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(「老後に面倒をみてくれる息子がどうしても必要でした。他に頼れる人はいませんから」と語る、誘拐された子供を20年前に買い、息子として育てた女性 【4月21日 NHK「クローズアップ現代」】http://varadoga.blog136.fc2.com/blog-entry-63049.html)
【「老後に面倒をみてくれる息子がどうしても必要でした」】
中国では年間20万人もの子供が行方不明となっていると言われ、多発する子供の誘拐が大きな社会問題になっています。昨日のNHK「クローズアップ現代」がこの問題を取り上げていました。
****行方不明児20万人の衝撃 中国:多発する誘拐****
急速な経済発展の陰で多発する子供の誘拐
今、大きな社会問題になっている子供の誘拐 この問題は実は中国では古くて新しい問題です。
1979年に一人っ子政策が始まったことで、男の子がいない家庭が増え、後継ぎや働き手となる男の子が欲しいとして誘拐事件が起きるようになりました。その後経済発展にともなって誘拐事件は更に増え、ここ数年、誘拐事件について広く報じられるようになって、事件に対する社会の意識が高まり、ようやく大きな社会問題となりました。
それにしても、なぜ経済発展に伴って子供の誘拐が多発するようになったのか。
誘拐された子供たちの多くが、収入が沿岸部の大都市のおよそ4分の1に留まる農村で買われています。
農村の人口は中国の人口のおよそ半数の6億5000万人、経済発展に伴い拡大した都市と農村の格差、加えて、農村では年金など社会保障が都市と比べて著しく低く、老後の生活を支える働き手として多くの子供たちが買われています。
中国政府は捜査能力の強化や、犯罪者の処罰の徹底の方針を打ち出し、年間およそ3000件が摘発されていますが、根絶には程遠い状況です。
深刻化する子供の誘拐、その背後では大規模な犯罪組織が暗躍しています。
摘発されたこの組織は数百人のメンバーが全国14の省にネットワークを張り巡らし、100人近い子供を誘拐していました。
誘拐はどのように実行されているのか?
警察の捜査に協力するNGO関係者「彼らは役割を明確に分担し、連携して誘拐を繰り返しています」
仲介役が子供が欲しいという依頼をうけます。
実行役が依頼者の希望に沿った子供を誘拐し、移送役が依頼者のもとに子供を連れて行き、お金を受け取ります。
「男の子は100~120万円、女の子は60~80万円で売買されています」
私たちは誘拐された子供たちの多くが買われているという内陸部の農村を訪ねました。
都市部で進む開発から取り残された地域です。平均年収は20万円たらず、沿岸部大都市の4分の1です。
「子供を買うことをどう思いますか?」
村の男性「子供がいない家庭なら、買いたいと思うでしょう」
村の女性「子供がいないと年を取ってから大変だもの」
金額は男の場合平均年収の5年分、それでも老後の暮らしを支える働き手が欲しいと、借金をしてまで買うといいます。
実際に20年前に誘拐された男の子を買って育てた女性、娘はいたものの、男の子には恵まれませんでした。
農村では受け取れる年金や医療保険がわずかなため、生きるためには息子を買うしかなかったと主張します。
「老後に面倒をみてくれる息子がどうしても必要でした。他に頼れる人はいませんから」
中国の法律では、誘拐された子供を買っても、虐待したり、逃げるのを妨げたりしなければ、必ずしも罪に問われません。
糖尿病を患い、医療費もかさむこの女性は、息子だけが頼りだと言います。
この女性に買われ息子として育てられた男性 北京にある自動車の整備工場で働いています。住んでいるのは安アパートの地下室 生活費をぎりぎりに切り詰めて、養母への仕送りに回しています。
「これまで育ててくれた養母を見捨てられません。私を買ったことを責める気はありません」
この男性は一度も会ったことがない実母を探しています。各地を探し歩き、最近ようやく実家をさがしあてました。
母親は男性が誘拐されたショックで家を飛び出し、行方がわからなくなっていました。
「本当の母に会いたい。肉親から引き離された悲しみは経験した者しかわかりません。もう誘拐はやめてほしいです」
キャスター国谷裕子・・・なぜ年間20万人の子供が誘拐され、大規模な犯罪組織が暗躍している実態を中国政府は放置しているのですか?
東京大学大学院准教授 阿古智子氏
「ひとつは、需要がある訳ですからビジネスのチャンスとして組織が展開する。本来であれば警察が取り締まるのですが、ときによっては取り締まるべき警察が組織と癒着している。中央政府が取締りを加速させようとしても、地方に行けば警察組織・司法・行政が一体化している、癒着しているという実態があります」
・・・なぜ需要があるのですか?
「社会保障が農村では遅れています。年金は都市では月3万円に対し、農村では月1500円 これでは生活ができません。頼れるのは制度ではなく、伝統的中国社会では信頼できる家族ということになります。そのため、借金してでも老後を考えて子供が欲しいという人たちがいます」
・・・経済成長のさなかに誘拐が多発していると聞くと、豊かな人が子供が欲しいので子供を買っているのかなとか、豊かな人から子供をさらって身代金を要求しているのかなとか・・・と、イメージしていることとは全く違う実態に驚いたのですが、こうした貧しい農村で誘拐された子供が買われていることについて、中国のどのような構造的な問題が背景にあると考えたらいいでしょうか?
「中国は戸籍制度というものがありまして、農村と都市では制度が異なります。特に、土地所有の形態が異なります。人民公社の時代から農村では土地は分配されていて、集団で所有しています。都市では所有していると、その使用権は自由に売買でき、資産として自分で活用できます。農村では農業用地の転用は難しいですし、政府からすれば、土地があるから食糧は確保できる、社会保障の替りにもなるのではないかといった議論もありますが、資産として活用できないので大きな格差として開いてしまうことにもなります。
また社会保障もポータビリティーがありませんので、大都市の恵まれた地域は水準が高いのに比べ、生活保護も医療費の補てんなどいろんな面で農村は遅れているというのが実態です」
・・・“社会保障もポータビリティーがない”というのは、農村における社会保障制度が都市では通用しないということですね。なぜ通用しないのですか?
「例えば上海の生活保護者の収入は農村の所得を上回っています。もし、農村の人が上海に移住すれば全員が生活保護を受けることにもなります。このような状況で、もし上海で戸籍を開放すれば、貧しい地域の人が全員移住するということが極端なケースでは起こりえます。したがって、戸籍によって生活保護や医療保険を区切るしかない訳です」
・・・・格差が広がるなかで、その格差が制度によって固定化されてしまうという状況ですね。
中国社会の様々な矛盾が凝縮したようになっている子供の誘拐の問題、警察や政府に頼るのではなく、住民自らが誘拐撲滅に取り組み、また、背景にある貧困の問題にまで向き合おうとする動きも出てきました。(中略)
多発する子供の誘拐の問題背景には、都市と農村のシステムの違いという戸籍の問題からくる“格差の固定”があります。
・・・・中国の経済に勢いがあるうちが、統一的な制度をつくる、国民皆保険制度をつくるチャンスでもある訳ですが、中国経済に勢いがなくなってきた今、急がないといけないのでは?
「全国で統一的社会保障制度を作るためには莫大な予算が必要になります。経済が減速してくると、所得の分配という面も必要になってきます。しかし、所得分配によって、成長が見込める分野への投資が減ることにもなり、分配と成長をそのようにバランスさせるか、難し舵取りが必要になります」
・・・都市部にいて恵まれた制度のもとにある人々がどこまで痛みを分かち合えるのでしょうか?
「都市部の既得権益層の方々は、分配重視の政策に転じれば、自分たちの身を切らなければならない。どれだけの人が受け入れるのかということになり、問題は大きいといえます」
・・・不満をコントロールできるのか、舵取りは難しいのでは?
「舵取りのためには、社会的不満を抑えるためのコストかけようとする訳ですが、経済が減速するなかでは、そのコストも絞らないといけない・・・・難しいところです」【4月21日 NHK「クローズアップ現代」より】
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中国で多発する子供の誘拐の話はこれまでも断片的に耳にしてきましたが、実際に誘拐された子供を買った女性や、買われた男性の話など、引き込まれるものがありました。
“老後の生活を支える働き手として多くの子供たちが買われている”と聞くと、まるで奴隷売買ではないか・・・とも思ってしまいますが、息子を買った女性の貧しい暮らし、誘拐され買われたことを知りながらも養母の暮らしを支える男性の話を聞くと、そうそう単純な話でもないように思えてきます。
【戸籍制度の統一化の方針】
子供誘拐問題の背景にもある、農村部の貧困と都市部との格差を固定化している中国の戸籍制度の問題は常に指摘されれてきました。
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中国の戸籍制度の大きな特徴は、都市の出身者には『都市戸籍』、農村の出身者には『農村戸籍』が与えられ、その区分が厳格に管理されていることにあります。
この戸籍制度は、1958年、農村から都市への人口移動を制限するために制定されました。
現在、『都市戸籍』の保有者はおよそ5億人、『農村戸籍』の保有者はおよそ9億人と言われています。
中国では社会保障や公共サービスは、この戸籍に基づいて提供されていまして、『都市戸籍』の保有者には一般的に、医療や年金、生活保護などの手厚い社会保障制度が整備されています。
一方で『農村戸籍』の保有者には、農地の割り当てがあるものの、失業保険の対象にならないなど社会保障の待遇に差がある上、義務教育などの公共サービスも十分には受けられません。
ある調査では、都市労働者と農民の受給年金額の差は24倍にもなるということなんです。
この格差から抜け出そうと、農村から都市へ、人口の流入が止まりません。
こうした人々は『農民工』と呼ばれていますが、『都市戸籍』を持たないため、様々な公共サービスを受けられず、劣悪な環境での労働を強いられており、近年、社会問題化しています。【2014年9月1日 NHK「特集キャッチ!インサイト」】
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農民を土地に縛りつけ、都市部だけが成長を果実を受け取る、その都市へ農村から農民が流入し底辺社会を形成する・・・・まるで地中海の遭難騒ぎで注目されている国境で隔てられた移民・難民をめぐる構図が国内に存在するようにも見えます。
習近平政権は昨年夏、2020年までに都市・農村の戸籍を統一するという戸籍制度改革の方針を明らかにしてはいます。
****出稼ぎ農民に都市戸籍 中国、格差是正狙い制度改革へ****
中国政府は1日までに、都市部と農村部を厳密に隔ててきた戸籍制度を、2020年までに統一する改革方針をまとめた。その一環として、まず都市部で働く農村戸籍の出稼ぎ労働者や家族など、約1億人に都市の戸籍を取得させる方針だ。
改革方針では、内陸部など中小規模の都市で、定住地があるなど基準を満たした出稼ぎ農民(農民工)に都市戸籍を与え、新制度の下で戸籍を統一していく。
その一方で、北京や上海、広州など人口1千万人を超える大都市では農村からの流入を規制する。
中国の都市部は1950年代から、農村出身者には健康保険を適用せず、子弟の公立学校への入学を認めないなど、社会保障制度で格差を作ってきた。
農民を農村に縛り付ける人口移動制限が目的だったが、工場勤務やサービス業などへの就業機会を求め、すでに2億6千万人の農村出身者が都市部に流入している。
今後は戸籍改革によって農村出身の余剰人員を制度上も正式に吸収して「都市化」を促進。都市と農村の経済格差の是正や都市部での個人消費の拡大、硬直化した社会構造の転換を図るという。
都市化促進で、地方政府の不動産開発による歳入の維持や拡大を図る側面も見え隠れしている。
経済格差拡大の温床とも指摘されていた戸籍制度をめぐっては、90年代から改革が議論されてきた。国営新華社通信は、「半世紀以上実施されてきた戸籍の二元管理が、歴史の舞台から退場する」と論評した。【2014年8月2日 産経】
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【「先進地区幇助落伍地区是一個義務」】
農村出身の余剰人員を制度上も正式に吸収する「都市化」も、経済減速にあっては難しくなってきます。
格差是正のためには、成長路線のなかでの「都市化」だけでなく、所得の分配を重視した施策が必要となるでしょう。
現在の中国経済の成長、都市部の活況は「可能な者から先に裕福になれ」という小平氏の先富論によって実現したものではありますが、「我們的政策是譲一部分人、一部分地区先富起来、以帯動和幇助落伍的地区、先進地区幇助落伍地区是一個義務。」の後半部、「そして落伍した者を助けよ。先に富んだ者が落伍した者を助けるのは義務である」という部分の実現が求められています。
もし共産党政権に日本・欧米社会より優位な部分があるとすれば、こうした所得分配の機能であるとも考えられますが、実際のところはどうでしょうか?
分配によって平等化を達成するという点では、「日本は最も成功した社会主義国である」とも言われているように、必ずしも共産党政権だから分配がうまくいくという訳でもなさそうです。
【パキスタンに“大盤振る舞い”】
ところで、パキスタンを訪問した習近平国家主席は総事業費約450億ドル(約5兆3千億円)に及ぶ巨額投融資を約束したそうです。
****習国家主席、パキスタン訪問 5兆円規模の巨額投融資****
中国の習近平(シーチンピン)国家主席が20日、就任後初めてパキスタンを訪問した。中国とアラビア海を結ぶ輸送路の整備など5兆円規模のパキスタン国内への巨額投資・融資案件の文書に両政府が署名した。
中国は経済支援をテコに南アジアへの関与を強化。米国の影響力低下をにらみ、同地域での主導権をうかがう狙いもあるようだ。
中国の最高指導者がパキスタンを訪問したのは9年ぶり。シャリフ首相との首脳会談の目玉は、アラビア海沿岸のグワダル港から中国新疆ウイグル自治区に至る「経済回廊」計画の本格始動だった。
輸送路の整備や、周辺の発電所、産業インフラの建設を含み、パキスタン側の説明では、総事業費は約450億ドル(約5兆3千億円)で、中国側は投資や低利融資で支援する。まず、約280億ドル(約3兆3千億円)分について着手する方針だ。
回廊の起点となるグワダル港はペルシャ湾の出口ホルムズ海峡に近い。南アジア各国のインド洋沿岸で中国が開発を進めるシーレーン上の拠点「真珠の首飾り」の一つとされ、中国の融資で2002年から建設が始まり、13年に管理権が中国側に移管された。
港と回廊をつなぐことで、米国の影響下にあるマラッカ海峡を迂回(うかい)してペルシャ湾に至る新たなルートを確保する狙いがあるとみられる。【4月21日 朝日】
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よその国の話ではありますが、こうした巨額の資金の使い途として、もっと国内で目を向ける分野はないのか・・・・という素朴な疑問も感じます。
もちろん政権指導部の言い分としては、国内の重要課題を解決していくためには中国はもっと強く豊かにならなければならず、こうした海外投資はそのための資金だ・・・ということにはなるのでしょうが。