孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ大統領選挙(民主党予備選) 中道若手ブティジェッジ氏と高齢左派サンダース氏の競り合い

2020-02-09 23:10:30 | アメリカ

(年齢別に見たアイオワ州の党員集会参加者の支持候補【2月9日 朝日】)

【初戦重視の戦略が当たり注目を集める38歳・中道穏健派のブティジェッジ氏】
ことし秋のアメリカ大統領選挙でトランプ大統領再選に対抗する野党・民主党の候補者を決める予備選挙初戦として世界的にも注目された3日の中西部アイオワ州党員集会をめぐっては、集計率100%でブティジェッジ前サウスベンド市長がサンダース上院議員をわずかに0.1ポイント上回って首位だったものの、アメリカのメディアが集計ミスがあったと伝えるなど最終的な結果がいまだに確定していません。

集計の再点検を各陣営が申し立てることができる期限を延長したことで、結果の最終確定は日本時間の11日午前以降になる見通しです。【2月8日 NHKより】

集計の混乱・失態はともかく、本命バイデン氏が4位に沈み、国政未経験ながら同じ中道穏健派の若手(38歳)ブティジェッジ氏が(確定ではないものの)トップに躍り出るという波乱の幕開けとなりました。

“波乱”とはいっても、すでに昨年11月段階でアイオワの世論調査では支持率トップに躍り出て、全米的にもその勢いが注目されていました。その意味では、“事前の数字が現実になった”というところです。

その背景には、初戦のアイオワを最重視して、資源を集中的に投下したブティジェッジ氏の戦略があります。

****陣営の戦略****
実はアイオワ州でブティジェッジ氏が支持を伸ばしている背景には、陣営の戦略がある。資源の集中投下だ。

州内に設けた選挙事務所は20か所以上。主要候補の中で最多だ。
さらにアメリカの選挙で有権者の判断に大きく影響するテレビ広告に、アイオワ州だけで3億円(バイデン氏の役3倍)をつぎ込んでいる。

人的資源と資金をアイオワ州など候補者選び序盤の州に集中させることで、混戦を抜け出そうという戦略が透けて見える。

ただ、アイオワ州などで支持を伸ばしている一方、全米の世論調査の支持率では、トップのバイデン氏に依然として大きく水をあけられている。【2019年12月10日 NHK「37歳「ピート市長」躍進の背景」】
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まんまとその戦略が当たった(ここまでは・・・)というところです。
もちろん戦略云々は、その資質が評価されたということが前提にあります。

****民主ブティジェッジ氏、テレビ中継の弁舌で有力候補に…政策は中道****
ピート・ブティジェッジ氏は、もしも本選で勝てば、米史上最年少の大統領となる。70歳代の候補者が目立つ民主党指名争いの中で圧倒的に若い。
 
父親は地中海の島国マルタからの移民だ。名門ハーバード大で歴史と文学を専攻し、英語以外にアラビア語など7か国語を操る。2014年に米海軍の予備役士官としてアフガニスタン駐留部隊に配属され、7か月にわたり市街地の危険任務についた経験がある。
 
出馬を決めた当初は知名度が低かったが、昨年3月、全米にテレビ中継された市民集会でのよどみない受け答えが注目を集め、有力候補の一人に躍り出た。
 民
主党テレビ討論会でも巧みな弁舌やバランス感覚で存在感を高めた。政策面では中道派で、サンダース上院議員ら急進左派とは一線を画す。例えば急進左派が掲げる公的な国民皆保険制度の創設については「民間保険を廃止することで国民の選択肢を奪うことになる」として反対の立場だ。【2月5日 読売】
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これだけであれば、バイデン氏を若くした白人エリートということにもなりますが、同性愛を公言しているという側面も。

****ブティジェッジ氏の同性愛知らず… 支持者が投票撤回を要求****
米アイオワ州で3日に行われた民主党の党員集会で、大統領候補としてピート・ブティジェッジ氏を支持する票を投じた女性が、同氏が同性愛者であることを知り、信仰を理由に投票内容の撤回を求める出来事があった。
 
ブティジェッジ氏を支持する「ピート2020」と書かれたシールを身に付けた女性は、アイオワ州地方部で開かれた集会で、ブティジェッジ陣営の選挙区幹事に対し、「彼には同性のパートナーがいるって? 冗談でしょ?」と語ると、「なら私はそんな人間にホワイトハウスにいてほしくない。だから私の票を返してもらえますか?」と要求した。(中略)
これまでの世論調査では、同性愛を公言している大統領を米国人が受け入れられるかについて、まちまちの結果が出ている。米新聞社マクラッチーが昨年行った調査では、民主党の重要な支持層である黒人有権者の多くがブティジェッジ氏の性的指向を問題視する可能性があることが示されている。 【2月6日 AFP】
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ブティジェッジ氏の性的指向がどのように受け入れられる、あるいは、受け入れられないのか・・・・素人的には、エリート臭さを消す効果があり、38歳と若さと相まって、新鮮なイメージをつくるようにも思えるのですが。

今のところはブティジェッジ氏の戦略が当たって、アイオワ効果は次戦の東部ニューハンプシャー州にも及んでいるようです。

****ブティジェッジ氏、第2戦も勢い=世論調査で急上昇―民主指名争い****
米紙ボストン・グローブは6日、米大統領選の民主党候補指名争いの第2戦の予備選が11日に行われる東部ニューハンプシャー州での世論調査結果を発表した。

それによると、3日の初戦アイオワ州党員集会で躍進した最若手のブティジェッジ前インディアナ州サウスベンド市長(38)が勢いを得て、ニューハンプシャー州でトップを走るサンダース上院議員を追い上げている。
 
グローブ紙が州内の民主党支持者を対象に連続で行った調査によると、アイオワ州党員集会が開かれた3日、4位のブティジェッジ氏の支持率は11%だった。しかし、躍進が伝えられると、支持率が6日までの3日間で倍の23%に上昇して2位に浮上。

この間7ポイント減らして11%となったバイデン前副大統領と立場が入れ替わった。
 
6日発表のエマーソン大の調査でも、ブティジェッジ氏は2位に入り、バイデン氏の2倍の支持を得た。【2月7日】 
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“「独自志向」が強いとされる同州(ニューハンプシャー)の有権者は初戦アイオワと違う勝者を選ぶ傾向があるとされ、戦いの行方は予断を許さない。”【2月8日 毎日】とも。

一方のバイデン氏については、“バイデン陣営の幹部らは今や、アイオワ州とニューハンプシャー州の双方を失う可能性に直面している。過去の大統領選を参考にすれば、両州を取りこぼせば当選の望みが消えたも同然となる。”【2月6日 WSJ】と危機感を強めています。

万一、そういう流れになってバイデン氏が早い段階で撤退に追い込まれるということになれば、ブティジェッジ氏は中道穏健派の代表として立場を固めることになります。

【学生ローンの重圧に苦しむ若者の圧倒的支持を受ける高齢左派のサンダース氏】
そのブティジェッジ氏に立ちはだかるのは、4年前の前回選挙で最後までヒラリー・クリントン氏を苦しめたサンダース候補。今回もその強さをいかんなく発揮しています。

ただ、結果的に見れば、前回のサンダース氏の善戦、若者の熱烈支持は、サンダース支持者が本選を棄権するなどクリントン氏の“足を引っ張り”、トランプ大統領誕生という“思わぬ結果”を生んだと言えるかとは思いますが・・・。

今回も、民主党支持層を分断する結果となるのか?

****米大統領選:トランプも驚くサンダース躍進****
(中略)共和党は現職大統領のドナルド・トランプの再選で党内がまとまっているいるが、民主党は混戦のままだ。
 その中でいま浮上してきているのが、バーモント州上院議員のバーニー・サンダーズである。
 
全米レベルでは今でも前副大統領のジョー・バイデンがほとんどの世論調査でトップにきているが、2月3日のアイオワ州党員集会(コーカス)と同11日のニューハンプシャー予備選に限ると、サンダーズが首位にきている世論調査結果が多い。
 
民主社会主義者を名乗る同氏が混戦の中から抜け出すのだろうか。
 
トランプもサンダーズの勢いに驚きを隠さない。1月13日のツイッターでこう発言している。
「ワオ! バーニー・サンダーズが世論調査で上がってきている。『何もしない政党』の他候補にくらべるといい感じだ。これが何を意味するのか見届けたい」
 
そしてサンダーズの支持率が高止まりした1月24日にはこう記した。
「アホなバーニーが民主党予備選をリードしている。でも民主党は決して彼を勝たせるようなことはしないはずだ!」
 
トランプの指摘はある意味で的を射ている。民主党関係者だけでなく、「急進左派のサンダーズが代表候補になったらトランプには勝てない」と考える人たちが多いからだ。
 
というのもサンダーズは民主社会主義を標榜する政治家である。左側に寄りすぎると、穏健派の支持者が離れてしまう結果を招きやすい。
 
さらに民主党の代表候補になった場合、勝つためのカギはどれだけ無党派層の有権者から票を獲得できるかにあり、大局的に眺めると、サンダーズが大統領になれるチャンスは低いとみられてきた。
 
近年、米国は左派と右派(民主と共和)に分断されていると言われる。
 
どれほどの分断なのかを昨年12月に発表されたギャラップ調査で眺めると、民主党員と答えた人(28%)と共和党員と答えた人(28%)が同率だった。
 
そして41%が無党派と答えており、この数字がいまの米国の潮流と述べられるかと思う。
 
追加質問として無党派と答えた41%に、「民主党寄り」か「共和党寄り」かと聞くと、それぞれ43%と45%という数字なのである。
 
つまり無党派を含めても、いまの米国の政治勢力図は見事に二分されていると言える。
 
そのためサンダーズの躍進は急進左派の民主党員にはありがたいだろうが、共和党支持の28%と無党派の41%の有権者からは、多くの票を期待できないことでもある。
 
トランプはそれを理解して「民主党は決して彼を勝たせるようなことはしないはずだ」とツイートしたわけだ。
 
サンダーズらしい政策としては、以下が代表的である。
1「メディケア(高齢者向け医療保険保険)を全国民に適用する」
2「公立大学の授業料をゼロにする」
3「2030年までに16兆3000億ドル(約1770兆円)を使って100%自然再生エネルギーにする」
4「国境を越えてきた不法移民にもゆくゆくは市民権を与える」
5「純資産3200万ドル(約34億円)以上の個人に超富裕税を課す」
 
サンダーズはいま、トランプの対極に位置した候補として、実は若い世代にも支持が拡大している。
共和党の専門家からもサンダーズを甘くみてはいけないとの声が出ているほどだ。
 
米国で最も古い保守派ロビー団体「アメリカ保守連合」のマット・シュラップ議長はポリティコ誌にこう述べている。「トランプ支持者が、バーニー・サンダーズが代表候補になったら民主党は勝てないと考えることは大きな間違い」
 
78歳という年齢とは思えないほどのエネルギーを持つサンダーズが、新しい有権者を掘り起こして投票所に向かわせることがあるというのだ。
 
それを「新有権者の波」と呼び、2016年にトランプが起こした現象と類似したことが民主党側に生じる可能性を指摘している。
 
さらにサンダーズは民主党レースの中では最も政治資金を集めている。
政治資金調査を行う非営利団体「オープン・シークレット」によると、バイデンのほぼ2倍にあたる7379万ドル(約80億円)を集金している。
 
逆にバイデンは民主党候補のトップ4の中では4番手で、潤沢な選挙資金があるとはいえない。
選挙資金が十分に集まらない候補が大統領選に勝ったことはほとんどなく、その意味でもサンダーズの急伸は注目に値する。(後略)【1月31日 堀田 佳男氏 JBpress】
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民主社会主義を標榜する急進的左派政治家が、社会主義嫌いとされてきたアメリカでこれほどの支持を集めている、特に若い世代で圧倒的な支持を集めているという背景には、アメリカ社会の厳しい現実があります。

****米 ホームレスが約57万人に 大統領選見据えた論戦が本格化か****
アメリカでは好景気が続く一方、路上などで生活するいわゆるホームレスの増加が深刻な問題となっていて、支援策などをめぐり、11月の大統領選挙を見据えた与野党の論戦が本格化するものとみられます。

アメリカ政府が今月発表した調査結果によりますと、路上や車の中などで生活する「ホームレス」の状態にある人が全米で56万7715人に上り、前の年に比べて2.7%増えました。(中略)

背景には好調な景気を受け、年々値上がりする家賃に収入が追いつかず、仕事を持ちながらも家賃を払えない人が増えていることがあります。

11月の大統領選挙に向け、野党・民主党の有力候補たちは、ホームレスの増加はトランプ政権のもとで拡大した貧富の格差が原因だと追及し、家賃の安い住宅の建設などを公約として打ち出しています。

これに対し、トランプ大統領はホームレスの問題が深刻なのは、知事が民主党の政治家だったり、民主党の議員が選出されたりしている州で、自分の責任ではないと主張していて、今後、対策や支援策をめぐる論戦が本格化するものとみられます。【1月31日 NHK】
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ホームレスは、学生でも激増しています。

****ホームレス経験のある学生が激増、全米で150万人強に 最新統計****
 米カリフォルニアなどの州でホームレスが増え続ける中、ホームレスを経験する学生が激増していることが、米国家ホームレス教育センターがこのほどまとめた最新の統計で明らかになった。

統計は、各州から米教育省に提出された2015〜16年度から17〜18年度のデータをもとにまとめられた。それによると、ホームレスを経験したことのある学生は、この3年の間に130万人から150万人強へと15%増えていた。(後略)【2月3日 CNN】
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アメリカの若者の大きな負担となっているのが巨額の学生ローンです。

****(2020米大統領選 分極社会)若者が支える、78歳革新派 広がる貧富の差、怒り****
1月31日、米アイオワ州デモインのイベント会場。若者を中心に約2千人が集まるなか、声が響いた。
「収入にかかわらず、すべての米国民が高等教育を受けられるようにすべきだ。公立大学の無償化と学生ローンの免除をともに実現しよう」
 
話していたのは、民主党の大統領候補を目指すバーニー・サンダース上院議員(78)。音声のみの参加だったが、支持者からは大きな歓声が上がった。
 
大統領候補選びの第一歩となる、今月3日の同州党員集会でも、手厚い福祉政策などを訴える「革新派」のサンダース氏が代議員の26・1%を獲得。26・2%でトップの「穏健派」のピート・ブダジェッジ前サウスベンド市長(38)と並んで接戦を展開している。
 
サンダース氏の主張は、米社会では「極端」と受け止められがちだったが、ここに来て勢いを増す。支えるのは、若者だ。米メディアが党員集会参加者に行った調査では、17~29歳の48%がサンダース氏支持と答えた。この世代でブダジェッジ氏の支持率は19%、同じく穏健派のバイデン前副大統領(77)はわずか3%。

逆に、65歳以上では33%がバイデン氏を支持し、サンダース氏は4%。世代間で大きな違いが出た。
 
他州でも、若い世代はサンダース氏に期待を寄せる。ニューヨークのバーテンダー、カイル・デランシーさん(32)は「富裕層に高い税金を課す税制政策を最も評価している。ほかの候補は口だけ。ちゃんと実行できるのはバーニーだけだ」と語る。

金融危機直後の2009年、ペンシルベニア州の私立大学を卒業した。学費などをまかなうため、卒業時に背負った学生ローンは総額で7万3千ドル(約800万円)あった。
 
卒業後に初めて就いた仕事は年収3万ドル。ローンの返済が滞り、利息が加わって10万ドルにまでふくれあがった。現在も利息だけで年間の支払額が6千ドルにのぼり、元本が返済できる見通しはたたない。「今の米国社会には、持続不可能なことがたくさんありすぎる。貧富の差は広がるばかり」と憤る。
 
貧富の格差の拡大や多額の学生ローン。米国の若い世代には「将来に希望が持てない」との思いが広がる。こうした閉塞感(へいそくかん)が、大統領選の行方を左右する可能性がある。【2月9日 朝日】
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“大学の学費は、年々高騰している。年間費用は85年度に平均約4900ドルだったが、16年度は約2万3千ドル。一般家庭では負担しにくく学生ローンに頼る人が多い。世論調査機関ピュー・リサーチ・センターによると、19年には約4500万人が総額1兆5600億ドルのローンを抱えていた” 【2月9日 朝日】とも。
学生ローンは、一人平均約380万円になります。

この世代は民主党支持が多く、白人・黒人という人種間の交流を経験しており、移民受け入れ・同性婚にも寛容な姿勢を見せており、親世代とは異なる考え方や生活スタイルを有しています。

民主党候補の座を射止めるのは若き中道穏健派ブダジェッジ氏か、若者から圧倒的支持を受ける高齢の左派サンダース氏か、バイデン氏に底力があるのか、3月スーパーチューズデイから参戦する豊富な自己資金を有するブルームバーグ氏が伸びるのか・・・まずは11日のニューハンプシャーです。

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