
(2月24日、タイ・バンコクのタマサート大構内で、うそをついて鼻が伸びたピノキオのお面を着けて「首相はうそつきだ」と抗議する人々【2月24日 共同】
軍は、こうしたお面は侮辱罪に問われると警告しています。)
【来年2月には総選挙・・・「来月になったら、約束した覚えはないと言うだろう」】
2014年5月のクーデターで軍が実権を掌握してから間もなく4年になるタイでは、民政復帰のための総選挙がズルズルと先延ばしにされてきました。
これまでは今年11月にも実施としていたプラユット暫定首相は、さらに来年2月までにと、再び延期しています。
****<タイ>総選挙19年2月までに実施 暫定首相明らかに****
タイ軍事政権のプラユット暫定首相は27日、民政復帰に必要な総選挙が来年2月までに実施されるとの見通しを記者団に明らかにした。
最近バンコクでは、軍政と対立するタクシン元首相派などが総選挙の早期実施を求める運動を活発化させている。プラユット氏の発言は、総選挙時期を明示して、運動を沈静化させる狙いがあるとみられる。
プラユット氏は以前、今年11月にも実施可能だと発言していたが、軍政は1月、選挙関連法の「周知期間が必要だ」として施行日を遅らせることを決定。これにより、総選挙は来年以降に先送りされる見通しとなっていた。【2月27日 毎日】
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度重なる延期に、国民・政党関係者からはタクシン派、反タクシン派を問わず、「信用できない」「いつになったら・・・」との不信の声も上がっています。
****首相の総選挙期日明言を政党が批判****
プラユット首相は2月27日、総選挙実施が来年2月より遅くなることはないと明言したが、これに対しては、首相自身が昨年、総選挙を今年11月に実施すると約束していたことから、政党などから批判が出ている。
相の説明によれば、今年11月に総選挙が実施できないのは下院議員選挙法が官報での発表から90日後に施行されることになったため。
だが、政党関係者からは、首相が述べた総選挙日程について「信用できない」といった声があがっており、主要政党・民主党のニピット副党首は27日、「首相の最近の発言から判断すれば、首相が正しいことを言っているとは信じられない」と断言。
同じく主要政党のタイ貢献党の幹部、チャトゥロン氏も同副党首と同様の反応を示している。【2月28日 バンコク週報】
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****タイ民政移管、めど立たず=総選挙延期に募るいら立ち****
2014年5月のクーデターで軍が実権を掌握してから間もなく4年になるタイで、民政移管に向けた総選挙のめどが立たず、国民の間でいら立ちが募っている。
プラユット暫定首相は「来年2月までに実施する」と語ったが、軍政はこれまで総選挙を繰り返し延期しており、反政府活動家は「来月になったら、約束した覚えはないと言うだろう」と皮肉っている。
プラユット暫定首相は2月27日の閣議後、記者団に総選挙は来年2月までに行うと強調。一方、「政治状況にもよる」とくぎを刺すのを忘れず、「総選挙が行われるよう紛争や扇動が起きないことを望む」と述べ、再延期の余地を残した。【3月1日 時事】
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【民政復帰後の受け皿となる親軍政党も 「プラユット首相を新首相に推す用意がある」】
本当に来年2月には実施されるのかも定かではありませんが、一応、新政党の登録受け付けが行われているようです。
****タイで新党の登録開始、初日に30以上の申請****
タイの首都バンコクで2日、新政党の登録受け付けが始まり、既に34の政党名とロゴが申請された。軍事政権下の同国が、民政復帰に向けた一歩を踏み出した。
タイでは2014年のクーデター後に軍事政権が発足。それ以降、軍は全ての政治活動を禁止し、総選挙の実施は何度も延期されてきた。
しかし今週、軍政は2019年2月までに選挙を行うと約束した。
タイの選挙管理委員会はAFPに対し、「これまでに34の政党名の申請を行われた」と述べている。その中には、「シャム民主党」や「タイ統一党」などがあるという。審査期間は30日間。【3月2日 AFP】
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30以上の申請があった新党のなかで、注目されるのは民政復帰後の実質的軍政継続を目指す親軍政党(軍との関係を否定はしていますが)も含まれていることです。
この親軍政党の党首のラウィー氏は、“次期総選挙後に下院議員から首相を選ぶことができずに民間人を首相を選ぶことになった場合、プラユット首相を新首相に推す用意があると明言した。”【3月2日 バンコク週報】とのこと。
議員でもないプラユット氏は“民間人”にあたるようです。
****タイ首相再任に自信=親軍政党首、「資質」を評価****
タイ軍事政権を4年近く率いるプラユット暫定首相の続投を支持する政党「国民改革ネットワーク」を立ち上げたパイブーン・ニティタワン党首(64)は2日、選挙管理委員会で新党登録手続きを行った後、時事通信のインタビューに応じ、民政移管に向けた総選挙後にプラユット氏が首相に再任される可能性が高いと自信を示した。
次期首相は軍政が任命する上院議員と総選挙で選出される下院議員の投票で選ぶ。パイブーン党首は「新制度では総選挙で圧勝できる政党はない。下院で他党と協力すればプラユット氏を再任できる」と分析した。
パイブーン党首は「次期首相には有能で誠実な人物を選びたい。プラユット氏はすべての資質を備えている」と評価。「われわれは軍の支援は受けていない」と軍との関係を否定し、人物本位でプラユット氏を支持していると強調した。【3月3日 時事】
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ミャンマーの軍事政権後の民政復帰で、政権の受け皿となった親軍政党「連邦団結発展党(USDP)」のようなものをイメージしているのでしょうか?
プラユット暫定首相が総選挙を先延ばしにしているのも、こうした受け皿づくりの時間を稼ぐためだ・・・とも推測されています。
【長引く軍政に国民の不満も増大 日中も「タクシン―インラック」ラインとの関係構築?】
「連邦団結発展党(USDP)」は、スー・チー氏の「国民民主連盟(NLD)」がボイコットした選挙では圧勝してテイン・セイン政権の基盤となりましたが、その後、NLDが参加した選挙では大敗しています。
ミャンマーの血塗られた軍事政権とは異なり、タイの軍事政権はタクシン・反タクシンの社会混乱を収めるためにはやむを得なかったと一定に国民の信頼を得てはいますが、長引く軍政・制約された自由に国民の不満も膨らんでいるようです。
ところで、海外逃亡中のタイ政治のキーマンであるタクシン元首相と、その妹インラック前首相が先月来日していた・・・一体何のために・・・という話は、2月13日ブログ“タイ 軍政は総選挙先送り 広がる抗議 見えない国王の姿勢 不敬罪が阻む体制に関する議論”でも取り上げましたが、日本・中国(来日前に中国にも訪問)ともに、民政復帰後のタクシン元首相の存在を重視して、タクシン元首相との関係を深めようとしている・・・との指摘も。
****タイ軍政に迫る「退陣」包囲網****
長期化するプラユット軍政への不満が高まるタイで、タクシン元首相、インラック前首相の兄妹が「帰国・政権奪取」に向け動き始めた。
二月初め、本拠にしているロンドンから北京に入り、その後、東京、香港と数日ずつ滞在した。
軍政に距離を置き、タクシン氏の帰国を切望していると言われるワチラロンコン国王の意向を受けているらしく、タイ国内では連動するように民主派が軍政批判のデモ、集会などを展開している。
タイ政治は再び流動化の様相を漂わせ始めた。
タクシン氏、インラック氏の動静が今年に入って初めて報道されたのは「環球時報」など中国の新聞だった。両氏が北京市内に滞在する様子が写真とともに記事となった。
この報道が世界の外交関係者を驚かせたのは、タイのプラユット軍政と中国の習近平政権は蜜月関係を維持していると思われていたからだ。
二〇一四年五月にクーデターでインラック政権を倒して権力の座に就いたプラユット軍政に対しては、日本を除く主要先進国が事実上の制裁を加え、閣僚訪問、援助など外交関係を抑制していた。
そこに〝温かい〟手を差し伸べたのが習政権であり、それに恩義を感じたタイ側は中国から潜水艦、戦車など大量の武器を購入し、中国企業のタイ進出を優遇した。
プラユット首相はクーデター以降、確認されただけで七回も訪中しており、昨年九月に中国のアモイで開催された「BRICS首脳会議」に特別ゲストとして招待される厚遇ぶりだ。
中国がプラユット政権を重視しているならば、政権の不倶戴天の敵であるタクシン氏、インラック氏を北京に招くことやその事実をメディアを通じて世界に発信することなどなかっただろう。
タクシン氏は華僑であり、中国との関係は浅からぬものがあるのは確かだが、習政権のタイに対する姿勢は明らかに転換しつつある。習政権は軍政の先行きを危ぶみ始め、「タクシン―インラック」ラインとの関係構築に踏み出した、と見ておくべきなのだ。
プラユットを見限った国民
だが、タクシン氏らの訪中と並んで、プラユット軍政を震撼させたのは日本訪問だった。外務省関係者によると、二月十日に北京から東京に移動し、都内のホテルに滞在。十三日には早々と香港に向け、出国した。わずか三泊四日の滞在が休養でも買い物でもなかったことは明らかだ。
タクシン氏、インラック氏ともにタイ政府から国際手配を受けている〝お尋ね者〟。タクシン氏の場合はクーデターで国を追われたという「政治的」理由があり、これまでも度々、お忍びで来日、外務省も毎回、入国許可を与えていた。
これに対し、インラック氏は首相時代のコメ担保貸し付けが巨額の損失を生んだことの責任を問われ、職務怠慢罪で告発されている。その裁判の出廷を逃れての国外脱出のため「逃亡被疑者」の扱いで、本来なら入国ビザは下りない。
それを「特例措置」(外務省関係者)として入国させたのは、日本政府が「タクシン―インラック」ラインとの関係が近い将来、必要になると読んだからだ。
プラユット政権を見限る動きが静かに進んでいる。その背景にはタイ国内でふたつの大きな流れがある。
第一は、プラユット政権に対する国民の信任低下だ。
バンコク大学が一月中旬、十八歳以上のタイ人に実施した世論調査では「プラユット氏を首相に選ぶか」という質問に、「はい」と答えた人は三六・八%、「いいえ」が三四・八%と支持と不支持が拮抗した。
昨年五月の調査では同じ質問に「はい」と答えた人が五二・八%もおり、支持が急落していることがわかる。別の世論調査でも政権不支持が支持を上回ったものが出ている。
政治混乱に嫌気が差し、安定政権としての軍政を一時は支持した国民も、四年近くたっても公約の民政移管を一切行わず、軍政長期化のための憲法改正、民主派弾圧、言論封殺を続けるプラユット首相への反発が強まっているのだ。
こうした空気を受けてバンコク市内では今年に入って「反軍政」のデモや集会が開かれるようになっている。清廉、リベラルな政治家として七十九歳になった今も国民に人気のあるチュワン・リークパイ元首相が昨年十一月、軍政に対し「国内の地域間経済格差の拡大について」という公開書簡を出したことも政権打倒の狼煙と受け止められている。
軍政の側の慢心も目立つ。政権ナンバー2のプラウィット副首相が公開の場に次々と異なる超高級時計をはめて登場したことをメディアが手首を撮った写真で具体的に指摘。賄賂の疑念が強まり、政権の信頼に傷をつけた。
国王の恩赦がカギ
第二に、ワチラロンコン国王の意向である。一六年十二月の即位以来、沈黙を保ってきた国王も、父であるプミポン前国王の服喪期間が過ぎて、考えを周囲に示し出している。ポイントは皇太子時代に数々の不祥事、不品行を問題視された国王を支援してきたタクシン氏への恩赦と帰国の実現である。
タイ国民は敬愛していた故プミポン前国王との比較で、当初、ワチラロンコン国王を懐疑的、批判的な目で見ていたが、昨年十月の前国王の火葬の儀も終え、就任一年を不品行をすることもなく過ごした新国王に対し、見方を変え始めている。軍政への反発と反比例して、国王が民主化への道筋を付ける期待が増している。
タクシン氏への人気は地盤の東北部を中心に根強く、通常の総選挙を実施すれば、タクシン派のプアタイ党が第一党になるのは確実。ライバルの民主党も反軍政という点では足並みを揃えている
軍政も実は一枚岩ではない。ワチラロンコン国王がかつて所属していた空軍は、陸軍第二歩兵師団出身者のグループ「東方の虎」が固めるプラユット政権に批判的で、軍政が国民に銃口を向ければ、国民の側に立って軍政打倒に動くとささやかれている。
タクシン氏自身も警察官僚出身で、危急の際には警察はタクシン支持で動く可能性が高く、軍にもタクシン・シンパはいる。
国民のプラユット退陣要求が動き始めれば、様々な勢力が相乗りして、軍政打倒が大きな流れになるとみておくべきだ。日本を含め主要国は民主化を求める流れを支持し、プラユット退陣を求め、習政権も手のひらを返すのは間違いない。
ポイントとなるのは七月二十八日の国王の誕生日。この日には大恩赦が発表されるとみられており、タクシン氏、インラック氏の名前がその中にあれば、国内情勢をみながら「タクシン―インラック」ラインの凱旋となる。タイ情勢は今年、再び大きな転換点を迎えるだろう。【選択 2018年3月号】
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【ワチラロンコン国王の決断次第】
ワチラロンコン国王がタクシン元首相と深いつながりがあること、軍部にもワチラロンコン国王に近い勢力と軍事政権主流の間に権力闘争的なものがあること、それらを受けて、ワチラロンコン国王によるタクシン元首相への恩赦で、ワチラロンコン国王、一部軍部、タクシン元首相と軍事政権を担う軍主流派の間で抗争が・・・・というシナリオは以前にも取り上げたことがあります。
このシナリオが“話”で終わるのか、それとも実際にそれに近い動きが起きるのかは、ワチラロンコン国王がそうした行動に踏み切る意思があるのかにかかっています。
プラユット暫定首相、軍事政権側と“話がつけば”、あえてそのような危険を冒すこともない・・・という線も当然にあります。
七月二十八日の国王誕生日の大恩赦でタクシン元首相を・・・というのは、少なくとも現在の情勢からすれば非常なサプライズとなります。
放蕩三昧の生活をしていた国王が自分の地位・生命を掛けて軍に反旗を翻すような行動に出られるのか・・・かなり疑問にも思えるのですが・・・まあ、権力の中の話で、まったくわかりません。
もし、ワチラロンコン国王にそうした動きが見られれば、軍がそれを放置するのか? そのあたりもわかりません。
もちろん、軍事政権は国王を頂点に担ぐタイ独自の社会体制を奉じている以上、表向きは国王の意向に逆らうことはできませんが・・・・。