孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベネズエラ  批判を受けつつも2期目に入ったマドゥロ大統領 野党・国会議長の一時拘束も

2019-01-14 22:21:05 | ラテンアメリカ

(ベネズエラ北部グアイラで13日、集会で演説するベネズエラのフアン・グアイド国会議長=ロイター【1月14日 朝日】)

【国内外の批判を浴びながらも2期目に入ったマドゥロ大統領】
IMF予測では2019年中に年間のインフレ率が1000万%(!)に達するとされるハイパーインフレーション、店の棚から商品が消える供給不足、満足に食べられない国民、餓死者の情報も、大量(人口の1割)の隣国への難民発生・・・・という経済崩壊にもかかわらず、その責任を回避、アメリカなどの策略だとし、強権的に権力を維持する南米・ベネズエラの反米・左派マドゥロ大統領。

上記のような状況については、これまでも再三取り上げてきたところですが、今月10日には2期目に入ったそうで、なんとも言いようのないところです。

アメリカや南米諸国はマドゥロ政権を批判し、政権は国際的に孤立はしていますが(南米パラグアイは10日、ベネズエラとの国交断絶を発表)、これまでも触れてきたように中国・ロシアはマドゥロ政権を未だ支援しています。

****孤立深める2期目 ベネズエラ・マドゥロ政権 混乱収束の兆しなし 難民危機****
南米の産油国、ベネズエラで独裁色を強めるマドゥロ大統領(56)が10日、2期目(2019〜25年)の就任式を迎える。

深刻な経済危機で国民が困窮を強いられる中、昨年5月の大統領選では有力野党候補を排除する強硬な手段を取り、再選を果たした。

民主主義の尊重を求める米国や南米の一部の国はマドゥロ政権への圧力を強化するが、政治、経済の混乱が収拾する兆しは見えていない。
 
昨年5月の大統領選以降、国際社会のマドゥロ政権への非難は一段と強まっている。ベネズエラの民主化を求める米州諸国で作る「リマ・グループ」は今月4日、大統領選の結果には正当性がないとして2期目の就任を認めないとする非難声明を発表。声明にはペルーやブラジル、カナダなど13カ国が名を連ねた。
 
これに対し、マドゥロ氏は9日、「48時間以内に方針を訂正しなければ、最も厳しい緊急の外交的措置を取る」と警告。措置の内容は明らかにしなかったが、関係国を強く牽制した。
 
トランプ米政権も選挙結果を承認しておらず、今月8日にベネズエラの元政府高官や民間企業などに、大規模な汚職に関与したとして追加の経済制裁を発動した。

米国の対ベネズエラ政策は経済制裁が柱だが、トランプ氏は昨年9月の国連総会で記者団に軍事介入の可能性を問われ、「米軍が決断すれば、とても簡単に転覆させることができる」と発言し、波紋を呼んだ。
 
国際的な支援が見込めない中、物資や外貨不足が加速し、国民は想像を絶する物価上昇に苦しみ続ける。

昨年12月の統計で年間のインフレ率は169万8488%を記録。月間のインフレ率は144%と、同9月のピーク時(233%)から少し落ち着いたが、国際通貨基金(IMF)は19年中に年間のインフレ率が1000万%に達すると予測する。

難民流出も深刻で国連は昨年11月、ベネズエラから周辺国に逃れた人が人口の1割に当たる300万人に達したと発表した。
 
ベネズエラの民間調査機関の最新の世論調査によると、マドゥロ氏の支持率は19%まで低下。故チャベス前大統領の支持基盤だった貧困層が離れているとされ「マドゥロ氏に不満を抱える国民は増えているが、政府の弾圧を恐れ、大規模な抗議活動には広がらない」(現地外交筋)という。
 
マドゥロ氏は17年8月に政権派のみで構成される制憲議会を発足させ、野党が多数派を占める国会から権限を剥奪し、独裁体制を確立した。

ベネズエラ情勢に詳しい米南部ルイジアナ州のテュレーン大学のデビッド・スミルダ教授は「経済、政治的な危機から脱するのは非常に難しい」としたうえで、「唯一の希望は分裂している野党連合がまとまり、国際社会とともにマドゥロ政権への圧力を強めていくことだ」と指摘した。【1月10日 産経】
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中国・ロシアがこのドロ船のようなマドゥロ政権を支援し続けているのは、素人的には非常にリスクが大きいように思えるのですが、アメリカへの対抗のほか、それなりの成算・思惑があってのことでしょう。

また、いつも言うように、国内・国際社会の批判があっても、それだけでは強権的に権力を維持している政権は潰れないのが現実です。(中国・ロシアの支援も、そのあたりを“評価”してのことでしょう)

【野党勢力が多数派の国会はマドゥロ大統領を認めず、独自の「暫定大統領」も】
権力がなかなか潰れない理由のひとつは、野党側の分裂です。

その野党勢力は、政権から実権を奪われた国会を基盤にしていますが、その国会はマドゥロ大統領を認めていません。

****ベネズエラ議会、マドゥロ氏の大統領職は「違法」****
ベネズエラ国民議会は5日、大統領2期目就任を来週に控えたニコラス・マドゥロ氏の大統領職を違法と断じ、軍部に「民主主義の回復」への取り組みを支持するよう呼びかけた。
 
野党勢力が多数を占めるベネズエラ国民議会は5日に新会期を迎えた。国民議会の新議長に就任したフアン・グアイド氏は議会の就任宣誓式で、「われわれはニコラス・マドゥロの違法性を再度断言する」「1月10日より彼は大統領職を不当に奪うことになるため、結果として国民議会が唯一の合法な国民の代表となる」と述べた。(後略)【1月6日 FP】
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マドゥロ大統領は野党が多数派の国民議会の代わりに、完全に政府の管理下に置かれた制憲議会を統治の根拠としています。これにより国民議会は政治的決定を承認するシステムから事実上、除外されています。

国会議長に就任したフアン・グアイド氏については、“マドゥロ氏は6日、国営テレビの放送でグアイド氏について「マリオネット(操り人形)、米国の回し者だ」と述べ、米国の諜報機関がグアイド氏を指導していると強調した。”【1月7日 SPUTNIK】とも。

グアイド議長は、2期目を就任したマドゥロ大統領に対抗して、「暫定大統領」に就任したと宣言しています。

****ベネズエラ野党、「暫定大統領」選出 政権に対抗 ****
混乱が続く南米ベネズエラで11日、野党が多数派を占める国会のフアン・グアイド議長がマドゥロ大統領の正当性を認めないとして、「暫定大統領」に就任したと宣言した。

米国のほか中南米の主要国がマドゥロ政権を認めない中、グアイド氏は国際社会の支持を取り付ける狙いだ。

(中略)グアイド氏は「国際社会などに対し、我々を支援するように呼びかける」と述べた。

マドゥロ氏は昨年5月、主要野党を排除した上で大統領選を強行し、当選した。野党が過半数を占める国会は選挙結果を認めていないため、10日の就任式ではマドゥロ氏は憲法で定められた議会ではなく、最高裁で宣誓した。

今後は国際社会の対応が焦点となる。南北アメリカ諸国で構成する米州機構(OAS)のアルマグロ事務総長はグアイド氏を支援すると表明した。

米国や欧州連合(EU)のほか、ペルーやカナダなど米州諸国で構成する「リマ・グループ」はマドゥロ政権を認めておらず、大統領選のやり直しを求めている。【1月12日 日経】
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グアイド氏は35歳と“若手”ですが、ベテラン有力者には政権と対峙するリスクを引き受ける者がいなかったということでしょうか?そのあたりのベネズエラ政治情勢は知りません。

【国会議長を一時拘束 政権は関与を否定】
強権的だとは言いつつも、こうした野党勢力の動きが放置されている点では、政権批判が一切許されない国に比べたらベネズエラはまだましか・・・・とも思っていたのですが、必ずしもそうでもないようです。

****ベネズエラ国会議長を情報機関が一時拘束 政権と対立****
マドゥロ大統領による独裁的な支配が強まっている南米ベネズエラで13日、野党が多数を占める国会のフアン・グアイド議長(35)が同国の情報機関に一時身柄を拘束されたと、議長の妻や国会が公表した。

グアイド氏は野党側の政治集会に向かう途中で、まもなく解放されたという。
 
ベネズエラでは昨年5月、有力野党候補を事実上排除した大統領選でマドゥロ氏が当選。だが、野党が多数を占める国会は「不正な大統領選だった」として、今月10日のマドゥロ氏の2期目の就任を認めなかった。代わりにグアイド氏が11日、暫定大統領として宣誓。「民主主義を取り戻すための協力を求める」と語り、23日に政権に対する抗議集会を国民に呼びかけていた。
 
グアイド氏や国会のツイッターなどによると、グアイド氏が13日、首都カラカスから近郊のバルガス州である集会に車で移動していたところ、突然、情報機関の部隊に囲まれ、連れ去られたという。グアイド氏が情報機関のものとみられる車に押し込まれる様子が映った動画も投稿された。
 
解放後に集会で演説したグアイド氏は「軍や情報機関の職員がこんなことをやりたくないことはわかっている。私たちは恐れない。国際社会は起こったことを見ている」などと語った。(後略)【1月14日 朝日】
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この“国会議長(暫定大統領)の一時拘束”について、マドゥロ政権は関与を否定しています。

****ベネズエラ国会議長、一時拘束される マドゥロ政権は関与否定****
南米ベネズエラで13日、ニコラス・マドゥロ大統領と対立する野党主導の国会のフアン・グアイド議長が、同国の情報機関に一時身柄を拘束された。議長は1時間ほどで解放されたが、マドゥロ政権はこの件については一切知らないと関与を否定している。(中略)

解放された後、大勢の支持者から歓呼の声で迎えられたグアイド氏は、「マドゥロ氏はもはや治安部隊を統制できていない。指揮系統が崩壊しているからだ」と指摘。

「今、政権を指揮しているのは誰だ? 国の情報機関が統制下にないと政権が既に認めているならば、(大統領府の)ミラフロレス宮殿には深刻な問題がある」と述べた。
 
マドゥロ氏は10日、2期目の大統領就任式を行ったが、グアイド氏は11日、その正統性に疑義を呈し、マドゥロ氏を「簒奪(さんだつ)者」と非難。新たな選挙に向けた移行政権の発足を求めて23日にデモを行うと宣言するとともに、憲法に基づけば移行政権を率いる権限は自身にあると主張していた。
 
ベネズエラではマドゥロ氏が昨年5月の大統領選で再選したが、この選挙では有力な野党候補が立候補を認められず、自宅軟禁されたり国外逃亡を余儀なくされたりした。このため不正な選挙だと国内外から批判を受け、米国や欧州連合は選挙結果を認めていない。(後略)【1月14日 AFP】
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常識的に考えれば、いくら実権がないとは言え、国会議長を拘束するのに大統領・政権が“関与していない”というのはありえない話です。

国際的にそのように言うしかなく、1時間ほどで解放したのは“脅し”“警告”の意味合いだったということでしょう。

もし、本当に政権が関与しておらず、しかも1時間で解放したということであれば、グアイド氏が「今、政権を指揮しているのは誰だ?」と言うように、政権内部に混乱が生じているということになります。

後者の可能性(ひいては、政権崩壊の可能性)を期待はしますが、やはり常識的な前者の政権による“脅し”“警告”ということなのでしょう。

【国民の大半が“マドゥロ大統領政権下ではベネスエラは良くならない” ただ、反政府運動の中核が不在】
冒頭【産経】にある“故チャベス前大統領の支持基盤だった貧困層が離れているとされ「マドゥロ氏に不満を抱える国民は増えているが、政府の弾圧を恐れ、大規模な抗議活動には広がらない」(現地外交筋)”というあたりについては、以下のような世論調査も。

****ベネスエラ国民の64,6%が国会を信頼している****
Hercon Consultores社の実施した電話による世論調査によれば、ベネスエラ国民の64,6%がベネスエラ国会新体制を支持しています。世論調査は1月6日から10日にかけて1000人を対象に行われています。
 
調査では79,2%の回答者がニコラス マドゥロ大統領政権下ではベネスエラは良くならないと答え、75,1%が政治・経済状況を好転させるためにマドゥロ政権は退陣すべきと答えています。
 
しかし反体制派リーダーに対する支持はベンテ ベネスエラの党首マリア コリナ マチャドへの支持が19,2%、レオポルド ロペスが10,5%、エンリ ラモス アルプが7,1%、新国会議長フアン グイアドが5,5%と割れています。
 
もしも政府と反体制派の交渉により新たな選挙が実施された場合、85,3%が投票に行くと答えています。
 
最後の質問は国外に逃亡した政治指導者を信頼するかというものでしたが、信頼すると答えたのは36,4%だけでした。【1月14日 「音の谷ラテンアメリカニュース」】
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どの程度信頼に足る調査なのか(本当に数字のとおり、貧困層の政権への支持も低下しているのか)は知りません。

“マドゥロ大統領政権下ではベネスエラは良くならない”と考える国民が8割ということですが、民兵などの暴力装置を駆使する政治体制がなかなか崩壊しないのが現実でもあります。

しかし、反体制派リーダーに対する支持は分散しており、「暫定大統領」を宣言したグイアド氏の国民支持は低いようです。

このあたりの野党勢力のまとまりのなさ、核となるリーダーの不在が、前述のようにマドゥロ政権の延命を助けていると言えます。

今回一時拘束されたグイアド氏が、「暫定大統領」として国内反政府運動および国際支援の受け皿となるのでしょうか?

コメント (1)
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