孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  モディ首相、トランプ大統領を熱烈歓迎  国内では国籍法改正への批判で大荒れ

2020-02-25 23:34:31 | 南アジア(インド)

(インド・アーメダバード近郊のサルダール・バラブバーイー・パテル・スタジアムに到着した、ドナルド・トランプ米大統領夫妻とナレンドラ・モディ首相(2020年2月24日撮影)【2月25日 AFP】)
両首脳の周りは防弾ガラスで守られているようです。)

【派手な演出で米印関係をアピールする両国首脳 ただ、両国間には利害の対立も】
インドにはトランプ大統領の像を祀る神殿をつくるほどの熱烈ファンがいるそうです。
入国拒否などで見せたトランプ大統領の対イスラム強硬姿勢が、インドの反イスラム右派勢力の琴線に触れたと思われます。

****インドに「トランプ神殿」、訪問心待ちにする熱狂的ファンたち****
トランプ米大統領は来週、2日間の日程でインドを訪問するが、現地では熱狂的な「トランプファン」が待ち受けている。自宅にトランプ氏を祭る神殿まで建ててしまったブッサ・クリシュナさんもその1人だ。 

クリシュナさんがトランプ氏を崇拝し始めたのは4年前のこと。不動産ブローカーのクリシュナさんはその後、自宅の庭に神殿を建てトランプ氏の等身大の像を設置。周囲の壁にはトランプ氏の名前がいくつも書かれている。 

クリシュナさんはロイターに対して「トランプ氏への愛は崇拝に変わった。それは私に大いなる幸福を与えてくれた。私は以来、他の神に祈るのではなく、トランプ氏に祈りを捧げるようになった」と語った。 

トランプ氏を崇拝するインド人はクリシュナさんだけではない。 
ニューデリーでは、右派系グループ「ヒンドゥー・セナ」のメンバーが、トランプ氏をたたえる歓迎の歌のリハーサルを始めたという。【2月19日 ロイター】
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インドのモディ首相も、トランプ大統領とは「波長」が合うよう。
ガンジー以来、イスラム系住民との共存を国是としてきたインド社会、多様な人種からなるアメリカ社会にあって、「寛容さ」を捨てて、多数派ヒンズー教徒、異人種の拡大を快く思わない白人社会の「本音」を代弁する政治家として熱烈な国内支持を受けることでも似通った政治家であることが背景にあってのことでしょう。

民主的な妥協より、強権的な強硬姿勢を好むこと、派手な演出が好きなことも似ていますし。

もっとも、トランプ大統領の国際情勢への疎さにモディ首相が落胆したという下記のようなエピソードはありますが・・・

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同書(米紙ワシントン・ポストの記者2人による新著「A Very Stable Genius(非常に安定した天才)」)によるとトランプ氏は、インドのナレンドラ・モディ首相との会談の席で、「あなた方は中国と国境を接しているというわけではないでしょう」と発言したという。

実際にはインドと中国は隣国で、1962年にはヒマラヤ山中の係争地をめぐって紛争も起きている。
 
このトランプ氏の発言と、インドが直面する中国の脅威を否定するような態度を受けて、「モディ氏は驚きに目を見張った」「モディ氏の表情は徐々に、衝撃から懸念へ、そして諦めへと変わっていった」と同書は記している。
 
この首脳会談の後、米国との外交関係から「インドは一歩引いた」とトランプ氏側近の一人は著者らに語ったとされる。【1月17日 時事】
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まあ、そのくらいでめげる両氏ではありませんので、今回のトランプ大統領訪印は両氏・両国にとって、格好のアピールの場となったようです。

****トランプ氏が訪印、モディ氏地元はスタジアムで歓待 ****
ドナルド・トランプ米大統領は24日から2日間の日程でインド訪問を開始した。ナレンドラ・モディ首相の地元であるグジャラート州では、昨年のモディ首相の訪米時を再現するかのような大規模集会スタイルでにぎやかな歓待を受けた。 
 
トランプ氏は完成前の11万人収容の大型スタジアムにメラニア夫人とともに登場し、インドの経済成長力を称賛した上で「間もなく世界最大の中間層を抱える国」になるだろうと語った。 
 
さらに、この訪印は自身とモディ氏の「大きな称賛と友情」の証しと受け止めてほしいと述べた。モディ氏の名前が挙がると、観衆からは名前を連呼する声と拍手が沸き起こった。 
 
トランプ氏は「皆モディ氏が大好きだ」とした上で、「これは言わせてほしい、彼はとても手ごわい」と付け足した。 
また両国間の連携強化にも言及し、インドが今後も米国製ミサイルやロケット弾、軍艦で軍備強化するよう促した。 
 
トランプ氏はその後、インド軍が購入を計画している30億ドル(約3320億円)相当の米国製ヘリコプターにも言及した。 
 
米世論調査機関ピュー・リサーチが先月発表した世論調査によると、インドでのトランプ氏の人気はほぼすべての国の中で最も高い。同氏の外交政策を支持しないと回答したのは15%で、調査を行った32カ国の中で最も低かった。支持するとの回答は56%と5番目に高く、アンゲラ・メルケル独首相、マニュエル・マクロン仏大統領に対する支持率の2倍だった。 

スタジアムでは24日、トランプ氏を乗せた飛行機が到着する数時間前、伝統的衣装を着た人々がバスで到着し、ボランティアのスタッフからスナックの入った箱を受け取ってスタジアムに入る列に並んだ。イベントの後にはミルクシェークとバターミルクの包みが配られた。 
 
スタジアムの外壁は塗りたてのトランプ、モディ両氏の肖像画で彩られている。作業を監督した画家のアショク・バジャーティヤ氏(50)は、両氏がこの絵に目を留めるだろうと述べた。

「我々は米国が、インドの豊かで多様な文化と伝統を目にし、理解し、称賛することを望んでいる」という。「今日は2人の指導者に声援を送るためにここに来た。トランプとモディが並んでいるところを見て、最高の気分だ」 【2月25日 WSJ】
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10万人だか、11万人だかの大観衆が見守る中での会談・・・ド派手な演出です。(メラニア夫人も同席)
もっとも、時期的に、インドは新型コロナウイルス肺炎の方は大丈夫なんだろうか・・・とも思ってしまいますが。

メラニア夫人と共に世界遺産タージマハルを訪れたトランプ大領は上機嫌だったようです。
(もっとも、モディ首相の進めるヒンズー至上主義に共鳴する人々の間では、イスラム王朝の遺産であるタージマハルは評判はよくないとも聞きますが・・・)

今回の階段をアピールする両氏の思惑については、以下のようにも。

****トランプ大統領 インド初訪問 モディ首相と密接関係アピール ****
・・・・インドとの間に多額の貿易赤字を抱えるアメリカのトランプ大統領としては、大統領選挙を控える中、今回の訪問をきっかけに防衛装備品やエネルギー分野などでの輸出を拡大することで、実績をアピールしたいねらいがあるとみられます。

一方のモディ首相としては、トランプ大統領との直接交渉で貿易赤字をめぐる対立を緩和の方向に導びきたい思惑があるとみられますが、アメリカからの輸入の増加は国内産業への打撃にもなることから、どの程度、市場開放に応じるかが焦点です。(後略)【2月24日 NHK】
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米印関係の中身を見ると、両国の関係はさほど順風満帆という訳でもありません。
貿易問題については、利害の対立があります。

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トランプ大統領とモディ首相の型通りの振る舞いと、芽生えを見せる親密さの裏には、トランプ氏が推進する「米国第一」のキャンペーンと、モディ氏が掲げる「メーク・イン・インディア」のスローガンとがぶつかり合う緊張関係が存在する。
 
両首脳は広範囲に及ぶ貿易協定ではなく、米二輪車メーカー「ハーレーダビッドソン(Harley-Davidson)」のバイクや乳製品などについて、小規模な合意に署名するにとどまるとの報道もある。【2月25日 AFP】
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国際関係では中国への対応が焦点になりますが、トランプ大統領が演説で「アメリカはインドとの関係をより強固にしたい。自由で開かれたインド・太平洋の実現を目指していく」と述べ、安全保障面での関係強化を図る考えを示したように、アメリカとはしては、対中国包囲網にインドを取り込みたいところです。

ただ、中国との対立を抱えるのはインドも同じですが、経済的には中国との関係が重視されるインドとしては、いたずらに中国を刺激することがないように慎重に・・・といったところでしょう。

【国籍法改正への反発で死傷者も】
モディ首相がトランプ大統領との関係を大観衆にアピールするなか、インド国内では、モディ首相の進める反イスラム。ヒンズー至上主義施策への反発で大荒れ状態にも。

 

(24日、インドの首都ニューデリーで、改正国籍法を支持する人々から攻撃されるイスラム教徒の男性(ロイター=共同)【2月25日 共同】)

****インド、改正国籍法巡る衝突で死傷者多数-トランプ大統領の訪問中****
インドの首都ニューデリーの北東部で24日、宗教に基づく新たな国籍法に反対するデモ隊が賛成派と衝突し、多数の死傷者が出た。トランプ米大統領は同日から2日間の予定でインドを訪問している。
  
地元テレビによれば、賛成派と反対派が共に投石し、車両や店舗に放火する一方、警察は催涙弾などを使ってデモ隊を解散させようとしていた。インドの通信社PTIによると、警察官1人を含む7人が死亡、少なくとも50人が負傷した。
  
警察当局は平静を呼び掛け、「正常な状態を取り戻すためにあらゆる努力をしている」と声明で説明した。
  
近隣3カ国から流入したイスラム教徒以外の不法移民に国籍を与える改正国籍法は昨年12月に圧倒的多数で議会を通過。同法を巡り、反対派がインド憲法の非宗教主義を損なうと批判する一方、政府側は迫害された少数民族を保護することが目的だと主張している。【2月25日 Bloomberg】
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国籍法改正の問題は、これまでもしばしば取り上げてきましたので、下記記事の紹介だけ。

****イスラム教徒排除の動き?2つの政策に揺れるインド****
インドでは、先月(2019年12月)、国籍法が改正されたことに対して、各地で抗議が続いている。一部の州では治安部隊との衝突にまで至り、これまでに25人が死亡する事態に。インドで何が起きているのか?

インドの人口を宗教別に見ると、イスラム教徒は、ヒンドゥー教徒に次いで多く、インドの人口の14%程度、約1億7000万人にのぼる。

こうしたイスラム教徒たちが“イスラム教徒への差別だ”と抗議している理由は2つ。

1つは、先月、モディ政権が公約としてきた政策「国籍法の改正」が議会で可決、成立したこと。もう1つが去年(2019年)8月にインド北東部・アッサム州で公表された住民登録簿だ。これがイスラム教徒への差別だと受け止められているのだ。(中略)

混乱を生んだ政策(2)インド国籍法の改正
一方で、この4か月後の去年12月、モディ政権は移民を救済するとして「国籍法の改正」を打ち出した。この改正では、迫害を受けてインドに逃れたバングラデシュ、アフガニスタン、それにパキスタンの3か国の出身者に、インド国籍を与えるとする。

ところが、その対象は、ヒンドゥー教など6つの宗教の人たちだけで、3か国で多数派のイスラム教徒は対象外としたのだ。
住民登録簿によって「無国籍」になり、国籍法の改正でも、イスラム教徒だけが救済されずに排除されるのでないか、イスラム教徒の怒りが爆発した。

怒り、戸惑うイスラム教徒
連日、ニューデリーで、抗議活動に参加しているイスラム教徒のヌール・アンサールさん(44)。「政府は、さまざまな手段で、インドからイスラム教徒を排除しようとしている」と憤っている。

北部の農村部から12歳でニューデリーに働きに出て、洋服作りで生計を立てるアンサールさん。当時、農村部では戸籍が十分に管理されておらず、出生証明書もなかった。父親や祖父などとの血縁の証明もなく、以前からの居住を証明できる書類はないという。

そのため、仮にアッサム州と同じ条件で住民登録簿が全国に導入されれば、登録からもれ、無国籍になるおそれがあると心配している。「とても心配な問題です。友達と会っても、政府がこれを実行するのかどうかばかりが話題に。政府は憲法に従い、人間の心に寄り添い、この法律を廃止するべきです」(イスラム教徒 ヌール・アンサールさん)。

イスラム教徒に対する強硬姿勢の背景は
モディ政権はなぜイスラム教徒に対して強硬な姿勢を取るのか?背景にはヒンドゥー教の教えに基づいた国作りを目指すヒンドゥー至上主義がある。

インドでは、長年、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒の間で、対立が繰り返されてきた。支持基盤がヒンドゥー至上主義団体であるモディ首相はヒンドゥー教徒寄りの政策をとってきた。

去年(2019年5月)の総選挙で圧勝したことで、よりその傾向を強めていて、1期目に実現できなかった国籍法の改正など、イスラム教徒への圧力ともなるような政策を実行に移している。

インドの理念を守れ!ヒンドゥー教徒も反発
こうした政策はヒンドゥー至上主義者には強烈なアピールとなっている一方で、実はヒンドゥー教徒の間からも反発を招いている。取材を進めると、デモの参加者には、少なくない数のヒンドゥー教徒もいることがわかった。

ヒンドゥー教徒の大学生、リヤ・ドゥベイさん(22)は、授業の合間にデモに参加している。「メディアではイスラム教徒だけの抗議デモだと言われていますが、そうではありません。インドの世俗主義を守るために抗議しています」(ヒンドゥー教徒の大学生、リヤ・ドゥベイさん)。

“インドの憲法ではすべての宗教は平等”と小学生のころから教わるその理念が今、揺らいでいるとドゥベイさんは危機感を持っている。きっかけは、イスラム教徒の親友の存在だ。

「彼女が小学生のころからの親友のナイラです。私は彼女のためにデモに参加しています」。ドゥベイさんは国籍法の改正によってヒンドゥー教徒とイスラム教徒が共存できる社会が失われてしまうのではないかと危惧している。

「政府は社会を分断しようとしています。私は親友を支え、政府の間違った法改正に反対します」。

国際社会も厳しい目を向け始めている。国連人権高等弁務官事務所は、国籍法の改正イスラム教徒への差別だとして懸念を示している。

また国籍法の改正に反対する人たちは最高裁判所に法律の施行の停止を求めて訴えたのに対し、最高裁は今月、改正の是非には直接判断を示さなかった一方で、異議を申し立てる一連の請願に1か月以内に対応するようインド政府に求めた。

国の分断を招きかねない政策、当面、インドを揺さぶり続けるとみられる。【1月29日 NHK】
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