(【1月24日 BBC】 中央でこぶしを突き上げているのが35歳、フアン・グアイド暫定大統領 国民を引き付けるカリスマ性はありそうにも見えます。)
【「二人の大統領」で政局は流動化】
経済崩壊を招きながらも強権的に権力を維持する南米・ベネズエラの反米・左派マドゥロ大統領の動向については、1月14日ブログ“ベネズエラ 批判を受けつつも2期目に入ったマドゥロ大統領 野党・国会議長の一時拘束も”でも取り上げました。
国民が満足に食事がとれずにやせ細り、300万人近いともいわれる大量の難民が発生している状況で、マドゥロ政権への強い国民批判はあります。しかし、これまでも再三論じてきたように、それだけでは強権的に権力を維持する政権は容易には倒れません。
14日ブログでも、これだけの失政を続けながらもマドゥロ政権が倒れないことについて、“野党勢力のまとまりのなさ、核となるリーダーの不在が、前述のようにマドゥロ政権の延命を助けていると言えます。”とも。
しかし、ここ10日あまりで状況は大きく変化する様相も見せています。
その原因は、14日ブログでも取り上げた、暫定大統領を宣言した若手政治家フアン・グアイド氏が、“核となるリーダー”として機能し始めているからです。
****ベネズエラの反乱と民主主義の再生****
国民議会議長のグアイド氏、暫定大統領に就任
ベネズエラはついに民主主義を取り戻す瞬間を迎えたのだろうか。
23日、何百万人もの市民が首都カラカスなどの市街に繰り出し、独裁者のニコラス・マドゥロ大統領の辞任と、国民議会議長のフアン・グアイド氏(35)がマドゥロ氏に取って代わることを求めた。
グアイド氏は、昼間に屋外で行われた式典で支持者らに囲まれ、暫定大統領への就任を宣言した。同氏は新たな選挙が行われるまでの間、暫定的な国家元首として行動する権限を得ることになった。航空写真は、権力の移行を祝ってカラカスの幅広い大通りを埋め尽くした民衆の姿を写し出している。
貧富を問わずベネズエラ全土の人々は、軍出身の独裁者マルコスペレス・ヒメネス氏が1958年に失脚した記念日のこの日を、民主主義復活を求めるタイミングとして活用した。
1986年にフィリピンで起きた「ピープルパワー」革命や中・東欧諸国の「カラー」革命と同様に、この反乱にはマドゥロ氏の政権よりも民主的正当性がある。マドゥロ氏は昨年の選挙で、キューバの情報機関の支援を得て勝利をかすめ取った。
グアイド氏を現在の地位に引き上げた国民議会の議員は、2015年の選挙で選ばれた。しかし、マドゥロ氏は2017年に別の不正な選挙を行い、自らの意に沿う「憲政議会」を立ち上げ、国民議会の機能を失わせた。
マドゥロ氏はその後、2018年に大統領選挙を行い、国内の大半の勢力が選挙をボイコットする中で、68%の票を獲得して当選した。
マドゥロ氏が新たな6年間の任期に向け大統領就任の宣誓を行う前の週の1月4日、西半球の米州14カ国で構成する「リマ・グループ(米国はメンバーではない)」は、彼を正当な大統領と認めないとの声明を出した。
同グループは、マドゥロ氏に対し「国民議会の権限を尊重し、新しい大統領選と民主的選挙が行われるまでの間、暫定的に国政の権限を国民議会に委譲すべきだ」と要求した。(メキシコの左派系新大統領アンドレス・ロペスオブラドール氏はこの声明への調印を拒否した)
マドゥロ氏は23日、「私がベネズエラ唯一の大統領だ」と述べた。同氏が戦わずして職を離れる可能性は低い。
同氏の前任者であるウゴ・チャベス氏は2002年、独裁的な政治手法を理由に一時的に職を追われた。しかし、その後17年にわたる司法への介入、反対派の拘束、報道の自由抑制と社会主義的経済政策の失敗を経て、ベネズエラ国民は現在、絶望的な状況にある。
やせこけた子どもたちの写真は栄養失調のまん延を物語る。治療できる病気も治療されないまま放置されている。
疑問なのは、軍がマドゥロ氏を支持し続けるかだ。最近の小規模な民衆蜂起は即座に鎮圧された。しかし、グアイド氏は国民の味方になるよう軍に要請し、味方についた者は罪に問わないと約束している。若い軍人らの部隊が権力を持つ将軍のもとを離れる可能性もある。
しかしまた一方で、マドゥロ氏はグアイド氏の逮捕を命じたと報じられており、軍に対して民間人への攻撃を指示する用意があることを示唆したとされる。それは反政府デモでさらに血が流れる引き金になる可能性があるほか、テロやゲリラ戦につながる恐れもある。
このほかに、権力の維持をキューバに依存しているマドゥロ氏が、どれほどの独立性を維持しているのかという疑問もある。キューバ政府は石油を産出する事実上の「属国」を手放したくないだろう。
米州にあるその他の国はほぼ全て、グアイド氏の側に付いている。近くの国も遠くの国も、ベネズエラの犯罪と食糧不足から逃れてきた300万人近くの難民を受け入れてきた。
トランプ大統領もいち早くツイッターでグアイド氏を「ベネズエラの暫定大統領」として認めると表明し、「ベネズエラ市民は非合法なマドゥロ体制の支配下であまりにも長期間苦しんできた」と指摘した。
またコロンビア、ブラジル、ペルー、カナダ、アルゼンチン、パラグアイ、グアテマラ、エクアドル、チリも23日、米州機構(OAS)のルイス・アルマグロ事務総長とともにグアイド氏を承認した。
マドゥロ氏は直ちに米国と断交し、米外交官に対し72時間以内に国外退去するよう命じた。マドゥロ氏が従来のパターンを繰り返すとすれば、ベネズエラでの抗議行動の責任が米国にあると非難する一方、グアイド氏の忠誠心に対する疑惑を拡散しようとしてキューバの影響力を利用するだろう。
しかし、実際にはこの反乱は、20年間にわたる社会主義者の失敗と腐敗を経て、ベネズエラの中から生まれたものだ。(中略)
「国富論」の著者アダム・スミスが指摘したように、国家には多くの腐敗が存在するが、ベネズエラは現在、腐敗の中に横たわっている。
ベネズエラでの反マドゥロ派を支援するため、1989年の米軍によるパナマ侵攻と同様のやり方で米国は駐留部隊を派遣すべきだと考えたくなるかもしれない。
しかし、ベネズエラ国民は自分たちの自由を自ら勝ち取らなければならない。もしそれができれば、勝ち得た自由をより一層大切にすることだろう。【1月24日 WSJ】
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【“協調体制の構築力は評価されている” グアイド氏 政権側は「グアイド氏を入れる独房は、すでに確保してある」とも】
野党弾圧が横行するベネズエラのような国で反政府行動を率いることは“命がけ”になります。そのため、これまで多くの野党政治家が国外に亡命しています。も、14日ブログでも取り上げたように、一時拘束される形で“警告”を受けています。
そういう中で、反政府勢力の中核に自ら名乗りをあげ、にわかに注目を集めるようになったフアン・グアイド氏(35歳)については、以下のようにも。
単なる“目立ったがり屋”ではないようです。“演説はあまり得意ではない。だが、協調体制の構築力は評価されている。”というあたりは、今後に期待できる脂質です。
****ベネズエラの「生き残り」 暫定大統領宣言のグアイド氏とは?****
ベネズエラ暫定大統領への就任を宣言したフアン・グアイド氏は、誇りを込めて自らのことを「サバイバー(生き残り)」と呼ぶ。
グアイド氏はこれからも生き残っていかなければならない。勇気ある若手政治家で、野党が多数派を占める国会の議長を務めるグアイド氏は、追い詰められたニコラス・マドゥロ大統領に対抗して自ら、暫定大統領として名乗りを上げたことで、マドゥロ政権にとって不倶戴天の敵となった。
グアイド氏は、政治的、経済的危機の連鎖に陥っているベネズエラを支配する社会主義者のマドゥロ氏から大統領の座を奪い取ろうとしたわけではない。
年長の野党指導者たちが、身柄拘束や政治活動の禁止、亡命などにより政治の舞台から追われたため、後ろに控えていたグアイド氏が前面に押し出されたのだ。
(中略)ドナルド・トランプ米大統領は直後にグアイド氏を暫定大統領として認める声明を発表し、南米各国もこれに続いた。
■野党連合まとめ役として実力発揮
扇動的な左派指導者だった故ウゴ・チャベス元大統領が自ら指名した後継者であるマドゥロ氏は、グアイド氏のことを「政治で遊ぶ子ども」と呼んでいる。
だが、グアイド氏は恐れることなく、マドゥロ氏の2期目就任を阻もうとしている。(中略)
グアイド氏は今月5日、史上最年少で国会議長に就任したが、演説はあまり得意ではない。だが、協調体制の構築力は評価されている。これは、分断しがちでまとまりがないベネズエラの野党勢力に非常に求められている能力だ。
グアイド氏は議長就任後、短期間で野党連合をまとめ上げ、マドゥロ氏は政権の「強奪者」であり、同氏の再選は不当だと正式に宣言させた。
一方で、マドゥロ氏に反対したために拘束されたすべての軍および政府関係者に恩赦を与えることも約束した。その過程でグアイド氏は徐々に自信を深め、集会では笑顔を見せ、演説もうまくなっていった。
軍最高司令部と最高裁の支持を堅持しているマドゥロ政権に対して、無力であることの解決策はまだ見いだせていない。
だがグアイド氏は、政権を掌握するために最終的に必須となる軍の支持を取り付けるために、臆することなく呼び掛けている。
■「犠牲者ではなく生き残り」
ベネズエラ最悪とされた自然災害を生き延びた経験を持つグアイド氏は、「私は犠牲者ではなく、生き残りだ」と言う。
1999年12月に数万人が亡くなった集中豪雨と土砂災害。当時10代だったグアイド氏は、母親と5人のきょうだいと共に被災地のバルガス州に住んでいた。この被災について 「飢えとは何か、私は知っている」と語っている。
(中略)グアイド氏は13日、政治集会に車で向かう途中で諜報(ちょうほう)機関に一時拘束されたが、1時間もたたないうちに釈放された。政府は後に一部の諜報要員の勝手な行動だとして非難し、12人を逮捕した。
だが、グアイド氏は警戒を緩めることはできない。イリス・バレラ刑務所相はこう言っている。「グアイド氏を入れる独房は、すでに確保してある」【1月24日 AFP】
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【「見せかけの協議」を拒否、「大規模なデモ」の実施を呼び掛ける】
アメリカや多くの南米諸国がグアイド氏を支持するなかで、左派政権のメキシコやボリビアはマドゥロ氏を支持すると表明しています。
そのメキシコが仲介を申し出ていますが、グアイド氏はこれを拒否してマドゥロ政権との対決姿勢を明らかにしています。
****ベネズエラ野党指導者、マドゥロ氏との協議拒否 大規模デモ呼び掛け****
ベネズエラの「暫定大統領」就任を宣言した野党指導者のフアン・グアイド国会議長は25日、ニコラス・マドゥロ大統領の退陣を求める運動を強化し、「大規模なデモ」の実施を呼び掛ける一方で、メキシコが仲介役を申し出たマドゥロ氏との協議には応じない意向を示した。
ベネズエラでは今週、マドゥロ政権に抗議するデモ隊と治安部隊との衝突で26人が死亡する事態となっているが、米国と一部の中南米諸国から支持を得ているグアイド氏はこの日、そうした危機的状態についての「見せ掛けの協議」には出席しないと明言。
首都カラカスで支持者らを前に、「(マドゥロ氏の政権)強奪を止め、政権移行と自由選挙を実現するまで」市民の抗議運動は続くと訴えた。
一方のマドゥロ氏は、メキシコが仲介役を申し出ているグアイド氏との協議について、「必要ならどこへでも」出向く用意があると述べていた。
欧州連合と米国はマドゥロ氏に対し、再選挙の実施に同意するよう圧力を強めている。EUの外交官はAFPに、EUとしては「近い将来に選挙を実施するよう即時要請」を行いたいとの認識を示した。
米国務省は、マイク・ポンペオ国務長官が26日に開催される国連安全保障理事会の会合でベネズエラ国民への支援を示すとともに、グアイド氏を暫定大統領として承認するよう理事国に求める考えを明らかにした。 【翻訳編集】AFPBB News
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【ロシア 民間軍事会社の傭兵派遣でマドゥロ政権延命を画策との報道も】
こうした状況で注目されるのは、これまで経済的に困窮するマドゥロ政権を支えてきた中国・ロシアの動向です。
“エネルギー分野でベネズエラとの協力を強化している中国とロシアもマドゥロ氏を支持する。中国外務省の華春瑩(かしゅんえい)副報道局長は24日、「外部の制裁や干渉は往々にして事態を更に複雑にし、解決の助けにならない」と述べ、米国をけん制した。”【1月24日 毎日】
今のところ、べネズエラに資金援助している中国に関しては目立った動きはありませんが、ロシアはあくまでもマドゥロ政権を支持する方向のようです。
****ロ、ベネズエラに雇い兵派遣か マドゥロ氏保護と報道****
ロイター通信は25日、南米ベネズエラの反米左翼マドゥロ大統領の安全を確保するため、ロシアが民間会社を使って過去数日間に、ひそかに雇い兵部隊を送り込んだと報じた。
ロシアはベネズエラで暫定大統領就任を宣言したグアイド国会議長の背後に米国がいるとみて批判を強めている。報道が事実なら、ロシアに友好的なマドゥロ政権を守るため軍事支援に乗り出した可能性がある。
ペスコフ・ロシア大統領報道官はロイターに対し、「そうした情報は知らない」と回答した。プーチン大統領は24日、マドゥロ氏と電話会談し支持を表明していた。【1月26日 共同】
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報道の真偽はわかりませんが、ロシアが対外的に説明責任がない民間軍事会社を使うのは、シリアなどでもみられる最近の傾向です。ロシアとしてはベネズエラに巨額投資していますので、マドゥロ大統領には踏ん張ってもらう必要があります。
****ロシアの巨額投資が危機 ベネズエラ情勢混迷で****
ベネズエラに多額の投資を行っているロシアは、トランプ米政権がベネズエラの野党党首を暫定大統領として正式に認めたことを巡り、政治危機をあおっているとして非難した。
ロシア政府の報道官、ディミトリ・ペスコフ氏は記者団に対し「そのような介入は許容できず、一層の悪影響をもたらす」と述べた。(中略)
ベネズエラはロシアの主要パートナー国だ。ロシアは同国に巨額の投資を行い、マドゥロ政権を支えてきた。マドゥロ氏が昨年12月にロシアを訪問した際も、ウラジーミル・プーチン大統領は全面的に支援する旨をマドゥロ氏に伝えている。
1857年から国交があるロシアとベネズエラだが、近年では石油・ガス田を中心に、貿易・経済の投資案件を共同で手掛けている。
ロシア国営石油大手のロスネフチとベネズエラ国営石油会社PDVSAは、ベネズエラで5件の石油プロジェクトを進めており、ロシアのタス通信が連邦税関サービスのデータを基に報じたところによると、総生産量は年間900万トンと、ベネズエラの産油量全体の7%に相当する規模だ。
税関サービスの統計によると、2018年1-9月における両国の貿易は7940万ドルと、前年同期比でおよそ2倍に増えている。
ロシアの対ベネズエラへ投資額は合計で41億ドル(約4500億円)以上に上る。だがベネズエラ情勢が混迷を深めていることで、ロシアは巨額の投資が報われないリスクに直面している。
マドゥロ政権が失脚し、グアイド政権が正式に発足した場合、ロシアがベネズエラとの関係を絶つかは不明。ペスコフ報道官は、ロシアは「ベネズエラとの良好な関係を維持し、改善していくことに関心がある」とコメントしている。【1月25日 WSJ】
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ただ、マドゥロ政権が危険な“ドロ船”状態だったのは周知のところでしたので、ロシアもこういう事態は十分想定はしていたはずですが・・・。
【今後のカギを握る軍部の動向】
二人の大統領が並び立つ状況で、今後の動きは全く不透明ですが、どの国も政治混乱でもそうであるように、軍の動向がひとつの大きなカギとなります。チャベス氏以来、軍幹部と政権は密接な関係にありますが、若手には政権への不満もあるとの指摘もあるあところで、どうでしょうか・・・?