孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

西アフリカ・カメルーン  多数派仏語圏からの分離独立を求める英語圏 繰り返される双方の暴力

2020-02-18 23:12:08 | アフリカ

(【2018年11月8日 NHK】 西(左)隣の大きな国は過激派武装組織「ボコ・ハラム」で有名なナイジェリア)

 

【「虐殺」か、「不運な事故」か】
西アフリカのカメルーン、日本にはなじみの少ない国です。

もう随分昔の話にもなってしまいましたが、2002年に開催された日韓ワールドカップの際、大分県中津江村がカメルーン代表のキャンプ地に選ばれ、「いちばん小さな自治体のキャンプ地」としてまた、また、選手団の到着が遅れたことなどから注目され、村民と選手団の交流が日本国内で有名になった・・・という記憶ぐらいでしょうか。

そうした“ほのぼのとした話”にもかかわらず、カメルーン国内には多数派の仏語圏と少数派の英語圏の間の深刻な分断・抗争があります。

****カメルーン軍が「虐殺」を否定、子どもと妊婦含む22人死亡****
国連によると、カメルーン北西部の英語圏にある村で14日、子ども14人を含む民間人最大22人が殺害された。

野党は政府軍兵士らによる虐殺だと非難しているが、軍は17日、これを否定して戦闘中の燃料爆発による「不運な事故」だったと主張した。
 
国連人道問題調整事務所でカメルーン西部を担当するジェームズ・ヌナン氏は16日、「武装した男たち」が妊娠中の女性1人と子ども14人を含む民間人22人を殺害したとAFPに述べた。子どものうち11人は女児だったという。
 
事件が起きたのは北西部ントゥボ村で、一帯は2017年10月以降、分離独立派による暴行が絶えない英語圏2地域のうちの一つ。
 
AFPの取材に応じた援助活動家らによると、40〜50人の武装した男たちがントゥボ村の1地区に進入し、住民たちを射殺したり焼き殺したりしたとの目撃情報があるという。男たちの中には、軍の制服やマスクを着用している者がいたという。
 
軍報道官は、内部調査の結果、英語圏の分離独立派との銃撃戦中に燃料が燃え上がったことが原因だったと説明。この報道官はAFPの電話取材に対し、女性1人と子ども4人の民間人5人が死亡し、「テロリスト7人」が「無力化された」と話した。また発表では「端的に言えば不運な事故で、この地域での治安作戦の巻き添えとなった」と述べた。 【2月18日 AFP】
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生々しい目撃情報に対して、戦闘中の燃料爆発による「不運な事故」ととする軍の見解はいかにも・・・・。

【第1次大戦後の植民地支配、独立の経緯を引きずる分断・衝突】
カメルーンの情勢を簡単に描写すれば、以下のようにも。

****暴動と弾圧が深刻化する英語圏 揺れるカメルーン****
2016年の年末から、カメルーン英語圏の2つの州で、前例のない政治危機が進行している。

英語圏の分離独立を訴えるグループが顕在化し、武装勢力と治安部隊の衝突が増加しているのだ。治安の悪化により英語圏の多くの有権者が投票できない状況で、2018年10月、30年以上にわたり同国の権力を握るポール・ビヤ氏が大統領に再選されたが、カメルーンの将来はいまだ不透明だ。(後略)【ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2018年12月号より】
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もともとはドイツ領でしたが、第1次大戦後英仏に分割され(仏語圏・英語圏はこの旧宗主国の違いによる)、仏領は「アフリカの年」1960年に独立。英領の方は、南部分が住民投票で独立した仏領側との連邦制を選択した(北部はナイジェリアと一体化)・・・・という独立の経緯があります。

しかし、徐々に圧倒的に規模の大きな旧仏領の勢力が増大していき、1972年に廃止されています。

****“内戦の危機”カメルーンに残る第1次世界大戦の傷痕****
今週(2018年11月)、カメルーンで、学校に押し入った武装グループによって、生徒や教師など80人以上が連れ去られ、2日後に解放されました。分離独立を求める、反政府武装グループが行ったとみられています。

背景にあるのは植民地時代から続く、フランス語圏と英語圏の対立です。

去年(2017年)から、英語圏の武装グループと、それを抑え込もうとする政府軍との間で戦闘が拡大。政府軍によるとみられる、村の焼き討ちや無差別な射殺が相次いでいます。

仏語圏と英語圏 深まる対立 緊迫 カメルーン
酒井 「アフリカのカメルーンでは、長年、フランス語圏と英語圏の対立が続いてきました。現在のビヤ大統領は、多数派であるフランス語圏の出身で、36年にわたる長期政権をしいています。」

花澤 「去年、政府の対応に反発する住民によるデモをきっかけに、英語圏の武装グループと政府軍の衝突が激化し、内戦に近い状況に陥っています。」

松岡 「アフリカ中部に位置する、カメルーン。元々一帯はドイツの植民地でしたが、1918年、第1次世界大戦の後、戦勝国のフランスとイギリスが分割して統治し、それぞれの国の言葉が使われ、文化が尊重されてきました。

1960年、東部のフランス領が独立、翌年には西部のイギリス領もこれに続き、今のカメルーンになります。現在、カメルーンの人口、2,400万のうち、およそ480万が英語圏で暮らしています。

政治や経済活動は、多数派のフランス語圏を中心に進められてきたため、少数派の英語圏の住民は、就職面で差別され、インフラ整備も遅れているなどとして長年、不満をくすぶらせてきました。

一昨年(2016年)英語圏の教師や弁護士は、政府がフランス語による教育やフランス式の司法制度を強要しているとして、英語も重視するよう求める平和的なデモを行いました。

この動きを政府の治安部隊が弾圧したことを受けて、去年、武装グループが英語圏である西部の独立を宣言、武装蜂起したのです。(中略)

リポート:別府正一郎支局長(ヨハネスブルク支局)
カメルーンでは先月(10月)、大統領選挙が行われ、85歳のビヤ大統領が再選を果たしました。
野党側を中心に、公平な選挙ではないとの批判が渦巻く中、7年の任期を得て、さらに政権が続くことになります。
別府支局長 「首都ヤウンデは、長期政権を続けるビヤ大統領のポスターであふれています。」

しかし、フランス語圏出身のビヤ大統領の政権下で、これまで安定していた国は、今、内戦の危機に直面しています。首都ヤウンデから、西に向かって車で6時間。

別府支局長 「私たちは今、フランス語圏を出ました。特に標識などはありませんが、ここから先は英語圏になります。」

目につくのは、ゴムや果物などの大きな農園です。沿岸部には石油関連の施設が確認できます。
カメルーンは産油国ですが、油田は英語圏の沖合にしか存在しません。英語圏は経済的な資源に恵まれているのです。

市街地に入ると、至る所に、政府軍による検問所が設けられていました。

別府支局長 「英語圏に入ると、町の雰囲気は一変します。あちらにあるように、ビヤ大統領のポスターは顔の部分だけがはがされています。」

首都ヤウンデでは見られない光景です。英語圏では長年の不満を背景に、去年、分離独立を求める勢力が武装蜂起。
その数は、数百人から数千人とされ、英語圏で、政府軍の兵士を攻撃したり、政府に協力しないよう住民に圧力をかけたりしています。

これに対し、政府側は、「武装グループはテロリストだ」として、武力攻撃を正当化。
治安部隊と武装グループの戦闘に巻き込まれるなどして、大勢が犠牲になり、数十万人が住まいを追われる事態になっています。

3週間前、英語圏の町から逃れてきたメルベイユ・カマジュさん、24歳です。
今年(2018年)7月、自宅に押し入った部隊によって、武装グループのメンバーだと疑われた夫が射殺され、4歳の息子も連れ去られました。
メルベイユ・カマジュさん 「夫も兄弟も親戚も殺されました。政府軍はどこでも入ってきて、無実の人でも殺します。」(中略)

しかし、政権側は、武装グループに対する強硬な姿勢を崩していません。
イサ・シロマ情報相 「政府軍は独立を主張する“テロリスト”と戦っています。国土の一体性が攻撃にさらされてされているのです。」

首都ヤウンデには、フランス語圏と英語圏の2つの言語、文化が混ざり合い、国が発展する理想を表す「融和の塔」があります。 しかし、カメルーンの現状は融和とはほど遠く、分断が深まっています。

花澤 「取材に当たった、ヨハネスブルクの別府支局長に聞きます。なぜ、ここまで分断が深まる状況になってしまったのでしょうか?」

別府支局長
「まず、独立の経緯が大きいと思います。統治していたフランスとイギリスから独立した際には、面積でおよそ80%を占めるフランス領が、より少ない20%のイギリス領を事実上、吸収して、合併した形です。

長期にわたり強権体制を続けてきた、ビヤ大統領もフランス語圏出身。英語圏にある石油会社にしても幹部はフランス語圏の出身者ばかりで占めています。

また、英語圏に展開する治安機関の幹部も、裁判所の裁判官も、フランス語圏の出身者ばかりだというのです。

こうしたことから、英語圏の人たちの間では、『これではまるで自分たちは2級市民のようで、理不尽な扱いを受けている』という受け止め方が広がったんです。

政府は独立以降、表向きは、双方の融和をアピールしてきましたが、カメルーンは結局のところ、カメルーンらしさという一体感を作れないまま、今に至っているのが現状です。」

酒井 「この対立、今後、どうなっていくのでしょうか。」

別府支局長 「対立はますます先鋭化していきそうです。そして、その代償を最も払っているのが一般の市民です。
政府軍については、一般市民への無差別な攻撃などの人権侵害が相次いで報告されています。

一方、英語圏の武装グループも、政府に協力したとみなせば、危害を加えていることが明らかになっています。

つまり、英語圏に暮らす人たちは、2つの勢力の暴力にさらされている、紛争の人質にとらわれているといえます。

国連は、避難民を対象にした食糧支援などに乗り出しました。しかし、圧倒的に足りないのが情報です。

国際メディアもカメルーンの現状を伝えようとしていますが、その度に壁に直面します。今回、私たちが取材するためのビザの取得には、情報省の大臣による許可が必要で、想像以上に長い時間がかかりました。また、撮影中に治安部隊から映像を消去するよう迫られることもありました。

国際社会の関心が十分に及ばないまま、戦闘と混乱がずるずると拡大しているのが現状で、内戦に突入するのではないかという懸念は高まる一方です。」

酒井 「武装グループと政府軍の衝突で、地元の人たちの命が犠牲になっているというのは辛い状況ですよね。」

花澤 「そうですね。長期の強権体制という話が別府支局長の方からもありました。それともう1つ背景にあるのは、先週の南アフリカにの黒人と白人の対立もそうでしたが、欧米による植民地支配の負の遺産、これがいまだに重くのしかかっているという現状ですよね。対立がさらに広がっているということで心配な状況が続いています。」【2018年11月8日 NHK】
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2017年10月以降の関連記事見出しを並べると、以下のようにも。

“カメルーン英語圏が「独立宣言」 治安部隊との衝突で7人死亡”【2017年10月2日 AFP】

“カメルーン軍、英語地域での「大規模な軍事作戦」を準備”【2017年12月3日 AFP】
“英語圏独立派が学校襲撃、生徒の拉致狙う カメルーン”【2018年3月11日 AFP】
“カメルーン英語圏独立派、隣国ナイジェリアに潜伏 黒魔術も”【2018年3月29日 AFP】
“カメルーン英語圏で衝突激化、民間人400人殺害”【2018年9月19日 CNN】
“カメルーン、英語圏の衝突で死者 7日に大統領選 独立派は妨害の構え”【2018年10月7日 AFP】
“カメルーン大統領選、85歳ビヤ氏が7期目の再選”【2018年10月23日 AFP】

 

 

 

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