
(メルケル独首相の再選後の最初の訪問はフランス 共同記者会見でEUの改革に向けて協力して行くと発表したメルケル首相とマクロン大統領 マクロン大統領は「EUの再形成のために6月までに明確で確固とした道順を発表する。」とも。【3月17日 TRT】)
【右でも左でもなく、グローバル化の否定でも無条件の推進でもない「第3の道」】
フランス・マクロン大統領の評価はおおむね好評です。
就任すると、公約どおり、激しい抵抗が予想されていた労働法改正を断行。
“フランスの労働法は高度成長期に共産党に対抗するために既得権を厚く保護し、解雇を困難にしているうえに、煩雑な手続きが伴う。世界でも例を見ない法律だということは、どの専門家も認めている”【1月2日 文春オンライン】という状況で、労働法を整理整頓して、海外から投資をしやすくし、中小企業の負担を軽減して雇用促進を図ろうという改革でした。
結果、既得権益を失う労働界からの反対によって一時的に支持率を急落させましたが、反対運動は大きな広がりとはならず、支持率は回復しています。(支持率が回復するというのは、近年の仏大統領支持率としては、異色の展開とか。この動きは野党勢力が総崩れ状態にあることも大きく影響しています。)
マクロン大統領は、かつての日本の小泉政権時代のように、「フランスを古臭い規制の封鎖から解放する」大胆な規制緩和に取り組んでいますが、竹中平蔵氏流の“努力が足りないから貧乏になる。だから、成功できるように保護する必要はない”といった新自由主義“信仰”ではなく、公共の役割も認めながら、社会保険制度、失業保険、職業教育の改革もワンセットにして調和のとれた理性による新しい社会を構築しようとしているとも。【1月2日 文春オンラインより】
これまでのところ、マクロン改革によって好調なフランス経済は欧州経済を牽引する結果も示しています。
****蘇った欧州経済、マクロン氏の改革が奏功か****
米国を上回る伸びを見せた欧州経済、牽引役はフランスの復調だ
かつて欧州経済の代表的な落ちこぼれ組だったフランスの景気回復を受け、ユーロ圏は息を吹き返した。2017年のユーロ圏経済は10年ぶりの高成長となり、米国を上回る伸びを見せた。
欧州連合(EU)統計局が30日発表した2017年のユーロ圏の実質域内総生産(GDP)は前年比2.5%増と、2007年以来の大きな伸びとなった。
牽引役となったのはフランス経済の復調。同国の経済界からは、マニュエル・マクロン大統領が官僚主義の打破や法人減税に向け歩み始めたことから、長年にわたる経済不安が払しょくされつつあるとの声が聞こえる。(後略)【1月31日 WSJ】
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外交面でも、イギリスがEU離脱の泥沼にはまり、ドイツ・メルケル首相も組閣に苦労したように、かつての求心力を失った欧州にあって、2017年11月にはマクロン大統領はアメリカの雑誌「タイム」の表紙を飾り、「欧州の次の指導者」と評されています。
また、アメリカ・トランプ大統領の暴走を止める“最後の砦”としての役割も期待されています。
ただ、ことさらにトランプ政権との対立を煽るような道はとっていません。ロシア・中国にも現実的な対応をとっています。
市場は重視しながらも「ソシアル」(共産主義とは別の「社会」主義)の考え方を大きく取り入れている内政同様、マクロン大統領は、一方に偏ることのない「第3の道」を求めています。
****強い欧州を目指すマクロン「第3の道」****
<右でも左でもない新しい政治を訴えて改革を推し進めるマクロンが、フランスを復活させ欧州を安定させる>
1月18日に開かれた英仏首脳会談に先立ち、フランス政府は1枚の歴史的なタペストリー(刺繍織物)をイギリスに貸し出すことを決めた。
「バイユーのタペストリー」と呼ばれる作品で、ノルマンディー公ギヨーム2世が1066年の戦いでアングロ・サクソンの王を破り、晴れてイングランド王ウィリアム1世を名乗ったことを記念するもの。
(中略)タペストリーには、貸与を決めたフランスのエマニュエル・マクロン大統領の熱い思いが込められている。島国イギリスと大陸欧州は切っても切れない関係で、たとえ今はEUからの離脱を選ぶとしても、千年来の歴史的・文化的な結び付きの求心力は昨今のポピュリズム(大衆迎合主義)がもたらす遠心力よりも強い。そういう固い信念だ。
ノルマンディー公でありながらイギリス国王でもあるというウィリアム1世の二重のアイデンティティーは、いま欧州各国に吹き荒れるポピュリズムが掲げる偏狭で閉鎖的な自国民第一主義を真っ向から否定するものだ。
それはまた既成政党の枠組みを壊して大統領選挙を勝ち抜き、フランスの再生と同時にヨーロッパの安定を取り戻す道を探ろうとするマクロン自身の政治的アプローチを体現するものでもある。
こうしたアプローチは功を奏しているようだ。大統領就任からほぼ9カ月、マクロンの国内での支持率は50%を維持している。そしてEU内部はもとより、グローバルな外交の舞台でも、今のフランスは主導的な役割を果たしている。
マクロンはその選挙戦を通じて、欧米諸国が産業革命の時代から引きずる「左派対右派」の対決という政治の構図を超越していた。急速なグローバル化と情報経済化が進み、脱産業時代に入った欧米諸国の直面する社会・経済問題に対処するには、もっと別なアプローチが必要と気付いていたからだ。
価値観の共有は強制せず
もちろん、アメリカのドナルド・トランプ大統領もイギリスのEU離脱派も、伝統的な左右の対立を利用して戦いを制した。ただし投票に勝った後の米英の処方箋は正反対で、トランプの「アメリカ第一主義」が各種貿易協定からの離脱を目指す一方、EU離脱派の「イギリス第一主義」は各国との新たな貿易協定の締結を最重視している。
マクロンのアプローチはどちらとも違う。グローバル化の否定でも無条件の推進でもなく、その中間を行こうとする。それがヨーロッパにおけるフランスの地位を高め、世界におけるヨーロッパの地位を強化する唯一の道と信ずるからだ。
まず国内では、もっぱら市場寄りの改革を推し進めている。いい例が17年9月の労働法改正だ(ポピュリズムの脅威を考慮して、一部に保護主義的な要素を残しているが)。
社会政策はどうか。同性婚などの扱いについてはリベラルな立場だが、移民問題では保守的だ。フランスに難民申請する人の数を減らそうとする試みが、それを表している。
EUについてはどうか。マクロンが掲げるのは「ヨーロッパの人を守る1つのヨーロッパ」だ。EU域内での単一自由市場の実現を望む一方で、中国をはじめとする新興国から安価な製品がEU市場に大量流入する事態は防ごうとしている。
EUの財政統合の深化にはドイツが消極的なので、マクロンが望むようなユーロ圏改革が実現される可能性は(少なくとも短期的には)低いだろう。彼が求める防衛面での連携強化についても、NATOとの調整やEU離脱後のイギリスの役割をめぐる問題の解決が必要だ。
とはいえ、マクロンが今や国際舞台で最も注目を集めるヨーロッパの指導者であることは事実。彼の外交スタイルはおおむね多国間主義だが、EU域内での価値観共有に重点を置く一方で、欧米以外の国に価値観の共有を押し付けてはいない。
この幅広くざっくりとしたアプローチが、気候変動など真に世界規模の問題に関し、国際社会を主導していく上で有利に働く。
気候変動の問題では、マクロンの立場はトランプ政権の見解と相いれない。しかしトランプを敵に回すことは避けてきた。
同様に、ロシアのプロパガンダに強く反発する一方、ロシアを孤立させるのは危険だと論じてきた。中国に対しては経済関係を優先させ、「一帯一路」構想への支持を表明する一方、人権問題には触れずにいる。
中東については、アメリカほど二律背反的な立場を取っていない。近年のどの指導者よりもイランとの関係修復に意欲を示しており、サウジアラビアの強権的な姿勢(カタールとの断交や、レバノンのサード・ハリリ首相に対する辞任の強要など)には反発する一方で、同国の若き皇太子ムハンマド・ビン・サルマンとは良好な関係を維持している。
ポピュリズムに頼らない
少なくとも現時点で、フランスが国内外で勢いを盛り返していること、そしてマクロンが国際舞台で(ドイツの不在を利して)大きな存在感を放っていることは間違いない。
しかし彼の挑戦はまだ始まったばかりだ。(中略)
イギリスのEU離脱派もトランプ支持者も、それぞれの指導者が根っからのポピュリストかどうかはともかくとして、彼らが過去の黄金時代と考えるものの復活をにおわせて巧みにポピュリズムの波に乗った。
一方でマクロンは、ヨーロッパにおけるポピュリズムの歴史は自らの改革プランに逆行するものと見なしている。彼が目指すのは、ポピュリズムに代わる真の選択肢を示すこと。そしてEUに改革を促し、その崩壊を防ぐことだ。
なぜEUが必要なのか。単に経済的な繁栄を追求するためではない。1914年と1939年の戦争につながった偏狭な民族主義の再現を許さないことが最大の目的だ。マクロンはそう信じている。きっと歴史が、彼の正しさを証明してくれる。【2月20日号 Newsweek】
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【国民連帯のための徴兵制復活には多くの批判も】
概ね好評なマクロン大統領ですが、やや“変わった”ところでは、ごく短期の徴兵制復活を目指しています。公約の一つであり、軍事的な目的ではなく、若者の意識に関する取り組みのようです。彼の国民連帯に対する理念を体現するものなのでしょう。
****<仏大統領>徴兵制復活へ 1カ月間、危機意識高める狙いか****
フランスのマクロン大統領は19日、仏南部トゥーロンで軍兵士らを前に演説を行い、「国民が兵役に従事する仕組みを作りたい」と述べ、大統領選の公約に掲げた、若者に1カ月間の兵役を義務付ける徴兵制度を復活させる考えを示した。
演説では詳細まで踏み込まなかったが、マクロン氏は昨年春の大統領選で、「軍と国民のつながりを強めるため、短い期間であっても軍での生活を体験してもらいたい」と述べ、兵役の義務化を公約に盛り込んでいた。
対象は18〜21歳の男女で、良心的兵役拒否も認めるとしていた。期間は1カ月間と短いため、訓練よりも、相次ぐテロなどを背景に若者らの危機意識を高める側面が強い。
だが、効果を疑問視する声もある上に、自由を重んじる若者らの反発も呼びそうだ。
大統領選の決選投票をマクロン氏と競った極右政党・国民戦線のルペン党首も少なくとも3カ月の兵役義務化を公約に掲げていた。
フランスでは、1996年に当時のシラク大統領が志願兵制に切り替えて、徴兵制(10カ月)の段階的廃止を表明。2001年に職業軍人化が完了した。
徴兵制を巡ってはスウェーデンが昨年、ロシアに対する脅威を念頭に7年ぶりの復活を決めた。【1月20日 毎日】
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ただ、若者の反発に加え、実現には膨大なコストがかかることもあって、批判は多いようです。
****日本も他人事じゃない。フランスの「徴兵制再開」に反発強まる****
(中略)
復活できない?フランスの徴兵制
フランスのマクロン大統領は2017年の選挙中、徴兵制の再開を公約したが、軍部や学生の反対に遭っているうえ、財源のあてもなく、マクロン氏がめざす徴兵制のイメージも明確でないので、実現が危ぶまれている。
はっきりしているのは、徴兵制とは別になんらかの国民奉仕制度が実現した場合も、フランスの軍事力を増強するものとはならないということだ。(中略)
これに対してマクロン大統領は、「国防と市民権の日」が参加者に努力を求めないので形骸化しているとして、国民皆兵の復活を公約した。
マクロン氏自身は大学在学中に徴兵制が廃止され、軍隊経験を持たないのだが、フランスの若者は「短期間であっても軍隊生活を経験すべきだ」と主張した。
マクロン氏が公約したのは、社会的・経済的背景や出身地の異なる青年が、陸軍と国家憲兵隊の監督の下で集団生活することによって、共通の義務を自覚し、「危機にあっては国民衛兵の予備兵力」となるという制度だ。
ちなみに、国家憲兵隊は主として人口2万人未満の基礎自治体での警察活動を担当しており、国民衛兵は国家憲兵隊や警察の予備兵力である。
ところがマクロン大統領は1月19日、高級軍人に対する演説で、「国民皆兵(セルヴイス・ミリテール・ユニヴェルセル)」を「国民奉仕(セルヴイス・ナシオナル・ユニヴェルセル)」と言い換えた。国民皆兵の費用の見当がついておらず、また、国防予算に含める場合、実質的に国防予算を削減することになるからである。
国民皆兵の費用の見積はまちまちだが、巨額の数字が飛び交っている。2月初めまでにフィリップ首相に提出された報告書では設備投資に32-54億ユーロ(4200-7100億円)、その後、毎年24-31億ユーロ(3200-4100億円)という数字が示された。
元老院(上院)の昨年6月の報告書では、毎年80万人を徴兵する場合は300億ユーロ(4兆円)、野党・共和党のコルニュ=ジャンティーユ国民議会(下院)議員の見積では設備投資だけで100-150億ユーロ(1.3-2兆円)となっている。
費用見積がまちまちなのは、軍への入隊者と非軍事の奉仕を行う者の比率が定まっていないし、そもそも軍事・非軍事の奉仕が義務付けられるのかも決まっていないからだ。
制度のイメージが決まらない理由の一つは、国防予算の実質的削減を防ぐ目的で、誰にも軍への入隊を義務付けないことになった場合、誰かに非軍事の奉仕を義務付けることが、兵役と無関係な強制労働を禁止した欧州人権憲章に違反するおそれが強いことである。
フランス最大の学生組織FAGEは1月18日付の声明で、マクロン大統領の国民奉仕構想について、「社会悪の元凶と決めつけた世代を『正そう』とするデマゴーグ的提案」と非難し、フランスの若者はかつてないレベルで市民的活動に参加しているというデータを根拠に、「若者のニーズからかけ離れた大統領選の小道具」と酷評している。
マクロン氏はそれでも、3-6か月間の国民奉仕を義務化するという主張を堅持している。
マクロン政権の国内政策の柱である労働規制緩和には、一部の労組を中心に反対も強いので、政権が国民奉仕制度を実現できず、それに代わる国民的連帯のための政策を提案できない場合、政権の新自由主義的傾向への批判が強まるだろう。【3月18日 西恭之氏 MAG2 NEWS】
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軍への入隊だけでなく、非軍事の奉仕でもかまわないという話のようですが、よく中身がわかりません。
少なくとも、軍部は、役にもたたない徴兵制実施のために予算を取られるのは強く反対するでしょう。
自分が軍隊経験がないのに、“フランスの若者は「短期間であっても軍隊生活を経験すべきだ」”と主張するのは。非常に奇異な感もあります。
【“謝罪しない”国民性にあって、国民に「間違いを犯す権利」を認める法律???】
徴兵制よりわからないのは、国民に「間違いを犯す権利」を認める法律というもの。
****国民に「間違いを犯す権利」認める新法可決 フランス議会****
フランス国民議会(下院)は23日、公的制度において国民に「間違いを犯す権利」を認める重要条項を含む新法案を可決した。
新法案はエマニュエル・マクロン大統領が、昨年の大統領選中に掲げた改革の一環で、公的制度上、国民が違反を犯しても、初めて犯す違反で故意でない場合は、自動的に罰することをなくすというもの。故意の違反かどうかの証明義務は国側が負う。
仏政府は同条項について「信頼できる社会に仕える国家」を目指す新法の要石だとしている。
採決についてジェラルド・ダルマナン行動・公会計相はツイッターに「管理する側と管理される側の関係に革命が起こった」と投稿した。
条項には、これに反対する主張を取り入れ、人間は間違いを犯すものだが政府が違反を見逃すのは「初回に限られる」との文言が付け加えられた。【1月25日 AFP】
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具体的には、“この法は国民および企業が誠実な行動をしている、もしくはそう証明されると考えられるという原則に基づいて成り立っている。例えば納税において個人または企業が本当に間違いを犯してしまった場合、延滞金の負担は30%まで減額する。もし納税者自身が間違いに気付き申告すると、罰金は半分になる。”【https://jcc.jp/globali/id/04691/】とも。
情報が少なすぎて、なんのことだかさっぱりわかりません。
フランス人は“自分の非を認めない”“謝罪しない”という国民性・文化で有名です。
テーブルに置かれた砂糖入れやトレイを自分のミスで落としても、「どうしてこんなところの置くの!」というのがフラン人の反応とか。
あるいは、相手にミスがあると思われるようなケースで、とりあえずこちらから「ごめんなさい」と言うと、「いえ、こちらこそ」ではなく「たいしたことではありません」との返答が返ってくるとか。
日本人から見て“自分の非を認めない”“謝罪しない”と思われるアメリカ人が、フランス人に関して上記のように評価しているのですから、筋金入りのようです。
そんな“謝罪しない”フランス人の「間違いを犯す権利」というのが「何だろう?」と訝しく思った次第です。