孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリス  迷走するブレグジット 問題点と今後を簡単に整理

2019-01-30 23:01:47 | 欧州情勢

(【1月30日 日テレNEWS】 個人的には、そこまでの混乱はないのでは・・・とは思いますが。ただ、「ブレグジット」のイギリス経済・政治への長期的な影響は深刻でしょう)

【再交渉を、「合意なき離脱」はダメ・・・とは言うものの】
イギリスがEU離脱「ブレグジット」の期限である3月29日を目前にして、相変わらず方向も定まらず、国内世論も分断した状況で、もがいていることは周知のところです。

英下院では29日夜、法的拘束力はないものの、メイ首相が(苦し紛れに)提案する「バックストップ」(北アイルランド国境に関し、移行期間中の合意が得られなかった場合の安全策)について再交渉を行うとする修正案が支持され、同時に、何の合意もないままEUを離脱することがないように求める動議も可決されました。

とは言っても、交渉は相手があっての話ですから、いくらイギリスが再交渉を望んでもそのように進む訳でもなく、交渉が進まなければ、いくら英議会が認めないといっても時間切れで「合意なき離脱」にもなります。

日本と韓国の例を持ち出すまでもなく、いったん合意した内容について国内事情で一方的に「再交渉」と言われても、EU側もおいそれとは乗ってきません。

現在のところ、EU側は再交渉を否定しています。(期限延期には考慮の余地があるようです)

****英国の離脱協定、EU大統領「再交渉せず」 議会採決受け****
欧州連合(EU)のトゥスク大統領は、英国の離脱協定について再交渉しない考えを示した。(中略)

トゥスク氏は報道官を通じて「離脱協定は秩序ある英EU離脱を確実にする最善、唯一の方法」と指摘。「バックストップは離脱協定に含まれ、離脱協定に再交渉の余地はない」と述べた。

英議会が「合意なき離脱の拒否」を盛り込んだ修正案を可決したことを受け、トゥスク氏は歓迎する意向を示した。

「仮に将来の連携関係を巡る英国の考えが進化すれば、EUは提案を再検討し、内容や政治宣言の熱意の水準を調整する用意を整える。英側が根拠のある延期要請を行えば、加盟27カ国は検討の上、全会一致で決める意向だ」と説明した。 【1月30日 ロイター】
********************

【「ザ・トラブルズ」(北アイルランド紛争)を再燃させかねない北アイルランド国境管理問題】
いささか“漂流”“迷走”状態で、今後イギリスがどこに行き着くのかは誰もわからないところですが、こうした状況をわかりやすくまとめた記事が2本あったので、現状の“おさらい”ということで紹介しておきます。

最初に、「バックストップ」などで問題となっている北アイルランド国境に関する状況を整理した記事。

****EU離脱、一触即発の危険を捨てきれない北アイルランド****
<ブレグジット問題が危機的にこじれる原因の北アイルランド問題の核心がよくわかる>

(中略)議会の支持を取り付けるために大きな障害となったのが、英領北アイルランドとアイルランド共和国との間に物理的な国境(「ハード・ボーダー」)を置かないための「安全策」(通称「バックストップ」)の取決めだ。

北アイルランドでは、1960年代から英国からの分離独立とアイルランドへの帰属を求めるカトリック系住民と英国への帰属継続を求めるプロテスタント系住民との対立が激化し、互いの民兵組織によるテロや武力抗争が始まった。これは「ザ・トラブルズ」(北アイルランド紛争)と呼ばれ、3000人以上が命を落とした。

1998年、北アイルランドの帰属を住民の意思に委ねる包括和平合意「ベルファスト合意(聖金曜日協定)」が調印され、かつては敵同士だったプロテスタント、カトリックの有権者を代表する政治家がともに自治政府を構成するまでに至った。

民兵組織による攻撃の対象になりがちだった国境検問所は1990年代に次第に機能停止状態となり、現在、北アイルランドとアイルランドの間で国境検査は行われていない。

苦肉の「バックストップ(安全策)」
ブレグジット後もハード・ボーダーを置かないことを確実なものにするため、EU側と英政府が離脱協定案に入れたのが、先の安全策であった。

離脱協定案によれば、2020年12月までEUと英国は「移行期間」を置く。この間に両者は包括的な通商協定を結ぶ予定で、その際には北アイルランドとアイルランドの間にハードボーダーを置かないようにする。

しかし、もし期間内に合意がなかった場合、移行期間をさらに1年延ばすことができるが、それでも合意ができなかった場合、何としても国境検査をしないようにするために安全策が編み出された。

そのためには、まず英国全体をEUとの一種の関税同盟に入れる。同時に、アイルランドと地続きになる北アイルランドは本来はヒト・モノ・資本・サービスの自由な行き来を可能にする「EUの単一市場」にも一部参加する。北アイルランドは英国のほかの地域より、よりEUとのきずなが強くなる。
 
英国とEU、北アイルランドとアイルランド、全ての境界の関税を撤廃し、物の移動を自由にすることで、将来どのような通商関係を英国とEUが結ぼうとも、ハード・ボーダーができないようにする対策だ。

この安全策の設定から抜け出るには、EUと英国の両方の合意が必要と規定され、適用期限は特定されない。英国のブレグジット支持者や政治家は、「半永久的にEUの関税同盟や単一市場に入り続けることになる」といって、安全策に猛烈に反対した。

北アイルランドが英国本土と同様に扱われることを望むプロテスタント系地方政党「北アイルランド統一党(DUP)」も、「絶対に受け入れられない」と突っぱねた。

かくして、政府の離脱協定案は1月15日、下院で賛成202、反対423票という大差で否決された。
 
検問所は格好の攻撃対象
アイルランド島は過去何世紀にもわたり英国の支配下にあったが、カトリック教徒が大部分の南部が1922年に自治領となり、37年に英連邦内の自治領として独立し、49年にアイルランド共和国となっている。プロテスタント系が多い北部6州は英国の一部として残ることを選択した。

約500キロにわたるアイルランドとの国境で検問所の機能が復活すると、北アイルランド紛争の再来にもつながるような暴力事件が起きる可能性がある、と言われている。

なぜそうなるのかというと、ベルファスト合意から21年になるが、いまだに北アイルランドは一触即発状態にあるからだ。(中略)

プロテスタント系住民とカトリック系住民の居住地を分ける高い壁(皮肉を込めて「平和の壁=ピース・ウオール」と呼ばれる)が建設されており、通り過ぎる人を圧倒する。

旗が連なる光景もよく目につく。プロテスタント系住民は、英国とのつながりを強調するため、イングランドの旗をいくつもつなぎ、自宅やその近隣を囲む。カトリック系住民のほうは統一を望むアイルランドの旗を同様に飾る。自分たちの陣地をそれぞれ主張している。

小学校から中等教育まで、それぞれの宗派によって進学する学校が異なり、カトリックの家庭で育った子供がプロテスタントの子供と初めて言葉をまともに交わしたのは、大学に入ったときか、就職したときというケースは珍しくない。

カトリックの子供もプロテスタントの子供も一緒に学ぶ「インテグレーテッド・スクール」と呼ばれる学校は、全体の数パーセントにとどまっている。

国境検査を再来させるかもしれないブレグジットは、カトリック系民兵組織からすれば、北アイルランドとアイルランドを分断させる動きだ。抗議や怒りの表明として、誰かが検査所を攻撃することを期待する機運が生まれてしまう。(中略)
 
自治政府も空中分解
2012年以来、北アイルランド自治政府が崩壊したままであることも暴力の発生を防ぎきれない要素だ。

ベルファスト合意後の北アイルランド自治政府は、プロテスタント、カトリックの有権者を代表する政治家が首相、副首相を担う形で続いてきたが、互いへの不信感が根強く、これまでも数回政権崩壊の危機を経験してきた。

2012年、プロテスタント系政党DUPが主導していた再生エネルギー導入計画が巨額の損失を出し、カトリック系のシン・フェイン党がDUPの党首で自治政府首相のアイリーン・フォスター氏の辞任を求めたが、同氏がこれに応じなかったため副首相だったマーティン・マッギネス氏が辞職。自治政府は空中分解した。

7年後の現在、自治政府はまだ再開しておらず、国境問題の安全策についての決定は中央政府の手にゆだねる状態となっている。(中略)

2年前の国民投票で離脱が決まった時点で、アイルランドと北アイルランドとの間の人や物の行き来をどうするかが大きな課題となったわけだが、何も対処されないままに時が過ぎた。離脱交渉が進展する中で、決定を先送りにし、いつかは解決するだろうと思いながら今日まで来てしまったというわけだ。

北アイルランドの住民以外の英国人の無関心もその要因だろう。カーティス教授によれば、北アイルランドはロンドンの政界やほかの地域に住む人からすれば、遠い存在で「離脱派の明らかな過半数は、北アイルランドの和平が崩れてもブレグジットできるならいいと考えている」という。

メイ首相は29日に代替案を下院に提出する予定だが、この問題を打開できる目処はついていない。【1月29日 小林恭子氏 Newsweek】
*********************

実際、すでにアイルランド紛争再燃をも危惧させる不穏な動きも起きています。

****北アイルランドで車爆発 「新IRA」の犯行か****
英国・北アイルランド地方のロンドンデリーで19日夜、自動車爆弾によるとみられる爆発が発生した。警察は翌20日、共和派の反体制組織「新IRA」による犯行との見方を示した。
 
爆発は19日午後8時10分(日本時間20日午前5時10分)、市庁舎前に装置が仕掛けられたとの情報を受けた警察が周辺地域から人々を避難させる中で発生。けが人は出なかった。
 
当局は翌20日、市内で20代の男2人を逮捕。現場では同日、警察と軍の爆発物処理班が作業に当たった。(後略)【翻訳編集】AFPBB News
*****************

議会の動き、想定される今後の状況については、以下のようにも。

****ブレグジットでいま何がどうなった、次はどうなる 下院は再交渉に賛成****
そしてまた、ブレグジットは重要な節目を迎えた。
イギリスの欧州連合(EU)離脱=ブレグジットについて英下院は29日夜、政府がEUとまとめた離脱協定がどうあってほしいかについて投票した。(中略)

イギリスは3月29日にEUを離脱するが、イギリスの下院議員はいまだに、どうやって離脱するのが良いか合意できていない。(中略)

(イギリスとEUは)昨年11月に双方はついに合意に達し、テリーザ・メイ首相は英国民は「もうこれ以上ブレグジットについて言い争いたくないと思っている」と発言した。

英政府とEUが交わした離脱協定を施行するには、英議会の承認が必要だ。しかし、首相が率いる与党・保守党の議員の全面的な支持を取り付けるのは困難で(以下参照)、多くの保守党議員が首相に造反した。

その結果、下院は2週間前の15日、政府がまとめた協定を432対202の票差で否決した。現職内閣にとって歴史的な大敗だった。

29日に何が起きたのか
(中略)7つの修正案が採決の対象になり、そのうち5つは否決された。しかし、可決されたものが2つあった。

(1) アイルランド国境の再交渉
メイ首相が昨年11月にEUと交わした協定では、北アイルランドとアイルランドの間に「厳格な国境」は設けないという内容が含まれた。このための措置を「バックストップ」と呼ぶ。(中略 「バックストップ」については上記【Newsweek】参照)

何より、EU側が合意しなければ、イギリスはバックストップから抜け出せない。
EUときっぱり手を切りたい与党・保守党のブレグジット派議員たちはそのため、このバックストップ条項に猛反発している。

また、政権と閣外協力している北アイルランドの民主統一党(DUP)も、バックストップによって北アイルランドとグレートブリテン島で差異がでれば、それはイギリスの連合を脅かし、1998年のベルファスト合意(イギリスとアイルランドの和平合意)に抵触するものだと反発している。

こうした状況で29日夜、大多数の下院議員は、バックストップ条項を変更する新しい協定が必要だと表明した。
しかしそれは言うほど簡単なことではない。

(2) 「合意なし」を回避
大多数の下院議員はこのほか、何の合意もないままEUを離脱することがないように求める動議を可決した(なぜ大勢が「合意なし離脱」を心配しているかは後述)。

少なくとも、ほとんどの議員が「合意なし」についてどう思っているかは、これで分かった。しかし、実態は何も変わっていない。議員たちは、「どうやって」合意なしを回避すべきか、方策を提案したわけではないので。

そして、動議は可決されたが、法的拘束力はない。そのため、合意なしブレグジットはまだ現実のものとなり得る。

次はどうなる・・・さあ。
理屈の上では、メイ首相はこれでEUに対して、バックストップの再交渉を求めることができる。議会の後ろ盾を得たので。

しかし、EU側は再交渉するつもりはないし、そもそも再交渉の必要性すらないという姿勢だ。バックストップ問題はもう解決済みだと。EU加盟国のアイルランドも、バックストップ条項の修正を求めていない。

EUが再交渉に応じず、英下院が妥協案を見出せないなら、次はどうなるのか。
それが「ハード・ブレグジット」だ。何の取り決めもないまま、イギリスは3月29日に自動的にEU加盟国でなくなる。

何の移行期間もなく、ぷっつりいきなり離脱することになる。
合意なし離脱による悪影響については、食品や原材料など多くの品目のイギリス輸入が遅滞し、物価が急騰するのではないかなど、様々な懸念が各方面から指摘されている。(中略)

合意なしブレグジットだとどうなる
この場合、イギリスは即座に、移行期間なしに、EU規則に従う必要がなくなる。
メイ政権をはじめ大勢は、これはイギリスに深刻な打撃を与えることになると考え、段階的な離脱を求めている。

しかし、離脱方法について下院が合意できないままだと、イギリスは自動的に3月29日に離脱する。
その場合、貿易についてはEU規則ではなく世界貿易機関(WTO)の決まりに従うことになる。多くの企業にとって、輸出入やサービスが新しく課税対象となり、事業費がふくれ上がる見通しで、この影響で商品によっては英国内の小売価格が上昇するだろう。

イギリスがEU加盟国として参加していた他国との貿易協定は適用されなくなり、イギリスはEUをはじめ諸外国と個別に貿易協定を再交渉することになる。

イギリス国内の製造業者は、部品の輸入に遅れが出ると予測している。

イギリスは独自の出入国規制を自由に導入できるようになる。しかし、EU域内で働いたり暮らしたりしている英国人は、法的立場があいまいになるかもしれない。欧州委員会は、たとえ合意なしブレグジットになったとしても、最長90日間の短期滞在ならば英国民はEU域内でビザを必要としないという姿勢だ。

北アイルランドとアイルランドの間の国境が、EUとイギリスの間の税関や出入国管理の前線となる。しかし、この国境をどのように、どこまで管理するのかは、不透明なままだ。

一部の離脱派は、準備さえしっかりすれば合意なしブレグジットは良いことだと考えている。合意なしブレグジットの危険性を強調する批判派は単に国民の恐怖をあおっているだけで、離脱直後の短期的マイナスは長期的なメリットの代償に過ぎないと、一部の離脱派は言う。

しかし、残留派か離脱派かを問わず、合意なしブレグジットはイギリスにとって悲惨なことになると批判する声は多い。食費は上がり、物不足に陥り、国境検査が増えることで南東部の道路が大渋滞に陥ると、こうした人たちは懸念している。【1月30日 BBC】
*******************

“ゴールドマン・サックスは30日、英議会による欧州連合(EU)離脱に関する修正案の採決を受け、「合意なき」離脱の想定確率を10%から15%に引き上げた。”【1月30日 ロイター】 ブックメーカーのオッズのようです。

こんなものも出回っているとか。

****英“合意なき離脱”か ある商品が人気に…****
(中略)一方、「合意なき離脱」で、市民の間にモノ不足の懸念が広がる中、意外な商品が注目されている。

倉庫で出荷準備が進んでいたのは「EU離脱箱」と名付けられた段ボール箱。箱の中には、例えば何種類ものフリーズドライの食べ物や、水道が止まった時に備えて水をろ過できる装置、さらにガスが止まった時に備えて、着火剤も入っている。

保存食は、水やお湯を加えて10分ほどで食べられるようになる。値段は1箱で4万5000円。スーパーからモノが消えても30日間生存できるという、この「EU離脱サバイバルキット」への注文が、相次いでいるという。

英・食品会社担当者「予想以上の反響で、毎日25件の注文が入っています。これまでに600個以上販売しました」(後略)【1月30日 日テレNEWS】
*******************

メイ首相は“瀬戸際戦術”でEUとの再交渉に臨みたい構えですが、議員の多くが「合意なき離脱」を避けたいと考えていることが明らかになったことは、むしろEU側の立場を更に優位にしたようにも見えます。

何より、(個人的な憶測ですが)EUにしてみれば、EUの今後の結束を維持するためには“ハッピーなブレグジット”などあってはならず、イギリスには“悲惨なブレグジット”に陥ってもらわないと困るのではないでしょうか。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする