孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリス  “自分は何者か”を問う総選挙 選挙後に待ち受けるEU離脱問題

2015-04-05 22:24:01 | 欧州情勢

(2日に行われた与野党の7党首によるテレビ討論 イギリス独立党(UKIP)やスコットランド民族党(SNP)の党首が存在感を示し、キャメロン首相(右端)と労働党・ミリバンド党首(左から2番目)はともに決め手を欠いた格好だったとも 【4月3日 日テレNEWS】)

【「自分たちは英国人なのか、欧州人なのか。または、スコットランド人なのか、イングランド人なのか」】
イギリスで5月7日に総選挙が行われますが、保守党キャメロン首相は、総選挙に勝利して政権を維持した場合にはEU離脱を問う国民投票を行うことを公約にしているという件については、3月10日ブログ「イギリ  5月総選挙でスコットランド独立派躍進か EU離脱を問う国民投票は?」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150310でも取り上げました。

4月30日、イギリス議会下院が解散されて選挙戦へ突入、投票日までひと月あまりとなっています。

選挙予想に関しては、連立与党第1党の保守党と最大野党・労働党という二大政党の支持率はこのところ30%台で競り合う状況が続いており、両党とも過半数が取れない「ハングパーラメント(宙づり議会)」が2010年の前回総選挙に続いて生じるとの見方が一般的です。

そうしたなかで、スコットランド独立運動を主導してきた地域政党スコットランド国民党(SNP)と、EU離脱を掲げる英国独立党(UKIP)の支持率が拡大しており、今回選挙は「自分たちは英国人なのか、欧州人なのか。または、スコットランド人なのか、イングランド人なのか」というアイデンティティーが問われる選挙ともなっています。

政策的には、EU離脱が大きな争点になります。

****英国民とは」問う 総選挙まで1カ月 EU離脱が争点****
英国の今後5年の行方を占う下院選挙(5月7日投開票、定数650)が約1カ月後に迫った。「2大政党制」の代名詞だった保守、労働両党の支持率が意識の多様化を背景に低下する中、新興政党や地域政党も巻き込んだ激しい選挙戦が展開されている。

格差の解消に加え、欧州連合(EU)離脱の是非や、北部スコットランドの自治権拡大など国家の根本的な行く末も争点になっており、専門家からは「英国民とは何者か」を問う歴史的な転換点になるとの指摘も出ている。

「古くさいウェストミンスター(英国議会)の政治家には任せられない」「既存政党に移民問題は解決できない」。有力7党首が参加した2日のテレビ討論会。

ともに小政党の、スコットランドの地域政党スコットランド国民党(SNP)のスタージョン党首と、EU離脱を掲げる英国独立党のファラージ党首が保守、労働党相手に気勢を上げた。

これまで英国は保守、労働の2大政党のいずれかが政権を担ってきたが、前回(2010年)選挙で過半数に届かなかった保守党が自由民主党と第二次大戦後初となる連立政権を発足させた。

今回は多党化の流れを決定付ける選挙になる可能性もある。世論調査では支持率5%以上の政党が保守、労働、英国独立、自由民主、緑の党の5党と過去最多を記録。
全国での支持率は低いがSNPや、ウェールズ、北アイルランドの地域政党も存在感を増す。

選挙を特徴付ける争点の一つがEUとの関係だ。EU域内であれば原則居住は自由なため、東欧から移民が急増。そのため、英国民にはEUへの不信感が強い。

EU離脱を主張する英国独立党は、13年地方選、昨年の欧州議会選挙で躍進。2大政党に次ぐ支持率13〜15%を維持する。

保守党支持層が英国独立党に流れることを警戒したキャメロン首相は13年1月、「選挙で勝利した場合、17年末までにEU離脱の是非を問う国民投票を行う」と約束。
労働党は「国民投票を実施すれば、投資熱を冷ます」などと批判するが、選挙結果次第では離脱が現実味を帯びてくる。

もう一つの争点がスコットランドの自治権拡大問題だ。小選挙区制では特定の地域に支持者が集中する政党が有利だ。スコットランドには59議席が割り当てられている。

独立は昨年9月の住民投票で否決されたが独立を目指すSNPは6議席から54議席に伸ばすとの見方も出ており、第3党に躍進する可能性が高い。

英メディアによると、スタージョン党首は2日、「SNPが独立を求めていることはみんなが知っている。ただ、今回の選挙では(独立よりも)議会の権限を可能な限りスコットランドに移すことを求める」と述べた。

保守、労働両党が過半数を獲得できない「ハングパーラメント(宙づり国会)」となれば連立協議で鍵を握り、自治権拡大を要求するのは確実だ。

スコットランドには英国唯一の核兵器である潜水艦発射弾道ミサイル搭載の潜水艦基地がある。SNPは基地撤去を求めており、安全保障に影響が出る可能性がある。

ロンドン大学キングスカレッジのバーノン・ボグダナー教授(現代英国史)は選挙戦について「イデオロギーの政治に代わり、アイデンティティー(自分は何者か)の政治の時代になった。国民は選挙で、自分たちは英国人なのか、欧州人なのか。または、スコットランド人なのか、イングランド人なのかを問われる。グローバリズムの利益の享受層と、そこからこぼれた層との間に溝が生まれていることを反映した現象ともいえる」と分析している。

 ◇格差不満、多党化の流れ
他の欧州諸国と同様に争点になっているのが、「格差」と「財政緊縮策」の問題だ。

英国経済は14年の国内総生産(GDP)成長率が主要7カ国(G7)で最高の2・8%と好調だ。一方、非正規雇用の増加による雇用の不安定化や、社会保障費の削減などに国民の不満は根強い。選挙結果は、格差が問題となる日米や、緊縮策で対立が続く欧州各国にも影響を与えそうだ。(後略)【4月5日 毎日】
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政治は往々にして感情に支配される 「英国民もそれほどバカではない」とはいいつつも・・・・
キャメロン首相自身はEU離脱を望んでいる訳ではありませんが、国民のEUへの不満を背景にUKIPへの支持が拡大し、保守党の票がUKIPに食われてしまうというという懸念から、党内圧力もあって、EU批判票つなぎとめのために国民投票実施の公約を掲げています。

EU離脱がイギリスにとってメリットのない、最悪の選択肢であるという一般的な評価は前回ブログでも取り上げたところで、“欧州に影響されるが、欧州に影響を与える力を持たないという状況にイギリスを追い込む”と言われています。

****迫るイギリス総選挙、イギリスが「EU離脱」したらどうなる!?  西田明弘****
・・・・ユーロ圏を創ったEMU(経済通貨同盟)への参加を見送ったように、英国にはもともと大陸欧州とは一定の距離を保ちたいとの思いがある。

加盟負担金の大きさ(GDPの0.5%)やEUの規制などによって、EU残留は経済的にもマイナスだとの見方もある。
最近では、EU条約が人の移動の自由を原則保証しているため、英国への移民が増加しており、それに伴う社会保障給付の増加などが問題視されるようになっている。英国がEUに留まる限り、独自に移民制限などの政策を採用することはできない。

もっとも、英国がEUから離脱する方がデメリットは大きいとの見方が一般的だろう。EUから離脱すれば、輸出の約半分をEU向けが占める英国は、その特権的アクセスを失うことになりかねない。また、当然のことながら、EUの様々なルール作りに関して、英国は発言権を喪失することになる。

より深刻な影響が出そうなのが金融業界だ。ロンドン金融市場はニューヨークと並んで、グローバルな金融市場のなかでも際立った存在だ。それも、国内経済の規模に比べて格段に大きな役割を果たしているのは、外国の参加者が多いためだ。外国人選手の活躍が目立つことに例えて「ウィンブルドン現象」と呼ばれたこともあった。

その英国がEUから離脱した場合に、これまで同様に外国からの市場参加が望めるのか。ローカル市場に成り下がらないまでも、ある程度の存在感の低下は避けられないのではないか。

そして、外国金融機関は拠点の中心をロンドンから大陸欧州、例えばフランクフルトなどに移すかもしれない。その場合、英国の金融資産や不動産、通貨ポンドに対する需要も減退する可能性がありそうだ。

総選挙の帰趨とEU離脱論の行方に注目したい。【4月3日 西田明弘氏 マイナビニュース】
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理屈ではそうでも、感情的にはなかなか難しいものがあります。

****EU離脱か残留か 感情が政治を支配する恐ろしさ****
・・・・英国がEUを離脱した場合、非関税障壁が増え、EU統合の深化による利益を受けられなくなる。

実質消費で計った国民総生産(GDP)は悲観シナリオで3.09%(500億ポンド)、楽観シナリオで1.13%(180億ポンド)減るという。
500億ポンドは日本円にして約8兆8700億円だ。

英国とEUの貿易は25%、英国の国民1人当たり所得は6.3%~9.5%減少すると予測している。それでも英国がEUからの離脱を選択するとしたら正気の沙汰とは思えない。

英国民もそれほどバカではない。今年に入ってからの世論調査では10回中8回は残留派が離脱派を上回っている。

キャメロン首相がEUとの再交渉に臨み、英国の利益を守ったと判断した場合は、残留派が離脱派を圧倒している。

EU統合による移民が仕事や年金・医療など社会保障の機会を奪っているとUKIPは主張する。
しかし、働き盛りの移民は英国の経済と財政にとってマイナスというより大きなプラスなのだ。

グローバル時代が大きな転換点を迎え、ジオエコノミクス(地理経済学)の世界は米・中・欧、ロシアに分断され始めている。英国がEUから離脱すればEUというレバレッジを失い、ジオエコノミクス戦争の荒波にのみ込まれてしまうだろう。

キャメロン首相は政権を維持した場合、国民投票で有権者からEU残留の信認を得たい考えだ。経済が悪くなれば人は感情に支配されやすくなる。逆に経済が良くなれば余裕ができてきて、損得勘定すなわち理性に基いて判断するようになる。

政治は往々にして感情に支配される。
英国がEU離脱を選択することはよもやあるまいと筆者は考えているのだが…。【3月30日 木村正人氏 BLOGOS】
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スコットランド独立を問う住民投票も、キャメロン首相は“まさか本気で独立を選択するなんてありえない”と考え、大差で圧勝できると踏んでいました。だからこそ、くすぶる分離独立問題に決着をつけるため、進んで住民投票に打って出たところでもあります。

しかし、住民投票が近づくにつれ分離独立派が急拡大し、キャメロン首相以下、保守党・労働党双方が青ざめたのは周知のところです。

もしEU離脱を問う国民投票を実施する・・・という話になれば、「英国民もそれほどバカではない」とはいいつつも、スコットランド独立住民投票のときのような展開も考えられます。

キャメロン首相は、国民投票までにEU残留の条件交渉を行うとしています。
しかし、これは逆効果ではないでしょうか。

イギリス・キャメロン首相がEU離脱をちらつかせてイギリスへの特例的な待遇をEUに求めても、EU側は基本的な部分では応じないでしょう。

EUの基本理念に反するということもありますが、EU側にはこれまでもイギリスの対応にはうんざりしているところがありますので、「出て行きたいなら、すきにしたら」となるのが落ちでは・・・。

そんなイギリスがつれなくされる交渉を見せつけられたら、イギリス国民感情の方は益々EU離脱に傾きそうです。

まあ、まずは1か月後の総選挙で、国民投票云々は先の話ですが。
ただ、選挙結果が出て、保守党が政権維持という形になれば、2017年末までに行うと公約されている国民投票までは逃げ道がなくなります。

もっとも、ギリシャのユーロ離脱問題とか、フランスの2017年大統領選挙でのマリーヌ・ルペン氏の動向など、EUがそのときまで現在の姿のままでいられるかについては、不確定要素はありますが。

なお、キャメロン首相は移民流入のコントロールを主張しています。

****英総選挙へ党首討論 移民巡り論戦****
イギリスで、来月の総選挙に向けて与野党の7党首がテレビ討論に臨み、EU=ヨーロッパ連合の国々から流入する移民の制限に向けて、EUとの関係をどうすべきかを巡って論戦が交わされました。

来月7日に投票が行われるイギリスの総選挙では、急増しているEU各国からの移民を制限するため、「人の移動の自由」を基本原則に掲げるEUとの関係をどう見直していくかが争点の一つになっています。

2日、与野党の7党首によるテレビ討論が行われ、与党・保守党のキャメロン首相は「イギリスが多くの雇用を生み出してきたからこそ、EU各国から多くの移民が流入し続けており、コントロールが必要だ」と述べ、イギリスに来て6か月間就職できなければ帰国させるなどの対応方針を説明しました。

これに対し、世論調査の支持率で3位の野党・イギリス独立党のファラージュ党首は、「EUに加盟しながら移民をコントロールすることは絶対にできない」と述べ、EUからの離脱を訴えました。

一方、野党第1党・労働党のミリバンド党首は、「EUからの離脱は、雇用や家計、ビジネスに災難をもたらす。移民問題も含めてEUを変えていこう」と述べ、EUにとどまって改革を求めていくべきだと主張しました。

キャメロン首相は、再任されれば、EUと改革に向けた交渉をしたうえで、2017年までにEUからの離脱の賛否を国民投票で問う方針で、総選挙に向けてEUとの関係の在り方を巡る論戦が続きそうです。【4月3日 NHK】
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UKIPの資質
ついでに、UKIPに関する話題

何度も「ネグロは苦手なの」と繰り返すUKIP地方議員(ダンカン氏)を写した動画
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43284  【3月24日 BBC News Japan】
昨年12月の撮影で、発言内容を知ったUKIPはダンカン氏を除名しています。
ダンカン氏は今年2月の取材に対して、「人種差別的なことは何も言っていない」と答えています。

****英国独立党、「オバマ氏拉致せよ」投稿の候補変更 英総選挙****
5月7日に実施される総選挙に向けて本格的な選挙戦が始まった英国で、英国独立党(UKIP)は3月31日、イスラエルはバラク・オバマ米大統領を「拉致」すべきだと交流サイトのフェイスブックに投稿した候補を別の候補に変更した。

フェイスブックのページの保存画像によると、ロンドン北部ヘンドン選挙区から出馬する予定だったジェレミー・ゼイド氏は先週、イスラエルが秘密裏に進めていた核開発計画に関する文書の機密指定解除・公開を受け「オバマ大統領の退任後、イスラエルはやつの引き渡しを要求するか、国家機密を漏えいさせた罪で『アイヒマンのように』投獄すべきだ」「アイヒマンと同じように、あの野郎を捕まえて連行するんだ」などとコメントを書き込んだ。(後略)【4月1日 AFP】
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党勢が急拡大するときは、いろんな人材が紛れ込んでしまう・・・・ということで済むのか、UKIP支持者のある傾向を示すものなのか・・・。
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