(1月30日、特別な対策を取らないことで中国を支援するとして、「現地(武漢)に残れ、恐怖心こそが病」と国民を叱咤するカンボジアのフン・セン首相【2月3日 大塚智彦氏 Japan In-depthより】)
【北朝鮮 「感染防止は国家存亡に関わる重大問題だ」】
新型コロナウイルスの感染は世界各地に拡大しています。
****新型肺炎 中国本土以外27の国と地域で感染者234人に ****
中国以外で新型コロナウイルスへの感染が確認された国と地域は27にのぼり、感染者は合わせて234人となっています。
中国以外の国と地域でこれまでに確認された感染者の数は、
▽日本で34人、▽タイで25人、▽シンガポールで24人、▽香港で21人、▽韓国で19人、▽オーストラリアで13人、▽ドイツとマレーシアでそれぞれ12人、▽アメリカと台湾でそれぞれ11人、▽マカオとベトナムでそれぞれ10人、▽フランスで6人、▽UAE=アラブ首長国連邦で5人、▽インドとフィリピンでそれぞれ3人、▽カナダ、イタリア、イギリス、それにロシアでそれぞれ2人、▽ネパール、カンボジア、スリランカ、フィンランド、スウェーデン、スペイン、それにベルギーでそれぞれ1人となっています。
このうち、フィリピンと香港でそれぞれ1人、死亡しました。【2月5日 NHK】
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各国はそれぞれの事情等に応じた中国渡航歴ある者の入国規制・航空便の運航停止・国境閉鎖・中国人へのビザ発給停止などの対策をとっています。
そうした中にあって、北朝鮮はこれまでのところは感染者が報告されていませんが、「感染防止は国家存亡に関わる重大問題だ」(北朝鮮の朝鮮中央テレビ)と強い危機感をあらわにして、ウイルス流入阻止のために非常に厳しい対応を行っています。
韓国などでは、韓国政府の対応が不十分とする批判において、「あの中国と密接な北朝鮮すら中国人の入国を阻止しているのに、わが国は・・・」という形でよく取り上げられてもいます。
****北朝鮮、中韓ロと交流遮断 新型肺炎に危機感強く****
北朝鮮が新型コロナウイルスによる肺炎の流入に厳戒態勢を敷いている。
中国やロシアとつながる航空便や鉄道の運行を停止し、韓国との交流窓口である開城(ケソン)の連絡事務所まで一時閉鎖した。脆弱な防疫や医療体制の下、感染病の広がりは指導部を揺るがす脅威となるからだ。
中国の国有鉄道会社、中国国家鉄路集団などによると、1月31日から中朝境界の遼寧省丹東市と平壌を結ぶ列車や吉林省集安市と北朝鮮の満浦市を結ぶ列車が停止した。北京やロシア極東のウラジオストクと平壌を結ぶ高麗航空の航空便も運行を取りやめたもようだ。
北朝鮮は人の流入を徹底遮断しようとしている。中国から入国した外国人は1カ月の隔離措置をとるという。軍事境界線で隔てられた韓国側との唯一の接点である開城の南北共同連絡事務所も業務を取りやめ、連絡は直通電話に切り替えられた。
北朝鮮指導部は感染症が収まるまで「国家非常防疫体制」をとると宣言し、メディアは連日、関連報道を続けている。1日付の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」の社説は「万事に優先して予防対策に総力を注がなければならない」と訴え、国境封鎖や外国人との接触遮断などの対策を厳格にすると説明した。
03年の重症急性呼吸器症候群(SARS=サーズ)や15年の中東呼吸器症候群(MERS)など、過去に感染病が流行した際にも北朝鮮は同様の封鎖政策をとった。首都の一部を除き衛生環境は劣悪で、ひとたび感染症の流入を許せば大流行を食い止めるすべがなくなる可能性が高いためだ。
金正恩(キム・ジョンウン)委員長の活動にも影響を及ぼす可能性がある。北朝鮮専門家によると、最高指導者への感染を防ぐため側近すら遠ざけられる。14年にアフリカを歴訪した当時の金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長は、エボラ出血熱への感染警戒から中朝境界で3週間隔離されたとされる。【2月2日 日経】
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【対中国国境封鎖で、国内経済への更なる打撃】
ただ「鎖国」のような対応で経済的な支えであった中国との流通を遮断すれば、ただでさえ苦境にあえぐ北朝鮮経済は更に困難・深刻な事態に追い込まれます。
****北朝鮮、ウイルス警戒の国境封鎖で経済に深刻な打撃も****
北朝鮮は新型コロナウイルスの拡散を防ぐため中国やロシアとの国境を封鎖、海外との取引もほとんど絶たれており、国内経済への大きな打撃が懸念されている。経済発展を掲げる金正恩朝鮮労働党委員長にとって痛手は避けられない情勢だ。
すでに近隣諸国との航空便や列車の運行を取りやめ、最近入国した外国人には数週間の強制検疫を実施、海外からの観光客受け入れも中止しており、国の閉鎖に拍車がかかっている。
「彼ら(北朝鮮当局)は貨物の流入を許さず、中国人も締め出している」と、中国との国境付近の状況を直接知る人物は語った。
<「相当な悪影響」は避けられず>
北朝鮮ではこれまで新型コロナウイルスの感染は確認されていない。これは、同国が頼っている中国など経済的つながりが断絶され、あるいは極端に制限されていることも意味する。
脱北者でソウル在住のカン・ミジン氏は「北朝鮮の市場経済だけでなく、国の経済全体に大きな影響が及ぶだろう。北朝鮮は国産を推奨しているが、菓子であれ衣服であれ原料は中国から輸入している」と述べた。
ウラジオストクの極東連邦大学のアルチョム・ルキン教授は、北朝鮮の経済的リスクの度合いは、閉鎖の長さにかかっていると指摘。「数か月あるいはそれ以上になれば、相当な悪影響を与えることは確かだ」と述べた。
最近の韓国の貿易協会のリポートによると、2001年には17.3%だった北朝鮮の対外貿易に占める中国の割合は、去年91.8%に達した。数千人の中国人観光客も大きな経済効果をもたらしている。
<苦境続けば対外挑発も>
米国との非核化交渉が暗礁に乗り上げるなか、今回の新型ウイルス危機で北朝鮮の立場が弱まることも考えられる。
ルキン氏は、経済的苦境を埋め合わせるため、北朝鮮が長距離弾道ミサイル発射や核実験など挑発行為に出る可能性を指摘。「コロナウイルス問題がすぐに解決されなければ、北朝鮮の状況は今年一層厳しくなる」と述べた。【2月4日 ロイター】
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対外貿易の9割超を占める中国との経済関係が事実上遮断されると、経済が危機的な状況に陥ることは容易に想像できます。
****新型肺炎で中国、南北朝鮮が連鎖倒産に追い込まれる? 米国は“カメの論理”で舌なめずり****
(中略)
――北朝鮮経済もおかしくなる……。
鈴置(高史氏):1月22日にいち早く、中国との国境を閉鎖し、貿易と観光客の受け入れを止めました。同月30日には韓国との連絡事務所の閉鎖も通告しました。
北朝鮮の衛生状態は極めて悪い。伝染病が一度はびこれば、食い止められなくなる、との自覚から厳しい「鎖国」に出たと思われます。
しかし、この措置で北朝鮮の外貨不足が激化し、経済危機に陥る可能性がグンと増しました。そもそも2019年末以降、世界各国は北朝鮮の出稼ぎ労働者を受け入れると国連制裁違反となります。
北朝鮮が「2019年末までに制裁を緩和しろ」と米国に強く求めたのもそのためでした。北にとって新型肺炎は「泣き面に蜂」なのです。
興味深いのは「予定していた金剛山の観光施設の撤去を中止する」と1月30日に韓国に通報したことです。これまで北朝鮮は「韓国が造った施設を壊して中国人観光客向けに新たに建設する」との姿勢を打ち出していた。
韓国に対し「観光客を送れ――ドルを送って来い、送らなければ中国から観光客を引くぞ」との脅しでした。ところが新型肺炎で中国人の入国を禁止する羽目に。
それも長期間にわたる見通しとなったため「中国人」カードが消滅してしまった。そこで慌てて作戦を変更、韓国への嫌がらせを中断したというわけです。(後略)【2月4日 デイリー新潮】
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上記記事は「親ガメ」の中国経済がこけたら・・・という話につながっていきますが、その場合、背に乗っている「子ガメ」「孫ガメ」(北朝鮮)がこけるのは当然ですが、経済的に密接な関係にある日本を含めた世界経済全体が非常な困難に直面しますので、北朝鮮どころの話ではなくなります。
「こける」云々は別にして、中国経済は今後更に厳しい局面に追い込まれますので、中国としても北朝鮮にかまってはいられなくなる・・・という側面はあるでしょう。
【カンボジアのフン・セン首相 「特別な対策を取らないことで中国を支援する」「帰国せずに、中国人との連帯を示せ」】
一方、北朝鮮同様に中国と密接なつながりを持つカンボジアは、「感染防止は国家存亡に関わる重大問題だ」とする北朝鮮と対照的に、特別な対策を取らないことで中国を支援するという対応を示しています。
****新型肺炎 カンボジア “特別な対策取らないことで中国を支援”****
新型のコロナウイルスの感染拡大を受けて、中国との航空便の運行を停止したり各国が国民を帰国させたりといった対策の強化が進むなか、カンボジアのフン・セン首相は30日の会見で、特別な対策を取らないことで中国を支援するという考えを示しました。
会見の中で、フン・セン首相は「われわれは中国からの航空便も船便も観光客も止めることはない。また、中国にいる外交官も学生もカンボジアに避難させない」と述べました。
そのうえで、フン・セン首相は「そうした関与が中国を助けることになると思う」と述べ、中国との往来を制限したり、中国から国民を帰国させたりする特別な措置を取らないことで中国を支援するという考えを示しました。
フン・セン首相の発言に対し、中国のSNS上では「ありがとう、フン・セン首相!」「苦境のときこそ真の友がわかる」などと歓迎するコメントが多く寄せられています。
中国からカンボジアへの投資は、おととし、外国投資の7割を占めるなど、カンボジアの年7%前後の高い経済成長率を支えていて、フン・セン首相は、中国との関係を重視する姿勢を鮮明にしています。【1月31日 NHK】
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「特別な対策を取らない」カンボジアの感染者は、冒頭記事で見ると「1人」となっていますが、本当でしょうか?
中国との間の頻繁な人的往来を考えると、単に監視もしていないので(その能力もないので)、把握されていないだけではないか・・・という疑念も。
フン・セン首相は、他国のように武漢滞在民間人の帰国のための対策をとらないだけでなく、留学生などに「帰国せずに、中国人との連帯を示せ」と命じているとか。
****新型肺炎、媚中貫くカンボジア****
中国湖北省武漢を中心に今や中国全土そして世界各国に感染が拡大して、深刻な懸念が広まっている新型コロナウイルスによる肺炎(新型肺炎)の問題は、東南アジア諸国連合(ASEAN)でもタイやシンガポール、マレーシア、ベトナムなどで次々と感染者が確認されている。
そして各国が中国・武漢に限らず、中国各地からの定期航空便の運航停止や中国人の入国を制限するなど自国民への感染対策をあれこれと打ち出す中、中国との関係悪化を恐れるあまり、国民に隠忍自重を強いている国が一つだけある。それがカンボジアである。
カンボジアはフン・セン政権が中国による巨額の経済援助を背景に野党指導者を逮捕したり、野党支持者や政府に批判的なマスコミ関係者を弾圧したりとASEANの中で「独裁的親中政権」を維持し続け、孤立しているのが実状だ。
ASEAN関連の会議でも、例えば、南シナ海での中国の一方的権益の主張に対し、議長声明などで中国を名指しして批判しようとしても「全会一致」というASEANの原則があるため、カンボジア1国の反対で声明文の内容がトーンダウンしたり直接の名指しを回避したりするなど「中国寄り」の姿勢を一貫して取り続けていることはASEAN内では有名だ。
■ 心配無用、航空便も変更せず
カンボジアでは2月1日現在で中国人1人が新型肺炎に感染したことが確認されている。
首都プノンペンや南部港湾都市シアヌークビルやコンポンソム、世界遺産「アンコールワット」に近いシェムリアップは中国人観光客、中国人労働者が溢れている。
カンボジア政府が2019年12月に発表した統計によると、2019年1月〜10月にカンボジアを訪問した中国人は前年比約25%増の204万人で海外からの訪問者の実に40%を占めている。
そうした中国との深く密接な関係に配慮したためか、フン・セン首相は新型肺炎の感染者がでたことに関連して1月30日に記者団に対し「国民は心配することは何もない。なぜならカンボジア人は一人も感染しておらず、死亡もしていないからだ。むしろ新型肺炎に対する恐怖を抱くことこそ病である」と言ってのけたのだ。
さらにASEAN各国が中国・武漢との定期航空便を中国側の措置で運航停止としているが、フィリピンやシンガポールはさらに中国各地からの定期便の乗り入れ制限や禁止、中国人の入国制限などを打ち出すなどさらに厳しい措置を講じている。
しかし、カンボジアはこれまでのところ航空便に関しては一切そうした追加の措置を講じていない。
これも「我々カンボジアの経済を困難に陥れ、中国との良好な関係も壊してしまうことになるので(武漢以外との)定期航空便を見直す必要などない。むしろそうした対抗措置は中国を差別することになる」とのフン・セン首相の強い意向を反映しているという。
要するに中国の顔色を伺い、中国指導部を忖度する「媚中外交」に徹していることがよくわかるし、フン・セン首相も堂々とそうした姿勢を示しているのだ。
■ 中国の外交官、学生は現地に留まれ
さらにフン・セン首相が出した驚くべき措置というのが、日本をはじめ各国が武漢とその周辺に残る自国民が中国側の交通遮断で脱出できない状態のためチャーター機などで脱出を支援する中、カンボジア政府はそうした「救援機」を出さないことを決定したことだ。
その理由についてもフン・セン首相は「武漢など中国にいるカンボジア人は外交官も学生も帰国を望むな。現地に留まり、中国人との連帯を示すようにしてほしい。特に学生は帰国などしたら奨学金などが打ち切られる可能性も考えられるだけに余計なことは考えるな」とすでに北京から帰国したカンボジア人学生を間接的に批判までしてみせたのだ。
もうこうなると何をかいわんや、であるが、フン・セン首相はASEANや日米韓などが次々と自国民保護と感染拡大阻止の方策を講じているのがよほど気にいらないようで、30日の会見の席で首相自身と居並ぶ政府関係者のだれもがマスクを着用していないことについて次のように言い放ったというのだ。「私がマスクを必要としていない以上、誰もマスクなど必要ないのだ」。
■ 中国人の犯罪増加で強制送還も
カンボジアでインフラ整備や土木工事さらにオンラインカジノやコールセンターなどに従事する中国人労働者の多くは、例えばシアヌークビルのように中国人が経営するホテル、宿泊施設に泊まり、中国人コックが調理する中華料理のレストランで食事をして、中国人が経営するカジノやカラオケで楽しむという生活リズムのため、現地にはほとんど金を落とさずカンボジア人からは不評を買っている。
さらに飲酒運転での交通事故、中国人同士のケンカや誘拐、銃撃戦まで発生しており、カンボジア警察も手を焼いているのが実状といわれている。
カンボジア入国管理当局のまとめによると2019年の1月から9月までに中国人906人が違法行為で検挙され、中国へ強制送還されているという。
こうした現実があるにも関わらず、フン・セン首相率いるカンボジア政府は新型肺炎という稀有の脅威に直面してもなお「媚中外交」を続けようとしているのだ。フン・セン首相にとって守るべきは自国の国民なのかそれとも中国なのだろうか。【2月3日 大塚智彦氏 Japan In-depth】
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長期に独裁的権力を維持する権力者が、次第に現実離れした方向に向かい、誰もそれを止められない・・・ということはしばしば見るところですが、フン・セン首相も「大丈夫かな?」って感じも。
外交官や学生に「帰国を望むな」と言うだけでなく、首相本人が武漢を訪問することを申し出たとか。
まあ、「ご立派」と言うべきか・・・
****中国、カンボジア首相の武漢訪問の申し出を断る―中国メディア****
2020年2月5日、中国メディアの環球網は、カンボジアのフン・セン首相がこのほど、中国の同意があれば新型コロナウイルスによる肺炎が発生した中国湖北省武漢市を訪問したい意向を示したことについて、「中国側は申し出をえん曲に断った」と報じた。
環球網によると、フン・セン首相は3日、訪問先の韓国で、「中国が同意すれば、韓国から武漢へ行き、現地にいるカンボジアの学生を慰問したい」と述べ、中国政府と調整するよう随行員に指示した。
これについて、ベトナム外務省の報道官は、「武漢市は新型コロナウイルス感染症の対応に忙しく、日程を調整できないという。中国政府は代わりにフン・セン首相に北京を訪問する機会を提供したが、首相はカンボジアに戻ることを選んだ」と述べた。【2月5日 レコードチャイナ】
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中国側の迷惑そうな顔が目に浮かぶようにも。
ただでさえ大混乱の武漢で外国トップを迎えるような余裕はないですし、まかり間違って首相が感染でもしたら中国のメンツは泥まみれになってしまいます。
丁重にお断りする以外にないでしょう。
フン・セン首相も、それを見越してのパフォーマンス?
まあ、国民の2割とか三分の一が犠牲になったとも言われるカンボジア内戦の悲劇に比べたら、新型肺炎の脅威など取るに足りない・・・ということでしょうか。それは一定に事実でもあり、適切な観察・治療体制がとれるなら大騒ぎする必要はないのかも。