孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国 新疆ウイグル自治区の「再教育センター」は閉鎖へ しかし、継続する監視体制

2020-02-07 23:20:16 | 中国

(閉鎖された再教育センターの裏の草地に積み上げられたベッドフレーム(1月12日)【2月7日 WSJ】)

【人権問題への批判を強めるアメリカ】
人権問題にほとんど関心がないトランプ大統領にとっては新疆ウイグル自治区の問題も「取引(ディール)」のための“カード”に過ぎず、よい取引ができるなら人権弾圧国家であれ、独裁者であれ問題にしない姿勢が見え隠れしますが、米議会や政権内には、今後の世界を米中のどちらがリードしていくのかという視点から、両国の差異を際立たせる問題として、中国の人権侵害に対するより厳しい姿勢がうかがえます。

****米下院、ウイグル人権法案可決-中国政府当局者を制裁対象に****
米下院本会議は3日、中国・新疆ウイグル自治区の少数派イスラム教徒に対する人権侵害を巡り中国政府当局者に制裁を科す法案を賛成407、反対1の圧倒的多数で可決した。(中略)
  
同法案は9月に全会一致で上院を通過したウイグル族人権法案を修正したもの。(後略)【2019年12月4日 Bloomberg】
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****ウイグル族への人権侵害で中国当局者に制裁を 米議会 ****
(中略)中国の人権問題を調査しているアメリカ議会の委員会は8日、記者会見し、中国の人権状況をまとめた年次報告書を発表しました。

この中で委員会は、中国政府がテロ対策を名目に新疆ウイグル自治区で収容施設を拡大し、少数民族のウイグル族を不当に拘束して電気ショックなどの拷問を続けていると非難しました。

さらにウイグル族を最新技術で管理するためAI=人工知能や顔認証技術、それにビッグデータを駆使した監視社会を構築していると指摘しました。

そのうえで中国政府は人道に対する罪を犯しているおそれがあると警告し、トランプ政権に対して人権侵害に関わっている中国政府の当局者に制裁の発動を促しました。

記者会見した委員会の委員長を務める民主党のマクガバン下院議員は、「アメリカ議会では、超党派で中国の人権状況の悪化を懸念している」と述べ、貿易交渉を優先させて人権問題を軽視していると言われるトランプ大統領にこの問題に取り組むよう訴えました。

アメリカ議会では去年、香港の人権法案を可決したのに続いて、ウイグルやチベットの人権向上を目指した法案も審議されています。【1月9日 NHK】
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****カザフ訪問の米国務長官、ウイグル弾圧を非難 亡命者受け入れを各国に呼びかけ****
カザフスタンを訪問中のマイク・ポンペオ米国務長官は2日、中国西部・新疆ウイグル自治区から逃れた少数民族の人々に亡命を認めるよう各国に呼び掛けた。
 
石油資源に恵まれたカザフスタンを訪れたポンペオ氏は、同国のムフタール・ティレウベルディ外相とともに記者会見に臨み、「われわれは各国に対して、中国から逃れようとする人々に安全な避難を提供し、亡命を認めるよう求める」と述べ、「人間としての尊厳を守り、ただ正しいことをやりなさい」と語った。(中略)
同自治区(新疆ウイグル自治区)と接するカザフスタンは、逃れてきた中国籍のカザフ人らに国内での滞在を許可してきたが、亡命は認めてはいない。地元の活動家らはこの消極性について、中国政府からの圧力によるものと指摘している。 【2月2日 AFP】
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もっとも、最後のポンペオ米国務長官の亡命受け入れに関する発言については、“エルサルバドル帰国後、殺害か 米国移住不許可・送還の138人”【2月7日 共同】といった話もありますが・・・

ウイグル族イスラム文化に対する弾圧に関しては、中国との関係を重視する中東アラブのイスラム国家は反応が鈍いところがありますが、インドネシアやトルコなどには国民レベルの批判もあります。

“中国のウイグル族弾圧問題 「彼らの苦しみは我々の苦しみ」インドネシア、マレーシアで大規模抗議集会”【2019年12月30日 毎日】
“トルコでウイグル人問題めぐり抗議デモ、中国国旗燃やす参加者も”【2019年12月21日 AFP】

【中国の方針変更 「施設での教育、全員修了」】
こうした情勢を受けて、中国も「100万人以上が強制収容施設(あるいは、中国側の言う再教育センター)に収容されて虐待を受けている」という状況の軌道修正を図っています。

****ウイグル族収容、不透明なまま 自治区幹部「施設での教育、全員修了」****
中国・新疆ウイグル自治区の幹部が9日、北京で記者会見し、国際社会から批判を受けているウイグル族の「再教育施設」について「教育は全員修了した」としたうえで、施設の運営方針を変更すると表明した。

人権侵害を指摘する「ウイグル法案」が米下院で可決されるなど、批判の高まりが背景にあるとみられるが、実態は依然として不透明だ。
 
記者会見を開いたのは、新疆ウイグル自治区ナンバー2のショハラト・ザキル自治区主席。国際社会から「再教育施設」として批判を受けている「職業技能教育訓練センター」について、「施設での教育は全員修了した。安定した仕事に就いて、幸せな生活を送っている」と発言した。
 
ザキル氏はまた、「今後は本人の意思を尊重して、開放的な教育訓練を実施していく」と、施設運営の政策を変更する方針を示した。施設への出入りは原則自由とし、地域の共産党幹部や教育関係者が日常的な教育訓練を行うという。
 
施設を巡っては、国連人種差別撤廃委員会が2018年8月、不当に拘束されたウイグル族を解放するよう中国政府に勧告した。また、同年9月には国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)が、施設に約100万人が収容されており、虐待などもされていると報告した。
 
中国政府はこうした指摘に対してこれまで「テロや過激な宗教思想を撲滅するため、法律に基づいて教育や訓練を実施している」と反論し、正当性を主張。

ザキル氏も過去に「センターでは無料で語学や法律を学べる。寄宿制の学校と同じだ」とし、強制的収容の事実はないと説明していた。

 ■中国、批判回避狙いか
中国当局が施設の運営方針を転換した背景には、国連などの批判に加え、新たな報道や法案可決が相次いだことがあるとみられる。
 
まず、米ニューヨーク・タイムズは11月、ウイグル族の収容政策に関する内部文書を入手したと報道。習近平(シーチンピン)国家主席が地元警察に強硬な対応を命じたとする文書や、施設収容者の家族からの問い合わせに対する想定問答集が報じられた。

直後には国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が、ウイグル族住民への監視や管理の実態を示す中国当局の内部文書を入手したとして公開した。
 
12月に入ってからは、ウイグル族らへの弾圧に関わった中国政府高官らに制裁を科すことを可能にする「ウイグル法案」が米下院で可決された。具体的な高官の名前も法案に盛り込まれており、米議会で関心が高まっていることを示した。
 
中国政府は法案に対して「内政干渉だ」と強硬な姿勢を見せている。しかし、米中通商協議が大詰めを迎えるなか、香港やウイグルの問題が影響することへの懸念も広がっている。
 
ザキル氏は会見で「センターでの教育訓練の成果で、新疆ではこの3年テロは起きておらず、社会は落ち着いている」と語った。しかし、新疆各地に作ったセンターの収容人数や、施設の今後について明確な説明はなく、不透明さが残ったままだ。【2019年12月10日 朝日】
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ザキル氏は再教育をやめるとは言っておらず、“ザキル氏は、これらのセンターに加え、ウイグル自治区政府が掲げる次の段階として「村々の幹部や地方の党員、農民、遊牧民や無職の中・高卒者を対象に、毎日実施する、定期的かつ標準的な開かれた教育的訓練の提供開始」を挙げたが、詳細は語らなかった。”【2019年12月9日 AFP】とも。

【確かに一部再教育施設は閉鎖され、街には活気も しかし、依然として続く監視体制 工場労働・刑事訴追も】
上記の中国側の方針変更を受けて、現在の新疆の状況はどうなっているのか・・・確かに大きく変わったようです。
ただ、強権的なウイグル文化弾圧がなくなった訳ではなく、外部に目立つような形から、目立たない形に姿を変えた面もあるようです。

****中国新疆のイスラム教徒管理手法、一段と巧妙化 ****
再教育キャンプを一部閉鎖もデジタル技術を使うシステムで監視 

中国北西部、新疆ウイグル自治区のイスラム教徒の少数民族を収容するため当地に設けられていた再教育センターが最近閉鎖された。

裏手の草地には、廃棄された何百もの金属製ベッドフレームが乱雑に積み上げられていた。ベッドフレームに貼り付けられた赤いシールには「間違いを知り、間違いを認め、悔い改めよ」と書かれていた。 
 
中国当局は、こうした場所に収容されていた人々はすべて、学習を終えたとしている。これら施設を中国政府は、職業学校と呼んでいた。人権団体や欧米諸国の政府によれば、新疆の何十ものこうした施設には近年、ウイグル人を中心とする約100万人が収容されていた。 
 
中国政府は長年にわたり、こうした措置は過激主義との戦いのためのものだと説明してきた。一方、イスラム教徒の活動家らは、彼らの文化と宗教の一掃が中国の狙いだとしている。(中略) 

しかし1月初めの時点ではまだ、そこから南へ車で1時間ほどの場所で大規模な再教育キャンプが運営されていた。建物を囲む灰色の高い壁は、明るい照明に照らされていた。2年前、地元の人はこの施設を学校と呼んでいた。道に立ちはだかる制服姿の警備員は、この施設を別の名で呼んだ。 「これは刑務所だよ。学校だったことは一度もない」と彼は語った。 
 
この2か所の施設の姿は、現在進行中の中国政府の新疆への対応の変化を例示している。(中略)

新疆南部のウイグル族居住地の中核となる幾つかの市や町を最近訪れた際には、近年施行されていた明白な治安維持策の多くが緩和されていることがはっきりと分かった。これは、欧米諸国による何カ月にも及ぶ国際的な調査や批判の影響によるものだ。 
 
しかし、別の形での管理は、時にはより見えにくい形で、今も続いている。 

かつては憲兵風の警察官と武装車両がパトロールし、再教育の主な対象となった労働年齢のウイグル人男性の姿がほとんどなかった地域にも、外見上は日常の光景が戻ってきたように見える。街角のチェックポイントは使われていない。若い男たちが、友人同士で笑顔で冗談を交わしている。 
 
だが、顔認証のスキャン、目視や電子機器によるIDチェックは今も広く活用されている。こうした監視は、路上ではなく、居住地域や公共の建物の入口で行われている。

(カシュガルでは通りではなく住居や公共施設の入り口などでセキュリティーチェックが行われるようになった(1月13日))

 

一部のウイグル人の家の戸口には、住人の情報を警察が読み取るためのQRコードが付けられている。 
 
新疆の現実を把握することは、今も難しい。地元当局者らは、この地域での外国人記者の自由な移動を妨げている。特に再教育キャンプの近くでは制限が厳しい。

新疆プロパガンダ・ビューローはコメントの求めに応じていない。地元のウイグル人は、当局の報復を恐れて記者との会話を避けており、短い言葉を交わす以上の接触は難しい。 
 
しかし、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、何十年にもわたりウイグル人主導の散発的な暴動の震源地となってきたこの地域を管理する手法に、中国指導部が新たに巧妙な手法を加えていることを把握した。 
中国政府は、天然資源の開発と、新疆の文化を他地域と同化させることを目的に、国内の他地域から漢民族の新疆への集団移住を推進してきた。こうした政策は、多数の死者を出した2009年のウルムチ市での暴動などの民族闘争をあおった。 
 
新疆の当局は2017年、「対テロ戦争」と呼ばれる取り組みの一環として、ウイグル人とカザフ族を標的にした強力な監視システムと収容所のネットワークを結びつけた。以前収容されていた人々によると、彼らは収容中に標準の中国語を学ぶよう強制されたほか、イスラムの習慣を絶つよう告げられた。 
 
米下院は昨年、中国の新疆政策の責任を負う中国当局者に制裁を科す法案を成立させた。一部の繊維業界団体は、衣料品ブランドに対し、新疆からの物品調達に関しては慎重に行うよう注意を促した。 

新疆ウイグル自治区のショハラト・ザキル主席は昨年12月、再教育センターに送られた全ての人が「学習を終えた」と述べ、施設が閉鎖される予定であることを示唆した。 
 
中国の少数民族政策に詳しい豪ラ・トローブ大学(メルボルン)のジェームズ・リーボールド氏は、こうした一連の要因が収容所の一部閉鎖と、配置される警官数の一部減少につながった公算が大きいと述べ、当局者がイスラムの影響を薄めるという目標を達成したと確信できたこともその1つだと指摘した。 
 
同氏は「国際的な圧力が何らかの役割を果たしたと私は思う。もう1つの大きな要因は、警察国家を作り上げるためのエネルギーと負担だ」と話した。
 
ワシントンに本拠を置くシンクタンク、ジェームズタウン財団の調査によると、2017年に新疆政府が国内の治安のために費やした金額は前年の2倍近い、270億元(約4290億円)に増えた。
 
その金額の大半は、自治区内に7500カ所以上の「便民警務站(警察の派出所)」を設置するために使用された。これは警察が地域住民の監視とテロ脅威への迅速な対応を行いやすくするためのものだ。これらの多くは現在無人の状態で、窓が覆われている。

(カラカシュにある多くの「コンビニエンス・ポリス・ステーション」は閉鎖されている(1月14日))


 
カシュガル郊外の疏勒県では、村人たちが大通りで野菜や生きた羊を売っているのを少数の警官がぼんやり眺めていた。近くの店舗はまだ金属製のフェンスで囲われていたものの、かつてあちこちで見受けられた武装警官による巡回は、ほとんどなくなっていた。
 
取り締まりが厳しかった頃、ウイグル人の若者は暗くなると外出を控える傾向にあった。いたるところで検問が行われていたほか、警官が歩行者のスマートフォンを端末につないで、中にあるファイルやアプリのスキャンを日常的に行っていたためだ。治安部隊の数が少なくなったことで、ナイトライフは復活してきた。
 
翡翠(ひすい)で有名なかつてのシルクロード沿いの都市、ホータン(和田)では、ウイグル人の男性たちが冬の寒さにもかかわらず、最近改装された地下のビリヤード場に集まっていた。陽気な漢族の経営者が客のIDカード番号を入力するなか、彼らは笑ったり、たばこを吸ったりしていた。
 
それでも、イスラム信仰を表すものを当局が攻撃している影響は見て取れる。数年前と明らかに違い、あごひげをはやしている男性はほとんどいない。髪を覆うゆるめの帽子をかぶる女性はいたものの、ヘッドスカーフを身に付けている女性はほとんどいなかった。
 
住民の多くは今も、恐怖にとらわれているように見えた。ホータンの衣料品店で働いている若いウイグル人の女性に、再教育キャンプに送られた地元の人々が戻ってきたかを尋ねると、顔が曇った。彼女は「何のことだか分かりません」と言って、立ち去った。
 
国外に住むウイグル人の多くは、キャンプが廃止されるとの報道があったものの、親族の生活状況に関する情報が入ってこない状態が続いていると話す。
 
アブドゥラハト・トルスントフティ氏は数年前にトルコに移住するまで新疆ウイグル自治区ホータン地区カラカシュ県で刺しゅう関連の工場を経営していた。同氏が人づてに聞いたところによると、昨年秋に父母、義理の姉妹が再教育センターから解放されたが、大半の家族は引き続き拘留されているか、あるいは工場での労働を命じられているという。家族の居場所について把握できたのは直近で昨年10月だった。
 
「過去4年間にわたり家族と連絡が取れずにいる」とトルスントフティ氏は語った。「カラカシュ県から情報を得るのは非常に難しい」
 
WSJの記者は、カラカシュ県の南西部地域で建設途中の工業団地を見つけた。同団地の端はれんがの壁で仕切られており、金属製の高い門がついていたが、社名の表示はなかった。記者らが近づいていくと警備員が遮り、同地区では靴下工場が操業中で立ち入り禁止となっていると告げた。(中略)

国外に住むウイグル活動家らによれば、収容センターから解放された住民の多くは工場での労働を義務付けられ、日常的にデジタル技術を使ったシステムで監視される。
 
カシュガル郊外の疏勒県に位置し、現在も運営されている大規模な収容センターでは、当局者らがセンター内に残っている住民を刑事犯罪の罪で起訴し始めており、ウイグル活動家は懸念を強めている。

これまでも再教育は、その一環として刑事訴追の動きを伴っており、公式統計によれば、2017年の新疆地区内での刑事犯罪での逮捕件数は2016年に比べて10倍近くに急増した。国外在住のウイグル族の人々は、過去1年間に収容センターにいる近親者が刑の宣告を受けたとの情報を得たと述べている。
 
2年前には学校と言われていた施設の外にいた警備員は、ここは刑務所で最近改修されたと語った。彼は「どこの国も刑務所はある」と付け加えた。
 
中国共産党は、新疆ウイグル自治区における再教育の運動がより厳しい措置の一部を解除できるほどの成功を収めたと感じているかもしれない。

しかし、ラ・トローブ大学のリーボールド氏は、当局による弾圧が長期的にどのような社会的影響をもたらすのか、見極める必要があると指摘した。同氏は「(取り締まりは)とてつもなく大きな怒りを生んだ」と強調した。【2月7日 WSJ】
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再教育センターに収容されていた100万人を超す人々が「自由」になったのであれば、収容施設の状況が一気に明るみに出ると思われますが、そうならないところを見ると、かつて「再教育」を受けていた人々の多くが、工場での労働を義務付けられデジタル監視を受けているか、刑事訴追を受けて刑務所送りになるか・・・ということでしょうか。

 

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