孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トランプ大統領  アフガンからの「完全撤退」でタリバンと大筋合意 国際情勢・アフガンへの影響は?

2019-01-25 23:40:34 | アフガン・パキスタン

(アフガンでパトロールにあたる米軍。戦闘により米兵1人が死亡した【1月23日 CNN】)

【「何千億ドルも使い、戦うべきでない所で米軍は戦っている」】
トランプ大統領が、イラク撤退に引き続き、アフガニスタン駐留米軍14000人を7000人に半減させる方針であることが昨年12月20日に各メディアで報じられ大きな話題になりました。

****米、アフガン駐留軍半減へ マティス氏辞任で拍車も 米報道****
(中略)2001年に始まったアフガンへの軍事介入は「米国史上最長の戦争」と言われ、ピーク時には10万人の米兵が駐留した。オバマ前大統領は任期中の完全撤退を目指したが治安の大幅悪化から断念。トランプ氏は大統領就任前からアフガンでの米軍駐留を「カネの無駄」などと批判し、即時撤退を持論にしてきた。
 
だが、トランプ政権は昨年8月、マティス氏が主導してテロ対策を理由に3千人の追加派遣を決定。当時、トランプ氏はマティス氏と歩調を合わせ、「早急な撤退はテロリストがはびこる空白を生む」として、これまでの持論を棚上げして駐留継続の意向を示した。

ただ、「我々の忍耐は無制限ではない」とも語り、アフガン政府の自助努力も要求していた。
 
しかし、アフガンではこの2カ月間で6人の米兵が死亡するなど治安改善の兆しがない。損得と短期的な成果にこだわるトランプ氏がいら立ち、大幅削減に踏み込んだとみられる。
 
ただ、トランプ氏にすれば、海外駐留米軍は同盟国を守るために割の合わない軍事予算を出費している「無駄なコスト」との思いが強い。

米紙ワシントン・ポストのボブ・ウッドワード記者の政権内幕本によると、トランプ氏が大統領就任後も「朝鮮半島に大規模な軍隊を維持して我々は何を得られるんだ」と疑問を呈して、マティス氏が諭す場面が記されている。
 
これまでマティス氏は同盟関係の強化と米軍の海外駐留は米国自身の利益のためだと説いてきたが、マティス氏の辞任により、トランプ氏は米歴代政権が伝統的に重視してきた同盟関係を軽視する行動をとる可能性も否定できない。【2018年12月22日 朝日】
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更に、半減ではなく、完全撤退をカタールで行われていたタリバンとの協議で示したとのこと。

****アフガン米軍、完全撤退の方針 タリバーンと大筋合意****
政府と反政府勢力タリバーンの戦闘が続くアフガニスタンをめぐり、トランプ米政権は23日、約1万4千人にのぼる駐留米軍の完全撤退方針をタリバーン側に伝えた。トランプ政権との協議に参加しているタリバーン幹部が朝日新聞に明らかにした。

ただし、治安維持を米軍に頼るアフガン政府は協議に参加しておらず、実現するかは不透明だ。撤退が実現すれば、混乱が深まるおそれもある。
 
トランプ政権とタリバーンは戦闘停止をめざし、中東カタールで21日から通算4度目の協議を続けていた。タリバーン幹部によると、米側は23日、「アフガニスタンでテロ組織の活動を許さない」ことを条件に、「早ければ今年前半に駐留米軍の撤退を完了させたい」とする意向をタリバーン側に伝えたという。
 
タリバーンは米側の意向を歓迎し、条件をのむことで大筋合意。合意内容を記す声明を出すという。タリバーン幹部は「米軍の撤退が始まれば、我々は攻撃を止める」と述べ、停戦に応じる可能性も示唆した。
 
米国は2001年に起きた国際テロ組織アルカイダによる米同時多発テロを受けて、アルカイダ戦闘員をかくまっているとしてアフガニスタンへの空爆に踏み切り、米軍駐留も開始。猛反発するタリバーンとの間で戦闘が続いてきた。
 
だが、タリバーンは地上戦に強く、支配域を徐々に拡大。オバマ前政権は選挙公約だった米軍撤退の断念に追い込まれた。トランプ政権はアフガン駐留に伴う巨額の財政負担を減らすため、昨夏以降、タリバーンと直接協議を続け、戦闘の停止を模索してきた。
 
トランプ大統領は米軍の国外駐留について、「米国が不当に多額の駐留費用を負担し、他国に利用されている」と繰り返し、昨年12月中旬にはシリアの駐留米軍の早期撤退を表明。昨年末にはアフガン駐留を念頭に「何千億ドルも使い、戦うべきでない所で米軍は戦っている」と述べていた。【1月24日 朝日】
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もともと“トランプ氏は大統領就任前からアフガンでの米軍駐留を「カネの無駄」などと批判し、即時撤退を持論にしてきた。”【同上】ということですから、驚くことでもありませんが、治安維持のため他国との協調を重視するマティス国防長官の辞任などもあって、持論の実践に拍車がかかっているようです。

【アフガニスタンの不安定化は不可避 アメリカへの「信頼」の問題も】
もちろん、“「アフガニスタンでテロ組織の活動を許さない」ことを条件に・・・・”というのが、どれほどの現実性があるのか、米軍の支援なしにアフガニスタン政府はいつまで持ちこたえられるのか、ベトナムでの南ベトナム政府崩壊の再現になるのではないか・・・という疑問は誰しも思うところです。

****テロの温床、逆戻り懸念 アフガン米軍撤退、周辺地域不安定に****
アフガニスタンに軍を駐留させる米国のトランプ政権が、長年戦ってきた反政府勢力タリバーンに米軍を完全撤退させる意向を伝えた。

アフガニスタン政府にはタリバーンを封じ込める力はなく、治安維持は米軍に頼っている。米軍の完全撤退が実現すれば、同国が「テロの温床」に逆戻りし、周辺地域も不安定にさせる懸念がある。

「なぜ6千マイル(約9700キロ)も離れたところに米軍がいるのだ」。今年初めの閣議で、トランプ大統領が米軍のアフガン駐留について不満をぶちまけた。
 
一昨年8月、当時のマティス国防長官の主導で米兵3千人のアフガン増派を決定したが、タリバーン掃討は好転しなかった。昨年12月にマティス氏が辞任を表明すると、トランプ氏はアフガン撤退論を再燃させた。同氏はタリバーンの合意を取りつけた上での撤退を「勝利」としてアピールしたい思惑とみられる。
 
だが、撤退が実現すれば、アフガニスタンの不安定化は不可避だ。2001年のタリバーン政権崩壊後、アフガニスタンでは民族ごとに権力を分け合うことで内戦を回避してきた。
 
現政権は国家予算の約6割を治安対策にあてるが、物資が足りない国軍の士気は低く、統治が及ぶのは国土の6割弱にとどまる。
 
一方、タリバーンは麻薬栽培などで資金を蓄え、全34州のうち20州以上に戦線を拡大。米軍が撤退すれば、首都カブール制圧も可能になるとみられる。

タリバーン側が受け入れるとした「テロ組織の活動を許さない」という条件を守る保証はない。またアフガニスタンでは、アルカイダや「イスラム国」(IS)など20を超える過激派が根を張る。

米国は軍を撤退させたとしても、アフガニスタンでの過激派監視活動で財政負担を続けるとみられる。【1月25日 朝日】
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今回の「完全撤退」表明について、タリバンとの協議に参加していないアフガニスタン政府は同意しているのでしょうか?(常識的には、政府崩壊につながる可能性が高い米軍撤退を、アフガニスタン政府が喜んでいるとは思えませんが・・・)

アメリカが自国部隊について決定するのに、アフガニスタン政府の同意など必要ない・・・と言えば、そうなんでしょうが、シリアのクルド人勢力といい、アフガニスタン政府といい、アメリカを頼みとすると最後は見捨てられる・・・という「信頼」の問題にもかかわってきます。

【「中東から中露対応集中へ」とは言うものの・・・・】
アメリカの戦略全体から見れば、“何千マイルもはなれた、アメリカの利害に大きくかかわることもない”中東から資源を引き上げて、アメリカに対する直接的危険を有する中国・ロシアに対抗する方向に集中するという話になります。

****政局情勢から見たシリア・アフガニスタンからの米軍撤退の意味****
トランプ大統領が2018年末に公表したシリア・アフガニスタンからの米軍撤退開始、そしてそれに伴う形で発表されたマティス国防長官辞任は世界に驚きを持って迎えられた。しかし、2020年大統領選挙を見据えた場合、この決断には一定の合理性が存在している。
 
トランプ政権は中間選挙の下院敗北を受けて、政権運営の正統性にやや疑問が生じるようになってきている。トランプ大統領が自らへの支持を再度固めるために「選挙公約」に依拠した政権運営を行い始めることは理にかなった行為と言える。

国境の壁閉鎖をめぐる政府閉鎖(シャットダウン)問題の発生もその一環と看做すべきだ。
 
また、共和党内の支持基盤である対外政策への関心の推移という意味でも今回の判断は妥当なタイミングを捉えている。

トランプ政権が発足した直後はまだISがシリアでも一定の勢力を有しており、米国民の安全保障上の関心も中東地域に集中していた。しかし、政権発足後2年経過し、ISの勢力は著しく衰退している上に、中国との貿易戦争が激化したことで安全保障上の関心も中東地域から東アジアなどに逸れつつある。
 
トランプ政権を支えるキリスト教の「福音派」が主導する共和党保守派の中東地域に対する関心は非常に強い。

しかし、2017年末に公表されたNSS(国家安全戦略)が示したように、主要な敵を中国・ロシアに重点をシフトする準備が始まり、その世論醸成が進んだことから、共和党内からも今回の決断を支持する声が一定層存在する状況に変化している。トランプ大統領が撤退のための機が熟したと判断してもおかしくはない。
 
マティス国防長官のように中東への米軍の駐留の重要性を指摘する勢力は、同地域の秩序、そして対テロ対策を重視しているのだろう。トランプ大統領もイラクからの撤退は明言していないので、このことについては十分に認識しているものと思う。
 
しかし、中国・ロシアを相手に安全保障上の得点を稼いでいくためには、シリアやアフガニスタンに米軍がコストを割くことはやや疑問が残る。
 
仮に、これらの地域から米軍が撤退した場合、シリアではトルコ・ロシア・イランが影響力争いを行う状態に戻り、アフガニスタンでのイスラム勢力の台頭はロシアや中国の内陸方面への資源投入を要求する事態を引き起こす。

したがって、最重要戦略目標が中露であるなら、同地域でライバルにリソースを使わせて、他地域(東欧・東アジアなど)での政治闘争を有利に進める方が良いだろう。

また、ポンペオ国務長官がイラン・北朝鮮相手に外交政策を進めているが、トランプ政権における国務省の位置づけは低いので、いまや全ての狙いが中露に集約されつつあると思っても良いかもしれない。(後略)【1月1日 渡瀬 裕哉氏 View point】
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もっとも、トランプ大統領がどこまで“戦略的”に動いているかは疑問もありますが・・・。

発言がコロコロ変わるのはトランプ政治の特徴です。明確な戦略もなく、思いつきで動いているのでは・・・とも勘繰られるところもあります。“損得と短期的な成果にこだわる”【冒頭の朝日記事】といった評価もつきまといます。

シリアについても、撤退発表後に批判を浴びると、「すぐにとは言っていない」「調整しながら」と、意味不明なことを言っていますので、今回のアフガニスタン完全撤退も、またいろいろあるのかも。

【NATO、韓国、日本からの撤退も?】
ただ、いずれにしても、トランプ大統領が「カネばかりかかる」遠い地域の“厄介ごと”から手を引きたがっているのは間違いないでしょう。

****世界から米軍を撤退するトランプ****
・・・・トランプは就任後、米国の傭兵・戦争下請け会社であるブラックウォーターに、中東各地で米軍がやっている戦闘や治安維持の活動を下請けさせて、米軍が世界から撤退する「戦争の民営化」を検討してきた。

従来は、トランプ側近の軍産の「大人」たちが猛反対し、戦争の民営化が見送られてきた。だが、大人たちが全員いなくなった今後は、戦争の民営化がトランプ政権の正式な戦略として出てきそうだ。(中略)

軍産から解き放たれたトランプは、まず中東の軍事撤退・覇権放棄を進めている。だが来年には中東を一段落させ、欧州や東アジアの軍事撤退に着手するだろう。

欧州ではドイツが「米国がINF条約から抜けるなら、欧州への核ミサイルの配備をやめてほしい。欧州は、米露の核の対立に関与したくない」と言い出している。

この傾向が進むと、EU諸国がNATOから離脱もしくは距離を起き、EU統合軍を唯一の防衛力としてやっていく新体制に移行することになる。

東アジアでは、朝鮮半島の南北の和解、在韓米軍の撤退、そして在日米軍の撤退へと、すでに線路が敷かれている。

トランプは来年、米軍の世界支配をさらに壊していく。 (Germany To Trump: Don't Even Think About Stationing Nuclear Missiles In Europe After INF Withdrawal) (Elites United in Panic Over Syria Pullout, Afghanistan Drawdown) 【2018年12月28日 田中 宇氏】
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このままトランプ政治が続けば、アメリカを軸とした協調体制は大きく変容することにも。
それが「アメリカ第一」というアメリカの利害にかなうことなのか?トランプ大統領は、そのあたりのことをどのように考えているのか?

【今後の混乱やタリバン復活で、“新しいアフガン”の芽生えは?】
話をアフガニスタンに戻すと、“タリバンがアフガン情報機関を攻撃、死者65人か”【1月22日 AFP】といったように、タリバンの攻勢が続いていますが、米軍に関しては、“アフガニスタンで米兵1人が戦死、今年2人目”【1月23日 CNN】とのこと。

個人的な印象で言えば、【AFP】のように毎日のように多くの犠牲者が出ているなかで、米軍の死者が今年2名というのは、非常に少ない数字に思えました。

すでに米軍は戦闘の最前線からは身を引いているということなのでしょう。そういう状況での撤退はどういう影響をもたらすのか?

アフガニスタン政府は不正・汚職が横行し、非効率な政権で、あまり擁護にも値しないものではあり、また、アフガニスタンの将来はアフガニスタンの人々が決めるべきものなのでしょうが、わずかながらも芽生えている市民生活上の自由とか、女性の権利とかいったものが、タリバン政権復活というような事態になったとき、あるいは、かつて軍閥が割拠したような内戦の混乱に陥ったとき、どうなるのか? それが一番気がかりです。


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