(13日、カンボジア南部シアヌークビル港沖に到着したクルーズ船「ウエステルダム」(ロイター=共同)【2月13日 産経】)
【フン・セン首相の野党弾圧にEUが経済制裁】
カンボジアのフン・セン首相が強権的な政治姿勢で野党を弾圧、実質的な一党支配体制をとっていることは、これまでも度々取り上げてきました。
****カンボジア野党指導者初公判 首相就任35年フン・セン氏、弾圧強化に懸念の声****
カンボジアで、政府転覆を図ったとして国家反逆罪に問われた旧最大野党「救国党」創設者、ケム・ソカ氏の初公判が15日、首都プノンペンの裁判所で開かれた。
首相在任35年を迎えたフン・セン氏は中国の後ろ盾を背景に独裁色を強め、旧野党陣営の弾圧を強化。自身は「あと10年、首相にとどまる」と宣言しており、旧野党陣営は弾圧継続への懸念を強めている。
ケム・ソカ氏は救国党党首だった2017年9月、外国政府と協力して政権の転覆を画策したとして逮捕され、自宅軟禁下に置かれていた。ケム・ソカ氏逮捕で救国党は解散を余儀なくされ、18年7月の下院選では与党・人民党が全125議席を独占した。
この日の公判では証拠の開示などが行われ、判決までには約3カ月かかる見通し。ケム・ソカ氏は15日、自身のフェイスブックで「私の活動は人権と民主主義に基づき、平和的に行われていた」とし、起訴内容を否認する意向を示した。
欧米などの国際社会は政権による野党弾圧に批判を強めており、欧州連合(EU)は武器以外の品目を無関税でEUに輸出できる協定の見直しを検討している。EUは2月にも見直しについて判断を示す見通しで、公判の行方を注視している。
フン・セン氏は、1985年1月に当時のプノンペン政権閣僚評議会議長(首相)に就任して以降、強権的な手法を維持する。ケム・ソカ氏の訴追もその一環だ。2017年には野党寄りの英字紙に巨額の税金を課して発行停止に追い込んでもいる。
特に締め付けが強化されたのは昨年夏ごろだ。フランスで事実上の亡命生活を送っていた政敵、サム・レンシー氏が帰国を表明したため、反対勢力結集を懸念し、旧野党陣営の70人以上を拘束した。
元救国党幹部のミーチ・ソバンナラ氏も違法な抗議活動を行ったとして昨年8月に逮捕され、12月に釈放された。ソバンナラ氏は「カンボジアは民主国家なのか。警察官も裁判官も検察官も与党の息がかかった人物。三権分立も機能していない」と批判する。フェイスブックで政権を批判した文章をシェア(共有)しただけで逮捕された例もあったという。
弾圧に対して欧米諸国が反発を強め、経済制裁が検討されても、フン・セン氏が強気の姿勢を崩さない背景には中国の支援がある。昨年1〜8月にカンボジア政府が認可した投資総額60億ドル(約6600億円)のうち、中国は35・31%と2位の日本(7・87%)を大きく引き離す。人権問題に口を挟まず投資を続ける中国はフン・セン氏にとって好都合なパートナーだ。
フン・セン氏は14日に首相就任35年を迎え、プノンペンで開かれたパーティーでの演説で首相職を退く意向はないことを宣言。「カンボジアは民主国家であり、父から子への権力移譲はない」として、息子が後を継ぐという噂を否定したが、「フン・センの後継者はフン・センだ」と述べ、首相の座は簡単に明け渡さないことも強調した。
ソバンナラ氏は「フン・セン氏の権力基盤は強固で、首相から退く意向はない。今後も自由は奪われ続けるだろう」と懸念。日本など諸外国がさらに圧力を強化するよう求めている。【1月15日 産経】
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上記記事にもEUの対応ですが、変化が見られないフン・セン政権に対し、経済制裁に踏み切るようです。
****EU、カンボジアに「経済制裁」 野党弾圧を深刻視****
カンボジアのフン・セン政権の野党弾圧を深刻視する欧州連合(EU)の行政府、欧州委員会は12日、事実上の経済制裁となる同国製品輸入時の優遇関税を一部停止すると発表した。
同国の対EU輸出総額の約5分の1が停止対象で、8月12日から施行予定。カンボジアは輸出の45%がEU向け(2018年)。経済的打撃となりそうだ。
カンボジア外務省は「不当な決定で遺憾だ」との声明を出した。
欧州委は12日の記者会見で「組織的かつ深刻な人権侵害」が続いていることを部分停止の理由に挙げた。【2月13日 共同】
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欧州諸国全体にとってはカンボジアなんて“遥か遠い異国”にすぎないと思われますが、EUが経済制裁という形で関与を強めているのは、野党指導者サム・レンシー氏がフランスで亡命生活を送っていたことで、インドシナに特別の思い入れのある旧宗主国フランスを通じて何らかのパイプが出来ているのでしょうか。
カンボジアにとっては、中国との関係を強化しているとは言え、“カンボジアは輸出の45%がEU向け”という現実への制裁の影響は決して小さいものではないでしょう。
それでも、フン・セン首相の強気姿勢は変わらないようです。
【“媚中”とも揶揄されるフン・セン首相「本当の病はコロナウイルスでなく(人々の)不安だ。」 これは正論】
そのフン・セン首相の強気を支える中国との関係ですが、新型コロナウイルス肺炎「COVID―19」に関して、多くの国が中国人の入国制限等の措置に踏み切るなかで、唯一中国との往来を維持することを表明するなど、“中国に媚びている”ともとれるような対応を見せていることは、2月5日ブログ“北朝鮮とカンボジア 中国頼みの両国、新型肺炎では対照的な対応”で取り上げました。
新型肺炎 カンボジア “特別な対策取らないことで中国を支援” 【1月31日 NHK】
新型肺炎、媚中貫くカンボジア【2月3日 大塚智彦氏 Japan In-depth】
中国、カンボジア首相の武漢訪問の申し出を断る―中国メディア【2月5日 レコードチャイナ】
2月5日ブログで書いたように、中国との関係が頼みの綱ともなっているフン・セン首相が、“媚中”的な中国重視対応をとっている・・・というのは間違いないことでしょう。
ただ、そうした外交的配慮だけでなく、首相自身が武漢訪問を申し出るなど、現在の“新型肺炎騒動”に対し、カンボジア内戦という修羅場・地獄を経験したフン・セン首相としては独自の認識・見解もあるようです。
日本を含めて各国が寄港を拒否していた香港を出航したクルーズ船「ウエステルダム」の入港をカンボジアが認め、明日14日にも下船が始まるようです。船は今日午後8時ごろ、カンボジア南部のシアヌークビルの港に入港しています。
****日本など入港拒否のクルーズ船 14日にも下船か カンボジア ****
新型コロナウイルスに感染した疑いのある乗客がいるとして、日本などが入港を認めなかったクルーズ船「ウエステルダム」は、カンボジア南部の港の沖合で停泊しています。地元の当局者は、早ければ14日午前から乗客の下船が始まる見通しを示しました。
新型コロナウイルスの感染が拡大する中、クルーズ船「ウエステルダム」は、今月1日に香港を出港したあと、台湾や日本などに入港を認められず寄港先を探していましたが、カンボジアが受け入れることになり、13日朝、南部のシアヌークビルの港の沖合に到着しました。
クルーズ船には日本人5人を含む乗客乗員2200人余りが乗っていて、船は現在も沖合で停泊しています。
地元の州知事は13日午後、取材陣に対して、早ければ14日午前から乗客が下船を始め、チャーター機で2回にわけて首都プノンペンの空港に移動する見通しを示しました。
ただ、実際にプノンペンに移動する乗客の人数など詳しいことは明らかにしていません。
一方、保健省によりますと乗客乗員の中に新型コロナウイルスに感染している人がいないかどうかクルーズ船に医療チームを派遣して、確認を進めているということです。
カンボジアは、新型コロナウイルスの感染拡大を受けても、中国を支援する立場から往来を制限するなどの措置をとらない方針を打ち出していて、クルーズ船をめぐっては、フン・セン首相が地元メディアに対し、人道的な観点から受け入れを決めたことを明らかにしています。
保健省の報道担当者「体調崩して隔離されている人も」
(中略)一方、保健省の報道担当者は「クルーズ船の中に体調を崩して隔離されている人がいると聞いている」と明かしたうえで、「なにも問題がないことが確認できてから下船を許可する。仮に感染が確認された場合は、カンボジア国内で詳しく検査してもらう」と説明しました。
日本大使館関係者 「日本人乗客の体調に問題なし」
(中略)各国の大使館の関係者も現地で情報収集にあたっていて、日本大使館の関係者は「クルーズ船に乗っている5人とは連絡がとれている。今のところ体調に問題はないと聞いている」と話していました。
入港拒否の経緯
アメリカの運航会社によりますと、「ウエステルダム」は、船体の長さがおよそ285メートル、幅およそ32メートルの大型クルーズ船です。(中略)
およそ2000人の乗客を受け入れることができ、会社側によりますと、船内には乗客1455人、乗員802人がいるということです。
ウエステルダムは、今月1日に香港を出港しましたが、3日にフィリピンへの入港を、翌4日には台湾への入港を拒否され、その後、沖縄への入港も日本政府に認められませんでした。
今月7日にはグアムへの入港を拒否されています。
さらに、ウエステルダムは、タイの港に入港しようとしましたが、タイ政府は、11日、入港を認めないことを明らかにしました。
こうした中、会社側は12日、カンボジア政府が入港を認めたとして、カンボジア南部のシアヌークビルの港に向かうことを明らかにしました。
シアヌークビルに入港後、乗客たちは数日かけて下船し、チャーター機で首都プノンペンに移動したあと、それぞれの国に向かう予定だとしています。(後略)【2月13日 NHK】
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今回対応についてフン・セン首相は「本当の病はコロナウイルスでなく(人々の)不安だ。」とも発言しています。
****カンボジア首相「本当の病は不安」 クルーズ船受け入れ****
(中略)船は港から数キロ先の沖合に停泊している。運航会社や地元当局によると、日本人5人を含む乗客乗員2257人は発熱などの症状がなければ下船し、プノンペンに移動した後、それぞれの国に帰る予定だ。
13日は乗客20人が下痢などを訴えたため、検体を採取し感染の有無を確認しているという。
フン・セン首相は地元メディアに「本当の病はコロナウイルスでなく(人々の)不安だ。入港許可は偏見を生む不安を取り除くためだ」などと述べた。【2月13日 朝日】
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カンボジアに(日本でも難しい)2000人超の乗客・乗務員の感染有無を調べる体制があるのか、国内に感染を広げないように国外に搬出する体制がとれるのか・・・技術的な不安・疑問はありますが、「本当の病は不安」とするフン・セン首相の見識には個人的に賛成します。
寄港を認めず漂流させる事態は正しくないでしょう。そうした状態が長引くほどに船内の事態は悪化します。
感染有無を正確に判断することはカンボジアには技術的には難しいにしても、国内と遮断する形で各国に送り届け、あとは各国で対応するというしかないでしょう。
現在1000人を超す死者を出しているのは武漢・湖北省の医療崩壊が原因であり、マークすべき者が特定できている状況できちんと対応すれば感染リスクは一定に抑制できますし、仮に感染者がいても隔離治療で対応可能です。
致死率は2%程度で通常インフルエンザの20倍とのことですが、医療崩壊した武漢を除く中国の致死率は日本国内のインフルエンザの2倍程度におさまるようです。【2月7日 東京より】逆に適切な医療対応がなければ武漢のような状況にもなります。
そばにいるだけで不治の病に感染してしまうかのような過度の不安は無用でしょう。
本当は技術的に不安のあるカンボジアにまかせるのではなく、WHO主導で国際協力体制がとられるのが一番よかったとは思いますが・・・。
【船内乗客・乗務員への対応が遅れる横浜「ダイヤモンド・プリンセス」】
一方、船内隔離状態が続き、感染がどんどん拡大している横浜のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」
****新型ウイルス クルーズ船全員の検査へ体制拡充急ぐ 厚労相****
クルーズ船での新型コロナウイルスの集団感染を受けて、加藤厚生労働大臣は、衆議院予算委員会の集中審議で、健康観察のための期間が経過したあとに、乗客・乗員全員を対象にしたウイルス検査を行うことができるよう、検査体制の拡充を急ぐ考えを示しました。
新型コロナウイルスへの集団感染が確認されたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で感染が確認された人は、検査を行った延べ492人のうち、合わせて174人に上っています。
これについて加藤厚生労働大臣は、衆議院予算委員会の集中審議で、今月5日から健康観察のための期間である12.5日が経過したあとに、船内に残る乗客・乗員全員にウイルス検査を実施したいという考えを示しました。
そのうえで加藤大臣は「国立感染症研究所などから人員を派遣してもらい、民間や大学の検査レベルを最大限に引き上げることで、1日当たり1000件を超える検査ができるようになる」と述べ、検査体制の拡充を急ぐ考えを示しました。【2月12日 NHK】
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すでに二次感染・三次感染が広がっているような状況で12.5日云々がどれだけの意味があるのか知りませんが、とにかく早急に全員の検査を行い、治療の必要がある者、一定の条件を満たす者、外国籍の者で母国が受け入れを認めている者などに分別して下船させ、今の3000人超の集団を分散小規模化して隔離・治療の対応をしていくことが必要でしょう。
必要なら、全国都道府県にそれぞれ50~60名を割り当て、隔離・治療させれば済む話です。今の日本の医療水準なら対応可能でしょう。できないというのは「不安という病」でしょう。“自分たちさえ守られれば3000人超はどうなっても構わない”という「病」でしょう。
****「助けだしてください」クルーズ船のインド人乗組員が投稿か****
新型コロナウイルスの集団感染が確認されたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗組員のインド人とみられる男性が、フェイスブックに助けを求める動画を投稿しています。
動画は、船内のキッチンとみられるところで撮影されていて男性の後ろには白いマスクと帽子をかぶった同僚の男性らが並んでいます。
動画の中で男性は「われわれは非常に恐れています。お願いです。なんとかして泥沼の状態からわれわれを助けだしてください」と訴えかけています。
そして「モディ首相にお願いです。われわれを隔離して、どんなことをしてでも無事に家に帰れるようにお願いします」と述べて、インド政府に対して日本政府と連携して対応に当たるよう求めています。(後略)【2月13日 NHK】
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****“クルーズ船から直ちに下船を” イスラエルが日本側に要請****
新型コロナウイルスの集団感染が確認されたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で乗客らの船内での待機が長引く中、イスラエル外務省はイスラエル国籍の乗客15人を直ちに下船させ、別の場所に移すよう日本側に要請しました。(後略)【2月13日 NHK】
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