孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  悪化する大気汚染改善のための「2030年までに完全EV化」後退

2018-03-05 20:53:09 | 南アジア(インド)

(インド首都ニューデリーの与党インド人民党(BJP)本部で、北東部3州での地方選で勝利し党幹部らから花輪を掛けられるナレンドラ・モディ首相(中央、2018年3月3日撮影)【3月4日 AFP】)

安定した経済・政治状況のモディ政権
今、タイ・バンコクの空港にいます。
今日から8日間、インドのバンガロール、ハンピ方面へ旅行するための乗継です。

乗継時間を利用して、チャチャッとブログを更新・・・・と思ったのですが、これまでのメディア情報などを記録したスチックメモリーを、福岡で預けたスーツケースの中に入れ込んでしまいました。

そんな訳で、インド関連で簡単に検索出来た情報だけでチャチャッと・・・・。

インド・モディ首相については、国内で高まるヒンズー至上主義を黙認している姿勢について、再三批判的なことを書いています。

ただ、経済運営手腕についてはかねてより期待されていたように、強引な高額紙幣廃止でギクシャクしたインド経済でしたが、成長軌道に復帰したようです。しかし、まだ十分とは言い難いところもあるようです。

****インド、次の段階の成長に必要な要素とは****
インド政府が28日に発表した昨年10─12月の国内総生産(GDP)は前年同期比7.2%増となり、経済成長が1年余りの減速局面を抜け出した後に順調に加速していることが示された。

インド経済は、高額紙幣廃止や物品サービス税導入といったモディ首相のショック療法を背景に持ち直しが続いている。

だが一段と高い成長を実現できるかどうかは疑わしい。そのために必要な要素が欠けているからだ。

今回のGDPは企業投資と個人消費がいずれも上向き、成長率は中国を抜いて世界首位に返り咲いた。国際通貨基金(IMF)は2019年の成長率が7.4%になると見込んでおり、いかにも素晴らしい数字に思われる。

しかしインドが持つ潜在力や、求められている成長率には及ばない。毎月100万人もの若年層が労働市場に新規参入している同国では、十分な雇用を創出するには2桁近い成長率が必要だ。

懸念の1つは、果たして銀行には企業の需要が上向いたときに後押しするだけの融資能力があるかどうかだ。パンジャブ・ナショナル銀行による約20億ドルもの不正取引公表で、不良債権処理の取り組みへの信頼感は損なわれた。

もしこの不正事件がより根深い問題の一端であったとすれば、政府は銀行セクター救済のために投入する金額を予定の320億ドルから大きく増やさなければならないし、銀行はさらに長い間大型融資に尻込みしてしまう。

また、インドの政治家の内向き志向も不安の種だ。モディ氏は1月のダボス会議で、保護主義の台頭をテロリズムになぞらえた。

ところが数日後、モディ政権は自動車部品や携帯電話の輸入関税を引き上げ、米国との間で貿易摩擦が大きくなってしまった。通商面での関係悪化はインドの輸出量に打撃を与え、輸入価格が上昇すれば消費者にも悪影響を及ぼすことになる。

モディ氏は国内製造業のテコ入れに熱心だが、かつて先進国が世界に門戸を開く前に頼りにしたのと同じ成長モデルをインドはもう利用できないかもしれない。現在のサプライチェーンは以前よりもグローバルにもなっている。

インドが経済成長を次の段階に高めていくには、通商面での障壁を引き下げることと、銀行機能の健全化が必須といえそうだ。【3月3日 ロイター】
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十分ではないものの経済も一定に安定し、それもあってか、あるいはヒンズー至上主義が国民多数派に受けがいいのか、政治的にもそれなりの結果を出しています。

****インド地方選、首相の与党BJPが勝利 来年の総選挙に弾み*****
インド北東部3州で行われた地方選挙は、ナレンドラ・モディ首相率いる国政与党のインド人民党(BJP)が圧勝した。選挙はトリプラ(Tripura)、ナガランド(Nagaland)、メガラヤ(Meghalaya)の3州で先月実施されたもので、3日に開票結果が発表された。
 
インド北東部は数十年にわたって主要野党勢力である国民会議派(NCP)と左派政党連合「左翼戦線(Left Front)」の牙城とみられてきたが、モディ首相が再選を目指す2019年の国政選挙に向けてBJPが足場を固める結果となった。
 
特にバングラデシュと国境を接するトリプラ州では全59議席のうちBJPと連携する地域政党「トリプラ先住民族党(INPT)」で43議席を獲得。これに対し「インド共産党マルクス主義派(CPIM)」が獲得したのは16議席で、CPIMは1993年以来25年近く保持してきた州与党の座を失った。BJPの獲得議席は35、INPTは8だった。
 
今回の選挙戦で精力的な応援を展開してきたモディ首相は、首都ニューデリーの党本部で喜びに沸く支持者らを前に行った演説で今回の勝利を「画期的」だと評し、北東部に「変革」をもたらすと約束するなどと述べた。【3月4日 AFP】
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国民会議派(NCP)の浮上は、なかなか難しい状況のようです。

自動車の増加に伴う交通事故多発、大気汚染
ところで、中国と並ぶ13億超の人口を抱えるインドは、自動車市場にあっても期待されてきましたが、ようやくその潜在力を現実のものとしつつあるようです。

****インドの新車販売が世界4位に浮上、ついに「眠れる需要」爆発か****
“中国と並んで期待される市場”といわれていたが、中国ほど劇的な伸びは示さなかったインド。だが、最近5~6年の伸びは大きい
初めて400万台を突破 16年は通貨混乱で新車販売に影響

インドの2017年の国別自動車販売台数は、初めてドイツを抜いて世界第4位に躍り出た。トップは中国で、断トツの2887万台、前年比3%増。2位は米国で1723万台、同2%減。3位は日本で523万台、同5%増。4位のインドは前年比10%と大きく伸びて401万台と、初めて400万台を突破した。(後略)【2月12日 DIAMONDonline】
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しかし、自動車増加の負の側面、交通事故死については、インドは世界最悪の状況にあります。

****交通事故の死者数世界最悪 インドで日系企業が交通安全啓発****
インドでは、急速な経済成長に伴って、自動車やオートバイの販売台数が急増し、世界有数の市場となっている一方で、無謀な運転が原因による交通事故が後を絶たず、年間の死者数が世界最悪の15万人余りに上っています。

このため、インドに進出している自動車メーカーなど日系企業200社余りが中心となって、4日、自動車工場が集中する南部のチェンナイで、交通安全のキャンペーンを行いました。

日系企業で働く日本人やインド人、およそ200人が、シートベルトの着用やオートバイでのヘルメットの着用、それに運転中の携帯電話の使用禁止を呼びかけるチラシとともに、携帯電話用のストラップ3500本をドライバーに声をかけながら手渡していました。

受け取ったドライバーの男性は、「交通安全のことを考えてくれて、とてもありがたい気持ちです。この教訓を守ります」と話していました。

このキャンペーンを企画した、損害保険会社に勤める小熊伊知郎さんは「自動車の数が非常に増えていて、その一翼を担っているのが日系企業なので、販売と経済だけでなく、交通安全の意識の向上にも貢献していきたい」と話していました。【3月4日 NHK】
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交通規則をインド人が遵守するというのは、中国以上に難しい課題にも思えます。
また、道路・信号など、インフラ整備の問題もあるでしょう。

自動車増加の負の側面のもうひとつが大気汚染。
いつも言うように、なにかと話題になる中国以上にインドの大気汚染は深刻で、都市別のワーストランキングにはインドの都市がひしめいています。

その大気汚染改善の切り札としてモディ首相が掲げたのが、「2030年までに完全EV化」という、ガソリン車から電気自動車EVへの切り替え。
いかにも華々しいことが好きなモディ首相好みの施策です。

****EVで大気汚染解消」インドの期待 厳しい現実****

(激しい渋滞が慢性化しているデリー中心部)

インドの自動車展示会「オートエキスポ」の一般公開が9日、始まった。いまや中国よりもひどいと言われる大気汚染の解消の鍵として期待されるのが電気自動車(EV)だ。

中国、米国、日本につぐ世界4位の市場となったインドが、官民をあげて取り組む効果は大きいが、実現には大きなハードルがある。

■米研究所「PM2.5で110万人死亡」
(中略)インド政府はEVで社会課題の解決と産業育成を目指そうとしてきた。

「インドでは15年、PM2.5(微小粒子状物質)が原因で約110万人が死亡した」。米健康影響研究所(HEI)などが17年に公表したリポートはインドの大気汚染の現状をこう伝えた。
 
死者数は中国と並ぶが、過去からの増加率をみるとインドが中国を上回る。「HEIのリポートがインド政府に与えたインパクトは強かった」と日本総合研究所の橋爪麻紀子マネジャーは指摘する。
 
「NITI Aayog」。日本ではあまり知られていないが、モディ首相肝煎りの政策研究機関の名称だ。15年に設立された同組織は表向きは環境や産業分野のシンクタンクだが、実は政策決定で強い権限を持つとされる。「ロビー活動も必ずここに行く」と日本の大手自動車メーカー幹部は話す。
 
深刻な大気汚染に直面するインド。その解決手段として、NITI Aayogは排ガスゼロのEVを前面に打ち出した。

ハイブリッド車(HV)に比べてEVの税率を下げるなど政策を相次ぎ実行し、EVシフトを推進した。モディ首相が提唱する「メーク・イン・インディア」達成に向け、EVによる産業育成を図る狙いもあった。

■電池の産業基盤乏しく
だが、こうした青写真とは裏腹に現実は厳しい。まず、供給網の問題がある。現在のところ、インドには車載用リチウムイオン電池の生産基盤がない。スズキが東芝やデンソーと20年に工場を稼働させるが、当面はHV向けの予定で、EV全体の電池需要をすぐに賄う規模には至らない。
 
加えて充電インフラの不足や渋滞、実際に販売すればガソリン車の4倍になるとも言われる販売価格の問題もある。スズキはトヨタ自動車と組んで、20年をめどにインドにEVを投入する。両社は充電設備の整備や電池のリサイクルといった課題に一歩ずつ取り組む考えだ。
 
「自動車だけでなく、ゴミの野焼きや石炭火力発電など総合的に考えないと環境問題は解決できない」。インドに詳しい通商関係者は話す。
 
インドは処理施設の不足から、ゴミを野焼きする家庭が少なくない。発生するガスを抑制するためには、廃棄物処理機能の強化が求められる。エネルギーミックスの6割を占める石炭火力発電への依存解消も急務だ。
 
インド経済全体の抱える課題を踏まえ、EVやHVを含むエコカーの現実的な組み合わせをどう考えるか。日本の自動車メーカーにとって、NITI Aayogの出す答えがカギを握る。【2月9日 日経】
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後退を余儀なくされた「2030年までに完全EV化」】
結局、「2030年までに完全EV化」という野心的な施策は後退を余儀なくされているようです。

****インドが2030年までの完全EV化を諦めた裏事情****
2030年までにEV化100%を40%に修正  公共交通ではEV100%目標を維持
2月17日、日本の一部報道でもあったように、インドの運輸大臣が同政府がそれまで示してきたEV普及の強硬な姿勢を崩すような発言を行った。
 
これは、昨年末にインド自動車工業会がインド政府に提出した「2030年までに新車の40%をEV化、また公共交通機関では100%EV化を目指す」との意見書を受けての発言だ。
 
インド政府のEV政策といえば、電力省・石油天然ガス省の所管大臣などの政府高官が「2030年までにインドで販売するすべてのクルマをEV化する」との野心的な発言を繰り返していたため、世界の注目がインドに集まっていた。
 
その他の国のEV政策では、英国とフランスの政府がそれぞれが「2040年までにガソリン車とディーゼル車の発売を禁止する」という方針を打ち出しているが、この電動化にはハイブリッド車やプラグインハイブリッド車が含まれており、完全EV化を早期に実現するとは明言していない。
 
また、2017年だけで世界市場全体でのEV需要140万台の半分以上となる77万7000台を販売している中国は、2019年から自動車メーカー各社販売台数に対して販売クレジットという数値として全体の10%をEV化するとしている。だが、20XX年までに完全EV化という目標値は現時点で掲げていない。
 
そうした中で、インドの「2030年までに完全EV化」という政府の方針は、世界の自動車産業界にとってかなり刺激的な数値であった。
 
では、なぜこのタイミングでインド政府はEV関連政策を修正したのか?
2月上旬から中旬にかけてのデリー周辺取材、および日本でのインド政策に詳しい各方面との意見交換を基に検証する。

実力者A教授の失脚  理想論から現実論へシフト
インド政府のEV政策に関する軌道修正は、EV政策を仕切ってきた学術関係者のA教授が2017年10月頃に政府関連機関において失脚したことに起因する。
 
A教授はインドにおけるEV技術開発の第一人者として君臨し、インド政府が所管する研究開発機関やモディ首相がチェアマンを務める政府系シンクタンクのNITI Aayogなどで絶大な権力を握ってきた。
 
しかし、A教授とインド地場の自動車メーカーとの強いパイプにより生じる「利害関係」を問題視する動きがあったり、また2030年に完全EV化の実現に向けた「現実解の議論が乏しい」ことなど、A教授に対する風当たりが徐々に強まり、最終的にはインド政府の主要ポストのいくつかから事実上、更迭されたという。
 
A教授が失脚した後、インド政府内でのEVおよび次世代車に関する政策立案については、他の政府系シンクタンクの影響力が増している。(中略)

大都市ではEVより先に  インフラ整備と販売台数規制が急務
今回のインド取材で、筆者は体調を崩した。
 
その理由は、ホコリや粉塵である。(中略)また、デリー市街では空気中の浮遊物が多く、朝は霧がかかったような状態になるほど、大気汚染は深刻な状況が続いている。
 
さらに、デリー市街の渋滞は年を追うごとに酷くなり、今回の滞在中もライドシェアリングのウーバーで移動することが多かったが、10kmに1時間以上かかる状況が多かった。

(中略)こうしたデリーでの体験を踏まえて、一刻も早くインフラ整備、さらには中国の北京市のようにナンバープレートによる交通量規制や、シンガポールのような販売台数抑制などの政策を実施するべきだと強く感じた。
 
EVやハイブリッドを売るよりも、まずは交通流制御を優先するべきである。【2月28日 桃田健史氏 DIAMONDonline】
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派手な施策よりも、地道な取り組みを
以前のブログで、やはりモディ首相が積極的に取り組む高速鉄道について、事故が多発し、混雑などもひどい従来鉄道の整備・改善の方がより重要ではないか・・・という話を取り上げたことがあります。

それにも共通するものがありますが、せっかく経済・政治環境も安定しているのですから、派手な、人目を引くような施策もさることながら、現状改善に地道に取り組む方向でもっと頑張った方がいいのでは・・・という感も。
コメント
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