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(映画「エネミー・オブ・アメリカ」DVDパッケージより)
【「テロ攻撃の脅威は依然高いままだ」】
1月のシャルリーエブド紙襲撃事件以来、フランスではテロ警戒態勢が続いています。
****仏全土に1万5千人、テロ警戒続く…疲労の色も*****
フランス政府は今年1月の連続銃撃テロ事件以降、「第2次大戦以降で最大規模」(仏軍幹部)となる軍兵士、警察官約1万5000人を連日、全土に展開させる異例の厳戒態勢を続けている。
開始から既に3か月以上が経過し、警官が病気で集団欠勤するなど前線では疲労の色も濃くなっている。
パリ中心部にあるルーブル美術館。年間約930万人が訪れる観光名所には、自動小銃などで武装した軍兵士3人が常時、目を光らせている。
全土警戒に招集された兵士は約1万500人に上り、展開可能な兵員の約15%にあたる。このうち、約6000人は、テロの危険性が高い首都圏に重点配備されている。
駅や空港、観光施設、学校やシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)の巡回など警備対象は約320地区に上る。
オランド大統領は3月、「テロ攻撃の脅威は依然高いままだ」と述べ、厳戒を当面維持する方針を示した。1万5000人態勢は、観光シーズンの最盛期である夏まで続くとみられる。【4月19日 読売】
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【通信傍受は「公的利益を守る必要がある場合」にのみ認められる・・・・】
単に軍・警察の全土展開だけでなく、情報管理体制も強化されています。
*****<フランス>新情報収集法案、プライバシー保護が議論に*****
シャルリーエブド紙襲撃事件などを受け、フランス下院は情報機関が過激派や危険人物の動向を監視するための新しい情報収集法案の審議に入った。通信傍受手段などの大枠の利用条件を定め、乱用を防ぐのが狙い。
だが、テロ対策以外にも広範な分野での収集が認められる内容で、パソコンのキーボードの動きを同時送信する装置など、情報機関が使用する最新装置の存在も判明。プライバシーをどう保護すべきか議論となっている。
法案は、情報機関の機能強化を図ると同時に、これまで事実上、違法に運用されていた特殊な通信傍受手段からプライバシーを保護するために、仏議会法務委員会で策定した。
市民を対象にした通信の傍受について「法が想定した公的利益を守る必要がある場合」にのみ認められると規定。特殊な手段を使うことのできる分野として、テロ対策や大量破壊兵器の拡散防止、国防、外交に加え経済、科学などの分野も含まれている。
裁判官や弁護士の団体や、人権擁護団体などからは「適用範囲が広すぎる」と批判が出ている。
一方、法案から、情報機関が使用する特殊装置の一端が明らかになった。携帯電話などのデータを遠隔取得できる「接近型情報収集装置」や、パソコンのキーボードの動きを同時送信する「電子情報収集ソフト」などだ。
法案によると、こうした傍受は首相が許可するが、緊急の場合は首相に速やかに報告することを条件に、情報機関による即時の運用が可能。期間は2カ月が基本だが、延長もできる。
集めたデータは種類により最長5年間、保管されるという。【3月24日 毎日】
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国際的人権団体アムネスティー・インターナショナルのガウリ・ヴァン・グリ副部長は、「原案のままでは中身が曖昧で、悪用の危険があり、不相応に広い監視の網をかけてしまう」と語り、“監視国家”への一歩を踏み出す前に法案を再検討すべきであると指摘しています。
また、欧州評議会人権委員のNilsMuznieks氏は、法案は欧州人権裁判所と衝突する可能性があり、制定前にもっと時間かけて協議を行うべきであると語っています。
また、法案によってウェブサービス提供企業は、メタデータ( 通信の内容でない)をモニターするためにシステム を構築することを強制されます。必要があれば、政府は疑わしい者の個人情報へのアクセス を要求することができます。
ウェブサービス提供企業は、こうした措置が顧客を不安にさせ遠ざけてしまうことになることを懸念しています。
これに対し、フランスのヴァルス首相は議会答弁において、9.11後にアメリカで導入された愛国者法(Patriot Act)と対比して、今回新法が制定されても、フランスは膨大な量の通信データを集めるつもりはないと誓っています。
また、今回の法案がフランス版愛国者法になるのではないか、警察国家の悪臭がするといった批判についても、「でたらめであり、そうした批判は、我々が直面している脅威を考えるとき無責任である」と反論しています。【4月13日 ロイターより】http://uk.reuters.com/article/2015/04/13/uk-france-surveillance-idUKKBN0N40VG20150413
なお、今回法案によれば情報機関は裁判所の許可なく電話・電子メールの盗聴が可能となりますが、監視者は容疑者の部屋をパソコンのマイクやカメラで監視することもでき、キー入力監視プログラムを送り込むことですべてのキー操作を追跡することも可能になるそうです。
ヴァルス首相はアメリカとは違うと強調していますが、素人目にはスノーデン元CIA職員が暴露したアメリカの通信傍受体制と似たり寄ったりに思えます。
【結局、どこまで政府・情報機関を信用できるか・・・という問題か】
一方、シャルリーエブド紙襲撃事件などによって高まった反イスラム・反ユダヤ感情にから行われる人種差別的なネット書き込みを監視・規制する機関も創設されます。
****<フランス>人種差別対策130億円かけネット監視機関創設****
1月のシャルリーエブド紙襲撃事件などの影響で、フランスでイスラム系移民やユダヤ教徒への差別意識が高まっていることを受け、仏政府は17日、人種差別的な発言やインターネット上の書き込みなどの取り締まりを強化する方針を明らかにした。
総額1億ユーロ(約130億円)をかけ、新たなネット監視機関を創設するとともに、学校現場で移民やユダヤ人迫害の歴史関連施設の見学などを義務化する。バルス首相が17日の会見で明らかにした。
現在、差別的な発言や書き込みには、報道関連法の罰則があるが、適用例は限定されている。そこで刑法に禁止条項を設け、一般人の人種差別発言やネット書き込みを罰することができるようにする。
また、ユダヤ系商店を狙った強盗など、他の犯罪に人種差別的な発言などが加わった場合は刑を重くする。
これまでもインターネット上の差別的な書き込みを監視し、削除する機関はあったが、書き込んだ個人を特定し、追跡する専門機関を新たに設ける。
仏議会では現在、最新技術による通信傍受を含んだ情報収集法案を審議中で、表現の自由や個人情報の保護という観点から反対意見もある。
だがバルス首相は「ネット上の無策は終わりだ」と述べ、差別監視の大幅な強化を示唆した。
また教育分野での対策も進め、小、中、高校それぞれの段階で、移民歴史博物館や、奴隷制度廃止博物館、第二次世界大戦中のユダヤ人虐殺の関連資料館などへの訪問見学を義務化する。
民間団体の調査によると、1~3月にフランスで起きたイスラム教徒に対する攻撃や差別は、前年同期の約6倍に上った。ユダヤ教徒に対する攻撃や差別も2014年は前年に比べて倍増し、イスラエルへ移住する人が激増している。
ユダヤ教徒を敵視するイスラム過激思想の広がりや、イスラム過激派と一般のイスラム教徒の混同などが背景にあると指摘されている。【4月18日 毎日】
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テロ行為を未然に防ぐための通信傍受や、差別的な発言・書き込みの監視は、当然の対策だ・・・と言われれば、そのようにも思えます。
ただ、当局の運用が言われているようなものに限定されるのか・・・、個人の情報がすべて政府によって管理される監視国家・警察国家への第1歩になるのではないか・・・という不安もぬぐえません。
情報機関が独自の判断で、政治責任者に無断で監視を強めることも十分に考えられます。情報機関スタッフの人権意識が高いとは到底思えません。目的のためなら手段を選ばない・・・というのが彼らの世界でしょう。
“これまで事実上、違法に運用されていた特殊な通信傍受手段”【前出 毎日】・・・・どんな対策をとったとしても、同じような人間がやっている以上、今後もこれまでと同じように違法行為が行われるとも想像されます。
結局、政府・情報機関をどれだけ信頼できるかというところで、新たな対策への評価もわかれるでしょう。
実施する場合は、情報機関の暴走を防ぐ何らかの歯止め措置は必要でしょう。
もっとも、すでに街中いたるところに監視カメラが設置されている世界に暮らしている訳で、今さら・・・という感もあるのかも。
****「通話傍受したのは欧州情報機関」 米が反論****
米国が欧州で数千万件の通話を傍受したとされる疑惑について、米国の各情報機関トップは29日、「全くの誤解」と反論した。
疑惑の渦中にある米国家安全保障局(NSA)のキース・アレグザンダー局長は、多くの場合実際に通話記録を入手してNSAに提供したのは欧州諸国の情報機関だと主張している。
米中央情報局(CIA)元職員のエドワード・スノーデン容疑者からの暴露に基づき、米国が対テロ策の一環で欧州内の通話とオンライン通信を数千万件傍受していたと新聞各社が報道したことを受け、欧州の米同盟諸国はここ数日、怒りをあらわにして抗議していた。
しかしアレグザンダーNSA局長は、米下院情報特別委員会の公聴会で、これらの報道はスノーデン元職員から欧州各紙に提供された情報を誤って解釈したものだと証言。同報道は全くの誤解であり、「これらは欧州市民からわれわれが収集した情報ではない」と断言した。
その数時間前には、米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が、電子スパイ行為を行ったのはフランスとスペインの情報機関であり、その範囲は国境を越えて時には紛争地域にも及び、収集された情報は後にNSAに提供されたと伝えた。
さらに上院情報特別委員会のダイアン・ファインスタイン委員長も、仏独で情報収集したのは米国ではなく仏独であり、情報収集は「市民に関するものではなく、アフガニスタンなど北大西洋条約機構(NATO)が介入する紛争地域での収集活動」だったと言明、欧州メディアの報道を否定する見方に同調した。
もしこの反論が正しければ、NSAが市民のプライバシーを侵害しているとして米国に激しく抗議した欧州諸国政府は赤恥をかくことになる。名指しされた欧州諸国の情報機関からは、これまでのところコメントは出されていない。【2013年10月30日 AFP】
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