(「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」の兵士【1月22日 FNN PRIME)】)
【ミンダナオ島出身のドゥテルテ大統領の下で実現に向け進展】
フィリピン南部ミンダナオ島では40年以上にわたり、フィリピン全体では圧倒的多数派のキリスト教徒とミンダナオ島に多く暮らす分離独立を目指すイスラム教徒による紛争が続いてきました。
イスラム教徒側の武装勢力は複数あり、また、変遷もありましたが、近年その中核となっているのが「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」です。
フィリピン政府とMILFは、分離独立ではなく、イスラム自治区を認める代わりにMILFは段階的に武装解除を行うことで、2014年に包括和平案に合意しました。
合意後も曲折がありましたが、ミンダナオ島出身で、その実情・必要性を熟知するドゥテルテ大統領の主導で実現に向けて前進。(このあたりは、これまでのルソン島出身大統領とは違います)
21日から、自治区に自治体が参加するか否かを決める住民投票が行われています。
****フィリピン・ミンダナオ島で住民投票 イスラム自治政府の設立に向け****
半世紀近くにわたり、分離・独立を求めるイスラム勢力と政府による武力闘争が続いてきたフィリピン南部ミンダナオ島で21日、イスラム自治政府の設立に向けた住民投票が行われた。
自治政府に参加するかを住民に問う投票で、過半数の賛成を得た自治体は自治政府に編入される。和平進展につながると期待がかかる。
投票は同島西部のイスラム教徒自治区(ARMM)に属するバシラン州など7自治体で行われた。結果は26日までに判明の見込み。
7自治体のうち多数の自治体で過半数の賛成を得た場合、他の自治体でも2月6日に投票が行われる。対象有権者は約280万人。
自治政府は、予算編成やイスラム法に基づく司法制度など高度な権限を持つことになる。住民投票後、ドゥテルテ大統領の承認を経て、暫定政府が発足する。
フィリピンは国民の9割がキリスト教徒だが、同島西部はイスラム教徒が多数を占め、1970年代以降に分離独立運動が活発化した。
政府とモロ・イスラム解放戦線(MILF)が2014年に包括和平に合意した後も武力衝突が発生し、和平プロセスは停滞。
同島ダバオ市の市長を長年務めたドゥテルテ氏が18年7月、自治政府樹立に向けた「バンサモロ基本法」に署名し、事態が進展した。【1月21日 毎日】
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【今後の課題の一つはキリスト教徒との共存】
MILFのムラド・エブラヒム議長は20日、自治政府参加に「圧倒的な支持を得ている」と述べ、理解が広がっていると強調していますが、キリスト教徒側には不安もあります。暴力的に自治区参加への賛成を強要されているとの声もあるようです。
****イスラム自治政府、キリスト教系に反発も 比ミンダナオ****
フィリピン南部ミンダナオ島で21日、2022年にも樹立される「イスラム自治政府」に参加する自治体を決める住民投票が実施された。
長年対立してきた国内最大の武装勢力モロ・イスラム解放戦線(MILF)とフィリピン政府の和平合意の成果で、地域に安定をもたらすと期待されるが、一部都市では反対意見も根強くある。(中略)
自治政府は、ミンダナオで紛争を続けてきた武装勢力とフィリピン政府が、交渉でこぎ着けた答えだ。ドゥテルテ大統領も公約に掲げてきた。独自の議会や予算の権限が付与されるほか、域内のイスラム教徒にはコーランにもとづくイスラム法(シャリア)が適用される。
MILFのムラド議長は21日会見し、「投票は和平合意を実行に移す重要な節目。大変な支持を得てうれしい」と述べた。
一方、ムラド氏は、自治政府の首都になると期待されるコタバト市が自治政府に加わらない可能性があることに懸念を示した。人口約30万人の同市はキリスト教徒が人口の55%を占め、自治政府に反対する市民も多い。
市内の60代男性は「MILFの幹部たちが利を得るだけで暮らしがよくなるとは思えない」と話す。
コタバトでは、こうした反対意見を封じ込める動きもある。反対意見を主張してきたコタバト市長のシンシア・ギアニ・サヤディ氏(50)は、殺害をほのめかす脅迫を受けたといい、「脅しを使う人が支持する自治政府が市民を守れるとは思えない」と懸念する。(後略)【1月22日 朝日】
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イスラム自治政府が発足した場合、域内に暮らすキリスト教徒といかに共存できるかが重要な課題となります。
【あくまで分離独立を目指すイスラム武装勢力も】
イスラム教徒側にも、あくまでも分離独立を目指して戦うべきとする「イスラム国(IS)」の影響を受ける過激なグループもあって、必ずしもことが平穏に運んでいる訳でもありません。
****“ミンダナオ島で「イスラム国家樹立」を狙う” 夜間外出禁止令の町で見た過激派の脅威****
フィリピン南部ミンダナオ島では2017年5月以降、戒厳令が発令されている。イスラム過激派による爆弾テロや攻撃が止まらないためだ。
主要都市コタバトでフィリピン軍の活動に密着取材すると、見えない敵と戦う難しさが見えてきた。
夜10時以降は外出禁止
夜9時半過ぎ。フィリピン軍第6歩兵師団に属する兵士たちが、とある場所に次々と集まってきた。コタバト市では夜10時から外出禁止令が敷かれ、一般人は外出することが禁止されている。
この間にテロリストが町に入りこまないようフィリピン軍は警察と協力し、町の警備にあたっている。夜10時をすぎると、賑やかだった街の表情は一変し、車が1台も通らないゴーストタウンのような様相を見せる。
侵入を試みる「過激派」
町の入り口には軍の装甲車が配置され、特に厳しい警備が敷かれる。武装したテロリストや、爆弾を運び込もうとするテロリストが頻繁に町への侵入を試みるからである。(中略)
イスラム過激派の爆弾作戦
コタバト市はミンダナオ島の中では比較的安全とされる。しかしこの町でも、新年を迎える直前の12月31日、ショッピングモールの外に仕掛けられていた手製爆弾が爆発し2人死亡、30人以上が負傷するテロが起きた。(中略)
頻発する爆弾テロを繰り返しているのは「イスラム国」に忠誠を誓う地元武装勢力だ。ミンダナオ島では去年5月、中部の都市マラウィが「イスラム国」戦闘員らに占拠され、フィリピン軍は奪還するのに5ヶ月も要した。「イスラム国」戦闘員らは、「第二のマラウィ」実現を目指して、武装闘争を続けている。
「イスラム国」戦闘員が目指すものは?
我々は武装闘争を続ける「イスラム国」系武装勢力BIFF(バンサモロ・イスラム戦士)の元メンバーに話を聞くことができた。部隊の元副司令官だったという46歳の男は去年10月、フィリピン軍によって拘束された。
武装闘争の目的について男は「我々はコーランとハディース(ムハンマドの言行録)のみに従っている。ジハードに従うよう言われてきた」と述べ、フィリピン政府からの分離独立をこえた「イスラム国家樹立」が目的だと明言した。(中略)
「イスラム国」系の過激派はフィリピン政府との対話を拒み、あくまでイスラム国家の樹立を目指して武装闘争を続けている。過激派の多くはMILFから分派した組織で、彼にとってMILFはイスラム国家樹立を断念しフィリピン政府と妥協した敵として映っている。
外国人戦闘員流入が後を絶たず
さらにミンダナオの武装闘争は外国人戦闘員の流入により大きく変容してきている。「イスラム国家樹立」という理想に惹かれ、ミンダナオ島には外国人戦闘員の流入が後を絶たない。
去年7月にはミンダナオ西部のバシラン島で、「イスラム国」戦闘員のモロッコ人が自爆テロを起こし軍検問所で自爆し、軍人10人以上が死亡。このニュースはフィリピン国内に衝撃をもたらした。(中略)
フィリピンは日本にとって近い国であり、多くの外国人労働者を受け入れる日本にとってさらに近い国になるのは間違いない。この地でイスラム過激派を封じ込めることは、日本にとっても死活的に重要な課題であることは間違いない。【1月22日 FNN PRIME)】
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【MILFの武装解除・社会参加が進まないと、不満を抱えるメンバーの過激派への合流も】
過激派への流入は外国からだけではありません。
MILFの武装解除=社会参加がうまく進まないと、行き場を失ったMILFのメンバーが過激派に参加することも予想されます。
****日本から一番近い紛争地帯でイスラム過激派の脅威拡大 和平のカギは兵士4万人の「武装解除」****
1月14日朝、我々取材班はミンダナオ島・コタバト市にあるMILF=「モロ・イスラム解放戦線」の本拠地キャンプ・ダラパナンを訪れた。(中略)
フィリピン南部ミンダナオ島では40年以上にわたり、キリスト教徒とイスラム教徒による紛争が続いてきたが、フィリピン政府とMILFは2014年に包括和平案に合意、自治区を認める代わりにMILFは段階的に武装解除を行うことが決まった。
今後この「武装解除」がうまくいくかどうかが、和平実現の鍵を握っている。
MILFは常備軍4万人
MILFには現在、3〜4万人の常備軍がおり、民兵を含めると12万人いる。キャンプ内で出会った兵士はカラシニコフで武装し、一見すると国の軍隊と何ら変わりないがない。軍事訓練を受け、重火器や爆発物などの扱いにも長けている。
こうした兵士を「武装解除」させるためには、兵士以外の仕事で生活できるように道筋を付ける必要がある。
ミンダナオ島は気候がよく台風もほとんど通過しないため、農業や漁業に適した土地である。日本のJICAは、兵士らに対して農業技術研修などを行っており、武器を手放した後も、安定した生活をおくることができるようサポートを続けている。MILFのムラド議長も、こうした日本の支援を高く評価している。
虎視眈々と狙う過激派
一方で、こうした和平の動きに水を差す動きが現地では起きている。イスラム過激派の台頭である。ミンダナオ島では、MILFが分離独立を断念したことに反発し、MILF本体から分派した過激派組織が各地で爆弾などによるテロ攻撃を繰り返している(中略)
こうしたイスラム過激派が目指すのはイスラム国家の樹立であり、MILFが目指してきた分離独立とはそもそも根本的に異なる。
「武装解除」の過程でMILF元兵士らの生活が苦しくなった場合、元兵士らが資金力のある過激派に流入してもおかしくはない。
過激派側も虎視眈々と勢力拡大を狙っており、戦闘経験があるMILF兵士は魅力的にも映る。MILFの「武装解除」は、一歩間違えれば過激派伸長のリスクをはらんでいるともいえる。(後略)【1月22日 FNN PRIME)】
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