(2016年12月24日、航行する中国の空母「遼寧」(共同)【3月21日 産経】)
【習近平主席「祖国の完全統一実現は中華民族の根本利益だ」 中台統一への強い決意】
憲法改正により終身体制も可能とし、「一極集中体制」がますます強まっている中国・習近平国家主席ですが、実績という点では毛沢東や鄧小平と比較すると今一つこれといったものがないなかで、できるものなら台湾の併合で実績をあげたいという思いもあると思われます。
そうした思いもあってか、最近、台湾問題を前面に押し出す姿勢も目につきます。
全人代では、李李克強首相の「『台湾独立』をもくろむいかなる分裂の画策や行動も断じて許さない」の発言に続き、習近平主席も中台統一に強い決意を示しています。
****習氏、台湾問題「平和統一」強調=蔡政権強くけん制―中国全人代閉幕****
中国の習近平国家主席は20日、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)閉幕に当たり演説し、台湾問題について「一つの中国」原則を堅持するとした上で、「平和統一プロセスを推進しなければならない」と強調した。国家主席の2期目始動に際し、習氏は台湾独立の動きを厳しく警告し、中台統一に強い決意を示した。
習氏は「祖国の完全統一実現は中華民族の根本利益だ」と訴えた。また、「偉大な祖国のわずかの領土も絶対に分割することはありえない」としたほか、「祖国分裂の行為は必ず失敗する」と述べ、「一つの中国」原則を認めない台湾の蔡英文政権をけん制した。【3月20日 時事】
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こうした習近平政権の強硬姿勢に、台湾側も、中国の軍事的圧力だけでなく、台湾内部の分裂を誘うような中国の施策など硬軟両様の働きかけへの警戒感を強めています。
****台湾、習氏の強硬路線を警戒=中国側に内部分裂画策の動きも****
中国で5日開幕した第13期全国人民代表大会(全人代、国会に相当)第1回会議で、李克強首相は政府活動報告を行い、「『台湾独立』をもくろむいかなる分裂の画策や行動も断じて許さない」と、台湾の蔡英文政権に改めてくぎを刺した。
今回の全人代では、習近平政権の長期化に道を開く憲法改正に踏み切る見通しで、台湾では習氏の強硬路線に警戒感が高まっている。
「両岸(中台)同胞は、中華民族が偉大に復興する美しい未来を共に創ろう」。李氏は「台湾独立」へのけん制と同時に、経済・文化面での交流拡大を台湾側に呼び掛けた。
国務院台湾事務弁公室は全人代開幕に先立って、中国での経済活動などに関する台湾優遇策31項目を発表した。いずれも、台湾企業や個人に「中国の同胞と同等の待遇を提供」(李首相)し、投資や人材を引きつける内容だ。
中国は長期政権化を目指す習体制の下で、蔡政権の頭越しに台湾の個人や企業を直接誘って、「台湾内部の分裂を図る動き」(台湾紙)を加速するとみられ、台湾側は神経をとがらせている。【3月5日 時事】
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【アメリカの台湾旅行法に激しく反発する中国 「一つの中国」の原則に反する】
中台統一へ向けた習近平政権の思惑だけでなく、アメリカの「台湾旅行法」も中台関係の緊張の大きな要素となっています。
****台湾旅行法に猛反発する中国****
このところ、米国では、台湾への支持の動きが強まっている。2月28日に米上院を通過した、台湾旅行法もその一つである。
同法は、1979年に制定された台湾関係法が米台関係と地域の平和・安定の礎石となってきたこと、台湾の民主主義が地域に与える重要性を指摘し、米国の閣僚その他の高官の台湾訪問が米台関係の幅と深さの指標になるとして、以下の内容の議会の「考え(sense)」および政策提言を表明している。
議会の考え(sense):米政府は米台間のあらゆるレベルの当局者の訪問を勧奨すべきであるというのが、議会の考え(sense)である。
政策提言:以下の各項目が米国の政策であるべきである。
(1) 安全保障担当閣僚、将官を含む、全てのレベルの米政府当局者が、台湾を訪問し、台湾側カウンターパートと会談することを認める。
(2) 台湾高官が、その地位に伴う尊厳にふさわしい尊敬を払われつつ、米国に入国し、国務省、国防総省、その他の省庁の職員を含む、米国の当局者と会談することを認める。
(3) 台北経済文化代表処(注:事実上の台湾大使館)、その他の台湾の機関が米国内において、米議員、連邦・州・地方政府の当局者、あるいは台湾高官が参加する活動を含む業務をすることを勧奨する。
台湾旅行法は、昨年1月に下院に提案され、本年1月9日に下院本会議を通過、2月12日に上院外交委員会で可決され、2月28日に上院本会議を通過した。あとは、トランプ大統領が署名すれば、法律として発効することになる。
同法の上院での可決に先立つ2月21日には、米上院軍事委員会のジェームズ・インホフ筆頭理事が率いる議員団が台湾を訪問、蔡英文総統と会見し、蔡総統は同法についての感謝の意を伝えている。台湾旅行法の趣旨を実行した形となった。
中国側は、同法が「一つの中国」の原則に反するとして強く反発している。中国外交部の華春瑩報道官は、3月1日の定例記者会見で、「台湾旅行法のいくつかの条項は、法的拘束力はないものの、“一つのの中国の原則”、米中間の3つのコミュニケに反する。中国は強い不満と抗議を表明する」などと述べている。
人民日報系の環球時報は、3月1日付け社説で「経済的には台湾は中国に依存している。軍事的には、人民解放軍の強さが台湾海峡の軍事的・政治的情勢を根本的に変えた」、「台湾の独立勢力は、米国が用いることのできる対中カードである。中国は、同勢力に的を絞った対応をし得る。台湾にとり、米国の中国に対する敵意に巻き込まれるのは良い選択肢ではない」などと、台湾を恫喝している(‘US lawmakers vent anxiety via Taiwan bill’, Global Times, March 1, 2018)。
米国側の台湾を支持する最近の重要な動きには、台湾旅行法以外にも、昨年12月にトランプ大統領が署名し成立した、2018会計年度の国防授権法(2018国防授権法)もある。
2018国防授権法には、米艦船の高雄など台湾の港への定期的な寄港、米太平洋軍による台湾艦船の入港や停泊の要請受け入れ、などの提言が盛り込まれている。
なお、オバマ大統領の下で成立した2017国防授権法でも、米台間の高級将校、国防担当高官の交流プログラムが盛り込まれており、今回の台湾旅行法の内容は目新しいものではない。
2018国防授権法に関しては、在米中国大使館公使が「米国の艦船が台湾の高雄港に入港する日が、中国が台湾を武力統一する日になろう」と、異例の威嚇的発言をしている。
中国側が、米国による台湾への軍事的関与に対して極めて敏感になっていることを示している。「中華民族の偉大な復興」を掲げる習近平政権にとっては、中台の「統一」は、政権の存在理由にかかわる最重要事項であると言える。今後とも、硬軟両様で働きかけを強めていくものと思われる。
台湾旅行法は、今後の米中関係、中台関係にとっての一つの対立点になるだろう。【3月16日 WEDGE】
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トランプ大統領は16日、米国と台湾の閣僚や高官の相互訪問を促進して関係強化を図る「台湾旅行法」に署名し、同法は正式に発効しています。
****中国「米中関係損ないかねない」台湾との関係強化で米けん制*****
21日、アメリカ政府の高官が訪問先の台湾で、台湾との関係強化の姿勢を強調したことについて、中国政府は「米中関係を著しく損ないかねない」などとアメリカを強くけん制し、高官の往来を停止するよう求めました。
アメリカのトランプ大統領が今月16日、台湾との間で以前は控えてきた閣僚や高官を含むあらゆるレベルの往来を促進する「台湾旅行法」に署名したのに続き、21日はアメリカ国務省の高官が訪問先の台湾で蔡英文総統とともに催しに出席し、台湾との関係強化を目指す姿勢を強調しました。
これについて、中国外務省の華春瑩報道官は22日の定例記者会見で、「アメリカは『1つの中国』の原則を守り、台湾といかなる形の政府間の往来も停止し、実質的な関係を高めるのをやめるべきだ」と述べて、高官の往来を停止するよう求めました。
そして、「台湾問題を慎重かつ適切に処理しなければ、米中関係と台湾海峡の平和と安定を著しく損ないかねない」とアメリカを強くけん制したうえで、全人代=全国人民代表大会での習近平国家主席の重要演説に留意するべきだなどと述べました。
習主席は20日の全人代の閉幕式で行った演説で、「祖国を分裂させるあらゆる行為やたくらみは必ず失敗し、人民の非難と歴史の懲罰を受けるだろう」などと、強い言葉で台湾独立の動きをけん制しています。【3月22日 NHK】
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【敏感なこの時期に空母「遼寧」が台湾海峡へ】
こうした緊張の高まりも背景にあって、中国の空母「遼寧」が“この時期”に台湾海峡を通過したことの意味合いが関心を呼んでいます。
****台湾海峡に入った空母「遼寧号」、重要なシグナルか―中国メディア****
2018年3月21日、中国メディアの参考消息は、「この時期に遼寧号が台湾海峡に入ったことには、重要なシグナルが発せられたことを意味するかもしれない」とする記事を掲載した。
記事は、20日に台湾国防部が中国の空母・遼寧号が台湾海峡に入ったことを確認したと紹介。同日、習近平(シー・ジンピン)主席が「われわれの偉大な祖国の一寸の領土も分裂させないし、絶対にさせてはいけない」と述べたことに触れ、「この特別な時期を考えると、外部からはただの巡航ではないとの見方がある」と伝えた。
記事によると、遼寧号の台湾海峡進入のニュースは、台湾で先に報じられた。21日午前、台湾国防部長(国防相)の厳徳発(イエン・ダーファー)氏は、20日に遼寧号が台湾海峡に進入したことを明らかにした。台湾の蘋果日報は、「遼寧号が18日から19日に東シナ海で軍事活動を開始し、20日に南下を始め、台湾海峡を通って南シナ海へ入った」と伝えた。
今年に入って2度目の台湾海峡への進入になるが、厳氏は「台湾軍は全過程を監視し掌握している」と強調。しかし台湾メディアは、「今回の遼寧号の行動の背後にあるメッセージには、絶対に偶然とは言えない複雑さと緊張がある」と分析しているという。
台湾の華視新聞は、中国で全国人民代表大会(全人代)が終了したというタイミングについて「敏感な時期」と指摘。
台湾の評論サイトでは「なぜこの時を選んで遼寧号が台湾海峡を通過したのか」「台湾旅行法が通過後に空母を派遣して台湾を通過するというのは、中国はどんなメッセージを出しているのか」との疑問が出ているほか、香港経済日報は「遼寧号が台湾海峡を通ったことは米国の台湾旅行法に対する反応で米国と台湾に対する強い警告の可能性がある」と分析している。(後略)【3月22日 Record china】
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【就職・企業や進学で成果を見せ始めている「太陽政策」に台湾側は警戒】
一方、前出【3月5日 時事】にもあるように、台湾企業や個人に「中国の同胞と同等の待遇を提供」(李首相)し、投資や人材を引きつける施策、台湾側からすれば、「台湾内部の分裂を図る動き」(台湾紙)も進んでいます。
****(全人代2018)台湾の若者、呼び込む中国 就職・起業で優遇、統一見据える*****
中国が台湾の若者に起業や就職の機会を与える「太陽政策」を強めている。経済力をてこに中国への好感度を高め、将来の中台統一を目指す狙いだ。
全国人民代表大会(全人代)でも宣伝され、実際に中国へ渡る若者も少なくない。危機感を抱く台湾側は16日、緊急対策を公表した。(北京=西本秀)
IT企業が集まる北京・中関村地区。ビルの一室に「台湾青年創業ステーション」という名の起業支援施設がある。教室ほどの広さに、パソコンが置かれた机が並ぶ。台湾の若者が最長で半年間、無料で事務所代わりに使え、職員が中国での法人登記や税関手続き、投資家探しを手伝う。2016年に開設された。
台湾人の鍾育欣さん(31)は、このステーションから出発した起業家だ。試験開発したスマートフォン用の占いサービスが中国のネット企業主催のコンテストで入賞。16年に北京で事業を始めた。
4人で始めた会社は、従業員15人まで成長。当初はフェイスブックなどが規制される中国のネット環境に戸惑ったものの、「こちらの方がチャンスがある」と語る。
中国政府はこうした支援施設を上海や南京などに開設。北京の施設は約50人が利用し、ペット向けサービスや健康食品販売などの事業が動き始めている。
優遇策拡大のきっかけは、台湾の若者が14年に立法院(国会)を占拠した「ひまわり学生運動」だった。当時の国民党政権が進めた親中路線に異議を唱えた動きで、中国と一定の距離を置く民進党の蔡英文(ツァイインウェン)政権誕生の呼び水になった。
中国側には、豊かなビジネスチャンスで台湾の若者を振り向かせたい思惑がある。台湾の若年層の平均賃金は約3万台湾ドル(約11万円)だが、中国の主要都市にはそれを上回る仕事もある。
北京で開催中の全人代の政府活動報告は「台湾同胞に(中国)大陸の同胞と同等な待遇を提供する」とし、開幕前には台湾人向けに建築士や会計士などの資格試験の門戸を広げる31項目の優遇策を打ち出した。
■台湾は人材流出懸念
こうした中国側の動きに、台湾当局は「人材が吸い取られる」と危機感を募らせている。
懸念されるのは、高学歴の若者の流出だ。台湾当局の科学機関の人材バンクによると、海外で教職に就く博士のうち、40代以上は米国・カナダで働く割合が最も多いが、30代以下は7割超が中国で働いていた。
黄彰国さん(34)は台湾で修士号を取った後、北京大で博士号を取り、現在は福建省の福建農林大で都市政策を教える。台湾の対岸にある福建省は台湾人の雇用に積極的で、同大でも19人が教えているという。
台湾は少子化で大学経営が厳しく、博士号を取ってもポストがあるとは限らない。黄さんは「良い仕事があれば戻りたいが、今は中国の方が給料がいい」。
中国側の若者対策に詳しい台湾のシンクタンク・国家政策研究基金会の盧宸緯研究員は「中国は台湾の政権に外交や軍事で圧力をかける一方で、一般人には友好的に接して台湾社会の意識を変えようとしている。アメとムチの使い分けだ」と指摘する。
台湾の行政院(内閣)は16日に発表した緊急対策で専門職の給与底上げなどを盛り込んだうえで、「自由、民主、法治の面で台湾は優れている。(中国に渡れば)リスクがあることに注意してほしい」として、中国側の「甘い言葉」に惑わされないよう訴えた。【3月17日 朝日】
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しかし、起業・就職だけでなく、大学進学にあっても、中国の大きな“引力”は強まっているようです。
****台湾の学生、中国の大学への進学が6倍まで激増****
台湾以外の地域で学ぼうとする学生がますます増えており、進学先として最もよく選択されているのが中国。国立台南第一高級中学(台南一中)だけでも、今年、中国の名門大学を受験する学生の数が前年比6倍以上にまで増加した。中国台湾網が伝えた。
台湾メディアの報道によると、台南一中の施冠汝指導教員は、「今年、中国の大学の受験希望者が激増したため、張添唐校長は夜遅くまで推薦状を書く仕事に追われたほど。現時点で台南一中からは12人が北京大学、清華大学、北京交通大学などの中国の大学を受験する予定だ。昨年受験したのは1人か2人だけだったので、人数は大幅に増えた」と話した。
国立台南女子高級中学(台南女中)でも同じような状況となっており、昨年の受験生は2人だけだったが、今年は一気に12人まで増えたという。
台南女中は、「現在、学生はいずれも、名門大学を第一志望としており、特に中国の大学への進学を希望している。その最も大きな原因は、全体的な環境による影響。台湾の大学のレベルが現在ますます低下しており、世界大学ランキングでは、中国の大学に到底太刀打ちできない状況が、優秀な学生の選択に影響を及ぼしている。
また、中国は数年前から、台湾の学生の中国進学を積極的に推進していることから、中国の大学に対して理解している学生もおり、中国の大学に出願する同級生がクラスにいれば、少なからず影響を受けることになる」とコメントした。
台湾の学生の中国の大学への進学環境が整いつつあることについて、今年、子供が学科能力検定試験(学測)を受験したという保護者は、「台湾の大学レベルが弱まり、中国の大学のレベルが強まった結果だろう。さらに、今の学生は価値観も高く、家庭の経済力が許すのであれば、中国の大学に進学するという選択は、ますます容易になってきている」と指摘した。【3月22日 Record china】
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“中国側の「甘い言葉」に惑わされないよう”と台湾側は警戒してはいますが、こうした経済・学生の交流の促進を否定することは難しいように思われます。
台湾人としてのアイデンティティーが強まっているという台湾の状況を考えれば、中国側からすれば、へたに圧力をかけて台湾を刺激するよりは、こうした“太陽政策”によってジワジワと取り込んでいく方が、長い目で見ると効果が上がるようにも思われます。