(【2018年2月14日 クーリエジャポン】)
【婚姻・世帯・家族の在り方に関する「多様性」を認めたうえで、「すべての子供は平等の権利を有する」】
1994年には1.65まで下がっていたフランスの合計特殊出生率が、2010年には先進国では例外的な2人を超えるまでに短期間で大幅改善したという話は、これまでも取り上げたことがあります。
当然に、手厚い子育て支援制度があっての話ですが、婚外子が6割を占めるというように、そもそも婚姻・家族・子育てに関する基本的な理念が日本とはやや異なります。ただ、フランスの「婚外子」は、日本のそれとは異なります。
****子どもの6割が、結婚していない親の子? フランスの出生率が高い理由****
2017年、フランスは先進国の中でも高い合計特殊出生率1.88を示した。その6割が、結婚していない親からの出生。
日本とは異なる視点の家族政策で先進し、少子化対策の効果を上げているフランス。『子どもの人権を尊重する』『子育てを社会が支援する』・・・欧州で多く語られるこれらの理念が、どう政策に落とし込まれているのか。
(中略)2017年、フランス国内での子どもの出生数は76万7000人で、合計特殊出生率は1.88だった。2014年の2.0人から減少傾向にあるが、依然として先進国の中でも高い出生率を保っている。
76万7000人のうち6割が、結婚していない親から出生した子どもだった。しかしそれらの親たちは片親ではない。結婚はしていないが、同居し、カップルとして共同生活を営んでいるのだ。
多くはPACS(民事連帯契約)という、結婚よりも制約の緩いパートナーシップ契約を結んでいる。が、行政書類では、このパートナーシップ契約は子の出生届と紐づけされていないため、PACSカップルの子は統計上「婚外子」と扱われてきた。
フランスで「婚外子」の割合が高くなっている背景には、このような世帯登録システムがあるのだ。
この状況を知った(フランスを視察した横浜市議の)酒井氏は、「なぜ、婚外子が増えているのか?」と疑問を抱いた。
「日本の法律には、『子どもは結婚した夫婦から生まれるもの』という前提があります。そのため、未婚の親から生まれた子を持つ世帯では、補助や公的支援を受けるのに、より煩雑な手続きを踏む必要がある。結果として、婚外子は不利益を受けてしまいます。『できちゃった婚』が多いのも、そんな理由があるからでしょう」
それだけ「結婚」と「子どもを持つこと」の結びつきが強い日本では、非婚化はそのまま、少子化に繋がってしまう。
しかし、フランスでは結婚なしに子どもが増えている。その背景にはどのような制度や社会性があるのか。結婚以外のパートナーシップ制度が、それを後押ししているのだろうか。
どんな親から生まれても、子には同じ権利を。
「フランスと日本で大きく異なる点は、どこにあるのだろう?」酒井氏の疑問にパリ市役所が与えた回答は、簡潔明快だった。
「違いは、子どもの権利の考え方ですね」市議を迎え入れた担当部署の局長、フランソワ・ギシャール氏は言う。
フランスでは1972年より、嫡出子・非嫡出子の区別なく、「いかなる生まれでも子は同等の権利を有すること」が法制化された。子が生まれて育つことに、親の結婚は関係ない、とされたのだ。婚外子は1980年代から急増し、1997年には約40%、2017年には約60%となっている。
嫌な話ですが、と前置きしつつ、酒井氏は質問を続けた。
「子が生まれても結婚しなくていい、となると、『親である責任』から逃げようとする人が出てきませんか」
結婚しなければ親としての役割が強制されない日本では、望まない人は「親の責任」から逃れることができてしまう。実際、そうして父親に去られた母子家庭を多く見てきた。
「いや、親は逃げられないんですよ」ギシャール氏の回答は、またもや明確だ。
「フランスではまず全ての親に養育義務があり、そして全ての子には『親を知る権利』があります。父親に『この子の親である』という疑いがかけられた時、唯一そこから逃れる方法は、遺伝子検査で身の潔白を証明することしかありません。そしてこの検査を拒むことは、事実上不可能です」
「フランスにおいて、子の『親を知る権利』と『親に守り育てられる権利』は、親の意志より尊重されるんです」
驚きの声を上げる二人に、ギシャール氏は至極当然のように、加えた。
「子は親を選べませんからね。親の選択がどんなものであれ、それが子の人生に悪影響を及ぼすことは、最大限防ぐべきなんです」(中略)
結婚を選ぶカップルは、全体の半数
どんな親から生まれても、子には同等の権利がある。そこから、フランスの子育て支援策は「子ども」を軸に制度設計されている。親が失業者でも移民でも、子が受けられる支援は変わらない。
一方、日本の支援策は、親を軸とした制度設計だ。「日本とは発想が逆なんですね...」と、両氏は感慨深げに頷く。
フランスのように「子の誕生=結婚」とならない社会では、結婚するかどうかは、純粋に本人同士の希望による。いま若い世代は特に、結婚を望まない人が増えている。その最大の理由は結婚、離婚に日本よりも手間がかかることだ。(中略)
そこで結婚の代わりに選ばれているのが、前述のPACS。結婚より締結も解消も容易で、遺産相続など将来的な拘束がない。一方、納税や手当受給など、日常生活に関わる部分では、結婚したカップルと同様の「世帯」として扱われる。
「PACSはもともと、同性カップルに結婚を認めないため、代替案として作られた制度です。が、今ではその95%以上が異性間の契約となっています。当初の狙いとは全く別の使われ方がされている制度なのです。2013年に同性婚が法制化されてから、PACSと結婚の割合は同性間でも異性間でも、ほぼ半々で推移しています」
つまりフランスのカップルは同性・異性を問わず、その半分が伝統的な結婚を、もう半分がより簡略的なパートナーシップ契約を選択しているということだ。
「セクシュアリティの考え方が柔軟になって、世帯のあり方も多様になりましたね。父母、父親二人、母親二人だけでなく、外見は母親でも出生記録は男性であるとか、男性二人の世帯だけれど届出上は女性二人世帯であるとか」
パリ市はそれら全てを公式な世帯登録として受け入れているという。(後略)【2018年06月13日 髙崎順子氏 ハフポスト】
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婚姻・世帯・家族の在り方に関する「多様性」を認めたうえで、「すべての子供は平等の権利を有する」という前提の上に、フランスの制度は作られています。
【「このままでは、女性たちは育児と仕事を両立できない」という現実を認め、マイナス面を補償する制度を】
短期間に出生率が改善した背景については、「このままでは、女性たちは育児と仕事を両立できない」という現実を政府が潔く認め、「もし子供を持つことで失われるものがあったら、それは全て政府が補塡します」という対応をとったことがあるとも。
****出生率が上がった。フランスが少子化を克服できた本当の理由って?****
男を家庭に返さなきゃいけない……というところから生まれた「男の産休」。
フランスでは、1994年に1.66と底を打った出生率が、2010年には2.00超まで回復した。少子化に悩む先進諸国の中で、なぜフランスは「子供が産める国・育てられる国」になれたのか。
約7割が取得する「男の産休」、全額保険でカバーされる無痛分娩、連絡帳も運動会もない保育園――。働きかた、出産や保育の価値観、行政のバックアップと民間のサポート。日本とはあまりに異なる点が多いフランスの出産・育児事情から、私たちは何を学べるのか?(中略)
髙崎 1994年にフランスの出生率が戦後最低の1.66まで下がったとき、「じゃあどうすればいいのか?」いうことを国が冷静に見つめて調べたんです。そうしたら、女性の就業率が上がっている一方で、子供の数が増えるほど、母親の離職率が上がることがわかった。
つまり「女性が仕事と子供を両立するのは難しい」こと、そしてこのままでは、「女性は子供を産むことより、仕事を選ぶ」という現実が明らかになってしまったんです。これは1997年に発表された労働省の報告書にまとめられています。
白河 仕事と出産を天秤にかけたら、女性は仕事を取る。それが調査結果で明らかになったと。
髙崎 そう。データとファクト(事実)で。日本だったら多分それは「認めてはいけないこと」とされるかもしれませんが、フランスは潔かった。「このままでは、女性たちは育児と仕事を両立できない」という現状を認めたんです。できないものはできないんだ、と。(中略)
白河 もうひとつ、私はフランスが少子化を克服できた原因として、政府が女性側にメッセージを送り続けたことが大きいと思っているんです。
「もし子供を持つことで失われるものがあったら、それは全て政府が補塡します」と。「女性が社会を信用しなくなっている」とおっしゃいましたが、フランスでは「男性が途中でいなくなっても、仕事を失っても、あなたの子育ては大丈夫ですよ」という政府のメッセージが女性側に届いたからこそ、「産んでも大丈夫」という空気ができた。政府の信用を取り戻せて、少子化が克服できたという点も大きいのでは。(中略)
白河 (日本の政治家は)「子供を持つことは喜ばしい、素晴らしいこと」としか考えていないんですよね。確かに喜びは大きいが、失われるものもある。そこが理解されない。
それと、日本では「我慢が当たり前」という風潮があって「子供のための我慢」も当たり前のものとされる。
「家族形成のための調査」という意識調査があるんですが、最新の結果で一番ショックだったのは、若い世代が「結婚には犠牲がつきものである」にみんなマルをしていることでした。結婚する人口が増えないのも当たり前ですよね。(後略)【2016年11月11日 ハフポスト】
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「良妻賢母」像を押し付け、我慢を強いるような社会では出生率は増えないということです。
子供を持つことのマイナス面を認め、それを「補償」する制度が必要になります。
【4年連続の出生率低下の背景は?】
しかし、高い出生率を誇ってきたフランスでも、ここ数年出生率の低下が続いています。
****フランスの出生率、4年連続減少 子育て予算の削減影響か****
フランスの国立統計経済研究所(INSEE)は17日までに、同国の2018年の人口統計を発表した。女性1人が生涯に産む子どもの推定人数「合計特殊出生率」は1.87で、4年連続の減少となった。
フランスは育児環境が恵まれているとされ、欧州内でも出生率は今も高水準にある。
しかし昨年11月から続く政権抗議デモは家計の購買力の改善を要求。近年の子育て政策の予算削減などが出生率減少に影響しているとも指摘されている。
INSEEによると、18年にフランスで生まれた赤ちゃんは75万8千人で、17年から1万2千人減少した。【1月17日 共同】
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低下の背景・理由については、いくつかの要因が指摘されており、今後の動向はまだ不透明です。
****「少子化克服国」フランスの出生率が下がり続けている!|先進国の“お手本”に何があったのか****
恵まれた社会保障と育児支援体制で、高い出生率を維持してきたフランス。日本でも、少子化対策はフランスに学べ、と声高に叫ばれてきた。
ところがそのフランスも、ついに先進国の例外ではなくなった。同国の「ル・モンド」紙が報じている。
3年連続低下、3つの理由
長年、子育てをめぐるフランスの状況はパラドックスだといわれてきた。「フランス人は世界一悲観的」といわれながら、この国の出生率は、アイルランドと並んで、欧州で最も高かったからだ。
ところが、そんなフランスの出生率がここ3年、連続して低下している。これは一過性の現象なのか、それとも一時代の終焉なのか──。
専門家の意見は分かれている。人口は増加し続けているものの、2017年の増加率は0.3%。2008~2013年の0.5%、2014~2016年の0.4%と比べると少ない。2017年の増加人数は16万4000人で、戦後最低を記録している。
また、2016年には1.92だった出生率は、2017年に1.88に減少した。とりわけ顕著なのが、出産適齢期とされる25~34歳の女性が子供を生まなくなっていることだ。
原因の一つは、経済的問題だと指摘されている。
2008年のリーマンショックによる出生率の低下は、先進国におおむね共通する現象だった。しかしフランスだけは、例外的に影響を受けなかった。社会保障制度が充実しており、手厚い子育て政策がとられているからだとされた。
その影響が今になって遅れてやってきたとすれば、この低下は一時的なものととらえてよい、と専門家は言う。
次に考えられるのが、オランド前政権(2012~2017年)下で始まった子育て政策の予算削減だ。この政策はマクロン政権にも継承されている。
公的な援助が以前ほど保障されなくなったせいで、国民が将来に不安を感じて子供をもうけなくなったとすれば、出生率は今後も低下し続けるだろう。
さらに、若年層のライフスタイルとメンタリティの変化が挙げられる。学業の長期化に伴って出産年齢が上がれば、出産が難しくなるのは自明である。実際、フランス人女性の初産年齢は、2007年には平均29.8歳だったが、2017年は30.6歳に上昇している。
子供をもうけるには経済基盤の安定が不可欠だが、フランスでは、若年層がなかなか安定した職に就くことができない傾向にある。こうした状況も、出産年齢の高齢化につながっている。
「68年5月革命世代」と呼ばれるベビーブーム世代が高齢化を迎えている今、死亡数が増えるのは必然で、大きな人口増加は期待できない。
一方で、移民という肯定的要因も存在する。2017年、移民流入による人口増加は6万9000人に上った(至近の流入数は統計に含まれないので、実際の数はもっと多いとされる)。
これまで、移民はフランスの人口増加にはあまり寄与していないといわれてきた。だが、今後は他の欧州諸国同様、移民が出生率回復のカギを握ることになるだろう。(後略)【2018年2月14日 クーリエジャポン】
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【労働力不足が進行する日本経済を支えるのは中国人労働者?】
日本の状況は今更の話ですが、人口減少が迫ってきた中国のメディアも日本の状況には関心があるようです。
****出生数の減少、日本の経済成長を阻む足かせに―中国メディア****
2019年1月19日、経済日報は、日本で出生数の減少が高齢化と就業人口の低下を加速させ、経済発展の足を引っ張っていると報じた。
記事は、厚生労働省がこのほど、最新の人口統計と中期的な就業人口の予測結果を発表したと紹介。2018年の出生数推計は17年を約2万5000人下回る92万1000人で1899年の統計開始以降で最低の数値が示された一方で、死亡者数は136万9000人となっており、差し引きで44万8000人の人口減になるとし、こちらも過去最大の人口減少幅になると伝えた。
また、同省が15日に発表した2040年の就職者数推計では「日本経済の低成長が続けば、女性や高齢者などの労働参加率が高まらない限り、日本の就業者数は2017年より20%減少し、仮に経済が高い成長を維持したとしても10%の減少になる。
社会の生産力を発展させるには、毎年生産効率を2.5%高める必要があり、そのうち人工知能などの技術進歩で高められるのは0.8%分で、残りは労働者の技能を高める必要がある」との見解が示されたことを紹介している。
そのうえで記事は「日本で出生数が減少している主な原因は、25〜39歳の女性人口の減少にあり、同省によれば毎年約25万人のペースで減少しているという。
出生数減少は高齢化を激化させ、高齢者の増加は年金や医療費の支出を増やすことになる。そして、人口低下に伴う労働力不足も相まって、経済発展の大きな足かせになるのだ。
専門家は、日本政府が近年、託児所建設、無償教育などの措置を講じているものの、さらに一歩進んで出産・育児にマッチした女性の就業、児童福祉などの環境づくりが必要だとの指摘が出ている」と解説した。【1月20日 レコードチャイナ】
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中国メディアに言われるまでもないところですが、なかなか・・・
減り続ける日本の労働力を支えるのは結局、外国人労働者の多くを占める中国人だ・・・とも。
****労働力不足の日本、「今後受け入れる移民の大半は中国人になるだろう」=中国メディア****
少子高齢化の進んでいる日本では労働力不足が大きな社会問題となっている。
その問題を解決するため、日本は外国人労働者の受け入れを拡大する方向に舵を切ろうとしているが、中国メディアの快資訊は16日、「日本が受け入れる移民の大半は中国人になるはずだ」と伝えている。【1月20日 Searchina】
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ただ、記事は「今後の中国でも労働者が不足してくると見込まれているため、中国人労働者がどれだけ日本にやってくるかは未知数なのではないだろうか。」とも指摘しています。
お隣・韓国は出生率が1を切るという、日本以上に深刻な状況です。今後、東アジアは労働力獲得競争になるのでしょう。