(「イスタンブール運河」(背景画像の中央水路 右側がボスポラス海峡)について力説するエルドアン大統領 2020年1月【2月3日 FNN PRIME】)
【シリア 3日で反故になった停戦合意 トルコ軍、シリア政府軍と交戦】
世の中、新型肺炎の話で持ち切り。(実際、影響は健康面だけでなく経済・政治など多方面に及びそうで、その度合いは今後ますます強まりそう)その話をすればきりがなさそう・・・。
一方、注目されたアメリカ・アイオワ州の党員集会は訳の分からない状態に。(アメリカ大統領選挙の混乱とか不思議は今に始まった話でもなく、そもそも幌馬車で各地の代議員が集まっていた時代のシステムを今も続けているところに最大の不思議があるようにも)
そんな落ち着かない状況で、最近殆ど顧みられることがなくなった感もあるシリアの話。
シリアでは反体制派最後の拠点イドリブをめぐる攻防が激化するなか、1月中旬には停戦が発効した“はず”でしたが・・・
****シリア停戦 3日で破られる アサド政権側の空爆で市民15人死亡 ****
内戦が続くシリアで、反政府勢力の最後の拠点となっている北西部での停戦がわずか3日で破られ、アサド政権側の激しい空爆で市民少なくとも15人が死亡し、人道的な危機がさらに深まる懸念が出ています。
シリア北西部のイドリブ県では、アサド政権側が反政府勢力への攻勢を強め、先月中旬から30万人以上が家を追われるなど人道的な危機が広がっていて、政権の後ろ盾となっているロシアと反政府勢力を支持するトルコの合意に基づいて、今月12日から停戦することになっていました。
しかし15日、イドリブ県の広い範囲でアサド政権側の激しい空爆や砲撃が始まり、停戦はわずか3日で破られました。(中略)
反政府勢力の最後の拠点となっているイドリブ県での停戦は、これまでも長続きせず、市民の犠牲の増加や新たな避難民の発生など人道的な危機がさらに深まる懸念が出ています。【1月16日 NHK】
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わずか3日で反故にされる停戦合意・・・ロシア・トルコもそのあたり承知で、(リビアの停戦と併せる形で)とりあえず形だけ整えたということでしょうか、それとも両国のコントロールが及ばない状況となっているのでしょうか。
攻勢を強める政府軍は戦略上の要衝を制圧、一方で戦闘の激化にともない大量の避難民が発生しています。
****アサド政権軍、拠点都市制圧 新たに35万人以上避難 シリア北西部****
内戦状態にあるシリアで、アサド政権軍が29日、反体制派の最後の大規模拠点となっている北西部イドリブ県の第2の都市マーレトヌーマンを制圧した。シリア国営通信が報じた。ロシア軍の支援を受ける政権軍の勢いが増すなか、新たに35万人以上が避難を迫られている。
政権軍側は空爆や砲撃による攻撃に続き、先週末から近郊への地上作戦を開始。反体制派の在英NGO「シリア人権監視団」によると、すでに20以上の町や村が制圧されていた。
マーレトヌーマンは、首都ダマスカスと北部の商都アレッポをつなぐ幹線道路上にある。政権軍は、この道路の制圧を最優先にしており、そのためにマーレトヌーマンの奪還を狙っていた。また、アレッポの西側にある反体制派の支配地域への攻勢も強めている。(中略)
国連人道問題調整事務所(OCHA)は28日、昨年12月以降に同県を逃れた避難民は35万8千人にのぼると発表した。政権軍の攻撃が激しくなった昨年4月から今年1月中旬までに市民1506人が死亡し、そのうち子どもが430人以上を占めるという。【1月30日 朝日】
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以前から避難民に押し寄せており、すでに大量のシリア難民を抱えるトルコとしては、これ以上難民を受け入れることはできない・・・というのが、エルドアン大統領がプーチン大統領に働きかけて1月12日の停戦合意につなげた背景でもありました。
****「シリア難民の流入、トルコだけでは対処できない」 エルドアン大統領****
シリア北西部イドリブ県で激化している戦闘に伴い、シリア難民が新たに増加していることを受けて、トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は23日、欧州諸国に対しトルコだけでは難民の受け入れには対処できないと訴えた。
反体制派の拠点となっている同県南部のマーラトヌマンでは今月16日以降、シリア政府軍との戦闘が激化。政府軍を支援するロシア軍の空爆が度重なり、住民数万人がトルコとの国境に向けて避難を開始した。
エルドアン大統領はイドリブ県から8万人以上がトルコ国境周辺に押し寄せていると説明し、「トルコはシリアから新たに流入する難民の波に対処できない」と訴えた。
また、難民の数が今後さらに増えるなら、「トルコは単独で負担を引き受けることはしない」と述べ、「わが国が被る悪影響は、欧州各国、特にギリシャが経験していることと同様の問題だ」と語った。
トルコと欧州連合は2016年、欧州への移民流入をくい止めるために、ギリシャに密航してきた移民をトルコに強制送還する合意を交わした。エルドアン氏は、欧州が再びこの合意以前の状況に直面する恐れがあると警告している。
合意以前の2015年には第2次世界大戦後最悪規模の難民危機が発生し、欧州に100万人以上の難民があふれていた。2016年の合意では、トルコが欧州に向かう移民や難民の管理を強化する見返りとして、EUがトルコに66億ドル(7200億円)の財政支援を約束した。 【翻訳編集】AFPBB News
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“難民の数が今後さらに増えるなら・・・・”という状況が発生しつつあり、今後シリア難民の問題がトルコと欧州との問題として再びクローズアップされることが考えられます。
欧州として対応が難しいのは、難民受け入れに中東欧諸国中心に強いこと、また西欧主要国にあっても国内の受入れ反対勢力が機をうかがっている状況にあることで、イギリスの抜けたEUを揺さぶる問題にもなります。
こうした危機的な状況にあって、更に危機レベルを高めているのは、シリア政府軍とトルコ軍が交戦したという話です。
****トルコ、シリア北西部でアサド政権軍に報復攻撃 対ロ関係影響も****
トルコは3日、シリアの北西部イドリブ県でトルコ軍兵士らが砲撃を受け、民間人1人を含む8人が死亡したと発表。報復としてシリアのアサド政権軍を攻撃したと明らかにした。
トルコの国営アナドル通信によると、トルコ軍はイドリブ県の54カ所で報復攻撃を行い、シリア政府軍の兵士76人を無力化したとアカル国防相が発表した。
シリアのアサド政権軍はロシア軍の支援を受け、反体制派最後の拠点とされるイドリブ県で大規模な攻撃を実施。トルコは政権による攻撃が停止されなければ、軍事作戦を行う可能性があると警告していた。
ウクライナのキエフを訪問したトルコのエルドアン大統領は、イドリブ県の情勢が「管理不能」になっていると懸念した。
シリア北東部では、トルコとロシアが共同で監視活動を実施しているが、北西部のイドリブではロシアが支援するシリア政府軍とトルコは対立関係にある。
エルドアン大統領によると、トルコはロシアに対し、イドリブ周辺での戦闘に関与しないよう求めている。今回の衝突は、トルコとロシアの協力関係に影響を及ぼす可能性もある。(中略)
一方、ロシア国防省は、トルコ軍はイドリブ県でロシアへの通知なく動いたため、シリア政府軍の攻撃を受けたと説明。また、トルコによるシリア軍への空爆はなかったとした。【2月4日 ロイター】
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最後のロシア国防省の発表に関しては、“この事件をさらに大きくしなたくないとのロシアの配慮がにじんでいる感じ”【2月3日 「中東の窓」】との指摘も。
まあ、アメリカ抜きの中東において主導権を握りたいロシアとしては、立場が異なるトルコとは決定的な対立を起こさず、両者で協調しながら事態をコントロールしたい・・・というのは本音でしょう。
イドリブ制圧を目前にするアサド政権がどう動くかはわかりませんが。
【ロシアと協調しつつも主導権争い リビアでも】
事態コントロールで協調はしながらも、主導権をめぐって争うロシアとトルコの関係は、リビアでも似たような状況となっています。ロシア・トルコ主導の名ばかりの停戦合意が実態を伴っていないのも同じです。
****露とトルコ「米国不在」で覇権争い シリアに続きリビアでも****
リビア内戦を通じ、ロシアが中東で勢力圏を拡大することへの懸念が欧米で広がっている。シリアで内戦に介入して影響力を確保したロシアは、リビアで民間軍事会社を通じて浸透を図ってきた。
一方でトルコもリビアに干渉する姿勢を崩さず、米国が中東への関与を薄める姿勢を示すなか、力の空白に付け込みロシアと勢力争いを演じている。リビア情勢は「米国不在」をにらんだ中東の覇権を占う試金石となりそうだ。
リビア内戦でロシアの存在感が急速に増したのは昨年のことだ。プーチン露大統領の側近が率いる露民間軍事会社ワグナー・グループが数千人ともいわれる雇い兵や兵器を送り、東部を拠点とする有力軍事組織「リビア国民軍」(LNA)を支援している−と欧米メディアが報じてきた。
これに対し、西部の首都トリポリの暫定政権を支援するトルコは今月、兵力増派を決定。緊張の高まりを受けて19日にはベルリンで国際会議が開かれたが、米国がポンペオ国務長官の出席にとどめたのに対し、英仏独は首脳が顔をそろえ、リビアに対する欧米の温度差が浮き彫りになった。
米国はカダフィ政権崩壊翌年の2012年、東部ベンガジで米領事館が襲撃されて大使ら4人が死亡して以来、リビアへの関与を縮小。一方、欧州にとってリビアは密航船で押し寄せる移民の出発拠点に当たり、政情安定は喫緊の課題だ。
しかし、武力行使という選択肢がない欧州は傍観せざるを得ないとの見方が多い。米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は、ロシアやトルコが欧州を駆け引きの材料にしているとの識者の見方を紹介した。
両国が勢力分割で合意に達して内戦が終結に向かえば、リビアの地中海沿岸に基地を設けて軍事や移民の問題で圧力をかけてくる−との懸念さえ欧州では出ている。
プーチン氏は世界10位の原油埋蔵量を有し、欧州にも近いリビアを勢力圏とみなしてきた。首相だった11年には、カダフィ政権を崩壊に導く欧米諸国の軍事介入に道を開いた国連安保理決議について、「中世の十字軍を想起させる」と酷評。拒否権を行使せず棄権に回ったメドベージェフ大統領(当時)を批判した。(中略)
ロシアとトルコは、シリアからの米国の影響力排除で共闘する姿勢を示す一方、北西部イドリブではイスラム過激派への対応をめぐり確執が続いている。同様の勢力争いはリビアでも展開される可能性がある。【1月23日 産経】
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リビアも“密航船で押し寄せる移民の出発拠点”ということで、欧州にとっては懸念の種となっています。
リビアにおいて、シリアのアサド政権に似た立場にあるのが、ロシアの支援を受けながら軍事的統一を目論む東部を拠点するハフタル司令官率いる勢力の存在で、首都トリポリ攻略に向けて要衝ミスラタに攻勢を強めています。
****リビア軍事組織が西部のミスラタに進軍、停戦崩壊の兆候****
リビアのシラージュ暫定政権当局者や住民の話によると、東部が拠点の有力軍事組織「リビア国民軍(LNA)」は26日、暫定政権派の西部都市ミスラタに向けて部隊を進軍させた。19日にベルリンの和平国際会議で成立したばかりの停戦合意がさらに崩壊に近づいている兆しと言える。
国連のリビア派遣団によると、首都トリポリ東部のミティガ国際空港にロケット弾2発が撃ち込まれ、民間人2人が負傷し駐機地や建物が損傷した。同空港への攻撃はこの数日間で2度目。
ミティガ国際空港は、アラブ首長国連邦(UAE)が提供するLNAの無人機に対抗するため、暫定政府側が、トルコから供与された武装無人機(ドローン)の離陸に使用してきた。
ハフタル司令官率いるLNAは現在、中部の都市シルトからミスラタに進軍中。ミスラタの東方120キロのアブグレインが、ミスラタの部隊とLNAの戦闘の中心地域になっていることを双方とも確認した。LNA筋によると、LNA側は戦闘員2人が死亡、8人が負傷し、いったん戦闘地点から退却した。【1月27日 ロイター】
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攻勢を強めるハフタル司令官ですが、暫定政府を支援するトルコはトリポリに軍艦を派遣して、トリポリの軍事拠点を拡充強化している様子です。
こちらも、ハフタル司令官率いるLNAとトルコ軍が交戦してもおかしくない情勢になっています。
シリア・リビアに介入するトルコに関しては、以下のような指摘も。
****トルコのやりすぎoverstretch?****
どうも最近トルコがシリアのみならずリビアでも実力に訴え、オスマン帝国の再興を狙っているとか、やり過ぎだとかの評価があるようですがその風刺画です
真ん中で領岸の木に必死でしがみついている男にはトルコと書いてあり、右側の岸にはシリア、左側にはリビアと書いてあります。【2月4日 「中東の窓」】
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付け加えれば、トルコはシリアにおいては、北部のクルド人勢力との軍事的対立も抱えています。
【“クレイジー・プロジェクト”実現に意気軒高なエルドアン大統領】
はた目には「エルドアン大統領もさぞ困っているのでは・・・」と思えるのですが、当の本人はすこぶる意気軒高な様子です。
****トルコ大統領の“仰天”プロジェクト〜「第2ボスポラス海峡」とは!?****
東西文明が出会う海峡に持ち上がった“クレイジー・プロジェクト”
東西文明の十字路、トルコ。最大都市イスタンブールは、かつての東ローマ帝国の首都コンスタンティノープルだ。そのエキゾチックな雰囲気は、今も決して色褪せない。そして、イスタンブールを、アジア側とヨーロッパ側に隔てるのがボスポラス海峡。(中略)
このボスポラス海峡をめぐり、ある“仰天”プロジェクトがついに動き出そうとしている。海峡に並行して、西側に「運河」を建設するというものだ。その名も「イスタンブール運河(カナル・イスタンブール)」。ボスポラス海峡をバイパスするもので、いわば「第2ボスポラス海峡」だ。
「イスタンブール運河」は長さ45km、ボスポラス海峡と同じく黒海からマルマラ海に抜ける人工水路で、その先にはエーゲ海、さらには地中海が広がる。このプロジェクトの考案者こそ、エルドアン大統領その人だ。
2011年、当時首相だったエルドアン大統領は、自ら“クレイジー・プロジェクト”と称する計画を公式発表し、「スエズ運河やパナマ運河をもしのぐ規模になるだろう」と意気込みを示した。
運河のルート選定や資金繰り、反対運動などから、建設が始まるには至らなかったが、エルドアン大統領はあきらめていなかった。2019年11月以降、エルドアン大統領は再びこのプロジェクトを実行に移すと述べたうえで、2020年にも入札を開始すると宣言したのだ。
運河を必要とする根拠
賛成派が訴える理由は主に3つ。
「ボスポラス海峡の交通量の削減」、「海峡の安全確保」、「運河ルートの都市開発」だ。(中略)
エルドアン大統領自ら“クレイジー”と称するこのプロジェクト、政府側は約150億ドルの総工費を見込んでいる。当然、海外からの資金調達も必要で、一部のアラブ諸国のオイルマネーを期待しているとみられる。
環境破壊への懸念
エルドアン大統領はこれまでも、海峡をつなぐ「ボスポラス海峡第3大橋」、海峡の海底に「マルマライトンネル(鉄道)」と「ユーラシアトンネル(車道)」、そして市内3番目の巨大空港「イスタンブール新空港」など、数々のメガプロジェクトを実現させてきた。
ただ、今回はそれらを上回る規模の費用を要することや、環境破壊への懸念から、発表当初から反対意見が相次いできた。(中略)
専門家の多くは、まず運河建設による生態系の破壊に警鐘を鳴らす。北の黒海と南のマルマラ海をつなぐ新たな水路ができることで、水位の変化とともに海流のバランスが崩壊、魚類の生育環境が大きく損なわれるという。(中略)
次に大きな問題は「水」だ。計画では、運河建設ルートにあるダムを取り壊すことになっている。このダムは言わずもがな、イスタンブール市民の「水がめ」だ。専門家らは、これにより市民の飲料水が確保できなくなると訴える。(中略)
「モントルー条約」の観点からも問題?
賛成派や反対派に関わらず、運河建設そのものが「モントルー条約」を脅かす恐れも出てきている。(中略)隣に無料の「一般道(海峡)」があるのに、誰が好んで「有料道(運河)」を使うのか?といった疑問も生じる。
反対派の声に「どこ吹く風」のエルドアン大統領
こうした数々の反対意見があるにも関わらず、エルドアン大統領は、イスタンブール運河は市長や市に付託するものではなく、あくまでも国家プロジェクトだと繰り返し主張。2019年12月には、「望もうが望むまいが、イスタンブール運河は建設する!」と言い切った。
先述の通り、運河構想は2011年に大統領により公式発表された。当初はトルコ建国100年である2023年完成を視野に入れていたようだが、現時点では2026年を目標としている。
とはいえ、建設どころか、いまだ入札さえ行われていないのが実情だ。3年後の2023年には大統領・国会選挙が予定されている。イスタンブール運河というメガ構想は、今後、選挙のメガ争点になりうるのかもしれない。【2月3日 FNN PRIME】
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いろいろ思惑あってのことでしょうが、基本的には「性格」でしょうね。