孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

変化する中東情勢  対イラン等でアラブ世界との関係を強化するイスラエル 取り残されるパレスチナ

2019-01-16 22:56:27 | 中東情勢

(【2018年3月26日 CNN】昨年3月、インドの航空大手「エア・インディア」は、インドの首都ニューデリーを出発し、サウジアラビアの領空を通って、イスラエル・テルアビブの空港に着陸する航空便の運航を完了させました。イスラエル便がサウジの領空を通過するのは世界でも初めてのこと。画像ではイスラエルとインドの旗が掲げられていますが、もう1本、サウジアラビアの旗も掲げるべきでしょう。)

【パックス・アメリカーナから地域大国の合従連衡へ】
米軍のシリア撤退をもちだすまでもなく、中東におけるアメリカの存在が薄れているのは今更の話です。

****アメリカの覇権が終わり、地域大国の時代に 激変する中東のいまはこう読む****
■パックス・アメリカーナから合従連衡へ
(中略)ところがここ10年の間、まあ20年ぐらいでしょうか、特に2003年アメリカがイラク侵攻をしてから、この体制が崩壊しはじめました。

そしてアメリカはイラク侵攻後、中東では手を広げすぎた状態になってしまいました。オバマ政権とトランプ政権にはいろいろな大きな違いがありますが、その違いの背後には一つの連続性があります。

オバマ大統領とトランプ大統領に共通する状況は、アメリカがこの地域を、以前のようにまとめ上げることができなくなったことです。

その代わりにトルコ、イラン、あるいはサウジアラビアといったような地域大国が以前にまして積極的な外交攻勢を展開するようになりました。

こうした国々はもはや、共通する外部の大国と向き合うだけでなく、合従連衡を戦術レベルで繰り広げます。つまり、一つのグローバルな対立があったり覇権国がいたりするわけでなく、複数の地域的主体が生まれたのです。まず、それがグローバルなレベルでの変化です。【2018年12月27日 GLOBE +】
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【イスラエル・サウジ・アメリカ対イランの構図】
アメリカ・トランプ政権は、この地域大国の合従連衡と連携する形で中東、特にイランの勢力拡大を阻止しようとしており、ともにイランを敵視するイスラエルとサウジアラビアとの関係強化を重視する姿勢を見せています。

****ポンペオ米国務長官、中東への関与強調=対イラン、テロ戦で共闘訴え****
ポンペオ米国務長官は10日、訪問先のエジプト・カイロで演説し、「米国はイスラム過激派のテロリズムに対抗し、対テロ戦で不動のパートナーであり続ける」と述べ、中東への関与継続を表明した。

トランプ政権が封じ込めを図るイランを「共通の敵」と呼び、「イランの現状が続けば、中東諸国は決して安全や経済的安定を得ることはできない」と対イラン共闘を呼び掛けた。

トランプ大統領が米軍のシリア撤収を突如表明し、中東諸国では米国の中東政策に対する困惑や疑念が広がっている。改めて関係強化の意思を示すことで、懸念を打ち消す狙いとみられる。【1月11日 時事】
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【中東世界での存在感を強めるイスラエル】
アメリカがパートナーとするサウジアラビアはカショギ氏殺害事件で、しばらくは動きがとりづらい状況になっていますが、もうひとつのパートナーであるイスラエルの方は中東世界における存在感を強め、イランに対する攻撃を隠そうともしなくなくなっています。

****シリアのイラン武器庫空爆=イスラエル首相、異例の確認****
イスラエルのネタニヤフ首相は13日、シリア領内にあるイランの武器庫を空爆したことを認めた。イスラエルはシリア領内を狙ってたびたび攻撃を繰り返しているとされるが、首相自ら公式に確認するのは異例だ。
 
ネタニヤフ首相は「過去36時間で首都ダマスカスの空港にあるイランの武器を格納する武器庫を攻撃した」と明言。「最近の攻撃強化は、シリアにいるイランに対して行動を取るというこれまで以上の決意の表れだ」と強調した。【1月13日 時事】 
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イスラエルによるシリア領内のイラン・ヒズボラ関連施設への攻撃事態は、極めて“日常的”な事態になっています。

****イスラエル軍のシリア空爆、過去18か月で202回 異例の公表****
イスラエル軍当局は(2018年9月)4日、隣国シリアで過去18か月間に202回の空爆を実施し、そのほとんどはイランの革命防衛隊を標的にしたものだったと明らかにした。

匿名の軍当局者がイスラエルの報道各社が報じた内容を確認し、空爆でミサイルや爆弾およそ800発が使用されたと語った。このような軍事行動についてイスラエル軍が公表することはまれ。
 
イスラエルは、シリア内戦でバッシャール・アサド政権を支援しているイランがシリア国内で軍事的影響力を確立することを防ぐ姿勢を明確にしている。
 
イスラエル軍は、イランが支援するレバノンのイスラム教シーア派原理主義組織ヒズボラへの武器提供を防ぐため、シリアで数十回の空爆を実行したことは認めていた。

その一方で、過去数か月にシリアで行われイラン人が犠牲となった一連の空爆はイスラエルによるものとみられていたものの、イスラエル軍がそれらの空爆を実施したと認めたことはほとんどなかった。(後略)【2018年9月5日 AFP】
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こうしたイスラエルの空爆に対し、シリアに展開するロシアがどのように対処しているのか(黙認しているのか)という話にもなりますが、そのあたりは今回はパスします。

イスラエルが大胆にふるまえるのは、中東世界におけるイスラエルの立ち位置の変化があります。

以前は、中東世界における構図は、パレスチナ問題に代表されるアラブ世界対イスラエルという図式であり、イスラエルの不用意な行動はアラブ世界全体を敵に回すことにもなりました。

しかし、現在はイラン対イスラエル・サウジ・アメリカという図式が定着し、アラブ世界の多くの国もイスラエルとの関係を認めるようになっています。

ともに対イランのタッグを組むサウジアラビアとの関係では、国際世論から非難の集中砲火を浴びたカショギ氏殺害事件に関しても、イスラエルは「サウジアラビアが不安定になれば、中東ばかりか、世界全体が不安定になる」(ネタニヤフ首相)と述べて、国際社会に「バランス」のとれた対応を求めています。

更には、“十二月上旬、イスラエルのテレビ局が「ネタニヤフ政権は、サウジアラビアとの正式な国交樹立を望んでいる」と伝えたのだ。首相の意向を観測気球として伝えたもので、首相府は報道後、コメントを控えた。”【「選択」1月号】とも。

もともと、カショギ氏殺害につながった携帯を使用した盗聴・盗撮ソフトウェアは、イスラエルがサウジアラビアに提供したものだったとも。【同上】

(スパイウェアを仕掛ければ携帯を勝手に起動してマイク・カメラをオンにすることができるようです。話はそれますが、アメリカがオーストラリアに展開している南シナ海・アジアをカバーする情報監視基地を舞台にしたネットフリックス配信動画「パイン・ギャップ」を観ていると、そうした技術などを駆使して、今はどんな情報も(国家首脳周辺だろうが軍事関連だろうが)知らいない間に“筒抜け”になってしまう時代のようです。スノーデン容疑者が明らかにした世界です。)

イスラエルとの関係を強化しているのはサウジアアラビアだけではありません。

****「共通の敵」で関係改善?イスラエル接近、揺れるアラブ****
中東のイスラエルが国交のない湾岸アラブ諸国に相次いで閣僚を派遣し、関係改善を図っている。
 
イスラエルのネタニヤフ首相は10月26日、国交のないオマーンを首相として22年ぶりに訪れ、カブース国王と会談した。ネタニヤフ氏は「近年、アラブ諸国と進めてきた外交努力の一環だ」と述べ、「さらに続く」と予告。

11月7日にはカッツ運輸相をオマーンでの国際会議に派遣し、自国とサウジアラビアなど湾岸アラブ諸国を結ぶ「平和鉄道」の建設構想を提案した。
 
また、10月28日にはレゲブ文化・スポーツ相をアラブ首長国連邦(UAE)であった柔道国際大会に出席させていた。大会ではイスラエルの選手が優勝し、同国の国歌がUAEで初めて公式に演奏された。

旧敵つなぐ「共通の敵」
イスラエルは1948年の建国後、アラブ諸国と4度戦争した。エジプトとヨルダンを除き、現在もアラブ諸国とは国交がないが、近年はイランを「共通の脅威」として、関係改善を目指している。

前イスラエル外務次官のドア・ゴールド氏は「今までも水面下の交流はあったが、現在は一部を公にできるようになった。アラブ諸国がイスラエルより、イランやイスラム過激派を最大の脅威と見るようになったためだ」と言う。
 
一方、アラブ諸国のうちイスラム教スンニ派の盟主サウジアラビアは、シーア派のイランと地域の覇権を争ってきた。隣国イエメンの内戦でイランと代理戦争を続けるほか、イラクやレバノンなどでも対立する。
 
トランプ米政権は中東で「イラン包囲網」を築こうとしており、米国と同盟関係にあるサウジとイスラエルはこの動きを利用した格好だ。(中略)

イスラエルの接近に、パレスチナ問題で団結してきたアラブ諸国は難しい対応を迫られている。アラブ連盟は2002年、第3次中東戦争(1967年)の占領地からイスラエルが撤退し、パレスチナ国家の樹立を受け入れれば、関係を正常化すると約束した「アラブ和平イニシアチブ」を採択した。

米国への配慮、市民感情
ただ、親米国エジプトやヨルダンは米国から多額の軍事・経済援助を受けており、米国の中東政策に反対しにくい事情も抱える。トランプ政権が米大使館をエルサレムに移した時も、アラブ諸国は一枚岩の強い対応を取り切れなかった。(中略)

湾岸情勢に詳しいエジプトの研究者サメフ・ラーシッド氏は「アラブ諸国には、依然として反イスラエル感情を持つ市民もいる」と説明。サウジなどがイスラエルと早期に関係改善するのは難しく、市民感情に配慮しながらの対応が必要になると指摘する。【2018年11月13日 朝日】
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“さらに十一月には、「バーレーンを近く訪問する」と語った。サウジアラビアの影響力が強い国だけに、バーレーン訪問は、サウジとの極秘外交のバックチャンネル作りが狙いと見られている”【「選択」1月号】

イスラエルと国交があるエジプトもシナイ半島に跋扈するイスラム過激派対策でイスラエルとの関係を強化しており、そうした関係を(やや躊躇しながらも)公にし始めています。

****旧敵イスラエルと軍事協力 エジプト大統領、初めて明言****
エジプトのシーシ大統領は6日に放映された米CBSのニュース番組のインタビューで、東部シナイ半島で展開している過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討作戦でイスラエルと協力していると述べた。シーシ氏がイスラエルとの軍事協力に言及したのは初めてとみられる。
 
CBSによると、掃討作戦について問われたシーシ氏は、「イスラエルとは広範囲に協力している」と述べた。
 
シナイ半島にはISに忠誠を誓う過激派が潜伏。エジプト軍は昨年2月以降、掃討作戦を強化した。イスラエル空軍も過激派の拠点を空爆していると報じられた。シーシ氏の発言は、それを指すとみられる。
 
エジプトは1967年の第3次中東戦争でイスラエルにシナイ半島を奪われた。両国は79年に平和条約を締結し、シナイ半島は82年以降、エジプトに返還された。ただ、エジプト国民の間には反イスラエル感情が強いとされる。

CBSによると、駐米エジプト大使がこのインタビューの放送中止を求めたという。【1月8日 朝日】
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【アラブ世界のイスラエル接近で取り残されるパレスチナ自治政府】
まずはパレスチナ国家の樹立を・・・とする「アラブ和平イニシアチブ」が形骸化し、イスラエルとアラブ諸国の関係が強化されるなかで、パレスチナ自治政府は“取り残される”状況にもなっています。

イスラエルの働きかけは、パレスチナ自治政府とも対立関係にある仇敵「ハマス」にまで及んでいるようです。

****パレスチナ自治政府の窮状深まる=和平仲介者現れず―政敵ハマスは立場強化****
パレスチナ自治政府の窮状が深まっている。「エルサレムはイスラエルの首都」と昨年12月に認定したトランプ米政権による中東和平仲介を拒否する姿勢を貫くが、米国に代わる仲介者は1年たっても不在のまま。

1993年のオスロ合意で始まった和平プロセスへの期待はしぼむ一方だ。和平交渉を長年取り仕切ってきたパレスチナ高官のアリカット氏は「今年は過去25年で最悪の年だった」と嘆く。
 
自治政府のアッバス議長は米国に代わり、国連などを通じて多くの国が関与する和平仲介の枠組みが必要と判断。新たな「国際和平会議」の開催を求めてきた。しかし、国際社会の反応は鈍く、実現の見通しは立っていない。
 
和平交渉は、トランプ氏が大統領に就任する前の2014年から中断されている。こうした中、イスラエルは今年もパレスチナが将来の国家の領域とみなすヨルダン川西岸での入植活動を拡大させ、自治政府が目指す独立国家樹立は一段と困難になった。
 
一方、パレスチナ自治区ガザを10年以上にわたって実効支配し、自治政府と対立するイスラム組織ハマスは、カタールの仲介でイスラエルとの間接交渉を活発化させた。

その結果、イスラエルは経済封鎖下のガザにカタールの支援で多額の現金を運ぶことを容認。11月と12月にそれぞれ1500万ドル(約17億円)が搬送され、ハマスは資金を住民の雇用創出などに充てた。
 
国際社会から支援を受ける自治政府は、ガザへの資金供給を絞ることでハマスに圧力をかけ、影響下に置く戦略を描いてきたとされるが、自治政府を介さない支援が拡大すれば機能しない。

ハマス広報担当のカセム氏は、間接交渉で「カタール、(ガザとイスラエルに隣接する)エジプト、国連機関がそれぞれ役割を果たしている」と述べ、ハマスの立場は強化されつつあるとの認識を示した。
 
議長の支持基盤ファタハの幹部は、イスラエルはガザへの現金搬入を認めることで、ヨルダン川西岸のファタハとガザのハマスによる和解を阻み「パレスチナの分断を固定化しようとしている」と非難する。

ただ、今後の対イスラエル交渉について「打開策は思いつかない」と語り、自治政府として打つ手がないことを率直に認めた。【12月29日 朝日】 
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もちろん、イスラエルとハマスの関係は上記のような協力関係だけではなく、容易に軍事衝突へと向かうような危うい関係ではありますが・・・。

パレスチナ自治政府としては、このままでは埋没してしまうという危機感があってのことでしょうか、成算のない国連への正式加盟申請に向けた動きも報じられています。

****パレスチナの国連正式加盟申請****
本当なのでしょうか?

al qods al arabi net は、パレスチナの外相が、パレエスチナは国連に正式加盟申請をする用意ができていると語ったと報じています。

何しろ国連への加盟については、総会での承認(確か3分の2の賛成が必要だったと思う)に先立ち、安保理の承認が必要で、当然この問題は実質事項ですから常任理事国の拒否権が適用され(他方手続き事項については拒否権はない)、パレスチナの加盟申請に対しては、米国が何度も公言している通り、拒否権を使うことは明らかで、そのためこれまでパレスチナ側は、何度も申請をちらつかせながら、正式の申請はしてこなかったと記憶しています。

因みに現在のパレスチナの国連での資格はオブザーバーです。
パレスチナ外相も、米国の拒否権は十分承知しているが、パレスチナとしては国際的正統性を獲得するためにも、正式加盟国の地位を目指すとしている由

如何なる米政権でも(オバマ政権でも)拒否権を投じることが予測され、特に現在はイスラエル一辺倒のトランプ政権で、拒否権が行使されることは120%確実なときに、なぜこのような動きが出てきたのか、問題はその辺です。

想像するに、トランプ政権では、次から次へと親イスラエル政策(その最大のものが歴代政権が避けてきた、米大のエルサレムへの移転)が打ち出され、パレスチナ和平に関しては「世紀の取引」を発表するとしつつ、どうも何時になるのか?どうせ一方的なイスラエル寄りの政策だろうと思われていて、おまけにサウディはじめ湾岸諸国のイスラエルとの接近が目立ってきて、おそらくパレスチナ人一般のみならず、その指導者の間でも、危機感が強まっているのではないでしょうか?

その意味で、これ自体はどうせ実現しっこない話ではありますが、パレスチナ側のフラストを示す尺度になるのかな?と・・・・取りあえずご参考まで【1月16日 「中東の窓」】
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パレスチナ自治政府としては、何かアクションを起こして存在をアピールしないと・・・といったところでしょうか。

なお、イスラエルが主敵とするイランは、制裁で厳しい状況にあることもあってか、目立った動きはありませんが、ロウハニ大統領が3月にイラクを訪問するとアラブメディアが報じているようです。

そのメディアは“現在米国がイラクに対して、イランとの経済関係をさらに縮小するように、圧力をかけているときのイラン大統領の訪問ということで注目される”とも。【1月15日 「中東の窓」より】

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「ロシア・ベラルーシ連邦国家」再浮上 再選のないプーチンがトップに? 北方領土問題も関連

2019-01-16 00:02:48 | ロシア

(“ベラルーシ”で検索すると、画像にはミスコンなどの美女の画像が並びます。日本のテレビ番組でも「美人ばっかり」「街中がスーパーモデル」などと紹介されたこともある美女大国だとか。画像を眺めていたら、ブログ更新が0時を過ぎてしまいました。)

【北方領土返還に反対するロシア世論 これを無視できないプーチン大統領】
ロシアとの北方領土をめぐる交渉は各メディアがこぞって取り上げていますので、敢えて私がここで取り上げるまでもありません。

全体の流れとしては、何らかの成果を出したい安倍政権・日本側に対し、ロシア側は“日本が、第2次世界大戦の結果、島々がロシアの主権下になったことを認めることが「最初の1歩だ」”(ラブロフ外相)など日本に対する牽制が目立ち、難しい交渉(これまで何十年もそうでしたが)が予想されています。

ロシア側の厳しい対応の背景にあるのが、返還に反対するロシア世論です。プーチン大統領としてもこの世論を無視して強行すれば、年金制度改革問題で低下した自身の支持率がさらに低下するという、非常に危険なことになります。

****プーチン政権は世論重視 領土交渉に期待薄****
日露平和条約締結に向けた北方領土帰属交渉をめぐり、ロシアで「交渉の行方を左右する最大の要素はプーチン大統領への国内世論だ」との見方が強まっている。

年金制度改革や経済低迷で支持率が低下している露政権に対し、野党は領土問題でも攻勢を強めている。国内世論を重視するプーチン氏を相手に、日本が“譲歩”を引き出すのは容易ではない情勢だ。
 
露世論調査によると、領土交渉に関して42%のロシア人がプーチン政権に批判的で、77%が「一島も引き渡すべきではない」と回答。露有力紙「独立新聞」は「批判は合理性ではなく感情や愛国心に基づいている」とし、劇的な世論変化は起きにくいと分析する。
 
露共産党は政権を「日本に融和的だ」と批判。昨年12月には露極東で反対集会を組織し、数百人を動員した。露自由民主党の議員も今月、領土返還を禁じる法案を国会に提出している。
 
昨年の知事選では複数の与党候補が敗れたほか、80%を超えていたプーチン氏の支持率も60%台に低下。プーチン氏にとり、さらなる政治基盤の弱体化は何としても避ける必要がある。
 
今週末にはモスクワで領土返還に反対する初の大規模集会も予定されている。国内世論が厳しさを増す中、ロシア側の姿勢軟化は期待しにくいとみられる。【1月14日 産経】
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ロシアが民主主義国家であれば、世論動向に縛られて身動きがとれないのは当然のことでもあります。こういうときだけプーチン大統領に世論を無視した強権発動を期待するのは虫が良すぎるでしょう。

【北方領土交渉で“譲歩”しても、ベラルーシという「領土獲得」ができれば・・・】
でもって、今日「北方領土問題」に冒頭で触れたのは、この問題がロシア・ベラルーシ関係に連動しているという面白い記事を目にしたからです。

「北方領土問題」をいじると、ロシアの抱える第2次大戦後の他の領土問題(中国との関係など、「北方領土」以外はあらかた片付いたと思いますが)に影響する、したがってロシアはおいそれとは「北方領土問題」にはさわれない・・・という話は昔から聞いていますが、ベラルーシとの関係に影響するというのは?

****露、ベラルーシに統合迫る 石油価格で圧力 プーチン氏「新ポスト」で居座り画策?****
ロシアのプーチン政権が、隣国ベラルーシへの石油供給価格を引き上げるなど圧力をかけ、ロシアとの国家統合を迫っている。

露憲法は大統領の連続3選を禁じており、プーチン大統領の任期は2024年まで。ベラルーシ統合によって国家指導者の「新ポスト」を創出し、24年以降も政権に居座る思惑だ−といった観測が出ている。
 
ロシアの“領土拡大”が国内でプーチン氏の支持基盤強化につながり、日本との北方領土交渉に変化を与える可能性も指摘される。
 
露・ベラルーシの不和が表面化したのは昨年12月。ロシアはベラルーシに特恵的な価格で石油を輸出してきたが、昨年8月に税制を変更し、実質的にベラルーシ向け石油を値上げした。ベラルーシは安価なロシア産原油の精製や国外転売で外貨を得てきたため、強く反発している。
 
ベラルーシのルカシェンコ大統領は12月、「(ロシアの)税制変更により、今後6年間で計108億ドル(約1兆1700億円)の損失を被る」と主張した。
 
両国首脳は12月25日と29日に長時間会談。ベラルーシ側が石油・天然ガス価格の引き下げを求めたのに対し、ロシアは「連合国家」の統合深化を優先すべきだとの立場を鮮明にした。
 
両国は1990年代、「連合国家」を形成することで合意し、両国の議員会議や一定の共通予算が設けられるなどした。ただ、2000年に第1次プーチン露政権が発足して以降、ベラルーシ側は主権喪失への警戒感を強め、実質的な進展はなかった。
 
ここにきてプーチン政権は、改めて統合の強化を打ち出している形だ。露リベラル派の電子メディア「新時代」は、プーチン氏が24年以降も「連合国家のトップ」として君臨する青写真を描いている−と伝えた。
 
ルカシェンコ氏は1994年から大統領の座にあり、「欧州最後の独裁者」と称される。露通貨の導入をはじめ、ロシアの要求する統合強化には抵抗する可能性が高い。

ただ、ベラルーシ国民にはナショナリズムが希薄で、軍や治安・特務機関には「ロシア編入」を望む勢力もある。
 
ロシアは2014年3月、ウクライナ南部クリミア半島を一方的に併合。国際社会からは猛批判を浴びたが、国内ではプーチン氏の支持率が8割超に跳ね上がった。

経済不振や不人気な年金制度変更などでプーチン氏の支持基盤には陰りが見られ、“領土拡大”を人気回復につなげる思惑も指摘されている。
 
日本に北方領土交渉で“譲歩”すれば、プーチン政権は国民の反発を買う恐れがある。米ブルームバーグは、ベラルーシという「領土獲得」でバランスを取りうるとの見方を伝えた。【1月13日 産経】
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北方領土交渉で“譲歩”する一方で、ベラルーシという「領土獲得」でバランスを取りうる・・・・・もしそういう形になれば、「バランスを取りうる」なんてものではないでしょう。

一部の極東住民以外にとっては「北方領土」は、見たこともない“概念的”な存在にすぎませんが、“スラブの兄弟”“兄弟国家”ベラルーシとなると話は全く違います。単に経済規模といった量的な問題、欧州との関連での地政学的重要性だけでなく、“血のつながり”みたいな親近感があります。

一応「連合国家」協定には署名していますので、現在もロシア・ベラルーシ連邦国家は形式的には存在していますが、これを実体化し、実質的にはベラルーシをロシアが呑み込んでしまい、その頂点にプーチン“連邦国家元首”が君臨する・・・との目論見のようです。

【ロシア・EUを天秤にかける「欧州最後の独裁者」】
ベラルーシ(“白ロシア”)と言われても、私もあまりイメージがわきません。ルカシェンコ大統領が「欧州最後の独裁者」として知られていること、ロシアに近い国家ではあるが、欧州とも“天秤にかける”ような外交をとっていること・・・ぐらいでしょうか。

****知られざるユーラシア②ウクライナ・ベラルーシ(その2)****
(中略)ベラルーシ(ベラルーシ共和国)は、地理的にはロシア連邦、ポーランド共和国、リトアニア共和国、ウクライナ等に囲まれた内陸国です。(中略)歴史的にはロシアとポーランド双方から多大な影響を受けてきた国であると言えます。

歴史上、現在のベラルーシにあたる地域は中世以来「ポーランド・リトアニア共和国」の領土であり、近世のポーランド分割によりロシア帝国に編入されました。

それ以来、ベラルーシはロシアの影響下に置かれ、ソ連時代はその15共和国のうちの1つとして知られ、ソ連崩壊に伴いウクライナとともに独立しました。(中略)

現在のベラルーシについてもっとも良く知られているのは、この国が「独裁国家」であるということです。ベラルーシの大統領であるアレクサンドル・ルカシェンコは、1994年にベラルーシ初の大統領に就任して以来、現在に至るまで実に24年ものあいだ、権力の座についています。

憲法で再任回数に制限がある一般的な民主主義国家では考えられない事態ですが、ルカシェンコは憲法を改正し、大統領に5回就任しています。

形式的には議会制民主主義の形をとっているので、大統領制ではしっかりと投票が行われるのですが、この投票については公正に行われていないという批判もあります。ただし、国民のあいだでルカシェンコ大統領を支持する声が多く聞こえてくるのも事実です。

「独裁」というとどうしても「悪」というイメージと結びつきますが、世界にはシンガポールの開発独裁のような政治体制も存在し、そう単純に善悪を決めつけることはできません。ベラルーシの場合、ルカシェンコは近隣諸国との関係を操る手腕が評価されています。

だからと言って独裁が肯定されるわけではないのですが、ベラルーシの地政学的な特質がこのような政治体制を生み出したことは事実でしょう。

昨日の記事で取り上げたウクライナでは、ロシアとの関係悪化・急激な親欧米政策が結果としては戦禍を生み出しました。一方、ベラルーシは親ロシア的政治を行っていると言われることが多いのですが、実際はそこまで単純ではありません。

ルカシェンコは、ベラルーシの権益を保つため、基本的には隣国ロシア連邦と強調する政策を取っています。しかしながら、これはベラルーシが完全な親ロシア・反欧米国家であることを意味しているのではありません。

ルカシェンコは時にはEUと強調する姿勢をも見せながら、ベラルーシに有利な国際関係を築くことを優先しているようです。

また、近年ではベラルーシは中華人民共和国との関係性を急激に深めています。中国との関係強化には政治的、軍事的な大きなリスクもあり、賛否両論ありますが、ベラルーシに多大な経済効果を生み出していることは事実です。

このように、ベラルーシの大統領ルカシェンコは、周辺諸国との関係性を巧みに利用し、自国に有利な条件で国際関係を構築しています。

この点で、自国の政治や文化の保全に重きを置き、ロシアとの対立を生み出したウクライナの政策とは対照的なものだと言えるでしょう。

さて、上記の通りロシアとは基本的に友好関係にあるベラルーシですが、1999年には「ベラルーシ・ロシア国家連合」という連邦国家の設立に調印し、ベラルーシとロシアは統合されるかのような動きを見せました。

しかし、当時のロシア連邦大統領であったボリス・エリツィンが退陣し、プーチン大統領が就任すると、両国の関係性は以前ほど良好ではなくなり、この連邦国家計画は頓挫しました。

このような経緯があってもなお、形式的にロシアとベラルーシの良好な関係は継続していると言って良いでしょう。

ベラルーシは現在、ロシア連邦主導の国際機構である「ユーラシア関税同盟」や「ユーラシア経済連合」に加盟し、経済的にロシアとの協調を保っています。

一方、ベラルーシはEU(ヨーロッパ連合)の潜在的加盟候補国に含まれることもあり、EU主導の連合協定である「東方パートナーシップ」に参加するなど、西ヨーロッパとの関係も強化しつつあります。

この原因としては、クリミア併合などで国際的な批判、圧力を受け疲弊するロシアがパートナーとして頼りなくなってきたということが挙げられるかもしれません。

さらにベラルーシと中国との関係も見逃すことはできません。ベラルーシの対中貿易額は年々増加しており、経済的に中国に依存しつつあることが目に見えます。中国が主導する協力機構である「上海協力機構」にも、ベラルーシはオブザーバーとしてではありますが、参加しています。(後略)【http://keigilbert.com/2018/12/31/知られざるユーラシア②ウクライナ・ベラルーシ-2/
*****************

【ルカシェンコが抵抗するなら、対立候補擁立で排除?】
話を“ロシア・ベラルーシ連邦国家”に戻すと、この話が再浮上している背景については、以下のようにも。

****再浮上するロシア・ベラルーシ連邦国家****
形骸化しているロシア・ベラルーシ連邦国家に新たな動きがみられる。ロシアの憲法の規定により2024年に任期が終わり再選はできないプーチン大統領が、ロシア・ベラルーシ連邦国家の元首に就任することで、事実上の終身大統領となる選択肢を得るものと見られている。(モスクワ支局)

プーチン氏「終身大統領」も ルカシェンコ氏排除の臆測
ロシアとベラルーシを統合し、一つの連邦国家をつくるロシア・ベラルーシ連邦構想は、エリツィン時代に具体化した。1999年、エリツィン大統領とベラルーシのルカシェンコ大統領が「ベラルーシ・ロシア連合国家創設条約」に調印。同条約は2000年に発効した。
 
ロシアにとってベラルーシは、北大西洋条約機構(NATO)と対峙(たいじ)するロシアの「緩衝地帯」である。旧東欧諸国を失ったロシアにとって、ベラルーシを自らの陣営に確実に繋(つな)ぎ留めることは、政治的・軍事的な価値がある。
 
一方、ベラルーシは、「欧州最後の独裁者」と呼ばれるルカシェンコ大統領の下、市場経済化などの大きな経済改革は行わず、ソ連時代さながらの経済体制を維持している。このベラルーシの生命線は、ロシアから供給される安価な原油や天然ガスだ。
 
「スラブの兄弟」としてロシアにすり寄るベラルーシが輸入する安価な原油は、ベラルーシで精製され、その石油製品はロシアや欧州などに輸出されている。カリ肥料と並び、ベラルーシ経済を支える重要な輸出品だ。これなしで経済は成り立たない。
 
また、ルカシェンコ大統領にとって、ロシア・ベラルーシ連邦国家の最高指導者に就任することは、長年の野望であった。
 
しかし、プーチン大統領が就任すると、状況は一変する。「経済規模はロシアのわずか3%(プーチン大統領)」というベラルーシとの対等な統合にプーチン大統領は難色を示した。
 
その後、ロシア・ベラルーシ連邦国家は形骸化し、ほぼ名目上の存在に変わっていった。しかし、ベラルーシに対するさまざまな支援はその後も紆余(うよ)曲折を経ながら継続した。
 
この状況が大きく変わったシグナルは、昨年8月10日にロイターが配信した記事だ。ロシアの予算状況が厳しくなる中で、ベラルーシへの安価なエネルギー輸出を制限する、との内容である。その後、ロシアとベラルーシの経済関係は大きく変化していった。(中略)
 
ルカシェンコ大統領も状況の変化に対応し、必死に連邦国家を維持しようとしている。しかし、なぜこの時期に、連邦国家が改めてクローズアップされたのか。それは、プーチン大統領は24年に任期満了を迎え、憲法の規定で、再選ができないからだ。
 
すでに憲法裁判所のゾリキン長官などから、憲法改正の観測気球が上げられている。しかし、憲法を改正しての任期延長は対外的な評価に関わるうえ、今後、同様の事態を招きかねない懸念がある。
 
そこで浮上しているのが、ロシア・ベラルーシ連邦国家を、ロシアが事実上ベラルーシを吸収する形で実現し、その最高責任者にプーチン大統領が就任するのでは、との見方だ。
 
これにルカシェンコ大統領が抵抗する場合、来年のベラルーシ大統領選挙にロシアの息のかかった候補を擁立し、ルカシェンコ氏を排除するのでは、とも言われている。

24年まではまだ時間があり、また、ベラルーシをそのまま吸収するのはロシアにとっても負担が大きい。このため、この5年間で検討を重ねながら、通貨の統合や関税の一元化などの方策からスタートするとの見方がある。【1月11日 View point】
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ルカシェンコ大統領を排除して、実質的にロシアがベラルーシを吸収ということになると、国際的に相当の問題を起こしそうです。ウクライナやバルト三国は更に対ロシア警戒を強めるでしょう。プーチン大統領もそこまでやれるでしょうか・・・?

【「ソ連邦」という入れ物を恋しがるロシア国民】
なお、ロシア国内においては、1991年のソ連邦崩壊を残念に思う国民が増加しているという世論調査結果が、先日日本のマスコミでも報じられていました。

この意味合いについては、以下のようにも。

****ロシア国民はソ連崩壊の何がそんなに残念なのか?****
(中略)
ソ連邦という入れ物が大事で、必ずしも中身ではない
我々は、「ロシア国民がソ連邦崩壊を残念がっている」と聞くと、「彼らは社会主義計画経済を復活させたがっているのだろうか?」という疑問を抱いてしまいます。

しかし、上掲の回答振りから推察する限り、彼らが主に嘆いているのは、元々一つの大国だったソ連邦が15の独立国に分かれてしまい、しかも独立国同士の関係がぎくしゃくしてしまったことです。その結果、企業同士の取引や人々の社会生活にも影響が生じました。

特に、ロシアとウクライナは切っても切れない深い繋がりがありますので、2014年以降ウクライナがロシア離れを加速させていることで、「嗚呼、ソ連の時代は良かった」との思いを募らせているロシア国民が増えているということではないでしょうか。

今日でも多くのロシア国民がこだわっているのは、ソ連邦という入れ物のはず。必ずしも中身、つまりソ連時代の生活様式を復活させたいということではないと思います(もちろん、一部にはそういう人もいるとは思いますが)。【1月15日 GLOBE+】
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その流れでいけば、ベラルーシ吸収はロシア国内では“大受け”でしょう。実現できれば、プーチン“終身”連邦国家元首でしょう。
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