(2月9日 訪日したプラユット暫定首相と握手する安倍総理 【外務省HP】)
【士官学校予科は合格率1%ほどの超難関】
タイでは、毎年4月に各地でその地区に割り当てられた数の若者を徴兵するためのくじ引きが行われます。
****タイ 徴兵のくじ引きで悲喜こもごも****
東南アジアのタイでは、兵役に就く男性を決めるくじ引きが行われ、兵役を免れた人が喜びを爆発させる一方で、最長で2年間の軍隊生活が決まった若者が、肩を落とす姿が見られました。
タイでは21歳以上の男性に兵役の義務があり、公平を期すために毎年4月に各地でその地区に割り当てられた数の若者を徴兵するためのくじ引きが行われます。
このうち、タイ西部のカンチャナブリのお寺では5日、身体検査をパスした200人余りの若者が運命のくじ引きに臨みました。
つぼの中には、最長で2年間の兵役を意味する赤いくじが2割ほど入っていて、家族が見守るなか1人ずつ名前を呼ばれてくじを引きました。
免除を意味する黒いくじを引き当てた若者が、家族とともに喜びを爆発させた一方で、赤いくじを引いた若者は、その場で配属先を言い渡され、がっくりと肩を落としていました。
最後の赤いくじを引いた男性は「ほかの人が悪いくじを引くのを願っていたが、その悪運が自分に来てしまった。まだ生後4か月の娘に会えなくなるのが寂しい」と話していました。
また、出生証明では男性として登録されているものの、その後、性転換などで女性として生活している人も会場で審査を受け、身体検査の段階で「兵役には不適格」とされました。
軍側はことしおよそ10万人の新兵を必要としているということですが、去年5月のクーデター後も、徴兵される若者の数に大きな変化はないということです。
士官学校は人気
一方、タイでは軍の幹部は社会的な地位が高く、将校を養成する士官学校が人気を集めています。
今月2日には、日本の中学卒業の年次の学生を対象に士官学校予科の入学試験が行われ、このうち、陸軍の試験会場では、200人の定員に対して1万8000人の受験生が集まりました。
合格率1%ほどの超難関ですが、試験に訪れた学生は「軍の将校になって国王を守りたい、それが私と家族の誇りになります」などと意気込みを話していました。
去年5月のクーデター後、タイでは軍の政治的な影響力がますます高まっていますが、プラユット暫定首相をはじめ強いエリート意識を持つ士官学校の出身者が政権の中枢を固めています。【4月6日 NHK】
****************
陸軍士官学校予科が“合格率1%ほどの超難関”ということで、タイにおいて軍人が超エリートであり、優れた才能を有していることが窺われます。
当然に、彼らは選ばれし者としてのプライドと社会を牽引してく使命感を有しているのでしょう。
タイで頻繁に軍部クーデターが起きる背景には、そうした軍部のプライド・使命感があると思われます。
【戒厳令に代えて暫定憲法44条発動 「戒厳令よりも悪い」とも】
そのタイでは、タクシン派と反タクシン派の抗争による政治・社会・経済の混乱を収束させるためとして軍部が実権を掌握し、プラユット軍事政権のもとで戒厳令が敷かれてきました。
この戒厳令により、軍政を批判する言動や政治集会を禁じ、違反者を拘束したり、軍事裁判にかけたりしてきましたが、欧米からの批判をかわし、観光業や外国からの投資など経済への悪影響を抑える狙いで、戒厳令を解除する決定を下しました。
しかし同時に、プラユット暫定首相が立法・行政・司法の三権を飛び越えて治安権限を行使できる暫定憲法44条を発動するということで、実質的にはこれまでと殆ど変らないようです。
むしろ、戒厳令より悪い・・・という声もあります。
****タイ政府、戒厳令に代わり軍政の強権条項を発動****
タイのプラユット首相は3月31日の閣議後、昨年5月に発令された戒厳令を解除すると発表した。代わって自らの権限を大幅に強化する暫定憲法44条を新たに発動させる。
タイでは昨年5月に軍が民主政権を倒して実権を握り、その直前から戒厳令を発令。軍事政権の国家平和秩序評議会(NCPO)を設置して、市民の自由の制限や言論統制、反対派の摘発を続けてきた。
国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルによれば、昨年5月以来、数百人が平和的な政治集会への参加などを理由に拘束され、数十人が軍事裁判にかけられているという。
タイ政府の発表によると、戒厳令に代わる暫定憲法44条は、「国家秩序の維持に関連した任務に軍当局者を配置する目的」で発動させる。
44条では公衆の調和のため、または国家の治安の破壊を防ぐために必要と判断すれば、軍政のトップに必要な権限を与えると定めている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、これでプラユット暫定首相は行政、立法、司法に縛られることなく命令が出せるようになり、責任を問われることもない。
クーデターに反対してきたタイの政治学者は、「タイは国際社会からの圧力で戒厳令を解除せざるを得なかった」「しかし44条はNCPOに完全な権限を与えるという点で、戒厳令よりも悪い」と話している。【4月2日 CNN】
*******************
****タイ新命令「戒厳令以上に過酷」 軍の権限強化に懸念続出****
・・・・戒厳令に代わる命令は、クーデターを決行した軍主導の機関、国家平和秩序評議会(NCPO)議長(プラユット暫定首相が兼務)は三権に超越してあらゆる命令・措置がとれるとする暫定憲法44条に基づく。
軍による令状なしの逮捕や家宅捜索、7日以内の身柄拘束、報道規制、5人以上の政治集会の禁止など、これまでの戒厳令とほぼ同じ内容だ。
これに対して、報道機関や内外の人権団体、国連機関などから「命令は司法のチェックが入らない無制限の権限を暫定首相に与えており、戒厳令以上に過酷であると懸念する」(フセイン国連人権高等弁務官)といった声が相次いだ。
命令を起案した暫定政府のウィサヌ副首相(法務担当)は報道機関や在タイ外交団を集めて相次いで説明会を開き、「戒厳令解除によって、旅行保険が適用されるようになるし、新たな治安命令が対象とするのはわずか4分野の違反行為でしかない」と説明する。
しかし、対象4分野は王制や治安を脅かす違法行為や銃や爆発物の所持・使用のほか、クーデター後に出たすべての「NCPO布告・命令に反する行為」としており、事実上、政府への抗議や民主化要求の自由な行動は禁じられる。【4月9日 朝日】
*********************
新たな命令によって表現の自由などの人権が抑圧されるという国際的な批判に、暫定政権は7日、各国の大使館の関係者などを集めた説明会を開き、「市民や国際社会の声を聞いたうえで戒厳令を解除したが、治安を脅かす事態が起こる可能性はまだあり、軍に権限を与えることが必要だ」と述べて、新たな命令について理解を求めています。【4月8日 NHK】
ただ、“プラユットは改革と平和と治安のために必要であれば、どんな命令でも下せる。しかも法的責任は一切問われない。行政、立法、司法すべての上に君臨する絶対君主のような存在になるということだ。”【4月14日 Newsweek日本版】ということでもあります。
【「善意の市民は影響を受けない」で済まされるのか?】
こうした批判に対し、“悪いことさえしなければ問題ない”というのが軍政側の考えであり、プラユット首相は「自分は独裁者にはならない」とも。
****戒厳令より怖い「独裁者憲法」****
・・・・当然ながら、軍事政権はこうした主張を否定している。「善意の市民は影響を受けない」と、ウドムデット陸軍参謀長は言う。「これは悪事をたくらむ人間を取り締まる法律だ」
プラユットも外国の報道陣に「心配ない」と力説した。自分は「非情な人間」ではないから、独裁者の法律にはならないというのが彼の言い分だ。「君たちの国に帰ってちゃんと説明してほしい。さもないと、私は権力欲に取りつかれた男とみられてしまう」【同上】
******************
こうした軍政に対応は、おそらくタイ国内の受けはそんなに悪くないのではないでしょうか。
“混乱をもたらす自由”より“安定を保証する強い支配”を望んでいる向きが多いとも思われます。
“4月1日から4日にかけて、世論調査機関であるスアン・ドゥシット・ポールが調べたところ、国民の51%以上がプラユット首相の暫定憲法第44条の行使を容認したそうです(ちなみに反対は32%)。”【4月6日 「アジアの放浪者」http://blogs.yahoo.co.jp/superstarspy007/16624642.html】
ただ、“それでいいのだろうか・・・?”“それを言ってしまったら、民主主義など存在しえなくなるのでは?”という個人的印象があります。
おそらく古今東西の独裁者と言われる支配者、あるいは一党独裁政権などは、みなタイ軍政やプラユット暫定首相と同じことを言っていたのではないでしょうか。
その結果として多くの独裁のもとで多大な犠牲者が生まれ、そうした独裁を防ぐための民主主義だったのではないでしょうか。政治的自由は、そう軽々しく否定・制約していい権利ではないように思います。
国王を頂点とした社会秩序を維持するということで、軍部や国王周辺など一部の階層の既得権益が保護され、農民や貧困増などの政治参加が疎外される体制とはならないのでしょうか?
軍部、プラユット暫定首相の価値観がタイ全国民の価値観を代表していると言い切れるのでしょうか?
「違う」と感じたとき、どのように異議申し立てすればいいのでしょうか?
ブータンでは2008年に王室が牽引する形で絶対君主制から議会を有する立憲君主制へ移行しましたが、「国王を敬愛している。今のままでいい」と訴える国民に対し、前国王は「今日の国王は良き君主でも、もし悪しき君主が現れたらどうするのだ?」と人々を諭したそうです。
ステープ元副首相らが扇動した社会混乱を意図した反政府行動の代償は、非常に大きなものになったようです。
それにしても、プラユット暫定首相は非常にストレートはものの言い方をする人物です。
軍人らしいといえばそうですし、そうした率直さが国民受けしている面もあります。
****記者を「処刑する」=タイ暫定首相発言が物議****
タイ軍事政権のプラユット暫定首相が軍政の意に沿わない報道を行った記者を「処刑」すると発言し、物議を醸している。
国際ジャーナリスト連盟(IFJ、本部ブリュッセル)は「タイで表現の自由が完全にないがしろにされていることを際立たせるものだ」と批判する声明を出した。
地元メディアによると、プラユット氏は25日、報道陣との質疑応答で「メディアが社会を分断している」などとメディア批判を展開し、「今後は全てのメディアを監視し、必要なら私の権力を行使する」と言及。記者から「どのような処罰を行うのか」と問われると、「おそらく処刑だ」と述べた。【3月26日 時事】
*****************
こうしたもの言いが“率直な人柄”云々で済んでいるうちはいいですが、実際にその権力の矛先が向けられたときは・・・・。