(警察が無人機で住民を監視し、スピーカーで家に戻るよう呼びかける動画=「微博(ウェイボー)」の江西省公安庁公式アカウントから【2月6日 朝日】)
【自宅待機で高まるストレス】
新型コロナウイルスによる肺炎が拡大する中国、感染拡大防止にむけて当局も必死になっていますが、そうしたなかで興味深かったのはドローンを使った住民監視を伝える記事。なにやら近未来ドラマを観るよう。
****警官が金づちで雀卓破壊…新型肺炎、中国各地で強硬措置****
新型コロナウイルスによる肺炎が広がる中国で、娯楽施設の閉鎖や集会の禁止など、防疫を旗印にした市民生活への取り締まりが強まっている。
マージャン卓を破壊したり、無人機で人々を監視して井戸端会議を解散させたり、警察による強硬な対応も目立つ。SNSでは「やり過ぎ」との批判と、「必要なことだ」と支持する声がせめぎあっている。
「お前は命がいらないかも知れないが、他の人は生きていたいんだ!」
農家に踏み込んだマスク姿の警察官が、家の中にある2台のマージャン卓を金づちでたたき壊しながら叫ぶ。1月28日、江蘇省内の農村で撮られたとされる動画だ。ネット上で広まり、多くの中国メディアにも取り上げられた。
1月下旬以降、各都市では「人が集まることによる感染を減らす」として、マージャンや公園でのダンスなどの娯楽活動を禁じる動きが続出。警察がマージャン卓を壊す動画は各地から次々とネットに上げられている。
警察が宣伝のために公式のSNSで発信する例もあり、成都市武侯区の警察は「親がマージャンに行ったら通報を」とまで呼びかけている。
過剰ともいえる取り締まりは娯楽以外にも広がる。
江西省瑞昌市の警察は、小型無人機(ドローン)で上空から街を監視する動画を公開。搭載したスピーカーを使い、家の前で立ち話をしている人たちに「話をしているそこの4人、家のなかに入りなさい」と命じたり、歩行者の男性に「たばこを捨ててマスクをつけろ。そこのお前だ」と警告したりする様子などが映されている。
感染者が最多の武漢市に隣接する湖北省孝感市が3日、市民に出した通知では、「発熱した者はその日のうちに電話で政府に報告しなければならない。さもなくば法的責任を問う」「すべての市民は体温検査を受けねばならない。協力しない者は処罰する」などと要求。発熱したことを隠している人を見つけて通報すれば、奨励金として1千元(約1万6千円)を与えるともされている。
当局のこうした強硬な措置に対し、SNS上では「やり過ぎだ」との声があがる一方で、「特別な時だから特別な対応でよい」「これくらいは必要だ」などと支持する人も多い。
過敏になっているのは、当局だけではない。難局を乗り越えようと、各地の自治会が掲げる横断幕には過激な表現も現れている。
発熱したことを言わない者は、人民群衆の中に潜む階級の敵だ――。
福建省アモイ市内では、文化大革命さながらのスローガンが登場。ほかの各地でも「訪ねてくる人は敵だ 門を開けるな」などといった過激な横断幕が相次いで掲げられ、ネットで紹介されている。
こうした風潮に対し、SNS上では「文革と同じ。個人は社会全体に従い、逆行は許されない」と嘆く声や、「ウイルスを遠ざけても、人への愛を遠ざけるな」と戒める意見も投稿されている。(北京=平井良和)【2月6日 朝日】
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おばちゃんたちの公園での広場ダンスも消えたようです。
大声でおしゃべりしながら楽しむ大勢の会食も。
結果、人々は必要最小限の買い物など以外は息をひそめて自宅に閉じこもる生活に。
あの上海からも人影が消えたとか・・・信じられないようなシュールな光景です。その様子は“中性子爆弾でも落とされたかのようだ”とも。
****まるで昏睡状態、新型ウイルスで静止した巨大都市・上海****
中国・上海であえて外出する住民はめったにいないが、外に出れば見慣れぬ光景――超現実的な平穏と静寂に迎えられる。そんな状況が1週間超続いている。
多数の死者を出している新型コロナウイルスの流行のために、中国のかなりの部分が活動停止に追い込まれた。だが、同国で最大かつ最も活気に満ちた都市・上海ほど激変した都市はおそらくほかにないだろう。
交通渋滞と歩道の雑踏、職場に急ぐ会社員は消え去り、不気味なほど閑散とした道路とシャッターが下りたバーや商店が取って代わった。ごくまれに見かける歩行者といえば、いつも防護マスクを着けている。
巨大都市を多数抱える中国でも最多の人口を誇る上海だが、定番の待ち合わせスポットは中性子爆弾でも落とされたかのようだ。(中略)
中国政府は自宅で待機している人々に向けて、在宅運動のやり方や、肺炎に似た症状での死を考えることからくるストレスを避ける方法などに関する助言を絶え間なく流し続けている。
政府が配布したあるチラシには、「人民を不幸にするマスコミ報道への接触を減らし、不安と悩みも減らそう」と明るく書かれている。
しかし、多くの人にはこの上ない退屈がのしかかっている。
政府がストレス軽減方法についてソーシャルメディアに投稿すると、あるユーザーが「とにかくはっきり言えるのは、家の中にいるのはもううんざりということ」とコメントした。
新型コロナウイルス危機に陥った数日後、上海は晴天に恵まれ、同じところに閉じ込められて気が変になった大勢の市民が太陽に誘われて外に出た。すると政府はソーシャルメディアに、「太陽の下に立っても、殺菌にはならない」と投稿した。 【2月8日 AFP】
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【李医師の死が惹起した情報統制への不満】
この先への不安を募らせ、どうしてこんな事態になったのかとの不満を抱え、何もすることのない時間を持て余す人々の間で昨日から広がっているのが、新型コロナウイルスの流行について警鐘を鳴らした李文亮医師の死。
李文亮医師の死に関する住民の反応には、上記記事にある「人民を不幸にするマスコミ報道への接触を減らし、不安と悩みも減らそう」との当局メッセージにも示される、情報公開よりは情報統制で社会の安定を維持しようとする姿勢への不満が重なっています。
****新型ウイルス警告の医師の死に怒り、言論の自由求める声も 中国****
中国で、新型ウイルスの感染拡大に最初に警鐘を鳴らし、警察から処分を受けていた医師が死亡したことを受け、政府の対応に対する怒りと、より大きな自由を果敢に求める声が広がっている。
眼科医で、34歳で亡くなった李文亮医師は、昨年12月に新型ウイルスについて警鐘を鳴らした8人の医師のうちの一人。だが李医師らはその行為のために、湖北省当局から訓戒処分を受け、検閲の対象とされた。
中国の不正監視当局はこの問題に関し、調査を行うことを明らかにした。
今月1日にウイルス感染が確認された李医師は先月下旬、地元警察から、これ以上「違法行為」をしないとする合意書への署名を強制されたと、中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」に投稿していた。
李医師によると、昨年12月に重症急性呼吸器症候群を想起させる症状を示す患者がいることに気付き、同僚らにグループチャットで予防策の強化を呼び掛けることに決めたという。警察から出頭を求められたのはその後だった。
湖北省の武漢市中心医院7日朝、李医師が犠牲者の一人に加わったことを微博で発表すると、無数の追悼コメントが寄せられ、李医師はソーシャルメディア上で英雄とたたえられた。
ここ数週間、微博上では湖北省関係者らへの批判が削除されることなく広がっており、これは問題の矛先を中央政府ではなく同省当局に向けさせる動きとみられていた。
しかし李医師の死後には、地元当局に対する怒りをはるかに上回る批判が巻き起こり、国の共産主義体制そのものの体質を疑問視する見方も出た。
今回の問題を受けて、共産党が支配する同国でより大きな自由を要求する機会とみなす人も多く、「言論の自由が欲しい」「言論の自由を要求する」といったハッシュタグが現れては、検閲により削除されている。
ある微博ユーザーは「中国国民には、一種類の自由しか許されていない。その自由は、国から、共産党から与えられた自由だ」と投稿した。
言論の自由と李医師の死に関する複数のハッシュタグは、7日の午前中に微博の検索結果から消えた。
しかしある微博ユーザーは「削除されたらまた投稿しよう。私は言論の犯罪化に反対する」と書き、この投稿は数千回シェアされた。
死の直前、自身が集中治療室にいること、また動作や呼吸が困難だと明かしていた李医師は、微博にこんな言葉を残している。
「ネット上の友人たちから、こんなにも多くの応援や激励をもらって、気分がより軽くなりました。皆さん心配しないでください、治療に積極的に協力して、早く退院できるよう頑張りますから!」【2月7日 AFP】
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当局側も、政府への不満がこれ以上拡大することのないよう、李医師を評価する姿勢を見せています。
****新型ウイルス 警鐘鳴らし処分の医師死亡 中国政府一転して評価 ****
新型コロナウイルスの感染拡大について、中国政府が公表する前に警鐘を鳴らし、警察から処分されていた病院の医師が、みずから感染し、7日亡くなったことを受けて、中国政府は哀悼の意を示し、一転して医師を評価する姿勢を見せるなど、国民の間で高まる批判への対応に追われています。
(中略)これをきっかけに、国民の間では中国政府の初期対応や情報公開の在り方をめぐって批判が一層高まっています。
これに対し中国政府は7日、保健当局の記者会見で哀悼の意を表したほか、調査チームを派遣して全面的な調査を行うと発表するなど、一転して医師を評価する姿勢を見せ、国民の批判をかわしたいねらいもあるとみられます。(後略)【2月8日 NHK】
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【当局は、言論の自由など共産党の一党支配を揺るがしかねない主張を警戒】
しかし、前出【2月7日 AFP】にもあるように、情報統制に終始する共産主義体制そのものの体質を疑問視する見方も表面化しており、当局はそうした声を再び「情報統制」で封じ込める対応にも追われています。
****中国、ウイルス警告医師の死で情報統制か 報道錯綜に批判****
中国で、新型コロナウイルスの流行について警鐘を鳴らした李文亮医師の死をめぐる報道に対し、怒りの声が上がっている。中国メディアは医師の死を一度報じた後、一転して存命を伝え、その後再び死亡を報じていた。
中国の政府系大衆紙、環球時報と国営の中国中央テレビは当初、中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」上で、李医師が6日夜に死亡したと伝えた。このニュースは微博上で一躍注目のトピックとなったが、両メディアの投稿は後に削除された。
中国メディア各社はその後、李医師が「緊急治療」を受けていると報道。最終的に7日午前3時(日本時間同4時)ごろ、医師の死亡を伝えた。
6日夜、ウェイボーではハッシュタグ「李文亮医生去世」(李文亮医師が死去)が検索ランキングで首位となり、閲覧回数は10億回、コメント数は110万件を超えた。
だがこのハッシュタグは7日朝までにトレンド上位20位から姿を消した。香港大学で中国の検閲パターンを研究している傅景華准教授はAFPに対し、「ランキングは操作されたようだ」と指摘した。
傅氏によれば、李医師死亡のニュースの扱いは、中国共産党を批判し獄中死したノーベル平和賞受賞者の劉暁波氏死去時に行われた検閲と「類似している」という。傅氏は「李氏死去のニュースの扱いでみられた不規則性は政治的動機に基づいたものとみられている」と語った。
微博のユーザーらは、李医師の死去に関する投稿やコメントが同サイトやメッセージアプリ「微信(ウィーチャット)」上から消去されていると訴え、検閲によって世論を抑え込もうとする試みだとする怒りの声が上がった。
傅氏は7日、フェイスブックへの投稿で、微博では「『武漢』や『流行』に関する投稿数は一定数を維持している一方、『隠蔽(いんぺい)』(454%増)や『検閲』(75%増)は急増している」と明らかにした。
さらに微博のユーザーらは6日夜、国内の報道関係者らに対して李医師の死亡を大々的に報じないよう求めた「報道指示」とされる通知のスクリーンショットを投稿。匿名を条件に取材に応じた中国経済誌・財新の記者は、「こうしたいわゆる非公式通知は近年、中国メディアでよくみられる検閲手段となっている」と語った。
この通知は流出したものとみられるが、AFPはその信ぴょう性を確認できていない。通知では、メディア関係者に対し「この件についてプッシュ通知機能を使用したり、コメントをしたり、大げさに報じたりしないように」と指示していたほか、当局者に対して「有害な情報を厳重に抑え込む」よう求めていた。
このほか、さまざまな国営メディアの記者5人が匿名を条件にAFPの取材に応じ、ここ数日の間で、ウイルス関連の救援活動の成果を示す「明るい話題」に注力するよう要請されたと明かした。 【2月8日 AFP】
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****中国で「言論の自由の日」求める声、警察は「口を閉ざせ」…医師追悼ムード警戒****
中国当局が、新型コロナウイルスによる肺炎で湖北省武漢市の医師、李文亮さんが亡くなったことをめぐり、人権派弁護士らへの締め付けを強めている。
当局の発表前にSNS上で新型肺炎への警鐘を鳴らした李さんへの追悼ムードの高まりが、言論の自由など共産党の一党支配を揺るがしかねない主張に転化することを警戒している模様だ。
李さんの死去が公表された7日、北京の人権派弁護士は警察から電話を受け、死去について「口を閉ざすように」と要求された。天津の人権活動家も8日、「好ましくない情報をネットに流さないように」などと当局者に告げられ、警察施設への同行を求められた。
当局の警告が相次ぐのは、ネット上で李さんの死去情報が流れた2月6日を「言論の自由の日」に指定するように求める声が出ているためだ。
情報発信が警察からデマとみなされて処分された李さんは生前、中国メディアに対し、「健康な社会は一種類の声に占められるべきではない」として言論の多様性が重要だとの考えを示していた。
国内では李さんをたたえる報道が相次ぐ。上海の地元紙・新民晩報は7日、告発者を意味するホイッスル・ブロワー(警笛を鳴らす人)だったと李さんを称賛する記事を1面に掲載した。李さんの勤務先の病院に住民らが花束をささげる様子も中国紙・南方週末(電子版)で伝えられた。【2月8日 読売】
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****中国政府が情報統制 新型肺炎警鐘した医師の追悼運動を警戒****
新型コロナウイルスによる肺炎に警鐘を鳴らし、7日未明に院内感染とみられる肺炎で死亡した中国湖北省武漢市の医師、李文亮(りぶんりょう)さんを追悼する動きが中国国内で広がっている。
同時に李さんが医師仲間に送った情報を「デマ」だとして摘発した武漢市公安当局への批判も激しくなっており、中国政府は追悼運動が政府批判に転化することを警戒し、情報統制に乗り出した。
中国各地で7日午後9時(日本時間同10時)から室内の照明を点滅させ、口笛を吹く追悼行事が実施された。中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」などの呼びかけに呼応したものだった。
しかし、中国のインターネット上ではその映像やコメントなどが表示されにくくなっている。中国メディアの記者は李さんの追悼運動については「大々的に報道しないように」と通達があったと話している。
中国政府が追悼運動を警戒するのは、2017年7月に事実上獄中死したノーベル平和賞受賞者の民主活動家、劉暁波(りゅうぎょうは)氏以来だ。当時と同じように今回も、当局による投稿規制をかわすために、追悼の意味を込めたロウソクの写真などが投稿されている。【2月8日 毎日】
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【「幸福な監視社会」を揺るがす新型コロナウイルス】
「幸福な監視社会」「習近平国家主席の一強体制」として安定性を誇り、欧米的民主主義に代わる新たな政治体制モデルとも一部ではみなされている中国の一党支配体制ですが、感染症拡大という非政治的な想定外の事態で、思いがけず揺らぎを見せているようです。
「幸福な監視社会」にあっては、その「幸福」の保証が揺らぐとき、安定性を支えてきた人為的・政治的統制への不満も噴出することにもなります。
李文亮氏の死をめぐる今の「ざわめき」は、まだまだ「些細な」ごく一部のものでしょう。
ただ、この事態が長引けば、「幸福」を保証してきた中国経済への打撃は必至です。混乱・不満も拡大するでしょう。
そのとき改めて、人々の不満を情報統制で封じ込めようとするような社会の在り方に対する、より大きな不満が噴出する可能性もあります。
中国指導部からすれば、思いがけない「厄介」に襲われている・・・といったところでしょう。