(トランプ米大統領が発表した中東和平案に抗議して、パレスチナ自治区ガザで29日、タイヤを燃やす人たち=ロイター【1月30日 朝日】
ただ、抗議は民衆レベルでも、アラブ諸国においても、状況を覆すようなエネルギーは現段階では感じられないようにも)
【パレスチナ側の抗議行動 現段階では一定の範囲内に収まる状況】
トランプ大統領の中東パレスチナに関する「世紀の取引」発表については、1月29日ブログ「トランプ大統領のパレスチナ問題に関する「世紀の取引」 “ウィンウィン”ではなく“勝者と敗者”」で取り上げました。
今日は、この件に関するその後の動き・反応などについて。
パレスチナ側では、当然ながら、イスラエルへの満額回答ともいえるトランプ案に対する抗議の声が上がっています。
****パレスチナで抗議デモ イスラエルは入植地への主権適用に動く****
トランプ米政権の新中東和平案公表を受け、エルサレムやイスラエル占領地ヨルダン川西岸地区で29日、パレスチナ人が抗議デモを行った。
パレスチナ・メディアによると、イスラエル軍が実弾や催涙ガスを発射するなどして41人が負傷した。デモはエルサレムのほか隣国ヨルダン、レバノンでも行われた。
米和平案はヨルダン川西岸に点在するユダヤ人入植地へのイスラエルの主権を認めた。将来のパレスチナ独立国家の首都は東エルサレムのアブディス地区などに設置するとした。同地区はユダヤ教やイスラム教の聖地がある旧市街の外側にあり、コンクリート壁や検問所で分断されている。
ロイター通信によると、西岸を統治するパレスチナ自治政府のマンスール国連大使は29日、自治政府のアッバス議長が2月にニューヨークを訪れ、国連安全保障理事会で和平案に関して演説を行うと述べた。安保理のほか国連総会で和平案の撤回などを求める決議案を準備しているという。
一方、イスラエルのネタニヤフ首相は西岸の入植地への主権適用に向けて法制化を進める意向を示した。野党勢力を率いるガンツ元軍参謀総長も同様の意見だが、労働党系の野党が反対する姿勢を表明している。
ネタニヤフ氏は30日、モスクワを訪れてプーチン大統領と会談した。和平案について説明したもようだ。【1月30日 産経】
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ただ、昨今のイスラエル・パレスチナの力関係を反映してか、パレスチナ側の抗議はさほど激しいものとはなっていないようです。
****ガザ情勢****
al qods al arabi netは、ガザから1日ロケット弾及び焼夷気球がイスラエルに放たれたことに対し、IDF(イスラエル軍)は2日北部ガザのハマス拠点を空爆したと報じています。
空爆の対象はイスラエルへの地下トンネル及びその中にある作戦本部等を含んでいる由。今のところ死傷者の有無は不明。
またパレスチナ責任者は2日、イスラエルがセメントや建設資材のガザへの搬入を禁止したと語った由
(中略)
しばらく前であれば、毎週金曜日から土曜日にかけては、非常に多くの若者が参加して「帰還のための行進」が行われ、IDFとの衝突で多数の死傷者が出ていて、トランプの和平案が出された以上、今週末も血なまぐさいものとなるかと警戒したのですが、どうやら上記程度の応酬で済んだ模様です。
パレスチナ人の若者の間の無力感からくるものか、力でのIDFの弾圧が成功したと見るべきか、良く分かりませんが、取りあえず。【2月2日 「中東の窓」】
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【イスラエルに「自重」を求めるクシュナー氏】
なお、冒頭【産経】で“イスラエルのネタニヤフ首相は西岸の入植地への主権適用に向けて法制化を進める意向”とありますが、「世紀の取引」作成にあって中心的役割を担ったクシュナー大統領上級顧問は、イスラエルに「自重」を求めています。もっとも、「3月2日の総選挙まで」とのことのようですが。
****クシュナー米顧問、西岸地区の併合巡りイスラエルに自重要求****
トランプ米大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー大統領上級顧問は30日、自身が立案に携わった中東和平案の発表を受け、イスラエルがヨルダン川西岸のユダヤ人入植地の併合を目指していることについて、現時点での併合は受け入れられず、3月2日の総選挙まで拙速な対応を自重するようイスラエルに要求した。
クシュナー氏はインターネットに投稿された動画インタビューで、イスラエルが早ければ今週末にも併合手続きを始める可能性について「様子を見たい。イスラエルが選挙後まで待つことを望んでおり、対応に向け協力していく」と語った。
同時に、パレスチナについては被害者の立場を訴える言動が目立ち、国家建設の機会を逃そうとしているとして不快感を示した。
トランプ大統領は28日、イスラエルとパレスチナを巡る中東和平案を発表。パレスチナに一定の条件付きで独立国家の建設を認めるほか、ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地でのイスラエルの主権を認めるとした。【1月31日 ロイター】
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【形骸化するアラブ連盟外相級会議 パレスチナ支持で結束維持とのことだが・・・】
クシュナー氏(イヴァンカ氏同様、政権初期に比べると最近あまりその言動は目立たないようにも・・・)から“被害者の立場を訴える言動が目立つ”とされたパレスチナ自治政府はアラブ連盟外相級会議で各国の支持を求めています。
****アラブ連盟、米和平案を拒否 パレスチナ支援で結束保つ****
アラブ連盟は1日、トランプ米大統領が発表した新たな中東和平案についてエジプト・カイロで緊急の外相級会合を開き「パレスチナ人の最低限の権利も満たしていない」として拒否する決議を全会一致で採択した。
各国の態度が割れていたが、パレスチナ支援で結束を保った形。具体的な対策は盛り込まれなかった。
パレスチナ自治政府のアッバス議長は会合の冒頭、米和平案はパレスチナから主権を奪うもので「決して受け入れられない」と演説。
米国とイスラエルに対し「治安上の関係を含めた、あらゆる関係を失うことになるだろう」と述べ、治安協力の打ち切りを警告した。【2月2日 共同】
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“各国の態度が割れていたが”というのは、サウジ・UAE・エジプトなどがアメリカに配慮した姿勢を示していることを指します。
****米との関係を考慮、中東和平案を評価 アラブ諸国に目立つ****
トランプ米政権が提示したあらたな中東和平案はイスラエル寄りの姿勢が鮮明となった。パレスチナへの理解を示してきたアラブ諸国だが、米国との関係を考慮し、和平案を評価する国も目立った。一方、イランなどは激しく反発した。
トランプ大統領が和平案を発表した28日、会場のホワイトハウスにはアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、オマーンといった親米国の大使の姿があった。UAEは声明で「米国主導の国際的な枠組みで、和平交渉に戻るための重要な出発点となる」とした。
また、サウジアラビア外務省も「包括的な和平案をつくったトランプ政権の努力に感謝する」と強調。一方で、サルマン国王がパレスチナ自治政府のアッバス議長と電話会談を行う配慮も見せた。イスラエルと国交を結ぶエジプトは和平案に理解を示し、両者の対話の再開を求めた。(中略)
■<考論>パレスチナ国家、実現難しい 防衛大学校名誉教授・立山良司氏
「2国家解決」と銘打ってはいるが、実際の内容をみるとパレスチナが求める2国家解決とはほど遠い。
国境線の画定、聖地エルサレムの扱い、難民問題など主要な論点のいずれにおいても、イスラエルが望む内容が反映され、パレスチナが求める独立国家のあり方とはかけ離れている。かなりイスラエル寄りの和平案で、パレスチナ国家は実現しそうにない。
和平案を受け、イスラエルは早速、ヨルダン渓谷などの併合へ動き出した。イスラエルはパレスチナの合意がなくとも、和平案の内容を一方的に実施するつもりのようだ。併合が進めば後戻りはできず、和平の実現はより一層難しくなる。
イスラエルへの発言力を踏まえると、米国以外に中東和平を仲介できる国は見当たらない。長期にわたって、現在のイスラエルによる占領状態が続くことになるだろう。(聞き手・高野遼)
■<考論>弾劾や選挙、国内政治が理由 米シンクタンク「中東研究所」研究員、チャールズ・ダン氏
今回の和平案の公表は、歴代米政権が担ってきた中東和平プロセスからの完全な決別といえる。
これまでは当事者の直接交渉を仲介する立場だったが、和平案では国境線の画定など、「双方の最終地位交渉で解決すべきだ」としてきた問題をパレスチナと一切協議をしないまま、米国単独の判断を示しているようだ。
和平案はパレスチナ国家の樹立に触れているが、イスラエルとの「2国家共存」につながるとも思えない。パレスチナには治安や政治、外交などの権限が与えられるべきだが、具体的な道筋が見えない。
この内容をこの時期に公表したのは、弾劾(だんがい)裁判や選挙など、米国内政治が理由だろう。また、中東のアラブ諸国が自国の問題に追われ、パレスチナ問題という「アラブの大義」が失われつつある中、大きな反発は起きないと見透かした面もある。【1月30日 朝日】
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“パレスチナ問題という「アラブの大義」が失われつつある中、大きな反発は起きないと見透かした面もある”という点では、トランプ大統領は現実を冷徹に見つめています。
いずれにしても、上記のようなサウジ、UAE、エジプトのアメリカにすり寄った姿勢と、アラブ連盟外相級会議でのパレスチナ支援を全会一致で採択というのは、「どうなっているのか?」という感がありますが、要するにアラブ連盟というのが、平気で二枚舌が使えるような形式的なものに過ぎない存在になっているということでしょう。
“下衆の勘ぐりですが、どうも今後サウディ等の湾岸諸国は、イスラエルとの関係正常化はしないと言い張りつつ、裏で着々と関係強化を図っていくのではないでしょうか?”【2月2日 「中東の窓」】
アラブ諸国はどうにもしようがないパレスチナに構ってなんかいられない・・・というのが本音なのでしょう。
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(中略)
それよりも、半世紀も続いてきた中東紛争で、長いことパレスチナの側に立って、多くの血を流し(特にエジプト、シリア、ヨルダン等)その後もパレスチナを支持してきたにもかかわらず、占領地では既成事実が進み、口では67年境界線とエルサレムを首都とするパレスチナ国家の承認が絶対の和平条件と言いながら、その実現可能性に疑問が広がり、ある意味での中東和平疲れがあるのかもしれません
何しろパレスチナ問題などなくとも?イランの影響力拡大、シリア・イラク問題、リビア問題、IS等の過激派問題等々、アラブ諸国は多すぎる問題を抱えています。(後略)【2月1日 「中東の窓」】
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トランプ大統領が見透かしているのは、このようなアラブ諸国の現実です。
その点では、パレスチナ自治政府がトランプ案に抗ってことを進めるのは苦しい情勢とも言えます。
【自治政府 「安全保障面を含む米国とイスラエルとの全ての関係を断絶する」】
前出のアラブ連盟外相級会議を報じた記事の最後にあったのが、自治政府が米・イスラエルへの治安協力の打ち切りを警告したということ。
“パレスチナ自治政府のアッバス議長は1日、トランプ米政権が発表したイスラエル寄りの中東和平案を改めて批判した上で、「安全保障面を含む米国とイスラエルとの全ての関係を断絶する」と明言した。AFP通信などが伝えた。”【2月1日 時事】
この意味合いについては、以下のようにも。
****トランプの和平案(アラブ連盟の拒否表明)*****
(中略)要するに、今回の声明は、実体のない口先だけの負け惜しみでしょうか?
もっとも一つだけ重要なことはあり、それはPLOは安全保障に関し、イスラエルとの協力を止めるとしたことです。
実は、イスラエルとパレスチナ間は表面的な非難の応酬にも拘わらず、現実世界ではパレスチナがイスラエルの安全保障面で、情報の共有から始まり大いに協力し、イスラエルのその面での活動はPLOの強力に大きく依存していたと伝えられます。
その協力が亡くなるとすれば、今後エルサレム、ヨルダン川西岸での秩序維持、安全確保にイスラエルが苦渋する可能性もあるように思われます。【2月2日 「中東の窓」】
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