孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン大統領  厳しい経済情勢のなかで国民への謝罪  経済制裁解除の成果を実現できるか?

2014-02-12 23:03:21 | イラン

(2006年のアフマディネジャド政権当時、財政難からガソリン補助金を削減したことに怒った一部の国民が暴徒化した際の写真【2007年6月27日 AFP】http://www.afpbb.com/articles/-/2245418?pid=1725095
ロウハニ大統領も国内経済のかじ取りを誤ると、国民の期待は失望、更に批判へと変わります。
そうならないためには、国際交渉で制裁緩和を実現し、経済状況を改善する必要があります。) 

国際社会との協力姿勢をアピール
イランの核開発問題に関する国際的な協議は、国連安保理常任理事国(米英仏中露)にドイツを加えた主要6カ国とイランの協議と、国際原子力機関(IAEA)とイランの間の協議の二つが行われています。

二つの協議の性格はおおまかに言えば、以下のように整理されます。

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・・・・イラン核問題の解決に向けては、国連安保理常任理事国(米英仏中露)にドイツを加えた主要6カ国とイランの間で将来的な「核開発のあり方」が模索されている。その一方、IAEAとイランの間では過去の「核兵器開発疑惑の解明」が課題になってきた。二つのプロセスは、実際には未来志向の政治交渉が先行し、イラン側に不利な過去の疑惑追及が追従している格好だ。(後略)【2月8日 毎日】
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主要6カ国とイランの政治交渉の方は、2月3日ブログ「イラン 今月中旬、最終段階措置に向け交渉再開」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140203)でも取り上げたように、今月18日から再開される予定になっています。

IAEAとイランの間では、昨年11月の合意に基づき、西部アラクの重水製造施設や南部ガチンのウラン鉱山への査察などの「第1段階」が実施されていますが、これに続き、今回新たに7項目で合意がなされています。
ただ、注目されていたパルチン軍事施設の視察に関しては合意には至っていません。

イラン側としてはIAEAとの新たな合意をアピールすることで、18日からの主要6カ国との協議を前進させたい思惑もあると推察されます。

****IAEA:核施設の情報提供など7項目新たにイランと合意****
国際原子力機関(IAEA)は9日、イラン核兵器開発疑惑の解明に向け、核心の一つである特殊な起爆装置の開発に関する情報提供など、7項目についてイランと合意したと発表した。

両者は昨年11月に協力強化の共同声明に署名したが、疑惑解明に必要な実質的な取り組みで合意したのは初めて。イラン側には、18日から再開される欧米など主要6カ国との核交渉を前に、国際社会との協力姿勢をアピールする狙いがあるとみられる。

問題の装置は「起爆電橋線型雷管」と呼ばれる精密装置。原子爆弾の小型化には、金属化された球状の高濃縮ウランなどに外部からの爆発で均等に強い圧力を加える必要がある。
爆縮と呼ばれる技術には、複数の高性能爆薬を同時に爆発させる精密な起爆装置が欠かせない。イランはかつてこの装置を開発していた。

IAEAの天野之弥事務局長は2011年11月、欧米の機密情報などを基に核兵器開発疑惑の具体的根拠を明らかにしたが、起爆装置の開発もその一つだった。

しかし、この装置には核兵器以外の用途もある。イランは08年、装置開発の事実は認めつつも、民生用と通常兵器向けだったと主張していた。

核兵器開発疑惑を全面否定しているイランが、今回の合意によって従来の主張を180度転換する可能性は低いとみられる。08年の具体性を欠いた主張の根拠について、どこまで説得力のある情報を示すかが焦点になりそうだ。

IAEAは、起爆装置の実験が行われた疑いのあるテヘラン近郊パルチン軍事施設の視察なども求めているが、今回は合意に至らなかった。

9日の合意項目にはこのほか、中部サガンドにあるウラン鉱山や精製施設の視察▽西部アラクで建設が中断された重水炉の設計情報の更新▽レーザーを使ったウラン濃縮試験施設の視察−−などが含まれる。

昨年11月に第1段階として合意した6項目と同様、核兵器開発疑惑の解明とは直接関係ないが、核開発の透明性強化につながる。今回の第2段階の合意事項は、5月15日までに履行される。

イラン原子力庁のカマルバンディ報道官は「イランが提供する情報や協力的な環境を踏まえ、天野事務局長から理事会に前向きな報告がなされることを期待する」と述べた。

イランの核問題を巡っては、IAEAとは別に、国連安保理常任理事国(米英仏中露)にドイツを加えた6カ国とイランが、核開発のあり方について包括的な交渉を継続中。

両者は昨年11月、ウラン濃縮を制限する代わりに制裁を緩和する「共同行動計画」で合意。先月20日から履行を始めた。18日からは、濃縮の継続を認めるか否かなど、極めて困難な課題の最終解決に向けた交渉が始まる。【2月10日 毎日】
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1979年のイスラム革命から35年となる革命記念日にあたる2月11日、ロウハニ大統領は国際協調路線を改めて確認するとともに、経済状況の改善を含めて、政権誕生後の成果をアピールしています。

****イラン:革命記念日、平穏に 大統領が協調路線の演説****
イランは11日、1979年のイスラム革命から35年となる革命記念日を迎えた。昨年8月に穏健派ロウハニ大統領が就任して以降初めて。全土で記念行事があり、国営放送は数百万人が参加と報じた。

首都テヘランのアザディ(自由)広場で演説したロウハニ師は「最高指導者ハメネイ師の下、各国と建設的で相互に尊重できる関係を構築したい」と述べ、世界との協調路線を印象づけた。ロウハニ師は演説で、核問題協議に触れ、「イランは善意を見せている。互いを尊敬しながら協議しなければ、世界の平和を損なう」と米欧に注文。

また、イランに対し軍事的選択肢は消えていないとする米国やイスラエルの立場を念頭に「脅しを言う者は、後悔する」とけん制した。しかし、両国に対する批判的発言はなく、対外関係の改善に消極的な国内強硬派に配慮したものとみられる。

アフマディネジャド前政権下では、改革派と治安部隊の衝突やインターネット規制など混乱が見られた革命記念日だが、今年は平穏に実施された。

「表現の自由の拡大」を掲げるロウハニ師は「多様な政治団体が参加した」と述べ、前政権との違いを強調。経済についても「半年前に比べインフレ率は43%から35%に減少。経済成長率はマイナス5.8から同0.7に改善した」と誇った。

テヘランのエンゲラーブ(革命)通りでは、市民が革命の父と言われる故ホメイニ師やハメネイ師の写真を掲げ、アザディ広場に向けて練り歩いた。一部で反米スローガンを叫ぶ人の姿も見られたが、活気はなかった。弁護士の男性(43)は「対米関係の改善を目指しながら、スローガンを言うのはおかしい。時代は変わりつつある」と話した。【2月11日 毎日】
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乏しい国民生活改善の実感
イランで穏健派ロウハニ大統領が誕生し、欧米との交渉を進める姿勢を見せているのは、経済制裁によるイラン国内経済の疲弊、それに伴う国民の不満増大があるからに他なりません。

イラン国内では欧米との交渉開始によって経済が好転する期待が強く存在しますが、始まったばかりの交渉の成果はすぐに表に現れるものでもなく、経済が改善しないことへの国民の不満に対し大統領が謝罪する事態ともなっています。

****イラン、食料配給混乱 数足りず、大統領が謝罪*****
核開発の縮小とひきかえに経済制裁の緩和が始まったイランで、国民がロハニ大統領への不満を募らせている。

目玉政策の一つとして導入した低所得者向けの食料配給を巡り、混乱が広がっているためだ。11日に大統領として初めて革命記念日を迎えるロハニ氏は、国民に謝罪するなど対応に追われている。

「いつまで待たせるんだ」。下町が広がるテヘラン南部の政府系スーパー駐車場で6日昼、100人あまりが列をなし、怒号が飛んだ。係員が、食料配給のために用意された200人分を配り終えたと説明しても、人々は動かない。中年男性の1人は「3時間も並んだのに」とあきらめきれない様子だった。

配給は昨年8月に就任したロハニ氏の選挙公約。コメ10キロ、冷凍の鶏肉2羽、食用油2本、チーズ2箱、タマゴ24個。生活保護受給者、月収が最低賃金の500万リアル(実勢レートで約1万6700円)に満たない人など人口の2割、約1500万人が対象となっている。

政府は十分な量があると説明したが、初日の3日から各地で数百人が行列。折しも50年ぶりとされる寒波で日中も零下という厳しい天気の影響で、並んでいた高齢者ら2人が死亡した。
このため、ロハニ氏は5日夜「受け取りでトラブルがあれば申し訳ない」と、国民に向け、大統領としては異例の謝罪をした。

配給が就任から半年が過ぎたこの時期に始まったのは、ロハニ政権になっても、国民生活が改善されたという実感が乏しく、支持者の期待感が薄れつつあるからだ。

イランは核開発への制裁で歳入の7割を占める原油の輸出を制限され、2012年に通貨リアルが暴落。専門家の話ではインフレで物価は2~3倍、18歳から25歳の若者の失業率は45%に達したとされる。

ロハニ政権は昨年11月、ウラン濃縮の一部停止などで米欧への譲歩に合意。制裁が緩められ、今月、凍結していた原油代金の支払いが始まった。だが、物価や失業率は高止まりしたままだ。政権に批判的な強硬派の国会議員らは、譲歩の効果がみられないと声を強めている。

さらに、財政の再建を急ぐロハニ氏は、ガソリンやパンなど生活必需品の価格を安く抑える補助金のカットを決め、国会も6日に同意した。予算の約4分の1を占める補助金カットは財政支出削減につながるが、ガソリン価格が現在の2倍程度になるとみられるなど、国民の負担は増える。

配給は、負担増で予想される国民の不満を事前に和らげる目的で、この時期に始められたが、奏功しなかった格好だ。
アフマディネジャド前大統領も補助金の削減で支持者離れを招いた。ロハニ政権も、窮乏する国民への支援と補助金カットの両立に苦しむことになりそうだ。【2月11日 朝日】
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イランに限らず、どこの国でも政策的に価格を操作する補助金制度は財政的に継続が難しく、これを縮小しようとすると国民からの激しい批判を招きます。

目に見える形での成果が求められるロウハニ政権
経済苦境に喘ぐ国民に謝罪する大統領と、物価・経済成長率の改善を誇示する大統領・・・・どちらがイランの実態を表しているのか。
少なくとも、ロウハニ大統領に許されている時間的余裕は大きくないように思われます。

欧米との交渉による生活改善への国民の期待が強いだけに、目に見える形で成果が表れないと期待は失望にかわり、ロウハニ政権の支持基盤を揺るがします。
もともと存在する政権の路線に批判的な保守派の抵抗も強まります。そうなると、最高指導者ハメネイ師の支持も怪しくなります。

ロウハニ大統領の基盤が揺らぐと、欧米との交渉においても、国内から“弱腰”と見られるような譲歩はできず、交渉は停滞します。

そうなると、制裁解除も進まず、イラン経済も改善しません。
結果、国民の不満、保守派の批判は更に強まる・・・・悪循環に陥ります。

ロウハニ政権が制裁解除の成果でイラン経済が回復するまで持ちこたえられるか・・・18日からの主要6カ国との再交渉が注目されます。

ここで成果を出し、イラン経済にとって良い方向での循環が成立することを期待します。
そのことで、国際的な緊張を緩和することにもなります。
欧米側も、そうしたイランの立場への配慮が必要でしょう。
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