(香港のクイーンメリー病院付近で、「ストライキ」と書かれたプラカードを持ってストに参加する地元の医療従事者(2020年2月3日撮影)【2月3日 AFP】
“五大訴求”という文言も見えますので、これまでの抗議デモと連動した取り組みのようです。)
【実態が把握し切れない状況 北京も閑散】
新型コロナウイルス肺炎の感染拡大は歯止めがかかりません。
****中国本土の重症者2300人 世界の死者数、SARS超も****
新型コロナウイルスによる肺炎の死者は3日、中国本土で計361人となり、2002〜03年に大流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の犠牲者数を超えた。新型肺炎の重症者は約2300人に上り、今後SARSの世界全体の死者数774人を上回る可能性も出てきた。
中国本土の2日までの感染者は1万7205人、感染疑い例は2万人超。香港大のチームは湖北省武漢市の感染者が1月下旬までに約7万6千人に達した可能性があると推計している。
検査試薬や病床不足で実態が把握し切れず、実際の感染者は統計よりかなり多い恐れもある。【2月3日 共同】
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上記にもあるような実態把握が追い付かないような現状、言われいるような“ピークは4・5月”(香港大学医学院の梁卓偉氏)といった話などからすれば、今後犠牲者はSARSを大きく超える規模になることも懸念されます。
封鎖状態の武漢では街から人はもちろん車も消えた状況のようですが、武漢だけでなく、北京などの他の都市でも、休業、出勤見合わせ、イベント中止などが相次ぎ、街は閑散とした状態になっているようです。
****新型肺炎 中国 春節の連休明け 厳戒態勢続く****
中国では「春節」の連休が明け、本来なら3日から大勢の人が出勤し始めますが、北京や上海など各地の当局は感染拡大を抑え込むため、企業に対して業務の再開を1週間、遅らせることや在宅勤務にすることを求めていて、閑散とした仕事始めとなりました。
このうち首都・北京では地下鉄の駅や建物の入り口で体温の検査を行うなど、厳戒態勢が敷かれていて、ふだんは大勢の人が行き交う中心部のオフィス街も3日は全く人けがなく、飲食店も大部分が営業を控えていました。
マスク姿で街を歩いていた女性の1人は「家に何もなくなったので生活用品を買いに来た。ずっと家にいて気も晴れないしとても怖い。早く終息してほしい」と話していました。(中略)
【北京市 地下鉄でも人影まばら】
(中略)ふだんは多くの人で混み合う地下鉄の駅でも人影はまばらでした。
出勤途中の男性は「出歩いている人はふだんの10分の1くらいしか見かけません。私も就業時間は柔軟に調整していいことになっているので、仕事が済んだら、すぐに家に帰ります」と話していました。(中略)
【武漢 事実上の封鎖で閑散】
(中略)武漢に住む中国人の女性がきょう昼すぎに中心部の通りを撮影した映像では人の姿が見られないうえ、車も走っておらず、閑散とした様子が確認できます。
また、市内のコンビニやスーパーを撮影した別の映像では、店頭に食料品など物資があることは確認できますが、スーパーの中に店を構える精肉店は営業を休止しているほか、客足もまばらとなっています。
映像を撮影した女性は「武漢が封鎖措置をとってからは、ずっと家にいた。きのう11日ぶりに家から出たが、街では人が少なく車もほとんど走ってない状況だった。(後略)【2月3日 NHK】
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中国外務省は、人が集まることを避けるため、3日からインターネットを使って質問を受け付ける、異例の記者会見を始めています。
また、各地で地域住民がコミュニティーに壁・バリケードをつくり、よそ者を入れない、他地域から帰った者にいろいろ確認する等の刺々しい現象も。
【各国の入国制限措置等と日本の対応】
こうした状況で、各国は中国から人の流れを規制する様々な対応を取り始めています。
****中国の孤立化深刻、新型コロナウイルス流行 各国の対応****
中国を中心に新型コロナウイルスの流行拡大が止まらない中、国境閉鎖や航空便の運航停止など思い切った対策に出る国が増え、中国の孤立化がいっそう進んでいる。世界各国の政府がこれまでにとった水際対策をまとめた。
■入国制限
米国は1月31日、過去2週間以内に中国への渡航歴のある外国人の入国を一時的に禁止した。米国籍を持つ人の家族と永住権を持つ人は対象から除外されている。
オーストラリアとイスラエルも同様に、過去2週間以内に中国に渡航したことのある外国人の入国を禁止。ニュージーランド、シンガポール、マレーシア、フィリピン、モンゴルも、中国渡航歴のある人の入国を制限すると発表した。
■航空便の運航中止
イタリアは欧州連合加盟国として初めて、中国便の運航を全面中止した。ベトナムも1日、中国本土を発着する全便の運航中止を発表した。
政府としての対応に加え、仏エールフランスや英ブリティッシュ・エアウェイズ、インドネシアのライオン航空など複数の航空会社が、中国便の運航停止や本数削減を実施している。
とはいえ、中国への渡航手段は今もたくさんある。中国国際航空、中国東方航空、中国南方航空など中国の航空会社は今も運航しており、日本では日本航空と全日空が武漢発着便のみの運航を中止している。
■国境閉鎖
新型ウイルスの流入を防ぐため、中国との国境を閉鎖した国もある。ロシアは1月30日、極東の対中国境閉鎖を発表。カザフスタンは、中国との越境路線のバスや旅客列車の運行を中止した。
モンゴルは対中国境を閉鎖。ネパールも1月29日から15日間にわたって対中国境のラスワガディ検問所を閉鎖している。
パプアニューギニアは29日、さらに一歩踏み込んだ対応をとり、空と海の両方でアジア全域からの外国人旅行客の入国を禁止した。唯一の陸路での入国ルートである対インドネシア国境も閉鎖されている。
■中国人へのビザ発給停止
新型ウイルスの流行を受け、複数の国が中国人への査証(ビザ)発給を一時的に停止している。シンガポールは全種類のビザ発給を取り止め、中国人旅行客に人気のベトナムは観光ビザの発給を停止した。
中国と友好関係にあるロシアも2月1日、中国人に対する観光ビザ免除措置と労働ビザの発給を停止。フィリピン、スリランカ、マレーシア、アフリカのモザンビークもビザ発給に制限をかけた。 【2月3日 AFP】AFPBB News
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日本や韓国は、中国湖北省を訪問した外国人の入国を拒否する対応を取っており、菅官房長官は会見で2日時点で外国人8人の入国を拒否したと発表しています。
当然ながら、こうした人の流れの制限は様々な負担を人々に強いるだけでなく、経済関係を著しく阻害もしますので、充分な配慮が必要となります。
特に、SARSのときと違って、今や世界経済における中国の存在感は極めて大きなものとなっていますので、規制による影響も甚大となります。
そうした疫学的側面と経済的側面の配慮だけでも非常に難しい問題ですが、更に政治的な微妙な問題が絡んでくると・・・
日本も、今春には習近平国家主席の訪日が控えています。
現段階では、中国側は「予定どおり」としています。
****中国、習近平国家主席の訪日 予定どおり実現する考え****
中国外務省は、3日に行われた会見で、今年春に予定されている習近平国家主席の国賓としての訪日について、予定どおり実現させたいとする考えを改めて示しました。
日本時間午後4時から行われた会見は、新型肺炎の拡大防止のため3日からオンラインで開かれることになりました。このなかで、華春瑩報道官は今年春に予定されている習近平国家主席の国賓としての訪日について、「常に日本と緊密な意思疎通を保っている」とした上で、「両国は今後の重大な外交日程を推進するため、積極的に各方面の準備をすべきだ」として、予定どおり実現させたいとする考えを示しました。(後略)【2月3日 TBS NEWS】
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「今年春」ということですが、“ピークは4・5月”とぶつかる可能性も。そうなったとき、ただでさえ日本国内には国賓としての訪日に反発する声がありますので、随行者の安全チェックなどで難しい問題が出ることも考えられます。
この政治日程がある限り、日本はアメリカのような武漢だけでなく中国全土を対象とした規制はできないでしょう。
まあ、そういう事態になれば、中国側も訪日どころではなく、延期という話にもなるのでしょうが。
【香港 中国本土との境界閉鎖を求める医療労組スト 今後の問題は香港経済への影響】
日本より遥かに政治的に微妙なのが香港・台湾。
****香港で医療労組がスト入り、本土との境界の完全閉鎖を要求 新型ウイルス阻止で****
香港で3日、新型コロナウイルスの流行阻止を目的とする中国本土との境界閉鎖を求め、医療関係者数百人がストライキに突入した。要求が受け入れられない場合、医師と看護師を含む最前線で働く人々もストに加わる構えを示している。
香港ではこれまでに15人の感染者が確認されている。多くは中国本土で新型コロナウイルスに感染してから香港に入った人々だ。
親中派の香港政府が本土との境界の完全閉鎖に抵抗していることから、補助的な業務に携わる医療関係者がストに踏み切った。
香港の各当局は境界の完全閉鎖について、差別的で経済への打撃となる上、世界保健機関の勧告にも反すると主張。代わりに出入境検問所の一部を閉鎖を実施し、本土からの人の流入が激減したと説明した。
しかし香港では、2003年に中国政府によって当初隠蔽(いんぺい)されていた重症急性呼吸器症候群ウイルスの流行で300人近くが死亡した経験から本土への不信感が根強く、市民の怒りが高まっている。
新たに設立された医療関係者らによる労働組合、医管局員工陣線の組合員数千人は1日、本土との境界閉鎖という要求が受け入れられなければ、ストに突入すると決議。第1陣は3日にスト入りすることになった。
第1陣は補助的な業務に携わる医療関係者だが、同組合によると、要求が受け入れられない場合、医師と看護師を含む最前線で働く人々も4日にスト入りするという。
約9000人の組合員を抱えるHAEAのウィニー・ユー会長は報道陣に対し、「境界を完全閉鎖しなければ、感染拡大に対処するための人員と保護具、隔離部屋が足らなくなる」と訴えた。
HAEAによると、香港政府の交渉が行われたが、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官が協議に出席しないことが判明し、2日に決裂した。
香港政府はストを非難し、参加者らに対して「考え直し、プロ意識を持って引き続き香港を守り、力を合わせてウイルスとの闘いに勝利しよう」と訴えた。 【翻訳編集】AFPBB News
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香港はすでに中国大陸に通じる鉄道やフェリーの運行を停止しています。
中国側も交通機関の停止に加え、香港への個人渡航者へのビザ(査証)発行も停止しています。
ただ、香港にはSARSのときの苦い経験もあります。
政治的には香港は中国の一部という大前提に加え、昨今の香港当局・中国を批判する抗議行動、選挙での中国批判派の勝利という情勢を受けると、香港当局としては中国本土との境界の完全閉鎖ということはなかなかできない相談でしょう。
一方で、下記のような見方も。
****新型肺炎を“香港デモ沈静化”に利用? 元自衛隊陸将が読み解く「中国の恐るべきしたたかさ」****
(中略)
香港の「緊急事態」宣言には“デモ対策”の一面も?
中国の新型肺炎感染拡大を睨み、早くも外交安保面でそれに“便乗”する動きがあった。香港政府の林鄭月娥行政長官は、25日に中国に先駆けて最高レベルの警告である「緊急事態」を宣言した。また、香港ディズニーランドは26日、当面の間休園すると発表した。
筆者には、これらの決定はデモを鎮静化させるための策謀に見える。それが事実であるならば、中国・習近平からの差し金に違いない。
習近平は新型肺炎感染拡大の渦中にあっても、中国の戦略的な課題に対して休むことなく布石を打っている可能性がある。油断ならない指導者だ。(後略)【1月28日 福山 隆氏 文春オンライン】
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一番の問題は、香港経済が今後どうなるか・・・というところでしょう。
SARSでは、大きなダメージを受けた香港経済は中国経済と一体化することで回復基調にもどるということで、中国依存が強化された経緯があります。
****2019年の香港経済、10年ぶりマイナス成長 新型肺炎で見通し悪化****
香港政府が発表した2019年の域内総生産(GDP)は1.2%減と、年間ベースで2009年以来初のマイナス成長となった。反政府デモや米中貿易戦争が響いた。(中略)
香港では抗議活動が終息しておらず、新型コロナウイルスの感染拡大で、今後さらに景気が悪化するとの見方が多い。
キャピタル・エコノミクスの中国担当エコノミスト、マーティン・ラスムセン氏は「コロナウイルスの発生で、景気後退が長期化するだろう」との見方を示した。香港の小売・観光業は中国本土の観光客に大きく依存している。(後略)【2月3日 ロイター】
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【台湾 新型肺炎問題にも影落とす中台関係】
一方の台湾は、新型肺炎を巡っても、中国との確執があります。
****WHO未加盟の台湾、新型ウイルス巡り「二重苦」****
中国の反対で世界保健機関(WHO)に加盟できていない台湾が、新型コロナウイルスを巡り、台湾便の運航停止と情報不足という「二重苦」に見舞われている。
中国では新型ウイルスの感染者が1万7000人以上に達しているが、台湾の感染者はわずか10人。ただ、WHOは台湾を中国の一部としており、イタリア政府は中国便の運航停止措置を台湾の航空最大手・中華航空にも適用した。
台湾は新型ウイルスに関する情報をWHOから直接入手できない状況にも追い込まれている。
台湾外交部の高官は2日、WHOに対し台湾を中国の一部と認識しないよう何度も苦情を申し立てているが、WHOの姿勢に変化はないと批判。
台湾便については、ベトナム政府も運航停止を命じたが、台湾当局の抗議を受けて、1日に運航停止が解除された。
中華航空によると、台湾当局はイタリア政府に抗議しているが、同社のローマ便の運航は現在も停止されている。【2月3日 ロイター】
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武漢に滞在する台湾人についても、台湾からの帰国要請を中国側が無視するという状況がありましたが、こちらは中国側も「人道的配慮」を優先させることになったようです。
****武漢の台湾人に機体用意 中国側「旧正月の増発便」名目****
新型コロナウイルスによる肺炎の問題で封鎖された中国・武漢市に残っていた台湾人の一部が3日夜、中国側が用意した民間機で台湾に向かう。中国側は当初「在留台湾人に感染例はない」と対応に消極的だったが、その後感染が確認され、人道的な配慮をしたとみられる。
台湾当局によると、武漢市には居住者や旅行者ら約500人の台湾人がいて、うち約200人が台湾に戻る。旅行者から「手持ちの持病の薬が無くなった」などと助けを求める声が出ていた。今後、第2便も検討されている。到着後、行政や軍の施設に2週間隔離される。
中台間の公式の連絡は絶たれているため、台湾側は1月下旬から、現地の台湾企業の団体を通じて台湾の航空会社のチャーター機派遣を働きかけてきた。最終的に、中国側が「旧正月の増発便」として中国の航空会社の機体を用意した。
台湾当局の関係者は「台湾側の機体や要員、職員らが中国側に入り、中台当局が協力し合う形式を採りたくなかったのだろう」とみている。【2月3日 朝日】
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新型肺炎といった人命にかかわる問題を政治的な駆け引きに使うべきではない・・・というのは、一般人の思うところですが、現実政治はそういうものでもないようです。