(CNNインタビューで語るマハティール首相 ナジブ前首相を汚職で訴追し、「一帯一路」重要事業を凍結した首相ですが、任期の延長について「おそらく2年で終わるだろうが、国民からの要請があればそうする」とも。)
【アジア・アフリカで強まる中国「一帯一路」への警戒感】
中国の進める「一帯一路」については、よく言われるように、すべてを中国でカバーし、当該国にとってあまり利益とならないことや、スリランカの事例に代表される、いわゆる「債務のわな」の問題などで、アジア各国にも警戒感が広がっています。
****ASEAN各国中国離れ加速〜2019年を占う〜【東南アジア】*****
■ 中国の「一帯一路」への対応が共通課題
東南アジアとの関係密接化で自らが唱える「一帯一路」政策を進めたい中国にとってASEANは東アジアと南西アジア、中東を結ぶ重要な位置を占めており、多額の経済援助と引き換えに港湾や道路・橋梁、公共交通などのインフラ、加工工場操業などで「拠点化」を次々と図っている。
しかし2018年にはASEAN各国も、中国の投資だけでなく建設に関わるノウハウ、部品調達、資材、労働力まで全て中国から「輸入」する手法や多額の債務返済による「経済占領」への警戒感が高まり、中国離れとまではいかないものの「1歩下がって様子をみる」傾向がさらに強まったといえる。
マレーシアのマハティール首相は中国が関係する大型プロジェクトの中止や見直しを打ち出し、インドネシアも新たな高速鉄道計画で中国より日本への期待感を示し、ミャンマーも中国の援助による港湾開発が「軍事基地化」する懸念を抱き始めている。
こうした潮流の中で2019年は、中国の経済支援で独裁的政治支配を続けるカンボジアやラオス、同じ共産党つながりで根底は共通基盤のベトナムを除いたASEAN各国で中国離れがさらに加速していく可能性があり、中国の通信機器大手「ファーウェイ」にみられるような国際社会での中国の孤立が東南アジアでもより顕著になるとの見方が強い。【12月28日 大塚智彦氏 Japan In-depth)】
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ただ、警戒感は強まるでしょうが、チャイナマネーの引力は強力なものがありますし、アメリカ・トランプ政権は信頼しがたいということで、“中国離れがさらに加速”とまでいくかどうかは不透明です。
中国「一帯一路」への警戒感はアフリカでも強まっています。
****「中国が港奪う」=債務急増に危機感-ケニア ****
2日からアフリカ4カ国を歴訪していた中国の王毅国務委員兼外相は6日、全ての日程を終える。
中国はアフリカに対する経済支援を通じて影響力を強めてきた。しかし、巨額の対中債務を抱える国の一つであるケニアでは「中国に最大の港が奪われる」という危機感が高まっている。
王外相はエチオピア、ブルキナファソ、ガンビア、セネガルを訪問した。中国の歴代指導部はアフリカを重視しており、中国外相による年初のアフリカ訪問は29年連続。昨年9月、習近平国家主席は北京にアフリカ53カ国の首脳らを招き、3年間で600億ドル(約6兆5000億円)の支援を約束した。
だが、東アフリカのケニアでは、過剰な借り入れによってもたらされる「債務のわな」への警戒が広がっている。ケニアは中国の援助で首都ナイロビとモンバサを結ぶ鉄道を建設した。これに関連し、ケニアのネットメディアは昨年12月、債務返済ができなくなった場合に同国最大の港、モンバサ港の使用権を事実上、中国に譲渡することを記した文書が存在すると報じた。
この報道に対し、ケニヤッタ大統領は「(反大統領派の)プロパガンダだ」と全面否定。中国外務省の華春瑩・副報道局長も「モンバサ港が融資の担保になったという事実はない」と述べた。
だが、ケニアの世論は両国政府の説明に納得していない。建設をめぐる契約の詳細は不明で、採算性が疑問視されてきたからだ。
ケニア有力紙デーリー・ネーション(電子版)によると、中国は鉄道建設に約3200億シリング(約3400億円)を融資した。この返済は今年7月から始まる。このため、中国への債務返済額は前年度の2.3倍に当たる約830億シリング(約880億円)に急増し、対外債務返済総額の3分の1を占めることになる見通しだ。【1月5日 時事】
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【「債務のわな」が生まれる政治的事情・・・マレーシアの場合 中国資金で汚職隠し】
この「債務のわな」については、借りる側も将来の採算性や返済の問題はわかっているはずなのに、どうして無理な借り入れを受けるのか?という疑問があります。
中国は当然ながら、資金を押し付けたりしていない、経済的な取引だ・・・・という見解です。“貸して欲しいというから貸している”という、“金貸し”としては当然の言い分です。
そのあたりの裏にある“政治的”事情の一端を垣間見せてくれるのが、マレーシアへの汚職事件絡みの巨額融資です。
中国がマレーシア政府系ファンド「1MDB」関連の汚職疑惑の渦中にあったナジブ前政権の救済のため、「一帯一路」の融資の形で手を貸すことを提案していたことを示す会合議事録をウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が公表しいています。
****中国が「一帯一路」見返りに1MDB救済提案 ****
極秘会合の議事録が示す、海外で影響力高める中国のやり方とは
中国の最高指導部は2016年、数十億ドルの汚職疑惑の渦中にあったマレーシア政府系ファンド「1MDB」の救済に手を貸すことを提案していた。これまで未公開だった一連の会合議事録をウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が確認した。
議事録によると、中国当局者は訪中していたマレーシア政府関係者に対し、ナジブ・ラザク首相(当時)やその周辺が1MDBから多額の資金を横領したとされる疑惑について、米国などによる調査を中止させるため、中国が自らの影響力を行使することを申し出ていた。
中国当局者は、1MDBを調査していたWSJ記者の香港にある自宅やオフィスを盗聴することも提案していた。彼らに情報を漏らしたのは誰なのかを知るためだった。
その見返りとしてマレーシア側は、中国の広域経済圏構想「一帯一路」に基づく巨額インフラ事業の権益を提案した。ナジブ氏は数カ月以内に中国国有企業との340億ドル(約3兆7000億円)の鉄道・パイプライン建設契約に署名した。中国の銀行がその資金を融資し、中国人労働者が建設作業にあたることになった。
ナジブ氏はこのほか、中国指導部との間で中国の軍艦をマレーシアの2つの港に停泊させるための極秘協議も始めた。この協議について知る2人の関係者が明かした。
領有権争いを繰り広げる南シナ海での影響力拡大を狙う中国にとって、こうした入港許可は重要な特権となるはずだったが、これは実現しなかった。
WSJが各種資料やマレーシア現・元当局者とのインタビューに基づき、中国とマレーシアのインフラ事業を調査したところ、「一帯一路」構想の背後に働く政治的な力について詳細が明らかになった。
同構想は約70カ国で港湾や鉄道、道路、パイプラインを建設し、中国企業に貿易やビジネスの機会をもたらす巨大な計画だ。
米当局者は中国が同構想を利用して、発展途上諸国への支配を強め、「債務の罠」に陥らせる一方で、軍事的目的を前進させていると主張する。
パキスタンやモルジブなどでは、一部の取引が中国に不当に大きな利益を与えているとして「一帯一路」関連事業を見直す動きが始まっている。
米国の国家安全保障当局者は、中国がマレーシアで見せた動きは、同構想をテコにして地政学的戦略を進めようとする中国の最も野心的な試みだと捉えている。米国内の議論をよく知る関係者はこう話す。
中国・マレーシア会合の議事録によると、プロジェクトの目的は「本来、政治的なもの」――ナジブ前政権を支え、1MDBの債務を清算し、マレーシアにおける中国の影響力を深化させること――だったが、その一方で国民の目には市場主導だと映る必要があった。
中国政府の情報当局はコメントの求めに応じなかった。
中国は「一帯一路」関連事業が、当事者全ての利益となる発展を促すと主張している。批判勢力が主張するような金融・地政学的リスクを伴うならば、各国はあれほど歓迎しないはずだと中国外務省は話す。
マレーシアでの事業に投入された資金が1MDB救済のために使われたことを中国は否定した。
WSJが確認した文書によると、インフラ事業の一部に市場価格を上回る資金を投入し、そこで生じた余分な現金を他の用途に回すことをマレーシア当局者が示唆している。
昨年政権交代したマレーシアの捜査当局は、この資金の一部が、ナジブ氏の政治活動費や1MDBの債務返済に充てられたとみている。1MDBはナジブ氏自身が2009年に設立したファンドだ。
関係者によると、ナジブ氏は2016年の中国・マレーシア会合を承知していたという。この件についての質問に対し、ナジブ氏は声明を出した。その中で鉄道事業はマレーシアに数万人の雇用を生み出すはずだったとし、自らが政権を率いた9年間にマレーシア経済は成長し続けたと述べた。
昨年5月の選挙でナジブ氏を退陣に追い込んだマハティール・モハマド首相は、中国によるインフラ事業の中断を決めた。ナジブ氏はその後、マネーロンダリング(資金洗浄)や背任罪などで起訴された。同氏は容疑を否定し、保釈金を払って釈放されたが、今年は公判が予定されている。
天然資源が豊富で海上交通路に面するマレーシアは、米中両国のアジアでの主導権争いにとって重要な位置を占める国であり、米国もかつてナジブ氏に接近しようとしたことがある。
WSJは2015年7月、1MDB(旧名:ワン・マレーシア・デベロップメント)の6億8100万ドルの資金がナジブ氏の個人銀行口座に振り込まれたと報じた。ナジブ氏の事務所は、この資金はサウジアラビア王家からの「寄付」だとし、最終的に大半を返したと主張した。
米司法省が調査に乗り出した。両国の当局者によるとこの調査がナジブ氏と米国の関係を悪化させ、マレーシアが中国を頼りにする要因になったという。
政権交代後、マレーシアの新政府はナジブ氏の事務所を捜索し、さまざまな資料を発見した。その中に数カ月に及ぶ中国・マレーシア会合の議事録も含まれていた。WSJはそれらを閲覧する一方で、ナジブ政権の元官僚など経緯を知る関係者のインタビューを行った。
これらの資料には、マレーシア当局者が提案した中国国有企業による2つの大型建設プロジェクトが記されていた。中国の銀行がその資金を用立てるというものだ。1つはマレー半島を横断し、2つの港を結ぶ「東海岸鉄道線」の建設計画(160億ドル)。もう1つはボルネオ島のマレーシア領にあるサバ州に建設予定の「トランス・サバ・ガス・パイプライン」(25億ドル)だった。
これらのプロジェクトは「市場の収益性を超える」ものを中国国有企業に提供するだろう、と資料にある。マレーシア政府当局者によると、同国のコンサルタント会社が以前示した見積額では、東海岸鉄道線の建設費用は72億5000万ドル程度とされていた。
議事録によると、2016年6月28日の会合に中国側から出席した肖亜慶氏は「すべての計画が市場主導で進められ、両国の相互利益に結びつく」と国民が信じる必要があると語っていた。
中国国務院の国有資産監督管理委員会のトップを務める肖氏は、「習近平国家主席、李克強首相(と、もう1人の最高幹部)が承認した」案件だったため、「北京での重要な仕事をすべてキャンセルし、出席した」という。同委員会にコメントを求めたが返答はなかった。
マレーシアがまとめた議事要旨によると、翌日の会合では、中国公安部の孫力軍氏が、マレーシア政府の要請に基づいてWSJ香港支局を監視していることを認めた。「住居・オフィス・端末の全面的な盗聴、コンピューター・電話・ウェブ上のデータ取得、業務全体の監視」が含まれるとした。
「WSJ香港支局がマレーシア関連の個人との間に持っている接点をすべて立証し、準備が整い次第、マレーシア政府に『裏ルート』を通じて大量のデータを引き渡すつもりだと孫氏は語った」と議事要旨に記されている。「その後、必要な措置を講じるのはマレーシア側の責任だ」
中国が実際に何らかの情報を提供したかどうかは分からなかった。孫氏はコメントの求めに返答しなかった。
WSJの広報担当者は「安全性に関してジャーナリストと協力し、情報提供者との通信を安全に守るために、(WSJは)セキュリティーやサイバーセキュリティーの専門家を雇っている」と述べた。
議事要旨によると、孫氏は中国の「諸外国に対する影響力」を駆使し、米国などによる1MDBへの捜査をやめさせると約束した。米司法省の捜査はその後も続き、シンガポールやスイスなど各国当局とも協力している。【1月8日 WSJ】
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インフラ事業の一部に市場価格を上回る資金を投入し、そこで生じた余分な現金の一部が、ナジブ氏の政治活動費や1MDBの債務返済に充てられた・・・・との構図で、「すべての計画が市場主導で進められ、両国の相互利益に結びつく」と国民が信じるように仕組まれたとのことです。
このようにして返済不能な融資が行われ、「債務のワナ」が生じることにも。
【政権の意欲を語るマハティール首相】
ナジブ前首相を批判して政権に返り咲いた93歳マハティール首相は、2年間の“つなぎ”役という位置づけですが、その限られた時間でまずなすべきこととして、政府内の浄化・汚職の一掃をあげています。
そのためになすべきことは法整備や(困難ではあるか)人々の考えを変えることなど多々あるが、プロセスを設定し、自分が着手したいと語っています。【CNN トーク・アジア】
このインタビューの中で、南シナ海の現状について「権力者は必ず欲しいものを手にいれる。弱者は屈服するしかない」「中国は好戦的な姿勢を見せているが、軍事的に支配する計画はない」「現実を受け入れるしかない」「我々は戦争はしない。そこからどういう利益を引き出すかが重要だ」との現実的な姿勢をしめしたうえで、中国については「かつては貧しい共産主義の中国を恐れた。今は豊かな中国を恐れるべきだ」とも。
アメリカ・トランプ大統領については、「1日に三回言うことが変わる。そんな人とどのようにつきあえばいいのか」「貿易戦争を始めたのはトランプ大統領だ。世界にとって何もいいことがない。その点で彼は世界秩序への脅威だ」「トランプ大統領は相手国が受け入れがたいことを要求してくる。力があるから言えるのだろう。そのような考えの人にどう対処できるのか」
貿易戦争については「中国もアメリカも、世界全体が敗者になる」とも。
いろんなことをおもんばかって、はっきりしたことをなかなか語らない日本の政治家とは違って、歯切れがいいマハティール首相です。まあ、93歳にもなると“怖いものなし”でしょう。
その彼が、今後の任期について微妙なことを。
「重要なのは自分の考えではなく、人々の考えだ」
(必要なら2年の任期を延長するか?)「93歳なのであまり長くは無理だろうが、おそらく2年でおわるだろうが、国民からの要請があればそうする」
なんだか、政権への色気が強まっているようにも見えます。
アンワル氏への禅譲が予定どおりに行われるのか・・・・。もしマハティール氏が“国民からの要請”で2年を超えて政権の座に・・という話になると、マレーシア政治は大きな混乱にも直面するでしょう。
自分ならいろんなことができる、自分でなければ・・・という思い・使命感・自信はあるでしょうが、すっきりと禅譲して将来への安定した道筋をつくることがマハティール首相の最後の仕事でしょう。