孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  新型コロナウイルス肺炎対策で批判も噴出する習近平主席

2020-02-14 22:06:39 | 中国

(マスク姿で北京市内の施設を視察する中国の習近平国家主席=10日(新華社=共同)【2月12日 産経】)

【新型肺炎対策で陣頭に姿を見せない習近平主席】
新型コロナウイルス肺炎の感染拡大は中国の社会・経済・政治にも大きな影響を与えています。
(日本も、横浜のクルーズ船対応を巡って「一体、どうするつもりなのか?」と、各国から批判が高まっており、また、今後の話としては、もし感染拡大が長引くと東京オリンピックの開催も危うくなるという大きな政治リスクが浮上してきます。もちろん経済への深刻なダメージの問題もあります。そのあたり、日本の話はまた別機会に)

そのなかで、今回は中国政治への影響の話。

より大きな視点では、2月8日ブログ“中国  新型コロナウイルスの流行について警鐘を鳴らした医師の死が呼び起こした情報統制への不満”でも取り上げたように、共産党支配体制への不信・不満という問題がありますが、今日は更に絞り込んで、習近平国家主席への批判に関するもの。

2月3日、習近平国家主席は共産党指導部全体の意見として、政府の初期の対応に問題があったことを初めて認める異例の見解を示しました。

****新型肺炎 中国 習主席 ”政府の初期対応に問題” 初めて認める**** 
新型コロナウイルスの感染拡大について中国の習近平国家主席は、共産党指導部全体の意見として、政府の初期の対応に問題があったことを初めて認めたうえで、予防対策を徹底し、国を挙げて感染拡大を抑え込む考えを示しました。

中国国営の新華社通信によりますと、習主席は、新型コロナウイルスの感染拡大への対応について3日、共産党の最高指導部 政治局常務委員会の会議を開きました。(中略)

会議では、感染拡大が最も深刻な湖北省での医療体制の拡充に力を入れる方針を示したうえで、習近平指導部全体の意見として「今回明るみに出た政府の対応の欠陥や至らなかった点を教訓とし、危機管理の体系を改善して緊急対応の能力を高めなければならない」として政府の初期の対応に問題があったことを初めて認め、対応の在り方を改善していく考えを示しました。

ただ、初期対応に具体的にどのような問題があったかは明らかにしませんでした。(後略)【2月4日 NHK】
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その後も武漢をはじめとして深刻な感染が続く中で、国家の最終責任者である習近平主席の姿がしばらく見えませんでした。当然のように、この危機にあって何をしているのか?「雲隠れ」しているのか?という批判も出てきます。

****習氏、ようやく現場視察=新型肺炎、広がる国民の不満―中国 ****
11日付の中国共産党機関紙・人民日報によると、習近平国家主席は10日、北京市内の病院を訪れ、湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎対策活動を視察した。

習氏による新型肺炎に関連した現場視察は初めて。新型肺炎の発生後、地元当局の初動が遅れた上、習氏が対応を李克強首相に丸投げするような態度を取り国民の間で不満が広がる中、重い腰を上げた形だ。
 
習氏はマスクを着用し、新型肺炎患者が入院する病院を訪問。ネット映像を通じて湖北省武漢市の病院関係者を激励し、現地で指揮を執る高官とテレビ会議を行った。

習氏は「武漢の情勢は依然かなり厳しい」と認めた上で、「もっと果断な措置を取らなければならない」と指摘し、早急な医療態勢の強化を指示した。
 
習氏が公の場に現れたのは5日に行ったカンボジアのフン・セン首相との会談以来。習氏は7日にトランプ米大統領と電話会談し、新型肺炎対策で協力を要請するなどしたが、ウイルスのまん延におびえる一般国民にとっては「雲隠れ」の状態が続いていた。
 
習氏に代わって存在感を高めているのが、肺炎対策指導グループのトップに就任した李首相。李首相は1月27日に武漢入りするなど奔走した。これまで自らに権限を集中しトップダウンの手法を取ってきた習氏のひょう変ぶりに対して、「肺炎対策の責任を李首相に押し付けている」(知識人)との見方が出ていた。
 
さらに、昨年末に新型肺炎に警鐘を鳴らしたにもかかわらず、「デマを流した」として警察の処分を受けた医師、李文亮氏が2月7日に新型肺炎で死去すると、追悼ムードと共に習指導部への反発が拡大。

情報公開を求める声の高まりを意識したかのように、習氏は10日の視察で「透明性のある情報公開で大衆の懸念に応える」と強調した。
 
しかし、反対意見を力ずくで抑え込む習指導部の態度に変化はない。中国の人権問題を扱うサイト「維権網」によると、弁護士でジャーナリストの陳秋実氏は6日から行方不明になっている。陳氏は武漢を訪れ、当局の情報隠しや貧弱な医療態勢を批判したため拘束されたもようだ。【2月12日 時事】 
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李克強首相に丸投げして、うまくいかない場合はその責任をとらせる・・・ということでしょうか。
一方で、武漢・湖北省地方政府の責任を追及する強権的な手法で、自身への求心力を維持しようとしているとも。

****習近平氏、強権で求心力維持 新型肺炎、幹部ら徹底追及****
肺炎を引き起こす新型コロナウイルスの中国全土での感染拡大を受け、習近平指導部が強権的な手法を強めている。地方政府が混乱し、当局への批判も広がる中、問題のある幹部らの責任を徹底追及するよう号令をかけた。

習指導部の権力基盤がまだ弱かった政権の1期目に、反腐敗闘争で求心力を高めたのと同じ構図だ。
 
湖北省党規律検査委員会は4日、同省赤十字社の副会長を免職とするなど3人を処分した。赤十字社が寄付を受けたマスクの種類や病院への配布数の情報公開がいい加減だとして、インターネット上で批判が集まっていた。同省黄岡市では幹部級6人が免職になるなど、公表されているだけで400人以上の地方政府幹部らが処分されている。
 
「多数の人が失業に直面している。国が(感染源とされる)野生動物売買をしっかり規制していれば」
中国のネット上では、当局による削除が追いつかないほど、批判が渦巻く。
 
北京の共産党筋は「(感染が発生した湖北省の)武漢では幹部らが責任の押し付け合いに必死だ。全国的に(当局内の)足並みが乱れている」と指摘する。
 
習氏は3日の会議で「全国が碁盤の石のように一体とならねばならない」と党中央の統一的な指導を指示したが、トップダウンによる指揮命令系統の乱れも示唆した形だ。さらに「党中央の指示に力を尽くさない者、責任を人になすりつける者」については、本人だけでなく党や政府の幹部も問責する考えを示した。
 
国会にあたる全国人民代表大会(全人代)の開幕が1カ月後の3月5日に迫ってきた。米国が拠点の華字サイト「博聞」は「人心鼓舞のため予定通り開催を主張する習派と、延期を訴える李克強首相ら反対派が対立している」と報じた。だが、北京の大学教授は「開催すれば感染拡大の危険があるだけでなく、湖北省や武漢市の代表は出席できないだろう」と指摘した。
 
共産党筋は「トップへの信頼度が下がっているのは事実だ」としつつも、「習国家主席の他に重責を担える人物はいない。中枢にいる重鎮も多くが腹心で、大きく権力基盤が揺らぐことはない」と話している。
 
一方で、カンボジアのフン・セン首相が5日、北京を訪問した。感染拡大が続く非常事態ながら、この時期にも外交日程をこなせる余裕が習指導部にあると内外に示す思惑が透ける。【2月5日 産経】
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その後、13日には湖北省の共産党トップが解任され、習近平主席に近い人物が後任とされたこと、併せて武漢の党トップも更迭されたことが報じられています。

地方政府の対応に問題があったことは事実ですが、党中央の対応は?

全人代については、この状況では3月5日の開催は無理でしょう・・・今日、延期の検討が報じられていますが、習近平国家主席の訪日スケジュールにも影響してきます。おそらく訪日も延期でしょう。

****中国、全人代延期で調整 新型肺炎で3月下旬以降に*** 
肺炎を引き起こす新型コロナウイルスの感染拡大を受け、中国共産党・政府が3月5日から北京で開催する予定の全国人民代表大会(全人代=国会)を延期する方向で調整していることが13日、分かった。

3月下旬に開く案が浮上しているが、さらに遅れる可能性もある。異例の延期に踏み切るかどうか感染のピークを見極めながら近く最終判断する。複数の党・政府筋が明らかにした。
 
延期されれば4月上旬を軸に調整してきた習近平国家主席の国賓訪日や経済運営に影響するのは必至。全人代はその年の主要政策を打ち出す重要会議で、1998年以降は毎年3月5日から10日間程度開かれてきた。【2月14日 共同】
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【今後の庶民の生活悪化が長期化・深刻化すれば、党指導部への批判も高まる懸念】
習近平主席の行動に話を戻すと、2月10日の北京視察についても批判的にとらえる向きもあるようです。

****習近平氏の北京視察伝えた直後に「武漢へ行け!」 人民日報、アプリ配信で巧妙批判か**** 
「武漢へ行け!」。中国共産党機関紙、人民日報が通信アプリ「微信」に配信した記事の見出しが国内外で注目を集めている。

習近平国家主席による北京視察を伝える記事に続いて、別記事のこの見出しをアップしたためだ。新型コロナウイルスの感染対策で「自らの指揮」を強調する習氏が、いまだ被害が深刻な湖北省武漢を訪れていないことへの巧妙な批判ではないかとの憶測を呼んでいる。
 
習氏は10日、マスク姿で北京の居住区や病院を視察し、感染防止に取り組む市民や患者の治療にあたる医療従事者を激励。人民日報はアプリ内の記事一覧で、この視察を伝える記事に続いて「武漢へ行け!」との見出しをつけた記事を掲載した。湖北省の各市に対する他地域の支援の分担が決定したことを伝える内容で視察とは無関係だった。
 
ただインターネット上では、2つの記事の見出しが並んだネット画面を保存した写真が拡散。米政府系のラジオ自由アジア(RFA)はこれを取り上げ、感染拡大の中で習氏の動向が久しく伝えられなかったことに「世論の不満」が高まっていたと伝えた。香港紙の蘋果日報(電子版)は「編集者が武漢出身だったのかもしれない」との専門家の談話を紹介した。
 
当局の厳しい言論統制を受ける中国メディアは、ときに巧妙な手口で権力を批判する。昨年7月に天安門事件で民主化運動の武力弾圧を主張した李鵬元首相が死去した際、中国紙の北京青年報は1面で訃報記事の下に花束を受け取って喜ぶ学生たちの写真を掲載し、物議をかもした。【2月12日 産経】
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意図した構成であればずいぶんと大胆な批判になりますが、どうでしょうか・・・

****習近平、やっとの現場視察でも隠せぬ「上から目線」****
2月10日午後、新型コロナウイルスで大混乱に陥っている14億中国人が、一心に待ちわびていた「皇帝様」(習近平主席)が、首都・北京に姿を見せた。
 
幹部用の青いマスクをしっかり着用した習主席は、福建省・浙江省勤務時代からの腹心の部下である蔡奇北京市党委書記を伴って、朝陽区安貞街道安華里の社区に現れたのだった。
 
あらかじめ厳選されたに違いない住民たちに近づいた習主席は、「いまは非常時だから握手はやめよう」と言って声だけかけた。そして街頭で住民たちを前に仁王立ちになり、「いまこそ『初心を忘れず、使命を肝に銘じる』(習近平思想のスローガンの一つ)ことを主題とした教育成果を展開するのだ!」と檄を飛ばしたのだった。

モニター越しに武漢の医師たちに指示
続いて習主席は、首都医科大学附属の北京地壇病院に赴き、一階にある監視コントロールセンターの前に立った。正面には大型のスクリーンが置かれ、スクリーンの向こう側には、防護服姿の武漢市の3病院(金銀譚病院、協和病院、火神山病院)の医師たちが、緊張気味に直立不動で立っていた。
 
現場の医師たちを見据えた習主席は、青マスクを付けたまま、両手を後ろに組んだり、人差し指を突き上げたりしながら、「武漢保衛戦と湖北保衛戦に勝利するのだ!」と、再び檄を飛ばした。

その後は、得意の長時間にわたる「重要講話」を述べたのだった。講話の原稿の段落が変わるたびに、医師たちは一斉に拍手していた。
 
習主席の最後の訪問地は、朝陽区疾病予防コントロールセンターだった。習主席はここでも再度、北京市の幹部たちを前に、長時間にわたる「重要講話」をぶったのだった。
 
この「習近平主席の北京視察」の重要ニュースは、以後、丸二日にわたって、CCTV(中央広播電視総台)で繰り返し流された。かつ視察のニュースに続いたのは、「共産党のおかげで退院できました!」と党に感謝する、全国の元コロナウイルス患者たちの「感動的なインタビュー」だった。

「自ら指揮」としながら李克強首相を武漢に派遣
こうしたニュース映像を見ていて、今回の新型コロナウイルスの一連の惨事の中で、習近平政権の「マイナス部分」が、いくつも露呈してきているように思えてならない。
 
習近平政権が目指すのは「強い中国」であり、習近平主席が目指すのは「強い指導者」である。平時には、これらは非常に輝いて見える。中国人は「自分は強い指導者に導かれた強国の一員なのだ」と自負できるからだ。
 
ところが「強い指導者」である習主席は、第一に、誰に相対しても「上から目線」にならざるを得ない。なぜなら、皇帝様と対等の臣民などいないからだ。皇帝様は常に皇帝然と構えていて、初めて皇帝様の威厳が保てるのである。
 
共産党の厳粛な会議などで、それをやるのは構わない。だが国民がバタバタ斃れている現在、求められているのは「国民目線の指導者」である。
 
少なからぬ中国人は、2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)騒動の時、胡錦濤主席と温家宝首相が、マスクも付けずに病院の病室に慰問に訪れ、患者たちの手を取って「一刻も早く治るように」と涙目になって慰問していた様子を覚えている。

時代が違うと言われればそれまでだが、前任者たちは現場の医師たちを直立不動にして、長々と「重要講話」など説かなかった。「スクリーンを通して命令する」こともなかった。
 
第二に、習近平主席は「強い指導者」なので、何事においても責任者は自分であり、決定権も自分にあることを誇示してきた。だから今回も「自ら指揮し、自ら手配する」と宣言した。
 
ところがフタを開けてみたら、新型コロナウイルスの対策小グループ長には、ナンバー2の李克強首相を就かせた。そして、旧正月3日にあたる1月27日、李首相に「封鎖都市」武漢へ行かせたのである。
 
それでは習主席はと言えば、「中南海」に蟄居してしまった。習主席が何日も顔を見せないため、日本の某主要紙などは、「習主席もコロナウイルスに感染したのでは?」と憶測し、裏取り取材に走っていた。
 
こうしたことから、中国のネットやSNS上では、「自ら指揮し、自ら手配するお方はどこへ行ったのか?」という書き込みまで見られた(一瞬にして削除されたが)。
 
第三に、習近平政権における部下の管理術の失敗である。現在の中国は「習近平新時代」であり、政治家や官僚たちに求められるのは、「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想の学習」である。もっと簡単に言えば、習近平主席の日々の命令を、忠実に実行することだ。
 
前任の胡錦濤時代は、日本で言うなら「大正デモクラシー」のような時代で、政治家や官僚たちは、それぞれの範囲内で一定の権限を持っていた。そのため、賄賂が横行するという悪弊もあったが、政治家や官僚たちが自分の頭で考え、生き生きと働いていた。
 
ところが現在、政治家や官僚たちが見ているのは「皇帝様」だけであり、「皇帝様」にだけに忠実である。また、そのような志向を持った人材が、多く登用されるようになった。
 
しかし、いくら偉大な「皇帝様」であっても、日本の26倍もある国土で、14億人もの人間に目配りすることは不可能である。そのため、政治家や官僚の「不作為」(サボタージュ)が目立つようになった。今回、湖北省や武漢市ではこうしたことが顕著に出て、対応の遅れにつながったのである。

コロナウイルスが苦しめる習近平の支持層
第四に、新型コロナウイルスが、習近平主席の「岩盤支持層」である庶民層(中国語で言う「老百姓」)を直撃していることである。
 
歴代の政権で言えば、毛沢東がやはり庶民層を岩盤支持層にしていた。続く鄧小平は人民解放軍、江沢民は上海人と経済界、胡錦濤は8000万人の中国共産主義青年団(共青団)が岩盤支持層だった。

どの政権も、自分の岩盤支持層には特別気を遣い、反感を買わないように努めてきた。アメリカでも、ドナルド・トランプ大統領が、誰よりも岩盤支持層を優遇することは周知の通りだ。
 
習近平政権下でも、2012年以来の「八項規定」(贅沢禁止令)でひっ捕らえたのは幹部たちであり、2015年夏の株式暴落の時、損をしたのは富裕層や中間層だった。また、2018年以来のアメリカとの貿易摩擦でも、企業経営者が打撃を受けた。だが今回ばかりは、習近平主席の岩盤支持層である庶民層が、犠牲になっているのである。
 
さらに今後、新型コロナウイルスが徐々に終息していったとしても、中国の経済的損失や、国際的な信頼失墜は計り知れない。その意味で当分間、習近平政権の試練が続くだろう。【2月13日 近藤 大介氏 JBpress】
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第一の「上から目線」云々は日本的には問題でも、中国では当たり前のことなのかも(それゆえ、国民目線に立った温家宝首相が人気があったところでもありますが)

第二の「自ら指揮し、自ら手配する」を実行していないことに関しては、先述のように、事態が悪化したとき李克強首相に責任を押し付けるとの思惑もあるのかも。

第三の習近平一強体制の問題は、習近平氏が発言するまで誰も積極的に動かなかった、皆が最高指導者の顔色を窺っているということで、中国共産党体制の硬直化を示すもので大きな問題でしょう。

第四の庶民層の被害については、習近平指導部も重視して対応を求めています。

“習近平氏「大規模リストラ許すな」 中国指導部、社会不安を警戒”【2月13日 産経】
“習近平主席、新型肺炎防止策の行き過ぎに警告、経済に悪影響―海外メディア”【2月14日 レコードチャイナ】

ただ、今後の推移次第では、失業・景気悪化で庶民の暮らしに甚大な打撃があることも予想され、党指導部への不満も高まることが想定されます。

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