化するなかでは、「挙国一致内閣」というのは難しいものがあります。
****挙国一致内閣ずれ込み=調整難航か―ウクライナ****
ウクライナのトゥルチノフ大統領代行(最高会議議長)は25日、挙国一致内閣の樹立に向けた最高会議の投票を1日遅らせて26日に行うと発表した。ヤヌコビッチ氏の大統領解任を受けた政情の混乱を早期に収拾するため、トゥルチノフ氏は25日に投票を行う考えを示していた。
親欧州連合(EU)派の政党「祖国」でトゥルチノフ氏と共に幹部を務めるヤツェニュク氏が首相候補の筆頭に挙げられるが、他の閣僚の人選を含めて調整が難航している可能性もある。
ロシア政府は、衝突の混乱に乗じて親EU派が親ロシア派のヤヌコビッチ氏から不当に権力を奪取したと非難。新政権が樹立されても、ロシアは正統性を認めない可能性がある。
西部の親EU派、東部の親ロシア派の間で亀裂が深まる中、国民の融和が挙国一致内閣の課題となる。【2月25日 時事】
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5月25日に行われる大統領選については、25日、立候補の受け付けが始まっています。
****ヤヌコビッチ氏側近が出馬表明=ウクライナ大統領選****
ウクライナからの報道によると、最高会議(議会)が5月25日に前倒し実施することを決めた次期大統領選に、東部ハリコフ州のドブキン行政府長官(44)が出馬すると24日表明した。中央選管は25日から選挙運動が始まると宣言していた。
ドブキン氏は、最高会議に大統領を解任されたヤヌコビッチ氏の最側近。ヤヌコビッチ氏の地盤である同州の与党幹部だった。州行政府長官は大統領任命職で、知事に相当する。
ドブキン氏が早期に大統領選出馬を表明することにより、政権崩壊で弱体化した親ロシア派を結集する狙いがあるとみられる。
既に親欧州連合(EU)派の野党陣営からは、元ボクシング世界王者で反政権デモを主導したクリチコ氏(42)が大統領選への出馬を表明した。釈放されたティモシェンコ元首相(53)も、政界復帰への意欲を示している。
将来のEU加盟をめぐり国論が二分する中、大統領選で西部の親EU派、東部の親ロシア派が激突する見通しとなった。【2月24日 時事】
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これまでの実績・経歴、欧米との親密な関係という点では、大統領候補としてまず1番手にティモシェンコ元首相の名前が挙がります。政敵ヤヌコビッチ氏によって長く拘束されていたというで、政治的にも箔がついた・・・とも言えます。
本人も党内の首相待望論に「うれしいが、首相候補として検討しないでほしい」と述べ、大統領に照準を合わせているようです。
ただ、「オレンジ革命」後、政党対立・権力闘争に明け暮れ、今回の騒動に至るウクライナ政治の混迷を生み出した元凶のひとりでもあり、厳しい評価を下す国民も少なくないようです。
TVニュースでは、「独立広場」に掲げられたティモシェンコ元首相の大きなポスターが、破りとられている様子も報じていました。
なお、ティモシェンコ元首相は3月、椎間板ヘルニアの治療のためドイツを訪問することが決まっています。
【高まる東部住民の反発】
親欧米派が分裂すれば、少なくとも第1回投票では、親欧米派主導で進む今回政変に不満を抱く東部住民の支持を受ける候補が大きく票を伸ばすことも考えられます。
TVの街頭インタビューで、東部の若い女性は、「反政府派かヤヌコビッチのどちらかを選べと言われれば、ヤヌコビッチを選ぶ。ただ、ヤヌコビッチ以外に選択肢があるなら迷わずそちらを選ぶ」といったことを答えていました。
親ロシアの東部でも、ヤヌコビッチ氏個人に対してはうんざりした感情もありますが、欧米接近を目指す西部政治勢力に対しては、根深い警戒感があります。
ウクライナの最大問題のひとつは、東西間の分裂状態をいかに解消していくかということにありますが、今回政変で溝は深まるばかりで、先行きは非常に困難が予想されます。
****ロシア語公用語法撤廃=ウクライナ議会****
ウクライナ最高会議(議会)は23日、ヤヌコビッチ政権下で2012年に成立した「ロシア語公用語法」を撤廃した。
失脚したヤヌコビッチ大統領の支持基盤である東部はロシア語を母語とする住民が多いが、今後はウクライナ語だけが公用語となるため、東部の反発が高まりそうだ。【2月24日 時事】
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東部出身のヤヌコビッチ氏もロシア語がメインで、ウクライナ語は苦手だったそうです。
東西間の融和が急務となっている現状で、上記のような東部住民の感情を逆なでするような施策は、政権崩壊の“勝利”に酔った愚策のように思えます。
****親ロシアのウクライナ東部、緊迫 旧政権派が広場に集結****
首都キエフを中心にヤヌコビッチ政権に対する抗議活動が起き、政権が崩壊したウクライナで、ヤヌコビッチ氏の支持基盤だった東部の緊張が高まっている。主要都市ハリコフでは、変革を求める市民と反対する市民が対立を深めていた。
「ハリコフから出て行け」。24日深夜、ハリコフ中心部の広場では、州庁舎前を占拠した新政権支持派の人たちに向かい、数十人の市民が拳を振り上げながら怒鳴っていた。新政権支持派も「ウクライナ万歳」などと叫び返す。
新政権側に立つエンジニアのローマンさん(33)は「彼らはウクライナを(東西に)分離させようとしている。ハリコフがロシアに加わってはいけない」。一方で、反対側の主婦ルーダ・ビーさん(41)は「私たちは変革を望まない。西側の人たちに、私たちが何語を話すべきなのかを決めてもらいたくない」と語気を強めた。
広場の反対側に立つ巨大なレーニン像は鉄製の柵で二重に囲まれ、新政権に反対する人たちが大勢集まっている。ロシアとウクライナの両方の国旗が翻り、旧ソ連時代の歌が流れていた。柵の内側への記者の立ち入りを拒んだ男性は「新政権は明日、この銅像を破壊しに来る。我々はこの街の権利を守っている」とだけ話した。
ウクライナ東部はロシア語で会話する住民が多く、ロシアへの親近感が強い。2010年の大統領選決選投票で、ヤヌコビッチ氏は東部で対立候補を上回った。現在は姿を隠している同氏が最後に公の場に現れたのもハリコフだった。【2月25日 朝日】
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“親欧州派を主体に進められている新体制作りに対し、ロシアへの親近感が強い東部や南部では反発が出ている。特に、クリミア半島の町では、ロシア系住民が集会を開き、親欧州派の決定に従わないと宣言した”【2月25日 読売】といった情報もあります。
【ウクライナがすがるEUの本音は?】
ウクライナの最大課題のもうひとつは破綻に瀕している経済の立て直しです。
****深刻なウクライナ経済危機 頼みの綱はロシアからEUへ****
ヤヌコビッチ政権が崩壊したウクライナで大統領代行に就いたトゥルチノフ議会議長は23日、国民向けに演説し、欧州統合への参加とともに経済再建の重要性を強調した。
政変でロシアの支援に頼れなくなった同国経済の危機をどう支えるかは、欧州連合(EU)にとっても深刻な問題だ。
■欧州経済腰折れの要因にも
「国の借金が返済できなくなる瀬戸際にある」。ウクライナのトゥルチノフ大統領代行の訴えに、欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)が早速、支援の構えを見せた。
ヤヌコビッチ政権を支えたロシアからの総額150億ドル(約1兆5千億円)の支援が見込めなくなったいま、EUなどが頼みの綱だ。
ウクライナの政府債務(借金)の総額は700億ドル(約7兆円)超で、約半分が外国からの借り入れ。今年中に100億ドル(約1兆円)超の返済を求められている。だが、輸出や投資の伸び悩みなどから、2012、13年の経済成長はほぼゼロの見通し。景気悪化で失業率は8%台に上る。
ウクライナ経済が行き詰まれば、回復過程にある欧州経済が腰折れする要因ともなりかねない。
EUのアシュトン外交安全保障上級代表は24日、韓国や豪州などアジア歴訪の予定をキャンセルし、キエフに飛んだ。権力を掌握した議会幹部らと会って情勢を確認するためだが、EUなどが求める改革への意欲を確認し、支援に向けた地ならしをする意味もある。
EU欧州委員会のレーン副委員長(経済・通貨担当)やIMFのラガルド専務理事は23日、「経済改革が条件」としながらも、相次いでウクライナへの経済支援に前向きな姿勢をみせた。
IMFは、エネルギー業界への補助金の削減などの経済改革を要求。EUは昨年末、条件を満たせば、国際機関と連携して今後7年間で200億ユーロ(約2兆8千億円)の支援の用意があるとの意向を伝えていた。だが、ヤヌコビッチ政権がロシアにすがったため、立ち消えになっていた。
ウクライナの臨時財務相は24日、「14~15年で350億ドル(約3兆5千億円)の支援が必要」と訴えており、EUとIMFが協議しながら支援額や条件を詰めるとみられる。【2月25日 朝日】
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親欧米派主導で進む新政権は、ロシアにかわりEUに支援を求める考えです。
****ウクライナ:最高会議議長 EUに連合協定締結求める*****
ウクライナ最高会議(議会)によると、ヤヌコビッチ政権崩壊により大統領代行に任命されたトゥルチノフ議長は24日、首都キエフを訪れた欧州連合(EU)のアシュトン外交安全保障上級代表と会談し、EUとの関係を強化する連合協定をすぐに締結するよう求めた。
トゥルチノフ氏は、欧州統合路線を進め、EUの支援を受けることが「ウクライナが安定して民主的に発展するために重要だ」と強調。アシュトン氏はウクライナ支援の用意があると表明したという。
連合協定はヤヌコビッチ政権が昨年11月に締結を棚上げし、反政権デモの引き金となった。【2月25日 毎日】
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ただ、EU側、とくにドイツやフランスというEU中核国にとっては、本音で言えば“ありがた迷惑”な話でもあるでしょう。
ただでさえ欧州経済の立て直しに手を焼いているのに、経済破綻に瀕したウクライナ救済のための大規模な資金援助はEUにとっても重荷になります。
また、話の成り行き如何では、政変を認めないロシアと事を構えることにもなり、それは対ロシア関係を重視するドイツ・フランスの望むところではありません。
また、ロシアが対ウクライナ貿易の制限すればウクライナ経済を支えるのはEUにとっても更に重荷になりますし、天然ガス輸出の制限といった手段に出た場合、その影響はウクライナだけでなくEU全体にも及んできます。
現在でも中東欧諸国からの移民増加を警戒している“東方拡大疲れ”のEU中核国にとって、ウクライナの将来的なEU加盟という問題には慎重にならざるを得ないところもあります。
ティモシェンコ元首相は釈放後、「ウクライナは近くEUに加盟する」と述べたそうですが、メルケル首相やオランド大統領からすれば、「勝手に決めるんじゃない」といった感があるのでは。
ロシア・プーチン政権が強引にウクライナを自陣に手繰り寄せた間、EU側がこれを座視したことをEUの外交上の失敗と見る向き気がありますが、ある意味では、ロシアが“厄介な”ウクライナを引き取ってくれたことにEU側は安堵していた・・・という本音もあります。だからこそロシアの対応を座視していた・・・とも思えます。
****ウクライナ衝突が映す「EU外交の失敗」****
・・・EUはまた、連合協定をウクライナのEU加盟への一歩と位置付けないよう気を付けた。中欧・東欧への急速なEU拡大に伴う移民の流入などで政治的緊張が高まっており、多くの加盟国が「EU拡大疲れ」を起こしているからだ。
(中略)
EUの全加盟国がウクライナとの連合協定締結を公には支持したが、昨年11月にヤヌコビッチ大統領が協定署名を見送ると、一部の国の当局者はひそかに胸をなで下ろした。ウクライナへの追加資金援助を求められずに済むと考えたからだ。
ウクライナ指導部やロシアの圧力戦術に対する批判が高まるなか、独仏英の間では状況を好転させるための協力は行われなかった。スペインやイタリア、英国はロシアとの関係強化を図っている。あるEU高官によると、EU加盟国のうち少なくとも半分は、ロシアとの関係改善を優先課題にしている。
一方、スウェーデンやリトアニア、ポーランド、スロバキアなどは、ウクライナとの関係緊密化を強く求めている。ウクライナは経済的に大きな機会をもたらすと期待しているからで、またこれらの国の多くがロシアとの緊張緩和にそれほど関心を持っていない。(後略)【2月20日 WSJ】
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その“厄介払いした”と思ったウクライナが益々危機が差し迫る形でEU側に戻ってきます。
ウクライナ側も、すっかりEU支援をあてにしています。
EU、IMFは、ウクライナ支援のためには「経済改革が条件」と言っていますが、政治的に混乱するウクライナに、経済的な改革の痛みを耐える余力があるとは到底思えません。どうするのでしょうか?
EU中核国はウクライナからのラブコールを“ありがた迷惑”とは思っても、ウクライナが国際的に注目されている状況ではEUにすがるウクライナの手を邪険に振りほどくこともできません。
【浮かない表情のプーチン大統領】
ウクライナ取り込み策が頓挫したロシアも困惑しているでしょう。
****プーチン氏に見通しの甘さ****
ロシアが打つ手を決めかねている最大の理由は、ヤヌコビッチ政権を支える方針を、プーチン氏自身が決めたからだ。
昨年12月、反政権デモが荒れるウクライナに対して150億ドル(約1兆5千億円)の金融支援を表明し、天然ガスを当面の間、市場価格の約3分の2で輸出するという破格の支援策を打ち出したのも、政府内の異論を押し切ったプーチン氏の決断だった。
金融支援が焦げ付く懸念に対し、プーチン氏は「ウクライナの格付けは低いが、ファンダメンタルな競争面の強みを信じている」と説明していた。しかし、ウクライナのトゥルチノフ大統領代行による「債務不履行寸前」発言で、見通しの甘さが露呈してしまった。
約束した150億ドルのうち、30億ドルはすでに融資されている。これが返済不能となれば、プーチン氏への国民の不満が高まることは避けられない。ロシアのシルアノフ財務相は23日、第2弾となるはずだった20億ドルは当面凍結して事態の推移を見守る考えを示した。【2月25日 朝日】
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もちろんウクライナの最大貿易相手国であり、天然ガスという命綱も握っているロシアは、その気になればウクライナを締め上げることはさほど難しいことではないでしょう。
すでに貸し込んでいる資金の回収とか、ウクライナ国債や対ウクライナ融資を抱えるロシア金融機関などへの波及という問題はあるでしょうが、ウクライナを瀕死の状態にしてEUに送り返してやることはできます。
ただ、そうした強硬策はEUとの関係を決定的に悪化させます。
何より、ロシアは国際的な“悪役”となってしまいます。シリアの化学兵器処理で久しぶりに国際的な脚光を浴び、ソチ五輪をとにもかくにも無事に終え、これから更に国際的存在感を高めていこうとするロシア・プーチン外交としては避けたいところでしょう。
ソチ五輪でのロシア選手の活躍にもかかわらず、観戦していたプーチン大統領は浮かない表情だった・・・とか。