孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  政府軍のイドリブ攻勢で懸念されるシリア・トルコの衝突 カギ握るロシア

2020-02-20 23:07:31 | 中東情勢

(世界中で反響を呼んでいるシリアの父娘の動画=動画ニュースサイト「AJ+」より【2月18日 毎日】)

【強気な二人 アサド大統領とエルドアン大統領】
毎日、溢れんばかりの新型肺炎関連ニュースなので、敢えて他の話題を。

シリアの反体制派最後の拠点イドリブ制圧に向けた政府軍の攻勢が強まり、域内に監視所を設けて反体制派を支援するトルコとの間で死傷者を出す直接衝突も起きるなど、緊張が高まっています。

トルコのエルドアン大統領は、シリア政府軍が2月末までにイドリブ県外へ撤退しなければ実力行使も辞さないと警告していますが、シリア側はアサド大統領が演説で「(トルコがある)北方からたわ言が聞こえてくる」と述べるなど、反発を強めています。

アレッポも一部反体制派支配が残っていましたが、政府軍が制圧、さらにイドリブ制圧に向けて進軍する構えです。

****シリア大統領、拠点制圧は反体制派敗北の「前触れ」****
シリアのアサド大統領は17日、ロシアの支援を受けた政府軍が反体制派の拠点である北西部アレッポ県の大部分を制圧したことを受け、9年にわたる反体制派との紛争終結につながると述べた。

アサド大統領は国営メディアで「この解放は戦争や衝突、テロ行為の終結や敵の降伏を意味するものではない」と慎重な姿勢を示しながらも「いずれ起きる反体制派の最終的な敗北の前触れだ」と述べた。

さらに、アレッポ県やイドリブ県での作戦は今後も継続し、やがて全土を奪還すると強調した。【2月18日 ロイター】
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“人権団体「シリア人権監視団」(英国)の幹部、ラミ・アブドルラーマン氏は「アサド政権軍は、これまで8年間、1つの村さえも制圧できなかった地域をたった1日で掌握した」と指摘。政権軍は同地域で急速に軍を前進させていると述べた。”【2月17日 ロイター】というように、これまでの均衡が崩れ、流れは一気に政府軍側に傾いているようです。

これだけの内戦にもかかわらず、アサド大統領の言動がメディアに登場するのは不思議なぐらい少ないのですが、現在の戦局を受けて、アサド大統領も強気のようです。

一方の、トルコ・エルドアン大統領(こちらは年中メディアに登場していますが)も一歩も引かない構えです。

****トルコ大統領、シリアでの軍事作戦開始は「時間の問題」と警告****
トルコのエルドアン大統領は19日、シリアのアサド政権軍が反体制派の拠点である北西部イドリブ県に進攻するのを止めるため、トルコ軍が軍事作戦を開始するのは「時間の問題」だと警告した。

トルコ軍は既に、イドリブに多数の兵士を投入。追加の部隊をシリアとの国境に向けて移動させており、トルコ軍とアサド政権軍が全面衝突する可能性が高まっている。

ただ、アサド政権軍を支援してきたロシアは、トルコ軍とシリア政権軍との衝突は想定される「最悪のケース」で、ロシアは情勢の悪化を阻止するために取り組むと表明した。

シリア政権軍は12月以降、北西部のイドリブとアレッポの両県で、反体制派武装勢力を一掃し、支配地域を回復するため猛攻を仕掛けてきた。ロシアは空爆を行うなどして政権軍を支援した。

エルドアン氏は与党議員らに対し、トルコ政府はロシアとの協議を継続する間も、イドリブを安全な地域にする確固たる決意があると表明。これまでの複数回の協議で、合意はまとまらなかったと明らかにした。

「政権軍は数日内にイドリブでの攻撃を停止する必要がある。これは最終警告だ」と強調。

「トルコは自国の作戦計画を実施するため、あらゆる準備を進めてきた。いつでも作戦を展開できる。つまり、イドリブでの攻撃は時間の問題だ」と語った。

エルドアン氏は、シリア政権側がイドリブから撤退する期限を2月末に設定していたが、前週末に前倒しする構えを見せている。

ただ、アサド政権軍に撤退の兆しは見られず、アサド大統領はトルコを後ろ盾とする反体制派勢力などがゆくゆくは敗北すると予想している。【2月20日 ロイター】
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【カギを握るプーチン大統領】
当然ながら、事態のカギを握るのは、アサド政権を支援するロシア・プーチン大統領の動きです。
ロシアとしても、トルコと全面衝突する事態は避けたいところでしょうし、トルコ・エルドアン大統領もロシアの調整を期待しているでしょう。

****イドリブ情勢(ロシア・トルコ首脳会議?など)****
シリアのイドリブ地方を巡り、ロシアとトルコの関係が極めて緊張していることは何度か報告したところですが、al qods al arabi net とal sharq al awasat net は、トルコ外相がトルコのTVとのインタビューで、トルコはロシアとイドリブ情勢につて密接な協議を続けており、まだ満足すべき所まで話し合いは進んでいないが、近くエルドアンとプーチンがこの問題で協議をするだろうと語ったと報じています。

会談の場所や日時は不明の由。

更に後者の記事は、ロイター電によれば、トルコ責任者(氏名等不詳)が、3月初めにはテヘランでイドリブ問題を含めたシリア問題についてロシア、トルコ、イランの3者会談が行われる予定で、その前にはロシア代表団がトルコを訪問することになっていると語ったとも報じています

エルドアンの発言などを聞いていると、明日にもロシア・トルコの衝突か?などと思ってしまうが、矢張りトルコもロシアもそれは避けたいということで、外交努力を続けているのでしょう。

両者の話し合いが続いているうちはその軍事的衝突はないだろうと思いますが、戦場では種々の勢力が乱れて錯綜しているようですから、錯誤等からロシア・トルコ間の戦闘が始まらなければいいのですが・・・・【2月20日 中東の窓】
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勢いに乗るシリア政府軍がそのままイドリブに侵攻し、トルコ軍と衝突といった場面も十分にあり得る情勢です。

【人道上の大惨事が懸念される避難民の惨状】
こうした状況から、戦闘を避ける避難民が大量発生していますが、トルコは国境を封鎖し、避難民キャンプは満杯で入れず・・・という惨状にあるのは、2月11日ブログ“シリア イドリブをめぐりシリアとトルコの全面衝突の危機 プーチン氏は? 逃げまどう難民”でも取り上げました。

更に、冬の寒さも脅威となっています。

****シリア、反体制派への攻撃継続 90万人避難の人道危機 寒さで乳児も死亡****
シリア政府軍は18日、反体制派の最後の主要拠点がある同国北西部への攻撃を続けた。大量の民間人が避難を強いられており、人道上の大惨事になる懸念がいっそう高まっている。
 
シリアでは過去3か月足らずの期間に、およそ90万人が自宅や避難所からの退去を強いられている。冬のさなかに多数の人々が野宿を迫られている。
 
国連は、このうちおよそ50万人は子どもだとし、雪に覆われた避難民キャンプで厳しい環境にさらされ、死亡する子どもが出ていると指摘した。
 
国連人道問題調整事務所のデービッド・スワンソン報道官は、「直近4日間だけで、新たに約4万3000人が特に戦闘の激しいアレッポ西部から避難した」と述べた。
 
18日の攻撃では少なくとも2人の民間人が死亡。そのうち1人はロシアの空爆で、もう1人はシリア政権側の爆撃で亡くなった。
 
シリア政権側を支持するイランの国営メディアは、アレッポ県での砲撃により、イラン革命防衛隊の隊員1人が死亡したと伝えた。

国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」によると、凍えるような厳しい寒さと避難所の劣悪な居住環境が原因で、少なくとも子ども7人が死亡。そのうちの1人はわずか生後7か月の赤ちゃんだったという。 【2月19日 AFP】***************

下記のニュースも反響をよんでいますが、爆弾の音に笑い声をあげる女の子が痛ましい感も・・・。
いつこの父娘の頭上に爆弾が落ちてこないとも限りません。

****内戦続くシリア 空爆を「ゲームだから笑って」と父、笑顔の娘 動画が世界中で反響****
今も内戦が続くシリア北西部イドリブ県に住む父と娘の動画が世界中で反響を呼んでいる。

娘が空爆による爆音を怖がらないよう、父親がゲームだと言い聞かせ、娘は音が聞こえるたびに大声で笑う。動画から伝わる切ない戦地の現実が見る人の胸につきささる。
 
中東カタールの放送局「アルジャジーラ」が運営する動画ニュースサイト「AJ+」によると、動画に登場するのは、イドリブ県に住むアブドラ・ムハンマドさんと3歳の娘。反体制派の一部が残っているとされる現地で、アサド政権側の空爆が続く中、アブドラさんは娘が怖がらないように「ゲーム」を考案し、爆音が聞こえたら笑うよう娘に教えた。
 
動画では、アブドラさんが娘に「今度は飛行機かな爆弾かな」と問いかけ、娘は「爆弾よ」と答える。まもなく爆発音がして、娘は大声で笑い転げ、「ああ、面白い」と笑顔が止まらない。

「AJ+」は動画に解説を加え、「シリア北西部では2019年末以降、60万人が家を失い、紛争下で育つ子どもたちは精神面で問題を抱えるとみられる。アブドラさんは、これに対抗するためにこのゲームを思いついた。アブドラさんは3歳の娘に適切な教育を受けさせたいと願っている」としている。
 
他にも海外の多くのニュースサイトなどがこの動画を取り上げており、視聴者からは「女の子の笑顔に涙が出る」「胸がはりさけそうだ」「何て勇敢な父親なんだ。どうか2人が無事でいてほしい」などと書き込みが相次いでいる。
 
シリアでは11年以降、民主化運動「アラブの春」が起こり、これをアサド政権が弾圧。さらに過激派組織「イスラム国」(IS)も加わり、内戦が激化した。ISの勢力はほぼ掃討されたが、反体制派の最後の拠点イドリブ県で政権側との戦闘が続いている。【2月18日 毎日】
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