孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

サウジアラビア  イラン核保有の場合は、パキスタンから一カ月以内に核兵器を入手?

2015-04-04 21:47:34 | 中東情勢

(長年パキスタンの核開発を支援してきたサウジアラビアのサウド外相・左とパキスタンのサルタージ国家安全保障・外交特別補佐官 2014年 【4月号 選択】)

曖昧合意、それはそれで・・・
注目されていたイラン核問題の「枠組み」合意が“一応”なされたこと、ただ、合意内容にはイラン側とアメリカ側では解釈に差がみられることなどについては、多くのメディアが詳しく報じているところです。

しかし、交渉というのは譲歩するということであり(譲歩しないのであれば交渉ではなく恫喝です)、これも各メディアが取り上げているように、イラン・アメリカ双方が国内に交渉に反対する強硬派を抱える状況では、なにがしらか、国内向けのアピールも必要とされると思われます。

また、今回の合意はあくまでも「枠組み」についてであり、要は最終合意に向けて曖昧にされた部分をつめていければ、あるいはもっとうまくカムフラージュできるようにしていければいい話で、現時点で完全に考えが一致している必要もありません。(一致しているなら、現段階で最終合意が可能です)

とにかく決裂させることは両者とも避けたいという“合意”のもとで、曖昧ながらも最終合意へむけた方向性を出した・・・ということでしょう。

イスラエルやアメリカ共和党強硬派のように「悪い取引はしない方がいい」という立場は、要は武力でイランを叩きたいというだけの話であり、戦争は極力避けたいという一般論からしても、あるいは、中東石油に大きく依存する日本の利害からしても、組することはできません。

【「いかがわしさ」がつきまとう核協議
そもそも、イランにせよ、北朝鮮にせよ、核開発問題協議には「いかがわしさ」がつきまとうものであり、核開発を阻止しようとする自分たちが善で、核開発を目論むイラン党が悪であるとい・・・といった話でもありません。

****イラン核協議の不都合な現実****
・・・・一方、この交渉の裏には、不都合な現実がある。
イランに核兵器の開発を断念するよう迫っている国のうち、ドイツを除いた5か国すべてが核武装している現実だ。

アメリカは核弾頭を7000発以上、ロシアは8000以上、イギリスは200以上、中国は250以上、フランスは300以上所有している。

イランとのいかなる合意も「人類を大きな危険にさらす」と憤っているイスラエルだって、80発以上を所有していると見られる。

このように自分たちは核武装していながら、イランをどうやって説得できるというのか。国際社会の大きな矛盾の1つだ。【3月31日 Newsweek】
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イランのように、シリア・イラク・イエメンなどで勢力を拡大しようとするような国に核を持たせたら危険だ・・・という話もあるでしょうが、それを言うならパレスチナに度々侵攻し、国際批判を無視して違法に入植地を拡大し続けるイスラエルのような国の核も問題です。

インドとパキスタンのように、いつ戦争を再開するかわからない国の核も問題です。

中国のように「核心的利益」を譲らない国も、ロシアのようにウクライナ東部に手を出す国も、立場によれば、世界各地でわがもの顔に振舞うアメリカの核も問題でしょう。

イランのように人権を無視した狂信的な国が核を持つのは・・・という話でも、やはり他国も似たりよったりの感もあります。

イスラエルと並んで、イランの核保有を警戒するもうひとつの国が、イランと中東地域での影響力を争うスンニ派の盟主を自任するサウジアラビアですが、人権とか民主化という点では、イラン以上に眉をひそめたくなるような国です。

アメリカはイランを“ならず者”扱いしますが、アメリカの同盟国であるイスラエルやサウジアラビアはどうなのか?という感もあります。

核協議の実態は、結局のところ善悪をただすというより、どうすれば自国の利益に都合がいいかという次元の話でしょう。

中東核拡散 「彼らが持てば、我々も持ちますよ」】
で、サウジアラビアです。
シーア派イランの影響力拡大に対抗して、イエメンで軍事介入を行っていますが、核に関しては、“イランが核を持つなら、自国も持つ”という立場です。

イラン核保有の最大の問題は、サウジアラビアなども対抗して核保有に走り、中東全域に核が拡散するという懸念です。

サウジアラビアに核開発の技術はありませんが、おカネがあります。

その豊富な資金力でこれまでパキスタンの核開発を支えてきましたが、必要となればいつでもパキスタンからサウジアラビアに核を移転するという前提だという話が以前からあります。

最近のイランのイラク・イエメンでの影響力拡大は、このサウジアラビアの既定方針を加速させているようです。

****サウジが「核」を持つ日 パキスタンと交わした「譲渡密約****
イランの核協議が大詰めを迎える中、サウジアラビアがパキスタンからの核兵器入手に向け、計画の詰めを急いでいる。

サウジ国内では、核弾頭搭載可能な弾道ミサイルの地下発射場が建設されており、イランが核兵器を保有した際には、「一カ月以内に核兵器を入手する」と見られている。

三月のイスラエル総選挙では、イランをめぐる核協議に反対するネタニヤフ首相が勝利したばかりで、もう一つの米国の同盟国サウジは、容易に核武装できる態勢を着々と固めている。

オバマ政権による、イランの核武装阻止計画は、同盟諸国によって完全に形骸化されている。

カネの見返りに核弾頭を提供
サウジのアブドゥラ前国王が死去して間もない二月初旬。パキスタンから極秘の代表団が、サウジの首都リヤドを訪れた。(中略)

「(パキスタン)軍首脳の訪問で、両国はサルマン新国王の下でも、核合意に変更がないことを確認し合ったと見られます」と、米国人の安全保障担当記者は言う。(中略)

パキスタンとサウジアラビアの軍事協力は一九六〇年代にまでさかのぼる。

インドとの戦争で実戦経験が豊富なパキスタン軍が、全面的にサウジ軍を支援していた。六九年にイエメンがサウジ領に侵入すると、これを駆逐したのがパキスタン軍のパイロットだった。七〇年代には、王国の防衛のため、一万五千人規模のパキスタン兵がサウジに常時駐留していたこともあった。

サウジは圧倒的な資金力で、これに報いた。民間からの寄付も含め、年間数十億ドル規模の支援をパキスタンに対して行った。パキスタンにあるイスラム神学校(マドラサ)は、サウジの支援だけで、三万校が開校した。

核兵器開発の協力も、初期段階の七〇年代に始まった。ライバルのインドが七四年に核実験を行い、追い込まれていたパキスタンに、サウジが資金面で全面的な支援をした。

「当初から『カネの見返りに、核弾頭や開発技術を提供する』という了解だったのでしょう。パキスタンが九八年に核実験に成功すると、その翌年にはサウジの国防相だったスルタン王子(二〇一一年死去)が、パキスタンのウラン濃縮施設とミサイル製造工場を視察しています」と前出記者。

イラク戦争が世界の耳目を集めていた〇三年には、イスラマバードで両国の「核協力」合意が秘密裏に締結された。この時には、後に国王になるアブドゥラ皇太子、サウド外相らがパキスタンを訪問した。(中略)

パキスタンは潤沢な資金に支えられ、核弾頭を百二十近くまで積み上げた。先行していたインド(推計で約百十)を、すでに追い抜き、二〇二〇年までに二百の核弾頭を持つと推計されている。

サウジが核兵器を買おうとした相手は、ほかにもいた。サダム・フセイン大統領時代のイラクに、核兵器開発の支援として数十億ドルを送っていたことは、後に米国に亡命したサウジ外交官、モハンメド・ヒレウィによって明らかにされた。この計画はイラクによるクウェート占領(九〇年)で、根元から消滅した。

「彼らが持てば、我々も持ちますよ」
サウジはパキスタンの核弾頭を待っているだけではない。

リヤド近郊のカルジ基地内に、七〇年代から極秘の核研究施設を運営し、サウジ人研究者を育成した。八八年には、「民生用原子力開発」の意図を公にし、国立の「原子力研究所」を設立。この年に、核拡散防止条約(NPT)に調印した。

弾道ミサイル開発では、八七年に「戦略ミサイル軍」を設置し、中国製の「東風3」を購入した。一昨年には、リヤド南西二百キロの山岳地帯に、大規模なミサイル地下発射場を建設していることが衛星写真で分かった。テヘランまで一千八百キロ、イスラエルの人口密集地まで二千六百キロの距離である。

昨年には、核弾頭搭載可能な「東風21」を購入したことが伝えられた。この情報を報じた米ニューズウィーク誌は、「米中央情報局(CIA)が、核兵器搭載不可に改造されたのを確認した」としたものの、パキスタンの核ミサイルも中国製が基礎であるため、サウジの核弾頭搭載ミサイル保有は時間の問題と見られている。

ただ、サウジの民生用原発の歩みは遅い。(中略)米研究機関「核脅威イニシアチブ(NTI)」は最新の評価の中で、「高性能核兵器を保有するには、天然資源、技術力、研究者のどれも不十分というのが、専門家のほぼ一致した見方である」としている。

ところが、パキスタンが核弾頭を提供するとなると、事情は激変する。

イスラエル軍の情報機関「アマン」の長官を務めたアモス・ヤドリンは一昨年、スウェーデンで開催された戦略関係会議で、「サウジはすでにカネを払っている。パキスタンに行って、必要なものを入手しさえすればいい。一カ月も待つことはない」と、サウジ、パキスタン両国の核兵器受け渡しが、最終段階にあるとの見方を示した。

もちろん米国は一貫して、「核兵器拡散は認めない」との立場を、サウジ、パキスタン両国に伝えてきた。
だが、オバマ政権下で中東、南アジア一帯からの米軍の急速な撤退が進み、サウジを筆頭とする湾岸産油国が、自助努力を迫られるようになると、サウジは核保有の意思をより明確に米側に伝えるようになった。

アブドゥラ前国王は〇九年、米国の中東外交の重鎮、デニス・ロスと会談した際に、「彼ら(イラン)が核兵器を持てば、我々も核兵器を持ちますよ」と、こともなげに語った。

ヒラリー・クリントン国務長官(当時)の特別補佐官だったロスは、「米国は核拡散に絶対に反対です」と長広舌をふるったが、国王は「彼らが核兵器を持てば、我々も核兵器を持ちますよ」と、全く同じ言葉を、冷たく言い放った。

サウジの総合情報庁の長官を長く務めたトゥルキ王子は近年、「イランが核を持てば、サウジは、これまで語られたことのない、劇的な措置を取らざるを得ない」といった発言を繰り返している。

また、あるサウジ高官が最近、「二つの道から、核保有を目指す」と語ったことも伝えられた。もちろん、一つは自国で核技術を取得していく道であり、もう一つはパキスタンから取得する道である。

オバマ政権への不信が背景に
サウジの新体制には、切迫した事情が別にある。

「イスラム国」壊滅作戦で、イランがイラクのシーア派政権の全面支援に回り、イラクを事実上、イラン傘下の国にしたことだ。

スンニ派盟主のサウジにとって、地政学上大きな失点である。北部ティクリートの攻防では、イラン革命防衛隊の精鋭部隊が奪還作戦の指揮をとった。米軍統合参謀本部のマーティン・デンプシー議長さえ、「イラン支援が最も明白になった作戦だ」と認めざるを得なかった。

サウジのサウド外相は三月、リヤドを訪問中だったジョン・ケリー国務長官に、サウジの不満をぶちまけた。外相は記者会見の席上で、「ティクリートほど、我々の懸念が最も鮮明に表れた例はない。イランはイラクを乗っ取ろうとしている」と、イランを非難した。

地域情勢の悪化、オバマ政権への不信がサウジ新体制を「パキスタン・オプション」に走らせているのは間違いない。

サウジには百五十万人のパキスタン人が働いており、パキスタンにとってもサウジは生命線である。

サウジの民生用核開発には、韓国電力公社(KEPCO)や日本の東芝などアジア企業も多数、契約獲得を競っている。だが、一見うまみだらけの計画の背景には、非情で苛烈な中東政治の現実が潜んでいること、そしてサウジ指導部が本当に必要な核は、「抑止力」であることを承知しておく必要があるだろう。【4月号 選択】
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従来は、“イランが核保有しても、サウジアラビアは自ら核開発に走ったり、あるいは、パキスタンから核を取得したりするよりも、はるかに高い確率でアメリカの核の傘の下での庇護を求めることになるだろう”という見方もありましたが、中東におけるアメリカの存在感が薄れるにつれて、その線も薄くなったようです。

もっとも、サウジアラビアに核を引き渡すということに関しては、パキスタンも相当の覚悟がいりますので、そうそう簡単な話でもないようにも思えますが。

いずれにしても、アメリカが本気で中東地域での核拡散を抑えたいと思うのであれば、イスラエルにも核を放棄させることでイランにも核開発を断念させ、さらにサウジアラビアにも・・・という覚悟が必要でしょう。

それができないなら、イランのとの最終合意ができても、火種はくすぶり続けるでしょう。

なお、今回の枠組み合意に関し、「あしき合意を阻止する、もしくは少なくとも修正を加えるために世界に(実情を)説明し、説得し続ける」というイスラエル・ネタニヤフ首相に対し、サウジアラビア・サルマン国王は「強制力のある最終合意に至ることを望む」と自制した発言を行っています。

****<イラン核協議>枠組み合意 イスラエルは強く反発****
・・・・一方、オバマ大統領は2日、サルマン国王やネタニヤフ首相に電話で説明。ネタニヤフ首相には、イスラエルの安全保障を今後も支援する意向を強調。今後樹立される新内閣との安保協力の協議を増やすよう、米政府の安全保障チームに指示したことも伝えた。

これに対し、サルマン国王は協議で「中東地域と国際社会の安全保障と安定に向けて、強制力のある最終合意に至ることを望む」と述べた。サウジの国営通信が伝えた。

イスラム教スンニ派国家サウジは、中東地域の覇権を競うライバルのシーア派国家イランによる核兵器開発を懸念している。国王の発言は、核開発を制限する枠組み合意を評価する立場を示したものとみられる。【4月3日 毎日】
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“枠組み合意を評価する立場”なのか、パキスタンからの核譲渡も視野に入れながらの醒めた対応なのか・・・。
コメント (1)
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