孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

EU離脱を進めるイギリスの「孤独担当大臣」 

2018-03-27 22:31:09 | 欧州情勢

https://note.mu/wildriverpeace/n/naf30074cf517

ニュージーランド首相 ロシア人スパイ問題で“正直”な感想
イギリスでロシアの元スパイとその娘が意識不明の重体となって発見された事件を巡り、ロシアが製造能力を持つ神経剤が使われていたとして、イギリスをはじめとする欧米諸国によるロシア外交官の国外追放の動きが広がっているのは周知のところです。

その関係で、面白かったのはニュージーランドの話。

****ロシア人スパイは追放!」と思ったら居なかった・・・・NZ****
ニュージーランド政府は27日、英国で発生したロシア人の元スパイに対する毒殺未遂事件を受け、同国で暗躍するロシア人スパイを国外追放しようとしたところ、追放すべきロシア人工作員が存在しないことが判明したと発表した。
 
英南部ソールズベリーでロシア人の元二重スパイ、セルゲイ・スクリパリ氏と娘が神経剤で襲撃され、意識不明の重体となっている事件の発生後、米加豪の3か国および一部の欧州連合加盟国が、ロシア人外交官らに対し一斉に国外退去命令を出した。
 
旧英自治領で現在は英国と強固な同盟関係にあるニュージーランドも、自国に在するロシア人外交官を追放して原則支持の姿勢を示そうとしたところ、同国内ではロシア人による情報活動は行われておらず、従って講じられる手だてが皆無に等しいと認めた。
 
ジャシンダ・アーダーン首相は国営ラジオで「ニュージーランドでも調べた結果、ここにはロシア人工作員は居ない。居れば国外追放するのだが」と話した。

「各国の思惑が錯綜(さくそう)する時にあって・・・・わが国がロシアの情報活動の優先順位の上位に置かれていないことが驚きに値するだろうか。正直、そうでもない」と本音を漏らした。(後略)【3月27日 AFP】
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「居れば国外追放するのだが」「わが国がロシアの情報活動の優先順位の上位に置かれていないことが驚きに値するだろうか。正直、そうでもない」・・・・脅し合いによるチキンレースや権謀術数が渦巻く国際社会にあって、なんだか“ほのぼの”とする感も。

ニュージーランドのアーダーン首相(37)については、パートナーの男性との間に子を妊娠し、6月に出産予定と1月に発表したことが話題になりました。当ブログでも1月20日“「すべての女性が輝く社会」 ニュージーランド首相の産休 ドイツでは異性同僚の給与を知る権利”で取り上げました。

37歳女性が首相というのも、日本ではなかなか考えにくいところでが、そのアーダーン首相の人気は上々のようです。

****NZ与党支持率が10年ぶり高水準、首相の人気も上昇****
ニュージーランドの与党労働党の支持率が10年超ぶりの高水準となり、アーダーン首相(37)の支持率も大幅に上昇している。

31日夜に公表されたニュースハブ・リード・リサーチの世論調査によると、昨年9月の選挙以降、労働党の支持率は5.4%ポイント上昇して42.3%となり、前回政権を取った2007年以来最高水準となった。

調査は1月18─28日に行われ、調査期間の大半は、アーダーン氏が19日に現役の首相として初めての妊娠を発表し、6月に第1子を出産すると明らかにした後に当たった。

アーダーン氏を好ましい首相として挙げた回答者の割合は38%で、前回調査が行われた昨年9月から8.3%ポイント上昇し、国民党のビル・イングリッシュ党首を挙げた26%を上回った。

国民党の支持率は、ほぼ変わらずの44.5%だった。【2月1日 ロイター】
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ニュージーランドの政治状況に関しては全く何も知りませんが、首相の気負わない自然な姿勢が評価されているのでしょうか。

移民規制の悪影響 「英国人の仕事を移民が奪っているのでなく、福祉が充実しすぎて英国人は働かないだけ」】
ところで、イギリスです。EU離脱に向けた取り組みが難航するイギリスはロシアとの外交官追放合戦にかまけているようなときではないのでは・・・という話は、3月21日ブログ「イギリスでのロシア関与が疑われる二重スパイ襲撃事件に関する“個人的な印象”」でも触れました。

まあ、日本でも朝鮮半島情勢や日米関係などが大きく動く中にあっても、公文書改ざん問題はきちんと対処しなければなりませんので、同じようなものでしょうか。

その“ブレグジット”ですが、離脱を支持する人々が主たる目的とする移民流入規制が、生産および雇用の伸び鈍化につながる可能性が高いとする諮問機関中間報告が出されています。当然でしょう。

****ブレグジット後の移民規制、成長鈍化につながる恐れ=英諮問機関****
移民政策に関する英政府の諮問機関である「移民諮問委員会(MAC)」は27日、英国への移民流入を規制すれば、生産および雇用の伸び鈍化につながる可能性が高いとする中間報告書を公表した。企業は労働市場の逼迫への備えが十分できていない可能性があると警告した。

英政府は昨年、2019年3月の欧州連合(EU)離脱後の移民制度の設計に向けて、EU離脱の労働市場への影響について報告書をまとめるようMACに指示。報告書は欧州経済地域(EEA)からの移民を想定しており、400以上の企業や業界団体への調査を基に作成された。MACは政策提言は行わない。最終報告書は9月に公表する予定。

報告書は、労働市場が逼迫し、人材の獲得競争が激化する公算が大きいが、多くの企業は十分な備えができていない可能性があるとした。

英国はEU離脱後の激変緩和策である「移行期間」でEUと合意しており、2020年12月末までは労働者の移動の自由は維持される。

英政府は新たな移民制度を設計する時間的な猶予を得たが、閣僚らは新たな移民制度の具体策についてはほとんど語っておらず、報告書は「今回の調査への回答にも、不透明感が強く表れていた」と指摘した。【3月27日 ロイター】
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“(「移行期間」終了の)2020年12月末までは労働者の移動の自由は維持される”とのことですが、すでに影響は表れています。

****英国離れ加速 農園、外国人労働者が来ない EU離脱まで1年****
英国が欧州連合(EU)を離脱する2019年3月末まであと1年に迫った。離脱交渉で、英国は譲歩姿勢が目立つ。英国では農業の現場で移民労働者が減るなどすでに影響が出ており、企業は離脱後の対策を取り始めた。
 
「昨夏は十分な労働者が集まらなかった。今後もどうなるか」。英スコットランド東部アーブロース。周辺地域の19農園がつくったベリー類を販売する「アンガス・ソフト・フルーツ」の財務担当ニール・レッドフォードさん(51)は、農園の人手不足に悩む。
 
ベリー類は実が柔らかく、収穫は手作業だ。賃金は低く、楽な仕事ではない。農園を支えてきたのは、東欧などEUの他の国から来た労働者たちだ。
 
昨夏の収穫期、19農園で5千人の人手が必要だったにもかかわらず、数百人規模で足りなかった。少ない人数で収穫したため時間外手当がかさんだり、摘みきれなかった果実を廃棄せざるをえなかったりした。損失は合わせて65万ポンド(約9600万円)に上った。大規模な農園は、労働者が確保できる海外への事業移転を検討し始めたという。
 
なぜEU各国からの労働者が不足し始めたのか。16年の国民投票での離脱派勝利で、通貨ポンドの価値が下落、英国の魅力が失われた。さらに「英国ではEU市民は歓迎されない」と考える人が増えた。レッドフォードさんはそう考える。
 
英統計局によると、昨年9月までの1年で、EU域内から英国に来た人数から英国を去った人数を差し引くと5年ぶりに10万人を下回った。
 
英中部グールの農園にも人手不足の影が忍び寄る。国民投票で離脱派が残留派を圧倒した地域だ。
 
英国ではキリスト教の復活祭でキャロットケーキを食べる習慣がある。今はニンジンの出荷がピークだ。従業員約300人中200人はラトビア、ポーランドなどEU域内からの人たちだ。だが、農園を経営するガイ・ポスキットさん(54)によると最近は毎週3、4人の外国人労働者が辞めていく。
 
国民投票で離脱派は「英国人の仕事を移民が奪っている」と主張した。だがポスキットさんは「福祉が充実しすぎて英国人は働かないだけ。農業者にとってEU離脱のメリットは一つも思いつかない」と憤る。

 ■国外拠点、準備する企業
EU離脱に伴い、英国内の企業の間では、税関検査が復活したり様々なルール変更が求められたりしてビジネスに支障が出るのではないかとの警戒感が強い。
 
英南部マールバラの化学メーカー「エポクシー・テクノロジー・ヨーロッパ」もその一つ。主力商品は医療用装置などに使われる特殊な接着剤で、売上高の8割以上がEU向けだ。
 
接着剤は零下40度以下で保管する必要がある。容器にドライアイスを詰めて空輸で48時間以内にEU各国の顧客に届けるが、同社のレックス・サンドバッチさん(58)は「税関で時間が取られて48時間を過ぎれば、売り物にならなくなる」と言う。EU側への移転も選択肢の一つだ。
 
金融業界は前倒しで準備を進めている。EU加盟国の1カ国で営業許可を得れば、EU域内で自由に金融サービスを提供できる「シングルパスポート制度」が適用されなくなるためだ。
 
ロンドンに拠点を置く三井住友銀行は来春、独・フランクフルトに新拠点を開くため、独当局に申請を済ませた。中村敬一郎欧州統括部長は「何が起きても対応できるように準備を進めている」。(後略)【3月22日 朝日】
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【「孤独担当大臣」新設 孤独は肥満・喫煙より有害
求心力を失い、EU離脱交渉も難航するメイ首相ですが、1月に「孤独担当大臣」のポストを新設した件は、評価に値する施策でしょう。

****孤独担当大臣」とは? 新設されたイギリス、「孤独」の国家損失は年間4.9兆円****
テリーザ・メイ首相が新設ポストを発表した。どんな大臣?

イギリスのテリーザ・メイ首相は1月18日、「孤独担当大臣」のポストを新設し、トレイシー・クラウチ氏を任命したことを発表した。イギリス社会で「孤独」に困っている人のための総合的な政策を率いるという。ガーディアンなどが報じた。

また、イギリス政府は孤独の問題に関する調査を開始し、人々を結びつけるコミュニティ活動に対して金銭的な助成をすると発表した。

メイ首相は「多くの人々にとって、孤独は現代の生活の悲しい現実です。私はその現実に立ち向かい、我々の社会や高齢者や介護者、愛する人を失った人々ーそして自分の考えや体験を話したり分かち合う相手のいない人の孤独に対して、行動を起こしていきたい」と語っている。

「孤独」で年間320億ポンド(約4.9兆円)の損失
この政策は、2016年に極右過激派に殺害された労働党のジョー・コックス党首の遺志を引き継いだものだ。メイ首相は、彼女が生前に設立を計画していた「ジョー・コックス委員会」が提出した「孤独」に関する問題についての勧告の多くを受け入れた。

ジョー・コックス委員会は、赤十字社など13の福祉団体と連携し、2017年に約1年間かけて孤独に関する調査を進めていた。

その結果、明らかにされたのは以下のようなものだった。
・イギリスでは、900万人以上の人々が常に、もしくはしばしば「孤独」を感じており、その3分の2が「生きづらさ」を訴えている。
・月に1度も友人や家族と会話をしないという高齢者(65万人)の人口は20万人にのぼった。週に1度では36万人になる。
・身体障害者の4人に1人は日常的に「孤独」を感じており、18〜34歳の中では3分の1以上になった。
・子どもを持つ親たちの4分の1が常に、もしくは、しばしば「孤独」を感じている。
・400万人以上の子どもたちが「孤独」を訴え、チャイルドライン(相談窓口)の支援を受けた。

その結果を元に、委員会では「孤独が人の肉体的、精神的健康を損なう」と警告、肥満や一日に15本のタバコを喫煙するよりも有害であるとする啓発活動を実施していた。

また、委員会は孤独がイギリスの国家経済に与える影響は、年間320億ポンド(約4.9兆円)に上るとしている。
トレイシー・クラウチ氏は文化・メディア・スポーツ省の政務次官と兼務する。【1月18日 泉谷由梨子氏 ハフィンポスト】
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“年間320億ポンド(約4.9兆円)”という数字はともかく、「孤独」が肥満や喫煙より健康を蝕む・・・というのはおおむね事実でしょう。
(私自身は、そんなに孤独は苦になりませんが、私の部屋飼いの猫は孤独に耐えられない性質のようで、さっきから、かまってもらいたがってうるさく鳴いています。まあ、リアルな付き合いは求めない私も、こんなブログでバーチャルな社会とのつながりは求めていますが・・・)

孤独担当大臣の具体的施策としては、「この国には、すでに孤独な人をケアするために掃除や話し相手になってくれるソーシャルワーカーが官民共にたくさんいるし、それぞれ大きな組織も存在しますが、あまり連携が取れていなかったので、まずはそこを強化するでしょう。

まだ旗揚げしたばかりなので私の推測ですが、孤独担当大臣に就任したトレイシー・クラウチ氏はスポーツや芸術などの行政を担う『文化省』の政務次官を兼務している。なので、例えば全国的なスポーツイベントを開催して、孤独な人が集まれるコミュニティをつくるといったことをやるのではないかと思います」(木村正人氏)【1月29日 週プレNEWS】とも。

「孤独」が問題となるのは、日本も同じです。高齢者でも若者でも。

****900万人の孤独に対処する「孤独担当大臣」って何****
・・・・でも、「孤独」ってすごく曖昧な言葉で、人によって定義もさまざま。日本ではこうした統計があまり取られていません。私たちにとっての「孤独」って何でしょうか。

「人と一緒にいるときが、最も孤独なとき」とは
(中略)フェイスブックなどのソーシャルメディア(SNS)を使うことで人とつながっている気になりながらも、人と接しない分、寂しさを感じるものかもしれません。
 
哲学者キケロは「人と一緒にいるときが、最も孤独なときだ」といったニュアンスの言葉を残し、ドイツの詩人ゲーテは「誰一人知る人もない人ごみの中をかき分けていくときほど、強く孤独を感じるときはない」としています。
 
SNSを使うとき、まさにこんな状態かもしれないですね。電車や人ごみの中にいても一人きりの作業になりながら、実はほかの人の「いいね!」や影響力のある人の意見に左右されて集団化する側面を持ちます。ところが、本当は人と一緒にいる実態がないから、むしろ孤独や疎外感を感じてしまう……。
 
実は、SNSを使う時間が長い人ほど、孤独を感じているという調査結果が出ています。しかもインスタグラムが一番孤独を感じさせているのだそうです。それってどういうことでしょう。(中略)

きれいな画像で劣等感があおられたり、楽しそうなイベントの写真が載っている人の「リア充ぶり」に焦りを感じたりすることで、むしろ疎外感を感じてしまうのかもしれませんね。(後略)【3月6日 日経WOMAN Online】
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ブレグジットで、かつての大英帝国・イギリスが孤独な国になるかも
あと、言わずもがなのことではありますが、EU離脱で“孤高の道”を進みつつあるイギリスが「孤独担当大臣」を新設するという皮肉。

****イギリス政府がわざわざ新設した「孤独担当大臣」の悲しい現実****
・・・・イギリスにとって皮肉なことは、イギリス自身がEU(欧州連合)から離脱しヨーロッパで孤立しつつあることだろう。

イギリスが正式にEUに“離婚”表明し通知したのは17年の3月で、6月から離婚交渉が始まっている。ただメイ英首相はEUとの交渉で厳しい状況に立たされ、イギリス国内で政権の求心力を低下させているのが実情だ。

特に今後、EUとの本格交渉に入り、イギリスが強味を持つ金融分野で有利な交渉を進めたいとしたが、イギリスの金融自由化は限定的だった。

このためEUから離脱すると、これまでEU内で他国と平等に利用できた権利の再交渉を迫られるなど、二国間交渉(FTA)に持ち込まれるといった問題も生じている。

イギリスとしてはEUルールの単一市場や関税同盟などの枠からは外れつつ、EU域内では自由にモノやおカネを動かせる権利は残しておきたいが、EU側はイギリスの都合のよい部分だけ確保する言い分に反発している。

しかもEUとイギリスの交渉が長引けば世界の金融の中心地・ロンドンの地位も低落し、引き揚げる国が出てくる懸念もある。

イギリス自身が欧州や世界から孤立しない方策を早急に立てないと、かつての大英帝国・イギリスが孤独な国になるかもしれない。【3月1日 嶌信彦氏 MAG2NEWS】
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