(中国・河南省鄭州市の鄭州東駅で、顔認証システムを備えたスマートグラスを装着した警察官(2018年2月5日撮影)【1月26日 AFP】)
【ビッグデータ利用で百貨店利用客2万人を割り出す】
新型コロナウイルス肺炎に揺れる中国からは、連日、(良くも悪くも)いかにも“中国らしい”と思わせるニュースが多々伝えられています。
ここ二日ほどだけでも・・・
“6日間でマスク工場建設へ 突貫工事開始 北京”【2月18日 NHK】
“家族でマージャンしてたら暴力的取り締まり、中国ネット非難”【2月19日 レコードチャイナ】
“マスク着用勧告に従わない男性を柱に縛り付け物議―中国” 【2月19日 レコードチャイナ】
“中国・湖北省の医療従事者、褒賞として子どもの試験で加点へ”【2月19日 AFP】
“中国、医療従事者の士気維持に躍起 殉職者は「烈士」認定”【2月19日 産経】
当局も感染封じ込めに必死ですから、なりふり構わぬ対応のなかで、“いかにも・・・”と思わせるものが出てきます。
(別に、脱線気味ながらも奮闘する中国当局を揶揄している訳ではありません。船内における十分な感染防止対策を取ることなくクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」を最悪の集団感染の場としながら、いまだにその「失敗」を認めようとしない、何が起きているかも明らかにしない日本政府のお粗末さ・無責任さに比べたら、まだましでしょうから。)
突っ込みどころ満載のこうしたニュースのなかで、「うーん・・・」と唸ってしまったのが下記の記事。
****百貨店から感染拡大か 客ら2万人割り出し隔離 中国 天津****
新型コロナウイルスの感染拡大が続く中国の天津では、市内にある大規模な百貨店から感染が広がったとして、利用客らおよそ2万人を自宅に隔離する徹底した対策が行われています。
中国メディアによりますと、天津の宝※テイ区にある百貨店では、先月31日に従業員の1人に新型コロナウイルスの感染が確認されたあと、利用客と従業員に相次いで感染が確認され、今月12日までに感染者が35人に増えました。
これを受けて地元当局は百貨店の従業員およそ200人全員を隔離したほか、地域の住民に百貨店を利用していた場合は報告するよう呼びかけ、さらに、ビッグデータを使いながら、担当者が地域の住宅を1軒ずつ回って、最終的におよそ2万人の利用客らを割り出したということです。
地元当局はこの2万人に自宅での隔離を求めたうえで、7人が発熱していることを突き止め、このうち5人は感染していないことが確認され、残る2人を確認中だということです。
天津では17日までに確認された感染者は124人で、このうち3人が死亡しています。
※テイは土偏に「抵」のつくり【2月18日 NHK】
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ビッグデータを活用しながら、百貨店の利用者2万人を割り出す・・・・この分野では世界最先端を行く中国ならではと言えるでしょう。利用者2万人を割り出すなんて、日本では到底真似ができないことです。
一方で、そうした割り出し作業において、個人のプライバシーなどはどのように扱われているのだろうか?という疑問も。
こういうことができるなら、当局がその気になれば何だってできてしまう社会なんだということを再認識する面も。
【プライバシーか、犯罪捜査などの効率性か】
こうしたAIを駆使したテクノロジーは「超監視社会」と呼ぶべき現象を現実のものにしつつあり、中国はその最先端にいることは、これまでもしばしば取り上げてきました。
一方で、今回のようなケースを見せられると、その効力を認めざるを得ないところもあります。
監視云々は中国に限った話でもなく、そのメリットを前向きに評価すべきとする「幸福な監視社会」といった見方もあります。
あらためて、テクノロジーがもたらす二面性を印象付けた一件です。
****福音が呪縛か、中国が独走する顔認証システムの未来****
AI(人工知能)と監視カメラのテクノロジーとを融合させた「顔認証システム」が、いま世界で急速に広がっている。
監視カメラなどに映った不特定多数の顔の映像から個人を識別するこの技術は、世界各国の警察が有効なテクノロジーとして導入を進めている。犯罪捜査や犯罪抑止の点からは著しい効果が出ている。
その一方で、今アメリカでは、顔認証システムを巡って集団訴訟が提起され、物議を呼んでいる。顔認証システムが「危険」だと見られているのだ。
これから5G(第5世代移動通信システム)やIoT(モノのインターネット)、そしてAIの技術がますます発展していく時代に、日本でも本格的に導入される可能性がある顔認証システムについて、一体何が問題となっているのか考察してみたい。
都市部の「天網工程」と地方の「雪亮工程」
そもそも顔認証システムとは、監視カメラなどで拾われてパソコンなどに入力された人物の写真を、データベースに大量の顔写真を蓄積しているAIのシステムに照会することで、個人を特定するテクノロジーだ。
2021年までに世界中に10億台の監視カメラが設置されると言われているが、それには顔認証システムが一緒に使われることになる。使途は主に、強権国家による監視、本人確認業務の自動化、そして警察の捜査である。
監視のための顔認証はすでに世界各地で導入されている。有名なのは中国である。中国には今、国内に3億5000万台の監視カメラが設置されている。実に国民4人に対して1台の計算になる。さらに2020年のうちに、その数は6億台以上にまで増設される計画だという。
これらのカメラを駆使し中国政府は、都市部を徹底的に監視する大規模監視システムである「天網工程」や、地方を網羅するシステムの「雪亮工程」を導入している。
顔認証技術を提供しているのは、香港が拠点の商湯科技開発(センスタイム)だ。さらに監視カメラの世界シェアでトップクラスを誇る杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)や浙江大華技術(ダーファ)といったメーカーも顔認証プログラムを提供している。
中国は政府も国民も、西側諸国に比べて人権感覚が希薄なため、パスポートや免許など公的な書類の写真から、街中で集められる監視カメラ映像などまで、プライバシーなどお構いなしに、徹底して顔写真を集めている。そして皮肉なことに、それによって顔認証システムの精度がどんどん上がっており、世界をリードするようなテクノロジーの進化をもたらしている。プライバシーを尊重する欧米諸国ではできない芸当だ。
今世界で混乱を巻き起こしている新型コロナウイルスでも、この監視システムは「有効活用」されている。住民が武漢を訪問したあとに別の地域に移動すると、顔認証や車のナンバーなどから個人が特定され、当局から突然連絡を受けるというケースが報告されている。
特定された個人は、当局から「外出を控えるように」と命じられているのだという。さらに今回は、中国製のスマホアプリなども駆使され、個人がさまざまに紐づけられてウイルス対策に使われている。
中国はご自慢のこの顔認証システムを、わかっているだけで少なくとも18カ国に輸出している。ウクライナやアルメニア、UAE、シンガポール、マレーシア、パキスタン、スリランカ、ケニアなどだ。こうした国々も、中国のように国民を顔認証システムで管理していると言っていいだろう。
SNSから無断で顔写真を集めまくった米企業
顔認証には監視活動とは別の使途もある。本人確認作業などの自動化だ。日本では、空港で顔認証システムが導入されているところもあるし、2020年東京五輪でもNECの顔認証システムが本人確認で使われることになる。
欧州でも、2019年の欧州サミットでフランスが顔認証システムを活用しているし、ドイツでも導入が進められている。オーストラリアやニュージーランド、カナダなども取り入れており、導入する国は増え続けている。
また最近ではスマートフォンなどにも顔認証システムは使われている。インドでは、NECの顔認証システムを導入して、全国民にID(識別番号)を与えるための証明として使われている。それによって、これまでインドでは常識になっていた賄賂や搾取などの汚職が減少している。
そして今、冒頭で触れたようにアメリカで問題になっているのは、もう一つの用途である警察の捜査についてである。
2020年2月14日、イリノイ州シカゴの住民が、顔認証システムを提供している企業「クリアビューAI」を訴える集団訴訟を起こした。この企業、一般的な知名度はないが、治安当局にはよく知られた企業だった。
というのも、実に全米で600の法執行機関にシステムを提供しており、犯人などを追跡するのに非常に効果的だと評判になっていたからだ。その正確度も、98%以上だと言われている。
ところが問題は、同社の顔認証システムは、インターネット上のありとあらゆるサイトから、人の顔写真を拾い集めていたことだった。
現代では、一般のビジネスパーソンであっても会議や社内イベントの写真もどんどんアップされるし、メディアでの露出がある人もいる。さらにフェイスブックやYouTube、インスタグラム、ツイッターなどSNSでは、多くの人たちがプライベートな旅行やイベント、飲み会など様々な写真を公開している。
しかも、タグ付けなどで写真におさまっている人たちの名前がわかる場合も少なくない。
同社のシステムでは、そうした写真を勝手に30億枚も収集・蓄積し、写真を使ってAIですぐに個人を検索できるようになっていた。言うなれば、「顔のネット検索」を可能としていたのだ。
この顔認証システムは、捜査当局にはかなり重宝されている。例えば、インディアナ州では2019年2月にこんなケースがあった。
2人の男性が駐車場で喧嘩になり、一方が拳銃を持ち出して相手の腹部に向かって発砲。目撃者がその様子を写真に収めており、警察はその写真から発砲した男の顔を把握した。
警察はその顔写真をクリアビューAIのシステムに取り込み、検索をかけると、瞬く間に同一人物と思われる男が見つかった。誰かが以前にSNSで公開していた動画の中に、該当する男が写っていたことから、男が特定できたのだ。
しかもこの男、前科もないし運転免許証も持っておらず、政府には一切顔写真などのデータは存在していなかった。クリアビューAIのスステムがなければ、容易に逮捕はできなかったはずだ。
だが、このシステムが使えたことで、犯行が起きてからわずか20分以内に事件は解決したというのだ。
他にも事件解決に至ったケースは数多くある。児童への性的虐待が疑われた人物が、別の人がインターネットに公開したジムの写真の鏡に写っている人物とマッチしたために逮捕に至った、郵便物を盗んでいた犯人や路上で死んでいた身元のわからない男性もすぐに個人が特定された、監視カメラに映っていた泥棒のタトゥーを検索して犯人が判明した——などだ。
犯罪捜査に役立つことは間違いないが
確かに当局には便利なものだろうが、問題はその情報収集の仕方にあった。フェイスブックやツイッターなどから勝手に写真を集めるのは使用規約に違反している。そんなグレーな部分があることを承知していたから、システムを導入している当局もその事実を積極的には公表していなかった。
しかし、昨年末ごろからクリアビューAIについての記事がメディアで多く見られるようになり、それに伴って、シカゴのように訴訟にまで発展したというわけだ。
また、そもそも顔認証システムにはプライバシーの問題があるなどとして、警察による導入を禁止している自治体もある。米カリフォルニア州サンフランシスコ市が2019年5月に警察による顔認証システムの使用を禁じると、同州オークランド市も後に続いた。マサチューセッツ州サマービル市も同様の決定を下している。
さらに、有色人種を誤認しやすいという報告も出ており、人権問題にもつながるという指摘もある。また欧州でも同じような動きは見られ、欧州委員会も顔認証システムの禁止を検討しており、議論になっている。
こうした動きもあり、アメリカでは、2月12日に上院が規制や規範を作るまで警察による顔認証技術の使用を停止することを命じる法案を提出したし、ツイッターやグーグル、YouTubeは、クリアビューAIに対して写真の使用停止を求める文書を送っている。
一方で、顔認証による捜査は、世界でも導入検討が着々と進んでいるのが実態だ。フランスやドイツ、イギリス、オランダなどが導入予定であり、今後もその利用は広がる可能性が高い。すでに述べた通り、中国は米当局よりも大々的に、人権への配慮もなくどんどん顔認証データを集め、そのシステムを拡大させながら技術を高めている。
顔認証システムが導入されることで治安が良くなることは間違いない。犯罪は劇的に減るだろう。中国の顔認証システムを導入しているケニアでは犯罪率が46%も減少したとの話もあるし、インドでは顔認証システムで2930人の行方不明児が発見されているという。
プライバシーを重視するか、犯罪率の減少を求めるか——どちらを優先するかは、その国家の体制や、国民の価値観によるだろう。
まだ日本では、顔認証システムが警察に導入されていないが、今後、そういう議論は確実に高まってくる。その時までに、先んじて導入している国々で起きている議論などは注目しておいた方がよい。【2月19日 山田敏弘氏 JBpress】
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【中国でも広がる個人情報侵害への不安 しかし、対策はおそらく形式的なものへ】
“中国は政府も国民も、西側諸国に比べて人権感覚が希薄なため・・・”というのは事実でしょうが、中国でもプライバシーが全く意識されない訳でもなく、政府・社会の在り方に危機感を持つ人もおり、国民の関心も高まっているようです。
****中国、顔認証技術めぐり初の民事訴訟 国民に広がる個人情報侵害への不安****
中国では、空港やホテル、ネットでの買い物、公衆トイレに至るまで、顔認証技術が浸透しているが、法律を専門とする大学教授が昨年10月、顔認証技術の使用をめぐりサファリパークを訴えたことが分かった。
国内メディアによると、このような訴えは中国では初めてだという。この訴訟により、国内では個人情報の保護と侵害についての議論が高まっている。
中国政府は先進技術において世界のリーダーとなる政策を掲げており、その一環で顔認証技術や人工知能(AI)の商業利用や防犯などを手掛ける企業を支援している。
市民の多くも、これらの技術がもたらす利便性・安全性と引き換えに、ある程度の個人情報の放棄を認めているとの調査結果もある。
だが、指紋や顔認証による生体認証データの蓄積が進んできたことから、状況は変化している。
浙江省杭州にある浙江理工大学の教授である郭兵氏が、サファリパーク「杭州野生動物世界」を訴えたことに対する国民の反応は、法的予防策が整備される前に顔認証などの技術使用が拡大していることへの不安の表れだ。
中国版ツイッターの「微博(ウェイボー)」では、この訴訟に関連した投稿に1億以上のアクセス数があるが、多くのユーザーは、個人情報収集の禁止を求めている。こうした意見は、中国で金融詐欺や携帯電話番号の流出、フィッシング詐欺など、個人情報の侵害が横行している現状に一因がある。
裁判の日程は分かっておらず、郭氏の直接のコメントは得られなかったが、同氏は、自身の民事訴訟において、顔認証などのデータ収集は「それが流出するか、不法に提供または侵害された場合、消費者自身とその資産の安全性が簡単に脅かされてしまう」と主張している。
科学技術省は同省の広報誌で、サファリパークのやり方は性急かつ乱暴で、国民感情に無関心なことを表していると述べている。
■技術進歩の面では米国に大きく遅れている
中国ではいまだ個人情報に特化した法律が整備されていない。現在、法案化が進められているが、いつ導入されるか定かではない。
一方で政府は、先進技術による一大監視国家を築こうとしている。至る所に監視カメラが設置されているが、当局は犯罪対策と国民の安全を守るためには必要だと説明している。
個人情報保護に関する法律を導入した場合、政府が進める監視国家政策を妨げる可能性があり、個人情報保護法が成立したとしても、大きな変化はないのではないかと専門家らは指摘する。
北京師範大学の法学部教授で、亜太網絡法律研究中心の創設者である劉徳良氏は、「企業内に個人情報やデータ保護の専門家を配置するような象徴的な動きはあるかもしれないが、形式的なものにすぎないだろう」と述べている。
中国の新奇なハイテク技術を伝えるニュースは多いが、実際には、技術進歩の面では米国に大きく遅れており、中国が勝っているのは技術の広範囲な商業使用のみだとする専門家らの声もある。
中国の携帯電話でのインターネット利用者数は8億5000万人以上と世界最多で、企業にとって中国は、技術の実行可能性を探るための格好の実験場だ。
国内では、領収書の支払い、学校での出席確認、公共交通機関の改札の効率化、交通規則を無視して道路を横断する歩行者の特定など、さまざまな用途に顔認証が用いられている。
観光地によっては、トイレットペーパーの使用量を抑えるため、顔認証でトイレットペーパーを受け取れる仕組みの公衆トイレが設置されている場所もある。
だが、中国消費者協会の2018年11月の報告書によると、携帯アプリの90%以上が個人情報を、10%は生体認証データを過度に収集しているとみられている。
懸念が広がったのは、昨年12月に政府が通信事業者に対し、直販店で新しい電話番号を契約する顧客を登録する際、利用者の顔認証データを収集することを義務付けてからだ。
さらに、多数の顔認証データがインターネットで1件10元(約158円)ほどで販売されているという国内メディアの最近の報道も、そうした動きに拍車を掛けた。【1月26日 AFP】
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