孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インドネシア  世界最大の華人社会 大統領選挙に絡んで高まるイスラム重視の宗教的不寛容 

2019-01-27 22:40:01 | 東南アジア

(ジャカルタで開かれたイスラム強硬派による集会で「大統領交代を!」と声を上げる市民たち=2018年12月2日【2018年12月2日 朝日】 上記の画像だけなら、よくある政治集会にも見えますが、首都を埋め尽くす人々の下記画像でその規模がわかります。80万~100万人が一堂に会し、インドネシア史上最大の集会だったようです。)


【過去の政権・イスラム社会と緊張関係をはらんだ世界最大の華人社会】
2.64億人の人口大国インドネシアが世界最多のイスラム教徒を抱える国家であることは周知のところですが、インドネシアは中国圏以外では世界で最大数の華人を抱える世界有数の“華人国家”でもあります。

他のASEAN諸国同様に、華人は強い経済力を有していますが、親米・反共のスハルト独裁政権下の華人社会に対する厳しい抑圧政策の歴史が示すように、常に圧倒的多数派マレー系との緊張関係をはらんでいます。

****インドネシア、ついに世界最大の華人国家に****
「恭喜発財(コンシー・ファッ・ツァイ)!」
2月5日の春節が迫り、インドネシアの首都・ジャカルタにあるチャイナタウン、パサールグロッドックでは、「お金持ちになりますように!」と新年のかけ声が日に日に大きく響き渡っている。(中略)

インドネシア語で春節は「イムレック」。インドネシアに居住する華人にとっては、1年で最大の行事の一つだ。
 
世界最大のイスラム国家、インドネシアは、国民の9割がイスラム教徒。しかし、2月5日の春節は、国民の祝祭日で、華人の新年をともに祝う。
 
スハルト政権下の20年前までは、中国文化の表現が禁止されていた。
しかし、民主化に伴い自由化され、「寛容なイスラム国家」のイスラム教徒の従業員が真っ赤なチャイナドレスで、「恭喜発財!」と春節商戦最前線で活気を呼ぶ光景が普通に見られるようになった。(中略)

日本では知られていないが、イスラム圏のインドネシアは、中国圏以外では世界で最大数の華人を抱える世界有数の“華人国家”だ。
 
昨年、中国の人気ポータルサイト「今日頭条」が華人系(現地国籍取得)が多い国家のトップ10を発表。
これによると、(中略)トップ3は、1位がインドネシア(767万人)、2位がタイ(706万人)、3位がマレーシア(639万人)。
 
しかし、1位のインドネシアの華人系は、IMF(国際通貨基金)が昨年末発表した人口統計によると、人口約2億6200万人のうち、約3.3%の約860万人に上るとされる。
 
華人のインドネシア移住は、中国唐王朝の晩期、紀元879年に始まったと伝えられる。
今では、インドネシア国内に広東会館があるが、その祖先は1000年の月日を超え、東南アジアのイスラム諸国に移民として海を渡り、定着したというわけだ。(中略)

しかし、こうした伝統的な春節の原風景も、20年前の民主化前は到底、考えられなかった。

「インドネシア華人」の歴史は複雑だ。
1966年、カジュアル誕生後、華人系インドネシア人に対する同化政策が導入され、中国語教育機関、中国語メディア、華人系組織団体等が、禁止となった。(中略)スハルト大統領は翌年、「華人文化禁止令」も発布。中国名からインドネシア名への改名が決められ、プリブミ(土着のインドネシア人)社会での華人系への差別化を進めた。

今でこそ華人はどこにでも住めるが、当時は例えば首都ジャカルタの場合、北西地区以外は居住が禁止されていた。(中略)

さらに、1997年に起きたアジア通貨危機に伴いインドネシア経済が破滅的な影響を受け、政治腐敗への国民の怒りがスハルトの独裁政権に向けられると、今度はジャカルタで経済的に裕福な華人を標的にした暴動が起きる。
 
結局、アジア通貨危機を契機に、30年以上続いたスハルト政権は崩壊。殺人、放火、略奪や華人女性へのレイプも勃発し、インドネシア華人の30万人以上が海外へ脱出。
 
「華人資本の多くが国外流失した」とされ、インドネシア経済にも重く暗い影を落とした結果となった。
 
一方、スハルト政権末期に副大統領を務めたハビビ氏が、スハルト辞任後インドネシアの第3代大統領に就任。(中略)ハビビ大統領は、「リフォマシ」(「改革」=インドネシア語)の潮流に押され、華人系社会を徐々に受け入れる民主化政策を図った。
 
インドネシア華人に対する差別用語「ノン・プリブミ」も廃止された。
 
暫定的なハビビ大統領の就任後、1999年10月、民主的選挙で大統領となったワヒド氏は、低迷する経済復活にはインドネシア華人、華人系実業家の協力なしでは困難と判断し、中国を初の公式訪問先に選んだ。
 
ワヒド大統領の祖先は、中国福建省からの移民で、客家人だった。こうした自らのルーツも踏まえ、中国語や中国伝統の文化、宗教、そして慣習が解禁された。
 
2002年には、メガワティ大統領(当時)が中国の春節(旧暦の正月)を祝祭日とし、以来、(中国圏を除く)世界最大の華人国家の「復権」が図られたというわけだ。
 
さらに2014年には、ユドヨノ前大統領がスハルト時代から半世紀近く使用されてきた「Tjina(チナ)」を廃止した上、新たに「Tionghoa(中華)」を採用し、中国と華人系インドネシア人を指す公用語を変更した。
 
背景には、台頭する中国経済への対中政策や民主党党首を務めたユドヨノ大統領(当時)の総選挙前の華人系支持獲得があった。
 
ジャカルタ特別州知事に華人系キリスト信者のバスキ・プルナマ(通称アホック)氏が就任する(2017年宗教冒涜罪で、禁固2年の有罪判決)など、(宗教的不寛容が高まる一方)インドネシア華人の社会経済復権はスハルト以降、少なからず進められてきた。
 
一例を挙げれば、インドネシアなどASEAN(東南アジア諸国連合)域内での日系企業の合弁・提携先のパートナーも、現地の有力企業である華人系企業が極めて多い。(中略)
 日系大手コンビニ業界の華人系企業グループとの合弁・提携事例だけでも次に挙げるほどだ。

ASEANの華人系は人口比で少数派でも、インドネシアに代表されるように華人の経済力が、各国経済を牛耳っている。
 
「中国回避 東南アジア回帰」の今、日本にとって東南アジアといっても、そこは伝統的に「華人力」が押さえる経済圏だということを肝に銘じておくべきだ。【1月21日 末永 恵氏 JB Press】
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【イスラム重視・宗教的不寛容の高まり 転換点ともなった「アホック事件」】
上記記事では、スハルト政権崩壊後のインドネシア華人の社会経済復権を紹介していますが、記事にもあるように、インドネシア社会ではイスラム重視・宗教的不寛容が高まっていることは、これまでも再三取り上げてきたところです。

ジョコ大統領とそのライバルの争いに巻き込まれる形で、ジョコ大統領の盟友でジャカルタ特別州知事、次期副大統領候補あるいはジョコ氏の後任候補とも言われていた、華人系キリスト信者のバスキ・プルナマ(通称アホック)氏が宗教冒涜罪で禁固2年の有罪判決を受けた件は、そうした宗教的不寛容の高まりを示すものです。

隣国マレーシアも華人が25%ほどを占める多民族国家ですが、多数派マレー系を優遇する「ブミプトラ政策」がとられていることは、これも再三取り上げてきたところです。

ブミプトラ政策は、経済的に劣後するマレー系住民の不満を和らげるための制度的安全弁でもありますが、インドネシアではそうした明確なシステムがないだけに、華人への不満が宗教の名を借りて爆発する危険性があるようにも見えます。

****インドネシア、揺らぐ多宗教 イスラム以外に不寛容、少数派へテロや襲撃****
東南アジアの主要国でも特にイスラム教徒の割合が大きいインドネシアで、ほかの宗教への不寛容が広がっている。

キリスト教やヒンドゥー教、仏教の信者らが被害に遭う事件が続発。背景には来年の大統領選を前にイスラム勢力が政治的影響力を強めている事情があり、少数派の声が置き去りにされることへの懸念が深まっている。
 
イスラム教徒が9割近くを占めるインドネシアでも、クリスマスは祝日で首都ジャカルタなどではショッピングモールやホテルが飾り付けられる。

しかし、政府は今年、総勢7万2千人の警官を全国のキリスト教会に配置。首都中心部のジャカルタ大聖堂は25日、警官が特殊車両から目を光らせるなど物々しい雰囲気に包まれた。
 
背景には、国内でイスラム教とほかの宗教の摩擦が高まっていることがある。
 
5月、第2の都市スラバヤでイスラム過激派の一家が三つのキリスト教会で自爆テロを起こした。スマトラ島では8月、イスラムの礼拝を呼びかけるスピーカーの音が大きいと苦情を言った仏教徒の女性に地裁が宗教冒涜(ぼうとく)罪で禁錮1年6カ月の判決を下し、仏教寺院が襲撃される事件も起きた。ジャワ島などのヒンドゥー教寺院も今年、何者かに相次いで破壊された。
 
過激派が先鋭化させる対立の高まりが、市民の心にも影響を及ぼしつつある。
 
今月中旬、ジョクジャカルタ特別州プルバヤンで、運転手アルベルトゥス・スギハルディさんの埋葬が公共墓地で行われた。スギハルディさんはカトリック教徒で、家族は故人の名前などを記した木製の十字架を持ち込んだ。
 
だが、イスラム教徒の住民らが「キリスト教のシンボルを持ち込んではならない」と十字架をT字形に切断。写真がSNSで拡散し、大きな議論を呼んだ。
 
地元のカトリック大司教区は声明で、異なる宗教を尊重して多様で寛容な社会を目指すというインドネシアの国是「パンチャシラ」(建国五原則)や憲法に反するとし、少数派の人権を守るよう政府に求めた。

 ■強硬派伸長が背景
パンチャシラは初代スカルノ大統領が1945年の独立時、国是として憲法で定めた理念。多民族国家で様々な宗教を持つ国民が共存するため、特定の宗教を国教とせず、異なる宗教も尊重し合うよう求めた。
 
少数派宗教への不寛容が広がった伏線は、2016年の出来事だ。イスラム強硬派がジョコ大統領の盟友だったジャカルタ州知事を「イスラムを冒涜した」と攻撃し、知事は翌年の選挙で敗北に追い込まれた。

イスラム勢力は98年に退陣したスハルト政権下で抑え込まれてきたが、この事件を機に政治を左右する存在として存在感を高めた。
 
来年4月の大統領選で再選を狙うジョコ氏は世俗派イスラムで、パンチャシラを推進し少数派に配慮する政治を進めてきた。しかし、今年6月の統一地方選でイスラム勢力に支持基盤を崩され、副大統領候補に国内最大のイスラム組織の前総裁を指名した。
 
ジョコ氏と一騎打ちするプラボウォ氏もイスラム強硬派が頼みの綱。どちらが当選してもイスラム勢力に配慮した政権運営をせざるを得ない状況で、専門家は「少数派の声が置き去りにされている」と指摘する。【2018年12月26日 朝日】
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アホック氏逮捕はイスラム重視勢力拡大の転換点とも目される事件ですが、服役していたアホック氏が刑期を終えて出所して注目されています。

****「イスラム侮辱」の罪 今も人気の前知事、注目の出所****
インドネシアで国民の9割弱が信奉するイスラム教を「侮辱」したとして宗教冒瀆(ぼうとく)罪に問われたバスキ・チャハヤ・プルナマ(通称アホック)前ジャカルタ特別州知事(52)が24日、刑期を終えて出所した。

事件はイスラム強硬派が勢いづくインドネシア現代政治史の転換点とされ、政界復帰を求める声が強いなか、動向に注目が集まっている。
 
「拘置所で手続きを終えて、自由です!」。アホック氏はこの日朝、自身のSNSに笑顔の写真とともにこんな投稿をした。

1週間前には直筆の手紙を公開。反省を述べる一方で、4月の大統領選と国会議員選挙を指して、異なる宗教や多様性を尊重する国是「パンチャシラ」(建国5原則)の大事さを説き、それを重んじる政党に投票するよう支持者らに呼びかけた。
 
人気は今も根強い。出所姿を一目見ようと、ジャカルタ郊外の拘置所前には早朝から大勢の支持者が詰めかけた。(中略)

ジャカルタでは歓迎の集会が開かれる一方、アホック氏は家族らと過ごし、人目を避けた。今後は、テレビへの出演がうわさされたり、国会与党が復帰に向け秋波を送ったりしている。(中略)
 
一連の「アホック事件」は、イスラム強硬派が政治への影響力を持つとの認識を社会に広めた。かつてアホック氏の盟友で、パンチャシラを推進してきたジョコ大統領が、再選を目指す4月の大統領選で、イスラム指導者を副大統領候補に選ぶなど、影響は尾を引いている。【1月25日 朝日】
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【大統領選挙に向けて拡大するイスラム重視勢力を利用する対立候補】
イスラム重視勢力(それを利用する反ジョコ大統領派)からすれば、「アホック事件」は輝かしい勝利でもあり、今年の大統領選挙に向けて更に活動を活発化させています。

****【ジャカルタレター】ジョコ大統領の対抗勢力が支持層拡大****
日本ではほぼ報道されなかったが、昨年12月2日に「212再結集」と呼ばれる大規模集会がジャカルタで行われた。独立記念塔を中心に周辺道路が参加者で埋め尽くされ、80万~100万人が一堂に会し、インドネシア史上最大の集会だったといわれている。
 
現政権批判の場
2年前、当時のジャカルタ特別州知事バスキ・プルナマ氏(通称アホック)に対する大規模抗議集会が12月2日に行われたことを受け、同じ日の12月2日を意味する212をスローガンに再結集が呼びかけられた。

現政権によるイスラム団体に対する数々の不公正に対抗し、宗教的なモラルを取り戻そうという趣旨で集まったのがこの決起集会であるという。
 
しかし、212再結集の主催者は今年の大統領選候補者プラボウォ氏の選挙対策組織の幹部であり、集会参加者を動員したのは、プラボウォ氏率いるグリンドラ党や、プラボウォ陣営を応援する福祉正義党のほか、さまざまなイスラム団体であることから、大統領選挙に向けたプラボウォ陣営の選挙運動の一つであることは明らかである。
 
今年3月まで大規模な選挙運動は禁止されているため、名目上はモラル運動ということになっているが、プラボウォ陣営の動員力を見せつけ、現政権を批判する格好の場となった。(中略)

接戦の予想
また、プラボウォ陣営は、副大統領候補であるサンティアガ氏が精力的に活動し、若者を中心に支持を広げているようだ。

同氏は若い起業家を集めたネットワークの中心人物であったこともあり、若者層へのアピールもある。また若くてフレッシュな顔つきに多くの「ママ」つまり女性の支援グループもできている。
 
現職大統領のジョコ陣営に近い「LSI Denny JA」による調べでは、212再結集の後、ジョコ陣営が54.2%、プラボウォ陣営は30.6%の支持を獲得し両陣営の差が広がっているという。

一方で、サンティアガ氏の内部調査ではプラボウォ陣営の支持が40%に達したと発表するなど、調査結果もさまざまである。
 
いずれにせよ、ジョコ陣営が優勢であることは間違いないものの、今年の大統領選も接戦が予想されている。(後略)
【1月16日 SankeiBiz】
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こうした状況では、出所したアホック氏はしばらく露出を控えた方がよさそうです。

大統領選挙の方は、すでに過熱気味のようです。

****大統領選、インドネシア分断 現職と野党候補、汚職めぐり中傷合戦 初の討論会****
インドネシアで4月に投開票される大統領選で、再選を目指すジョコ大統領と、一騎打ちに臨む最大野党党首のプラボウォ氏が17日、初の討論会を行った。テレビ中継されるなか中傷しあう場面も目立ち、インドネシア社会で深まる分断を象徴する格好となった。

(中略)全国中継されるなか、開始前にはジョコ氏がプラボウォ氏に歩み寄って抱き合い、融和ムードを演出してみせた。ただ、開始40分すぎ、議題が「法と人権」に移ると2人は中傷を始めた。

仕掛けたのはプラボウォ氏だ。現政権下では野党議員が汚職容疑で次々に逮捕されており、「これは人権侵害だ」と訴えた。

ジョコ氏は「(ここは)法治国家。証拠があるなら出せばいい」と応戦。大統領選とともに行われる国会議員選に立候補したプラボウォ氏の野党候補者について、「汚職の前歴がある候補者が多い」と指摘。

プラボウォ氏が、強権的だったと評価されるスハルト元大統領の娘の元夫で、その政権下で軍幹部として人権侵害に関与したとされる過去を示唆して、「我々は過去に汚職も人権問題も抱えていない。独裁者にもみえない」と締めくくった。(中略)

インドネシア情勢に詳しいアジア経済研究所の川村晃一研究員は、多民族社会のインドネシアは、大統領選を通じて社会の統合を保ってきたと指摘。「近年は選挙戦が進むほど分断が深まっている。政治家の自制に期待したいが、当選のためなりふり構っていられない現状だ」とみている。【1月19日 朝日】
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分断を深める政治状況はインドネシアだけではなく、アメリカを筆頭に各地で見られる現象です。
ジョコ大統領の個人的人気が、欧米の右派ポピュリズムにも相当するイスラム重視勢力を押しとどめることができるか・・・注目される選挙です。

コメント (2)
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