(ウクライナ正教会の独立を承認する文書に署名するコンスタンチノープル総主教バルトロメオス1世【1月6日 AFP】 正教会の最高権威がイスラム国トルコ・イスタンブールのコンスタンチノープル総主教というのも「歴史」ですね)
【中国 宗教の「中国化」という宗教弾圧】
****アジアのキリスト教徒、3人に1人が迫害受ける****
アジアではキリスト教徒の3人に1人が頻繁に迫害に直面しているとのNGO報告書が16日、発表された。世界各地で宗教を理由とした脅迫や暴力が「衝撃的に増加」しており、中国とサハラ以南アフリカで特にその傾向が顕著だとしている。
キリスト教徒に対する迫害状況を監視している超宗派のキリスト教伝道団「オープン・ドアーズ」によると、中国では約1億人のキリスト教徒の約半数が迫害に遭ったことがある。「宗教上の表現の自由を制限する新法」が導入されたことで、「過去10年余りの期間で最悪」の状況となっているという。(中略)
報告書はまた、キリスト教を信仰していたために殺害された人は昨年、世界で4300人を超え、うち3700人以上がナイジェリアで犠牲になったと指摘している。
ナイジェリアのキリスト教徒の死者数は前年比で2倍近く増えたが、背景にはイスラム過激派組織「ボコ・ハラム」による襲撃と、イスラム教を信仰する遊牧民フラニ人による襲撃が「ニ重の脅威」となっている現状があるという。
「アフリカはキリスト教徒に対する暴力の多発地帯となっている」と、オープン・ドアーズのフランス支部代表のミシェル・バルトン氏は述べた。
報告書に掲載された「最も迫害の度合が高い」50か国のリストでは、2002年から継続して北朝鮮が1位となっている。北朝鮮では宗教的抑圧が強まっている兆候があるが、「キリスト教が禁止され政治犯罪とされる」同国に関するデータの入手は困難だとオープン・ドアーズは指摘している。
2位以下はアフガニスタン、ソマリア、リビア、パキスタン、スーダンと続き、「ヒンズー教の過激派が処罰されないままキリスト教徒や教会を襲撃する事件が相次いでいる」インドが初めて10位に入った。 【1月17日 AFP】
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まず、中国について言えば、キリスト教徒以上に迫害を受けているのは、新疆ウイグル自治区のウイグル族などイスラム教徒とチベットの仏教徒です。
最近は、新疆・ウイグル族に限らず、「悪いイスラム教徒」ウイグル族に対比して「良いイスラム教徒」として政権と融和的関係にあって、全土に分散するイスラム教徒回族に対する締め付けも厳しくなっているようです。
共産党は、ウイグル族だろうが、回族だろうが、イスラムの宗教的独自性を否定する方針です。正確に言えば、イスラム教だろうが、キリスト教だろうが、宗教全般について共産党の指導・統制を強化する方針です。
****イスラム教を「中国化」 党が指導、5カ年計画を推進****
中国で、社会主義の価値観に合わせてイスラム教を「中国化」する5カ年計画が進められることになった。
習近平(シーチンピン)指導部の意向を受けた中国イスラム教協会が計画をつくり、各地に伝達した。近く概要を公表する見通しだ。7日付の環球時報(英語版)が伝えた。
習指導部は、共産党の指導よりも信仰を重視しがちな宗教への統制を強めてきた。イスラム教徒が多く、独立の動きもある新疆ウイグル自治区では再教育施設をつくり、国際的な批判を浴びている。協会側は「イスラムの信仰や習慣は変えない」としているが、宗教への新たな圧力として反発も出そうだ。
同紙や協会の発表によると、計画期間は昨年から2022年までの5年間。習指導部が提唱する「新時代の中国の特色ある社会主義思想」を徹底し、党の指導に従う内容となるという。
信者が集まるモスクで、中国の法律や社会主義の価値観を教える講座を開いたり、模範的なイスラム教徒の物語を伝えたりして、イスラム教徒を正しい方向に導くとしている。教材も使われるという。
(中略)キリスト教についても同様の動きが進んでいる。【1月7日 朝日】
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チベット仏教については、高齢のダライ・ラマ14世の後継者をどうするのかが次第に現実的問題となりつつあり、中国共産党は「輪廻転生」制度を利用して、後継者選定を党主導で行うことで、チベット問題の流れを大きく変えようと目論んでいます。
(チベット側から言えば、いかにして共産党の介入を排して、独自の後継者選定を実現するかが課題となっています。そのためには、「輪廻転生」制度の放棄も辞さない構えです。)
キリスト教に関しては、“キリスト教ローマ・カトリック教会の法王庁(バチカン)と中国政府が、司教の任命権で(2018年)9月に暫定合意したのを受け、独自に司教を任命していた教区で、司教の一本化の動きが本格化している。バチカンが過去に破門した中国公認司教の復帰を認め、非公認の地下教会司教を降格・退任させる形で調整が進む。バチカンの譲歩が目立ち、地下教会関係者は不安を募らせている。”【2018年12月15日 朝日】とも。
上記にもあるように、バチカンの譲歩によって、中国国内の非公認地下教会への弾圧が公然かつ厳しくなることことが懸念されています。
****中国当局、「地下教会」の牧師らを拘束 80人が行方不明 ****
中国南東部で、プロテスタントの有名な非公認教会の牧師や教会員が当局の家宅捜索を受けた後、数十人が行方不明になっている。信者らが10日、明らかにした。同国では宗教に対する締め付けが強まっている。
非公認のいわゆる「地下教会」の一つで、四川省成都市に拠点を置く「秋雨聖約教会」の発表によると、警察による一斉家宅捜索は9日夜に行われたという。
匿名でAFPの取材に応じた信者らの話によると、牧師を含めた教会指導者らが拘束され、少なくとも80人の行方が分からなくなっているという。ただこのうち実際に何人が拘束されているかは分かっていない。(中略)
公式には無神論の立場を取る中国政府は、宗教活動も含め、統制下にない組織的な活動を警戒している。【2018年12月10日 AFP】AFPBB News
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共産党は、宗教というフィールドで国家・党への不満が表面化・拡大することを強く警戒しています。
中国の宗教弾圧に関する話は多々ありますが、それらは別機会に譲るとして、他の国の状況を見ていきます。
【国家による宗教利用 パキスタンとインドのケース】
中国のように国家が宗教を厳しく弾圧するケース、ナイジェリアのように宗教と民族対立が絡んで、衝突に至るようなケース(2011年4月21日ブログ“ナイジェリア 大統領選挙後の暴動 南北対立を背景に、死者200人超の報道も”など)のほかに、国家と宗教の関係では、国家が宗教を利用するケースも多々見られます。
****シーク教の巡礼道、印パに新たな火種 パキスタン側へ4キロ、ビザ不要****
インドで暮らすシーク教徒がパキスタン側にある聖地を自由に巡礼できるようにしよう。そんな計画をパキスタンが発表した。これに対してインドは「隠れた狙いがある」と抗議。両国間の新たな火種となっている。
■着工式に独立派リーダー、インドは「策謀だ」
広大な田畑に野焼きの煙がたなびくパキスタン東部カルタールプル。インド国境から4キロしか離れていない農村の一角に、シーク教の開祖グル・ナーナクが死去したと伝わる純白の寺院がある。
ここで昨年11月28日、インドの信徒がビザ無しで通れる巡礼道の着工式があった。パキスタンのイムラン・カーン首相は出席者数千人を前に「インドとの対話や交易を進める機会にしたい」と語った。
巡礼道は国境から寺院まで、川に橋を架けながら結び、今年夏までの完成を目指す。ホテルや診療所、土産物店なども併設し、観光地として売り出すという。
インドだけで約2千万人いるとされるシーク教徒にとって、同寺院は開祖が教えを説き続けた拠点として神聖視される存在だ。ビザに制限があるため、巡礼を諦めたり国境から望遠鏡で眺めたりするだけの信徒も多かった。
(中略)今年は開祖生誕550年で、多くの巡礼者が見込まれる。開祖生誕を祝う巡礼者は例年4千人ほどだったが、道ができれば1日当たり4千人を受け入れる態勢が整う見通しだ。
着工式にはシーク教徒が多数を占めるインド・パンジャブ州のシドゥ観光相も出席した。巡礼道の構想をカーン首相に持ちかけた一人。両氏は元クリケット選手で親交があった。
国境を一部でも開き、インドへの歩み寄りを演出したかのように見えるパキスタンだが、真の狙いは別のところにある。
それは国営テレビの中継映像からうかがわれた。カーン首相とともに着工式に出席したパキスタン軍のバジュワ陸軍参謀長の傍らに、インドからの分離を唱えるシーク教徒の独立派リーダーの姿があったのだ。
式の最後にバジュワ氏とリーダーが固く握手する様子も数秒間、映った。協調を装いながら裏で独立派と関係を深めるパキスタンのしたたかな戦略を物語る。
この場面をインド側は見逃さなかった。インドのラワット陸軍参謀長は会見で「インドと仲良くしたいならパキスタンは宗教を使うな」と抗議。インドのメディアは「パキスタンの策謀」と一斉に批判した。
これに対し、パキスタンのクレシ外相はメディアを通じて「シーク教徒の悲願に応えたものだ」と反論し、インド側の見方を「ゆがんだ解釈」と非難。軍報道官はツイッターで「インドメディアは短絡的」と書き、1万件超の「いいね」を集めた。
双方とも国内に独立派を抱え、治安が脅かされてきた歴史がある。
インドではシーク教徒の独立派が1980年代から武装闘争し、84年にはインディラ・ガンジー首相を暗殺。その後の掃討作戦を経てなおテロが続くのは、パキスタン軍が陰で支援しているから、とインド側はみている。
パキスタンも独立問題に手を焼く。昨年11月23日、カラチの中国総領事館が襲撃された事件では、南西部バルチスタン州の独立派が犯行声明を出した。パキスタン軍は、この独立派をインド軍やインド軍と連携するアフガニスタン軍の別動隊とみて監視している。
12月25日には、独立派司令官ら数人が会議中に何者かに爆殺された。場所はアフガニスタン南部の新興住宅地。独立派がアフガニスタンを出撃拠点にしているというパキスタン軍の主張が裏付けられた形だ。
過去に3度交戦し、核兵器を突きつけ合う両国は、わずか4キロの巡礼道をめぐっても批判の矛先を向け合っている。(中略)【1月10日 朝日】
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インド・モディ首相も、総選挙の前哨戦となる地方選挙で敗北したことで、ヒンズー至上主義を前面に押し出すことで態勢立て直しを図っていることは、これまでも取り上げてきたところです。
****インド総選挙を前に高まる宗教問題****
インドでヒンズー至上主義者が活動を活発化させている。
(12月)9日にはかつて破壊されたモスク(イスラム教礼拝所)の跡地にヒンズー教寺院の建設を求めるデモに20万人以上(主催者発表)が参加。
背景には来春の総選挙を前に国民の関心が高い宗教問題を強調することで、モディ首相の与党でヒンズー至上主義政党の「インド人民党」(BJP)の支持拡大を図る思惑があるとみられる。(中略)
デリー大のスマン・クマル准教授は「ヒンズー至上主義者は、総選挙を前に宗教問題を強調することで、農民を中心に高まるモディ政権への批判の矛先を変えようとしている」と指摘。「イスラム教徒側は少数で弱い立場なので当面対抗せずに静観するだろう。ただ偶発的な衝突がきっかけで緊張が高まる可能性はある」と話す。【2018年12月13日 毎日】
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議会上院通過が現実的ではないイスラム差別法案をあえて提起することで、ヒンズー教徒支持者へアピールするような党利党略も。
****インド「イスラム差別」法案が波紋 他宗教の不法移民には国籍****
ヒンズー教徒が約8割を占めるインドで、イスラム教徒以外の不法移民にのみ国籍を与える法律改正案が下院で可決された。
ヒンズー至上主義を掲げるモディ首相の与党・インド人民党(BJP)の母体組織はイスラム教徒と対立してきた歴史があり、春に予定される総選挙に向け、保守層の支持固めを狙ったとみられる。
イスラム教徒や専門家らは「憲法の規定にある法の下の平等に反し、宗教間の対立をあおる」と批判している。
8日に下院で可決された改正案は、2014年末までにインドに不法入国したパキスタン、バングラデシュ、アフガニスタン出身者のうち、ヒンズー教▽シーク教▽仏教▽キリスト教――などイスラム教を除く6宗教の信者に国籍を付与するもの。バングラからの不法移民だけで2000万人に上るとの見方もあるが、宗教別の人数を含め詳細は不明だ。
この3カ国はいずれもイスラム教国で、それぞれ宗教的少数派への差別や迫害が度々問題になってきた。このことを踏まえ、BJP前総裁のシン内相は「(イスラム教徒でない)彼らはインド以外に行く場所がない」と改正の意義を強調する。
イスラム教徒からは反発の声が上がる。(中略)「イスラム教徒というだけで出て行けと言われるのはおかしい」と憤る。
ジャダプール大のオンプラカシュ・ミシュラ教授は「宗教で人々の権利を選別するのは明らかな憲法違反」と指摘。さらに「BJPは上院で過半数の議席を持っておらず、実際に改正案を施行できるとは考えていない。ヒンズー教徒のために取り組んでいるという姿勢を見せたいだけだ」と批判する。
インドでは、14年のモディ政権誕生以降、勢いを増したヒンズー過激主義者によるイスラム教徒への襲撃や嫌がらせが相次ぐ。BJPに詳しい地元紙の記者は「改正案の下院可決はBJPの反イスラム姿勢の最たる例だ。過激主義者の行動がさらにエスカレートしかねない」と懸念を示す。(後略)【1月14日 毎日】
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【国家による宗教利用 ウクライナとロシアのケース】
目を欧州に転じると、ロシアと対立するウクライナでのウクライナ正教会のロシア正教会からの独立も、政治絡みのようです。
****ウクライナ正教会が独立 ロシア影響下から離脱****
キリスト教東方正教会の最高権威とされるコンスタンチノープル総主教庁(トルコ・イスタンブール)の総主教バルソロメオス1世は5日、ロシア正教会の管轄下にあったウクライナ正教会を独立させることを最終的に決定、文書に署名した。タス通信などが伝えた。
これで昨春から続いていたウクライナ正教会のロシアからの「分離独立」問題は決着。14年のロシアによるウクライナ南部クリミア半島の編入以降、悪化した両国の関係は教会の分断にまで至った。
ウクライナ国内では、ロシア正教会の教会や修道院などをウクライナ正教会が接収する動きが出ており、信徒らの対立が懸念される。【1月5日 共同】
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これだけではウクライナ政府・ポロシェンコ大統領の意図ははっきりしませんが、下記を読めばその意図が明確です。
****ウクライナ、教会「統一」で攻勢 ロシアの影響力削減狙う****
ウクライナのポロシェンコ大統領は今月、自国のキリスト教界からのロシアの影響力削減に力を入れ始めた。ロシアはこの動きを非難しており、11月にウクライナ艦船が拿捕(だほ)された事件に加え、火種が広がっている。
ロシア正教会は1686年からウクライナ正教会を傘下に入れてきた。1920年代になると「自治独立派」がロシア正教会からの独立を宣言し、ソ連崩壊の翌92年にはキエフ聖庁と呼ばれる一派も独立を表明。キエフ聖庁と自治独立派は今月15日、ポロシェンコ政権の後押しを受け、「統一教会」を結成した。
◇モスクワ聖庁の弱体化狙うポロシェンコ氏
現在もロシア正教会の傘下に残る一派はモスクワ聖庁と呼ばれている。ポロシェンコ氏は22日、この一派に改名を義務づけ、新しい名前にロシアの呼称を入れるように求める法案に署名した。
ウクライナ正教会ではモスクワ聖庁が最大宗派だったが、ロシアが2014年にウクライナへの軍事介入を始めたことを受け、くら替えする信徒が相次ぐ。
ポロシェンコ政権はモスクワ聖庁がロシアと深い関係を持つ点を明示させて、この流れを加速させる狙いだとみられる。米中央情報局(CIA)などの分析では、モスクワ聖庁と統一教会は、それぞれ人口の2割程度と拮抗(きっこう)している模様だ。
またウクライナ国内では今月上旬、モスクワ聖庁系の聖職者が憎悪をあおる発言をしたとの疑いをかけられ、家宅捜索を受ける案件が続出した。政権は司法当局も動員し、モスクワ聖庁への圧力を強めている模様だ。
インタファクス通信によると、ロシア正教会の報道担当者は22日、改名を義務づけられた法律に言及。「ウクライナの大統領が自らの政治的な構想に沿い、正教会を分裂させていることが再び明らかにされた」と非難した。
ロシア正教会は全体の教区のうち、3〜4割をウクライナ国内に置いている。傘下にあるモスクワ聖庁系の教会が減ることは経済的な打撃となるため、つなぎ留めに必死だ。
両国の関係を巡っては、ロシア国境警備隊が11月下旬、黒海でウクライナ艦船に発砲し拿捕、今も乗組員の解放に応じていない。ウクライナが新たに艦船を派遣する方針を示す一方で、ロイター通信は今月22日、ロシアに強制編入されたクリミアの基地に戦闘機が増派されたと報道。緊張の高まりが伝えられている。【2018年12月25日 毎日】
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一方、ロシアも、ギリシャ正教会に近いロシア正教会を通じて、マケドニア国名改正・NATO加盟問題でギリシャ世論を教会の影響力を利用する形で動かそうとしています。
こういう国家と宗教の関係は数え上げればきりがありません。
日本では、弾圧も利用もない政治と独立した宗教を目指していますが、その日本でもいろいろな問題が指摘されているのは周知のところです。