孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

モルディブ  南海の楽園での中国・インドの代理戦争は緊張緩和へ 海面上昇との闘いは続く

2018-03-23 21:55:10 | 南アジア(インド)

(海を埋め立てた人工島「フルマーレ」。面積は約4.3平方キロある=2月7日、モルディブ、小玉重隆撮影 【3月21日 朝日】)

一時は海上で中印艦船が対峙 非常事態宣言解除で衝突は回避へ
南シナ海、更にはインド洋へと海洋進出を図る中国、これに対抗する日本・インドそしてアメリカ・・・という構図は毎度お馴染みのものですが、先月(2月)からこの中国とインドのせめぎあいの最前線、あるいは代理戦争の様相を呈していたのが、インド洋海上の島国モルディブです。

スリランカがインド先端の南東に位置するのに対し、モルディブはインド先端の南西側。

(【3月21日 朝日】)

ただ、大きな島国スリランカとは異なり、モルディブは26の環礁や約1,200の島々から成り、総面積は佐渡島の3分の1程度の小さな島国で、約200の島に40万人ほどの国民が暮らしています。

ハネムーンの旅行先としても人気のある“南海の楽園”でもありますが・・・。

****中印、モルディブめぐりさや当て=政情不安で主導権争い****
インド洋の島国モルディブで、2月初旬から続く政情不安を機に、「南アジアの盟主」を自任する隣国インドと、南アジアへの進出を強める中国とのさや当てが続いている。

親中派のヤミーン大統領は中国に、野党側はインドに支援を要請、中印が互いをけん制する事態となっている。
 
モルディブ最高裁は2月1日、ヤミーン大統領就任後の2015年に野党政治家に出された反テロ法違反罪の有罪判決が「政治的動機」に基づくとして、判決を破棄した。

大統領は同5日、非常事態を宣言、最高裁判事らを拘束し、判決破棄は取り消された。
 
野党支持者らが次々に拘束される事態となり、野党はインドに介入を求めた。ロイター通信などは、野党の介入要請が「軍事的」措置も含んでいると報じている。インドは「非常事態の停止」を要求し、ヤミーン政権に圧力をかけた。
 
一方、シルクロード経済圏構想「一帯一路」で中国と関係を深める政権側は中国に特使を送り、政権の立場に理解を求めた。中国は「モルディブの内政問題だ」(耿爽・外務省副報道局長)として外国勢力の干渉をけん制する立場を表明した。
 
こうした中、ロイターは先月20日、「中国の艦船11隻がインド洋東部に入った」と報じた。
また、インド紙タイムズ・オブ・インディアが「モルディブに中国の潜水艦基地が造られる可能性がある」と伝えるなど、インドでは中国が政情不安を利用し、モルディブへの影響力を増そうとしているという懸念が広がっている。【3月4日 時事】
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伝統的にはインド勢力圏にあるモルディブですが、中国はシルクロード経済圏構想「一帯一路」の戦略地点として進出・影響力拡大を図り、それに対する警戒も拡大していました。

****中国とインド、楽園モルディブで新たな対立****
・・・・南シナ海の支配で優位に立った中国が、その影響力をモルディブにまで及ばせることは避けたい――。インドと米国はそう考えている。

モルディブは中国と中東産油国を結ぶ海上輸送路にあり、中国から欧州まで結ぼうとする習近平国家主席の「一帯一路(海と陸のシルクロード)」構想上でも、重要な位置にある。
 
習氏は2014年にモルディブを訪問し、ヤミーン氏から「海のシルクロード」構想で支持を得た。中国はモルディブのインフラ整備に投資し始め、首都マレと空港がある島を結ぶ橋の建設も進めている。その空港の拡張工事を手がけるのも、中国企業だ。

12月にはモルディブと中国の間で自由貿易協定が結ばれ、中国政府は両国の経済関係にとって画期的な出来事だと歓迎した。だが野党は交渉が秘密裏に行われたとして批判を続ける。
 
モルディブの反体制派はインフラ整備で中国からの借款に依存することで、「債務のわな」に陥る恐れがあると警戒する。同じような形で港が建設された隣国スリランカでは政府が債務不履行を避けるため、港の運営権を中国企業にリースとして譲渡する事態になった。(後略)【3月7日 WSJ】
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一時はインド・中国双方の艦船が接近・対峙する場面もあったようです。

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・・・・MDP総裁のナシード元大統領は「非常事態宣言は根拠がなく憲法違反」と非難。インドに軍と特使を派遣するよう要請し、インドはモルディブ周辺のインド洋に艦船を増派した。
 
インド政府筋によると、政権を支持する中国側はミサイル迎撃艦など数隻の艦船をモルディブ近海に派遣した。

ただ、2月22日ごろに中国艦船がインド艦船との距離50キロメートルまで接近すると、インド軍は「距離30キロメートルまで近づけば、警報弾を撃ち、海上訓練を始めざるを得なくなる」と警告。中国艦船は距離約400キロメートルまで退いたという。・・・・【3月22日 日経】
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今回の緊張については、ヤミーン政権が22日、非常事態宣言を解除すると発表したことで、一応の緩和の方向にあるようです。

*****モルディブ、非常事態宣言を解除 中印衝突回避へ *****
モルディブのヤミーン政権は22日、2月5日に発令した非常事態宣言を解除すると発表した。治安上の懸念がなくなったことを理由に挙げた。

一時はヤミーン政権を支持する中国と非難するインドの間で緊張が高まったが、ひとまず沈静化に向かう可能性が強まった。ヤミーン政権が中国からの支援に期待できなくなったという事情もうかがえる。

モルディブ大統領府は22日、「ヤミーン大統領が非常事態宣言を解除した」とする声明を出した。発令当初は15日間としたが、2月20日に30日間延長していた。今回は「治安当局の助言を受け、損害を被ることなく国家を存続できる」と判断したという。(中略)
 
今回、大統領が宣言解除を決めた背景には、インドや米国からの外圧もあったもよう。MDP総裁のナシード元大統領は「非常事態宣言は根拠がなく憲法違反」と非難。インドに軍と特使を派遣するよう要請し、インドはモルディブ周辺のインド洋に艦船を増派した。(中略)
 
一方で、インド政府は水面下で米国とも連携し、ヤミーン大統領に非常事態宣言を解除するよう圧力を強めた。

人口40万人の島国モルディブを巡る中国とインドの緊張は、非常事態宣言の解除で収束する可能性があるが、火種は当面くすぶりそうだ。【同上】
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中国としては、あえて無理押しすることは避けたというところでしょうか。

ただ、南アジア全般で見ると、スリランカ、ネパール、パキスタンにおける中国の影響力は確実に強まっており、中国・インドのせめぎあいは“中国の優勢”で推移しており、インドがこの流れを止めるのはかなり難しいように思われます。

進む人工島「フルマーレ」の拡張工事 「私たちはこの国にとどまって気候変動と闘う」】
自国権益をむき出しにした“犬も食わない”ような、モルディブを舞台にした中国・インド代理戦争よりも、個人的に興味があるのはモルディブが展開している温暖化・海面上昇との闘いです。

****モルディブ、移住受け入れる人工島 面積2倍へ拡張進む****
かつて海だった場所に、いまは平らな白い砂地が広がる。未舗装の道でヘルメットをかぶった作業員たちがれんがを積み、地面をならしていた。
 
インド南端から南西に約600キロ、世界的なリゾート地で知られるモルディブを、2月に訪ねた。首都マレの北東、フェリーで約15分のところにある人工島「フルマーレ」の拡張工事が進んでいる。
 
島の広さを2倍にし、2050年ごろまでに集合住宅や商業施設を整備して、最大24万人が住めるようにする大プロジェクトだ。

マレの現人口の2倍近く、国全体の約3分の2にあたる。念頭にあるのは、地球温暖化による海面上昇で、移住を迫られる人たちが出てくることだ。
 
もともとは過密化したマレからの移住地としてつくられた。1997年からの第1期工事は7年で終え、いま約4万人がくらす。
 
第2期にあたる拡張工事が始まったのは3年前。埋め立ては終わり、まず約7千戸分の集合住宅づくりが進む。「下水と上水は終わった。あとは電気だが、今年中に基礎の部分は終わるだろう」と開発を担う国営企業の担当者は言う。
 
海抜1メートルのマレに対し、フルマーレは2メートルと高くした。約1200の島からなる国土の8割が海抜1メートル未満。

国連の「気候変動に関する政府間パネル」の報告書によると、温暖化が最も進んだ場合、50年ごろには世界平均で30センチ前後の海面上昇が予測されている。
 
モルディブでは08年ごろ、観光収入でほかの国に土地を買い、移住することも検討したが、その後、とりやめた。

トーリク・イブラヒム環境エネルギー相は話す。「海面上昇はいくつかの島を消すかもしれない。だからこそ、移住を望む人たちを受け入れる人工島をつくっている。私たちはこの国にとどまって気候変動と闘う」【3月21日 朝日】
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人工島「フルマーレ」は国際空港からは道路でつながっており、国外からの観光客にとっては首都マレに行くより便利がいいようです。それもあって、ホテルなどの観光施設建設も進んでいるようです。
また、“人工島”とはいっても、白砂にヤシが生い茂る美しいビーチなどもあって、南海の自然が満喫できるようです。

(人工島フルマーレのビーチ【トラベルコ Hitomi氏】)

2015年には世界最大の浮島を建設する計画も報じられていました。そちらが現在どうなったのかは知りません。

****モルディブ政府が発表した「世界最大の浮島計画」。温暖化による海面上昇に新たな一手****
・・・・海面が1m上昇するだけで、国土の80%が海に沈むという予測されるほどに、事態は深刻さを増しています。
そんな状況下にあるモルディブ政府が、昨年、海面上昇対策として、ある画期的な施策を打ち立てました。

水上建築専門のオランダ企業「Dutch Docklands」と合弁で、レストランからショップ、スパ、ダイビングセンターなどを兼ね備えた、世界最大の浮島を建設する計画を進めているというのです。

Dutch Docklands社は、ドバイの海上に300以上の人工的な住宅地を集結させた人工島郡プロジェクト「The World」の成功で、世界的に注目を集めた建築デザインカンパニー。

その技術を応用して、モルディブの海でも人工島による浮島プロジェクトがスタートしました。

浮島はそれぞれケーブルで海底に固定され、暴風雨をともなうサイクロンが襲っても、漂流しない工夫が施されています。ひとつひとつを小さな浮島とすることで、海底生物への影響も最小限におさえることができるとDutch Docklandsは自身を覗かせています。

このほか、モルディブ国民専用の海上住宅地の開発も将来的に予定しているそう。(後略)【2015年4月9日 ガジェット通信】
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いずれにしても、どこかに土地を買って集団移住・・・といった安易(もちろん、現実に行うのは非常な困難を伴いますが)な方法ではなく、現地にとどまって自然の変化と闘う気構えのようで、その方策を着実に進めているようです。

人が暮らす島200の全部ではなく、一か所に絞って対応するというのは賢明かも。

なお、やはり海面上昇の危機に直面しているナウルは、(国土荒廃に責任のある)オーストラリアの支援で集団移住を計画しましたが、オーストラリアとの調整がうまくいかず頓挫しています。

人口約10万人のキリバスについては、人口88万人程度の小国フィジーが受け入れると表明しています。

ツバルについては、“世界で一番最初に沈む国として有名なツバルは、キリバスのご近所さん。人口は約1万人です。2000年、ツバルはオーストラリアとニュージーランドに、環境難民としての受け入れを要請しました。
しかし、オーストラリアは拒否。ニュージーランドは環境難民を認めず、労働移民として年間75人の受け入れを約束するに留まりました。”【2015年11月10日 永崎裕麻氏 ハフィントンポスト】とか。

必ずしも単純ではない海面上昇の影響
もっとも、温暖化による海面上昇、それに伴う国土水没・・・という予測(仮説)については、いろいろと不確定な要素もあるようで、“世界で一番最初に沈む国”とも称されるツバルも実は国土が拡大していた・・・との報道も。

****沈みゆく島国」ツバル、実は国土が拡大していた 研究****
気候変動に伴う海面上昇によって消滅すると考えられてきた太平洋の島しょ国ツバルは、実は国土面積が拡大していたとする研究論文が9日、英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに発表された。
 
ニュージーランドのオークランド大学の研究チームは航空写真や衛星写真を使用し、ツバルの9つの環礁と101の岩礁について1971年から2014年までの地形の変化を分析した。
 
その結果、ツバルでは世界平均の2倍のペースで海面上昇が進んでいるにもかかわらず8つの環礁と、約4分の3の岩礁で面積が広くなっており、同国の総面積は2.9%拡大していたことが判明した。
 
論文の共著者の一人ポール・ケンチ氏によると、この研究は低海抜の島しょ国が海面上昇によって水没するという仮説に一石を投じるものだという。
 
波のパターンや嵐で打ち上げられた堆積物などの要因によって、海面上昇による浸食が相殺された可能性があるという。
 
オークランド大学の研究チームは、気候変動が依然として低海抜の島国にとって大きな脅威であることに変わりはないと指摘する一方、こうした問題への対処の仕方については再考すべきだと論じている。
 
同チームは、島しょ国は自国の地形の変化を考慮に入れたクリエーティブな解決策を模索して気候変動に適応していかなければならないと指摘し、海面が上昇しても安定していることが分かっており、これからも面積が増えていくとみられる比較的大きな島や環礁への移住などを提唱している。【2月10日 AFP】
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もちろん、海面上昇のペースが加速すれば、面積拡大要因とのバランスは崩れます。対策が必要ないという話ではないでしょう。
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