(外国人労働者らを標的とする暴力事件が多発している南アフリカ・ダーバンで、警察と地元住民の集団が衝突するなか、護身用にナイフを手にする外国人男性 【4月17日 AFP】)
【移民が自分たちの職を奪っている、犯罪に手を染めている】
南アフリカで、エチオピアやソマリア、マラウイなどからの移民や外国人労働者らを標的とする暴力事件、外国人が経営する商店への襲撃が相次いでいます。
****南アフリカで外国人への暴力事件広がる、8500人避難****
南アフリカで外国人を標的とした暴力事件が広がり、ヨハネスブルクでは17日、警察が移民の経営する商店に放火した群衆らに対しゴム弾を発砲し事態の沈静化を図った。
同国で活動する非政府組織(NGO)によると、暴力事件を受け移民ら約8500人が避難をしたという。
ヨハネスブルク市内では、なたで武装した群衆らが外国人が経営する商店に放火した。移民の側からは警察が十分な保護対策を取っていないと批判する声も上がっている。
移民が経営する商店を標的とした暴力事件は南部の港湾都市ダーバンで始まり、外国人2人と南アフリカ人3人が殺害された。
同市の住民は、移民が自分たちの職を奪っているほか、犯罪に手を染めているなどと主張している。政府統計によれば、南アフリカの失業率は25%。
ダーバン近郊の町ベルラムでは15日、群衆が自宅にいた外国人男性を襲撃。男性は遺体で発見された。警察によると、男性は襲撃現場から逃げ出したものの、負傷のため自宅付近で死亡していたという。同町を含むクワズールー・ナタール州全体では、こうした暴力事件に関連して少なくとも112人が逮捕された。
こうした暴力事件を受けて同国のズマ大統領は、政府が懸案の社会問題や経済問題に取り組んでいる点を指摘。移民については、同国経済に貢献していると強調し、「さまざまな犯罪で逮捕される外国人がいる一方で、この国の外国人全てが犯罪に関わっていると見るのは間違いであり誤解を招く」と述べた。
暴力が各地に広がる中、恐怖を感じた移民の間では避難の動きが始まっている。同国を拠点とする救援組織「ギフト・オブ・ザ・ギバーズ」によると、この1週間で、約8500人が仮設の避難センターや警察署に身を寄せたという。【4月18日 CNN】
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混乱の発端については、“一連の事件は、南アフリカの有力部族・ズールー族の王が外国人の排斥を黙認する発言、いわゆる「ヘイトスピーチ」を行ったと伝えられたことをきっかけに、扇動された住民が暴力行為を始めたとみられています。”【4月18日 NHK】とも指摘されています。
背景については、貧困・格差への不満が指摘されています。
****南ア 黒人住民が移民の店襲撃 死傷者も****
・・・・南アフリカは、アパルトヘイト=人種隔離政策を教訓にすべての人種が共存できる国を目指してきましたが、それにもかかわらず外国人の排斥運動が広がっている背景には、社会の格差が拡大して多くの黒人が貧しい生活を強いられ、不満がまん延しているためとみられています。【4月18日 NHK】
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一方で、こうした暴力・外国人排斥を批判する抗議行動も行われています。
****南アで移民への暴力事件が多発、ダーバンでは4000人抗議デモ****
・・・・事件を受けてダーバンでは16日、外国人労働者らを標的とした暴力に抗議するデモが行われ、地元住民や学生のほか、宗教の指導者や政治家など、約4000人が参加。「排外主義反対」「アフリカは一つ」などのスローガンを叫びながら、通りを行進した。【4月17日 AFP】
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【2008年にもジンバブエ移民などへの暴力】
南アフリカでの外国人排斥暴動と言えば、2008年にも主に隣国ジンバブエからの流入者を対象した暴力がありました。
当時、ジンバブエは天文学的な数字のハイパーインフレーションによる経済崩壊に加え、大統領選挙を力で乗り切ろうとするムガベ大統領支持勢力による野党支持者への暴力が吹き荒れており、ジンブブエから300万人にも及ぶ人々が南アフリカに移民・逃避していました。
南アフリカ側も低賃金労働者の確保のためにこうした流入を黙認していましたが、国内貧困層の間で「職を奪っている」との不満が高まり、その不満のはけ口が外国人への暴力となりました。
(2008年5月19日ブログ「ジンバブエ 決選投票は6月27日、国内外で続く弾圧・苦難」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080519
2008年5月20日ブログ「南アフリカ、イタリア 外国人排斥の高まり 憎しみ・差別の構図」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080520)
****南アフリカ:移民への暴力事件多発…42人が死亡*****
南アフリカの最大都市ヨハネスブルクで今月半ば以降、ジンバブエなどからの移民に対する暴力事件が多発し、南部ケープタウンなどに飛び火している。
ロイター通信などによると、24日までに42人が死亡したほか多数のけが人が出ており、2万5000人以上が暴力を恐れて避難した。ヨハネスブルクには軍部隊が投入され、23日には男1人が射殺された。
事件は11日、ヨハネスブルク郊外の旧黒人居住区で発生。商店や自動車が燃やされ、外国人労働者が警察署に避難するなどした。23日にはケープタウン郊外のスラム街で暴徒が外国人住居などを襲撃。200人が逮捕され、外国人1200人が避難した。
外国人襲撃の背景には、24%に達する高い失業率や食糧価格の高騰など、生活条件の悪化への強い不満がある。隣国ジンバブエからの移民約300万人など相対的に低賃金の外国人労働者が、南アフリカの低所得者から「職を奪っている」として標的になっている。【2008年5月24日 毎日】
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2週間にも及んだ2008年の混乱は軍を動員しての鎮圧などで一応収束はしましたが、56人が死亡し、ジンバブエやモザンビークからの移民ら、外国人数万人が自宅を追われることになりました。
【人々が物事を暴力で解決しようとする姿勢が背景にある】
移民・外国人に矛先が向けられるのは、彼らが「職を奪っている」という貧困層の不満が背景にありますが、一方で、もともと南アフリカの治安状態は非常に悪いという現実があります。
****南アフリカの殺人発生率、過去2年で9%増****
南アフリカの殺人事件発生率がこの1年間で、1日あたり47件と急増した。警察当局が18日、統計を発表した。
警察当局の発表によると、14年3月までの12か月間に殺害された人は1万7068人で、前年比で5%増加した。
「前年より800件増加しており、非常に懸念している」とリア・フィエガ(Riah Phiyega)警視総監は述べた。
統計によれば南アフリカは世界で最も暴力犯罪の発生率が高い国のひとつ。また過去2年間で殺人事件発生率は9%以上増加している。殺人の犠牲者の大半は、貧困地区や黒人居住地域に暮らしている人々だ。
専門家によると、高い犯罪率は法の軽視に関連がある。
安全保障研究所プレトリア事務所のシャンドレ・グールド研究員は、1994年にアパルトヘイト(人種隔離政策)が廃止されるまで、「南アフリカ人には法を尊重する理由がほとんどなく、法の支配を信じる理由は全くなかった」と指摘する。
一方、発表された統計によると、10年単位では犯罪全体の発生率は減少傾向にある。【2014年9月20日 AFP】
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****4分間に1人の割合で発生 南アフリカ、強姦被害が深刻に****
南アフリカの司法長官は最近、同国で女性に対する暴力や強姦の件数が「警戒線」に達していると述べた。
英BBCの報道によると、南アで毎年報告される強姦事件は約6万件で、専門家らは「警察が把握していない事件も加えれば少なくとも60万件に上る」と指摘。
南ア医学研究委員会によれば、同国では4分間に1人の女性が強姦被害に遭っている計算となる。中国・人民日報が伝えた。
女性への暴力が南ア社会に大きな損失をもたらしている。
南ア医学研究会によると、16%の女性が強姦によってエイズウイルスに感染しているほか、予想外の妊娠、性病感染も多い。3分の1以上の強姦被害者がストレスによる障害を抱え、女性がうつ病にかかる割合と自殺、薬物乱用などのリスクが高まっている。
南ア医学研究会性別・健康研究センターの主任は、「こうした暴力文化の背景には南ア社会の男権主義があり、貧困と不平等も南ア社会で女性への暴力が多発する大きな要因だ。また飲酒や薬物乱用、銃の所持、政府の対応不足なども暴力を助長している」と指摘した。
こうした暴力は南アの青少年に悪影響をもたらす。南ア医学研究会では、11歳以上の男子の62%が強制的に性関係を持つことは合理的なことだと考えているとみている。【2013年02月27日新華網】
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****アパルトヘイトの負の遺産、私刑「ネックレス」が復活 南ア****
南アフリカ・ポートエリザベスのニュー・ブライトンタウンシップで、ここでは日常茶飯事と言ってもいい事件が起きた。2人組の男が年配女性の家に押し入り、テレビを奪った上、女性を守ろうとした間借り人を刺し殺したのだ。
翌朝、近所の人々は2人組の居場所を突き止めた。2人を引きずり出してそれぞれの首にタイヤをかけ、タイヤにガソリンを注いで火を付けた。(中略)
「ネックレス」と呼ばれるこの私刑は、アパルトヘイト(人種隔離政策)の負の遺産の中でも最も身の毛のよだつものだ。
少数白人政権との戦闘が激化した1980年代、タウンシップ(非白人居住区)では裏切り者に対してこの私刑が行われた。常習犯が「人民裁判」にかけられ、ネックレスの刑を執行されることもあった。
その「ネックレス」が、ここポートエリザベスでも、自警のための新たな手段として復活しつつある。タウンシップではもともと、警察力が遠く及ばないことへの強いいらだちがある。(中略)
■背景に暴力の歴史と警察不信
(中略)警察広報のグワブ氏は、ネックレス事件では住民同士が結託するため、過去のネックレス事件で逮捕者が出た事例は無いと話す。「われわれはこれまで、住民たちとの会合で、法の裁きを独自に下すことはできないと説明してきたのですが。(被害に遭った)住民たちは怒っていて聞き入れてくれないし、警察そのものを信用していないんです」(中略)
「この国が暴力の歴史を歩んできたこともあり、人々は政治家、役人、警察に自分たちの不満を聞いてもらうには暴力という手段しかないと感じているのです。(ネックレスは)政府庁舎に放火する、警察車両に投石する、道路をバリケードでふさぐなど、アパルトヘイト時代に用いられた暴力と同じパターンに属すると言えます」【2011年8月5日 AFP】
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南アフリカ社会に根深い暴力の蔓延の背景には“1994年にアパルトヘイト(人種隔離政策)が廃止されるまで、「南アフリカ人には法を尊重する理由がほとんどなく、法の支配を信じる理由は全くなかった」”“「この国が暴力の歴史を歩んできたこともあり、人々は政治家、役人、警察に自分たちの不満を聞いてもらうには暴力という手段しかないと感じているのです。”という、この国のアパルトヘイト時代からの負の遺産があるようです。
“さまざまな要因や動機があるにせよ、なぜ殺すのか。
デハース氏は、南アの凶悪犯罪や未解決事件の多さに言及し「犯罪者が罰を受けないという状況や、犯罪が文化のようになり、家庭や学校、職場などさまざまな場所で、人々が物事を暴力で解決しようとする姿勢が背景にあるのではないか」と言う。”【2014年4月23日 毎日】
【「黒人は、アパルトヘイトが撤廃された翌日には白人専用ビーチに入ることができたが、教育はそういうわけにはいかない」】
その負の遺産を助長しているのが、改善しない貧困、残存する人種間の経済格差、黒人間でも拡大する格差であることは言うまでもありません。
****格差のブドウ:南ア民主化20年/2 人種「平等」、経済はいつ****
・・・・1994年に全人種が参加する選挙が実施され、白人政権に代わりネルソン・マンデラ氏が大統領に就任。南アは民主化した。
与党「アフリカ民族会議(ANC)」率いる政権は、人種間の経済格差是正のため、黒人の経営参画や雇用促進を図り、黒人の間にも富裕層が生まれた。
このため、01年に白人の平均年間所得は黒人の8・6倍あったが、11年には約6倍にまで縮まった。
だが、国民の格差の状況を示すジニ係数は、南ア政府によると12年に0・69で世界トップクラスだ。
白人と黒人という既存の格差に加え、黒人の間で富裕層と貧困層の格差が生じている。貧困層の困窮状態は変わらず「底上げ」ができていないとの見方は根強い。
(中略)「利益を得ているのは白人農家。苦しんできた者たちは(民主化後の)新生南アフリカでも苦しんでいる」。同州パールにある農場労働者らの労働組合事務局で、ノージー・ピータース事務局長(59)が訴えた。
「人種差別がないというのは、同じレストランで誰もが食事できることだけを指すのではない。必要なのは経済的な平等だ」【2014年02月28日 毎日】
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「経済的な平等」「貧困の解消」を実現していくうえで最も重要なのが教育ですが、「黒人は、アパルトヘイトが撤廃された翌日には白人専用ビーチに入ることができたが、教育はそういうわけにはいかない」という困難さがあります。
****アパルトヘイト時代の経済格差を引きずる南アフリカ、最大の要因は「教育」****
南アフリカでは、アパルトヘイト(人種隔離政策)が撤廃されて14年たった現在も、白人と黒人間の経済格差が縮まる気配はない。
30業種の組合「UASA」が前週行った調査では、白人の平均収入は黒人の4.5倍、カラード(混血)の4倍であることがわかった。
■一朝一夕には解消できない「教育格差」
調査書は、経済力の最大の決定要因は「教育」であると結論付けているが、アパルトヘイト時代の人種間の教育格差はそう簡単に解消されるものではないとの指摘がある。
「黒人は、アパルトヘイトが撤廃された翌日には白人専用ビーチに入ることができたが、教育はそういうわけにはいかない」と、調査に参加したあるエコノミストは言う。
南ア人種関係研究所によると、アパルトヘイト時代、白人はほぼ国際レベルの教育が受けられる学校や大学への入学資格があったのに対し、黒人は「教育を受けさせるほどの価値はない」とみなされていた。
政府は、そうした14年間の教育格差を埋めようと、黒人が多く通う学校への助成金を増やしたり、アファーマティブ・アクション(黒人の入学を優遇する措置)をとるなどの措置を講じている。
黒人の進学率が低い原因は、タウンシップ(旧黒人居住区)の教師の資質の低下に加え、社会問題がその背景にあるという。
また、親の進学の有無が子どもの進学にも影響を与えるという海外の調査もある。親が大卒だと、子どもも大学に進学する傾向が高いというのだ。
ステレンボッシュ大学のエコノミスト、Servaas Van der Berg氏は、教育のほかに、人口の分布や統計的な平均年齢にも目を向ける必要があると主張する。白人の多くが給料水準の高い都市部に住み、平均年齢も黒人より高い。平均年齢が高い分、収入も多いと同氏は指摘する。
■黒人への入学優遇措置でも進展なし
ルロフ・バーガー氏とレイチェル・ジャフタ氏が2006年に著した『Returns to Race: Labour Market Discrimination in Post-Apartheid South Africa(人種への回帰:アパルトヘイト後の南アにおける労働市場の差別)』も、経済格差が「人種差別」によるものではなく「教育」によるものだと論じている。
両氏はアファーマティブ・アクションの効果について、「技能職では人種間格差がなくなりつつあるが、その他では目立った進展はない」と分析している。【2008年5月14日 AFP】
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いったん形成された格差は、「教育格差」を通じて、制度が改正されたのちも再生産されるということでしょう。
なお、「犯罪者が罰を受けないという状況や、犯罪が文化のようになり、家庭や学校、職場などさまざまな場所で、人々が物事を暴力で解決しようとする姿勢が背景にあるのではないか」という風潮、それを加速させる貧困・格差の問題は、南アフリカに限った話ではなく、アフリカで絶えない内戦・紛争、暴力の蔓延という現象に共通するもののように思えます。