孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国・長江流域 日本同様の大雨水害で注目される「三峡ダムは大丈夫なのか?」

2020-07-09 22:56:32 | 中国

(画像のゆがみか、それとも……。疑惑を呼ぶGoogle earthの三峡ダム画像【2019年7月19日現代ismedia】)

 

【中国でも大雨被害 改めて注目される「三峡ダム」の問題】

連日の大雨です。私が住む鹿児島は、被害程度は隣県熊本ほどでないにしても、警報が出される危険な状態が続いています。

 

天気図を見ると、日本に停滞している梅雨前線の西の方は中国南部にかかっています。

ということは、中国でも日本同様の大雨が続いているということです。

 

****梅雨前線 中国でも豪雨被害 死者・行方不明者132人****

日本でも被害をもたらしている梅雨前線は、中国でも。

 

中国の長江流域では、6月から記録的な大雨となっていて、8日午前の時点で、死者・行方不明者は132人、被災者は、およそ2,500万人にのぼっている。

 

この雨は、日本列島から中国大陸までのびる梅雨前線によるもので、湖北省では土砂崩れ、安徽省や江西省では、過去に例のない規模の洪水が発生している。

 

今後も大雨が予想され、各地元当局は、警戒レベルを上げて対応にあたっている。【7月9日 FNNプライムオンライン】

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日本同様、中国でも水害・洪水自体はそう珍しいものでもありませんが、今回の水害については、長江流域ということで世界最大の水力発電ダム「三峡ダム」との関連が指摘されています。

 

****中国各地で洪水、土砂災害が発生~重慶では80年に1度の大洪水****

6月に入ってから、中国の西部・中部・中西部などで豪雨が続き、洪水と土砂災害が発生している。中国メディアによると、25日の時点で被災者は1,000万人を超え1,256万人に達した。

 

中国メディアは、新型コロナウイルスの発生地である湖北省をはじめ、西は四川省、貴州省、東は安徽省などにおいて、浸水する住宅、ビル、流される車などの様子を報じている。

 

西部の直轄市・重慶市では、1940年に設立された同市の水文観測所で初の赤色警報を出した。重慶市は北海道並みの面積を持つ広大な行政区で、被害は主に郊外(綦江)で発生しており、在留邦人が多く住む市中心部は問題がないようだ。

 

今回、気になる点が2点ある。1つには、国務院総理などの国家指導者が被災地を訪問していないことだ。
 

このような大災害であれば国務院総理などの国家指導者が速やかに被災地に入り視察、被災者の慰問、救助作業の陣頭指揮などを行う。1998年の長江流域での大洪水、2008年の四川大地震などもそうだった。

 

2つ目に、洪水と世界最大のダムとされる三峡ダムとの関連が指摘されている。三峡ダムの水位が上昇し、放水しているというのだ。洪水の被災地は三峡ダムから下流に位置する長江およびその支流の流域に多い。

 

1990年代から推進されていた三峡ダムは中国の電力不足、北部の水資源不足などの問題を解決するための国家プロジェクトとして推進されたが、環境・生態に与える影響が巨大かつ未知数であると懸念され、晴れ舞台となるはずの竣工式(2006年)には、建設を推進した国家指導者らが誰1人として参加しなかったという、いわくつきのものだ。

 

中国当局は否定しているが、ダムの堤防の湾曲や決壊のリスクを指摘する論者もおり、引き続き懸念されている。【6月26日 Net IB News】

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三峡ダムは、大きいもの、世界一が大好きな中国が、国家プロジェクトとして、住民110万人を強制移住させて作った巨大ダムです。堤頂長:2310メートル、堤頂高:海抜185メートル、堤高:181メートル、堤底幅:115メートル、堤頂幅:40メートル その概要は以下のとおり

 

****三峡ダム****

中国長江中流域の湖北省宜昌市三斗坪にある大型重力式コンクリートダムである。

1993年に着工、2009年に完成した。洪水抑制・電力供給・水運改善を主目的としている。三峡ダム水力発電所は、2,250万kW発電が可能な世界最大の水力発電ダムである。(中略)

 

貯水池は宜昌市街の上流の三斗坪鎮に始まり、重慶市街の下流にいたる約660kmに渡り、下流域の洪水を抑制するとともに、長江の水運の大きな利便性をもたらす。

 

このダムの建設によって、それまで重慶市中心部には3,000t級の船しか遡上できなかったのが、10,000t級の大型船舶まで航行できるようになった。

 

加えて、水力発電所は中国の年間消費エネルギーの1割弱の発電能力を有し、電力不足の中国において重要な電力供給源となる。また、火力発電と比べ発電時のCO2発生も抑制することができる。

 

しかし、その一方で建設過程における住民110万人の強制移住、三峡各地に残る名所旧跡の水没、更には水質汚染や生態系への悪影響等、ダム建設に伴う問題も指摘されている。【ウィキペディア】

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なお、1992年に全人代が三峡ダム着工を採択した際の評決は「出席者2,633名、賛成1,767名、反対177名、棄権664名、無投票25名」ということで、当時から異論が少なからずあったようです。

 

【三峡ダムは変形している? どちらにしても寿命は数十年】

今回、三峡ダムが取り沙汰されているのは、放水による洪水という現実問題(日本のダムでもよくあることです)もさることながら、【Net IB News】の記事最後にあるように、“中国当局は否定しているが、ダムの堤防の湾曲や決壊のリスクを指摘する論者もおり・・・”ということが背景にあるのでしょう。

 

下記は、昨年7月、三峡ダムの「変形」に関する論争が起きたときの記事。

 

****中国「世界最大」三峡ダムの崩壊リスク…当局説明を信じ切れない人々****

飛び交う噂、消えない不安

 

突然の観光停止

(中略)上記の文書が通知されたことで、三峡大瀑布風景区が一時的に閉鎖されることが世間に知られることとなった。(中略)

 

記者が三峡ダムに関する巷(ちまた)の噂を信じるかと質問したのに対して、「それは三峡集団に聞いてくれ」と同職員は素っ気無く答えたのだった。

 

打ち消せない不安

ところで、メディアの記者が質問で提起した「巷の噂」とは何だったのか。話せば長くなるが、その経緯を簡潔にまとめるとこうだ。

 

(1)2019年6月30日23時20分、ツイッターで中国系の独立系経済学者である冷山氏(ユーザー名:@goodrick8964)が、「三峡ダムはすでに変形している。万一ダムが崩壊したら、中国の半分は人々が塗炭の苦しみをなめ、中国共産党とその一族郎党もだめになる」と書き込み、三峡ダムを写したグーグルマップの衛星写真を2枚添付した。

 

その中の1枚目は三峡ダムの完成時期である2009年に撮影されたもので、2310メートルある堤頂は直線状で何の異常も見当たらなかったが、2018年に撮影された2枚目の写真では堤頂が明らかに歪んで見えていた。

 

(このツイートで始まった論争については省略します。当然ながら、当局側はダムの変形や崩壊の危険は否定しています)

 

さて、三峡ダムの研究で世界的な権威とされるのはドイツ在住で活躍する中国人水利専門家の王維洛(おういらく)氏である。(中略)

 

中国国内で大きな話題となっている三峡ダムの崩壊可能性について、その王維洛氏がかつて語った内容を取りまとめると以下の通り。

 

 

(1)三峡ダムには洪水防止の機能はない。1989年6月4日に起こった天安門事件の後で、当時、中国共産党総書記であった江沢民は、人々を奮起させる目玉事業として三峡ダム建設計画を強引に推進し、中国共産党宣伝部に命じて嘘八百を並べ立てた。

 

すなわち、2003年には「三峡ダムは“固若金湯(守りが非常に堅固)”で、1万年に1度の洪水を食い止めることができる」、2007年には「1000年に1度の洪水を防げる」、2008年には「100年に1度の洪水を食い止める」、2010年には「20年に1度の洪水を防げる」。

 

このように、1万年に1度の大洪水を食い止めるはずだったものが、いつのまにか20年に1度の小洪水に縮小された。

 

(2)三峡ダムの工期は17年間にも及んだが、前期工程の施工品質は非常に劣り、三峡ダムの右岸部分や基礎の下部には空洞が比較的多い。

 

これらの空洞はコンクリートを流し込んだ時にできたもので、当時コンクリートの攪拌や温度処理が十分でなかったために、熱膨張と冷収縮によって堤体の中に空洞が形成された。

 

この空洞部分は後々にひび割れとなり、それが漏水を引き起こす。三峡ダムではすでに漏水が発生しており、その状況が深刻になればダムの廃棄を考える必要がある。(中略)

 

どちらにしても寿命は数十年

(中略)冷山氏が提起したような三峡ダムの堤頂に変形が発生しているかどうかは、現場で実地検証すれば容易に問題は解決するはずだが、中国の三峡関係組織がそれを実施しようとしないのは何かやましい所があるのではないかと疑いたくなる。

 

そうした最中に、三峡大瀑布風景区が一時営業を停止するというニュースが流れれば、疑心暗鬼はさらに強いものとなる。

 

時間とともに決断できなくなる

上述した内容から分かるのは、中国政府が国力を挙げて建設した三峡ダムには寿命があるということ。寿命が50年か、70年か、あるいは100年かは分からないが、三峡ダムが重力式コンクリートダムである以上は、コンクリートや鉄筋などの寿命が全てを決することになのだろう。

 

ダムの寿命が尽きるまでに、対応策を決めることが出来れば良いが、それが出来ぬままにダムが崩壊するようなことになれば、その被害は甚大なものとなる。(中略)

 

王維洛氏は2016年11月に、「三峡ダムを取り壊すなら早い方が良い。遅くなれば取り壊せなくなる」と題する文章を発表した。

 

その主旨は、今、取り壊しの決断を下せないなら、将来の影響はますます深刻なものとなり、必要となる資金も増大して取り壊しは不可能となる。

 

現在のところ、三峡ダムの貯水湖に堆積している土砂は19億トンで、長江の水流はこれらを海まで運ぶ力を持っているが、時間が経てば経つほど土砂の堆積量は増大し、30年後には40億トンを超えて身動き取れなくなる。無理やり土砂を海へ流そうとしても、土砂が下流に堆積して流れを遮断することになるから、三峡ダムは取り壊せなくなるというものだった。

 

今後も三峡ダムの動向を注視することが必要のようだ。【2019年7月19日 北村 豊氏 現代ismedia】

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【「ブラックスワン」の可能性】

こういう疑惑・論争を背景に、今回の水害で三峡ダムの存在が改めて注目されている次第です。

 

****中国・三峡ダムに「ブラックスワン」が迫る──決壊はあり得るのか****

<豪雨により被災者1400万人の洪水被害が出ている中国で、世界最大の水力発電ダムの危機がささやかれている。決壊すれば上海が「水没」しかねないが、三峡ダムの耐久性はほぼ臨界点に達しているかもしれない>

(中略) 洪水だけでも大変なことだが、さらに心配なのが、長江中流にある水力発電ダム「三峡ダム」だ。今、大量の雨水の圧力で決壊するのではと危ぶまれている。

 

三峡ダムは1993年、当時の李鵬(リー・ポン)首相が旗振り役になり、水利専門家たちの「砂礫が堆積し、洪水を助長する」といった反対意見を無視して建設された世界最大の落水式ダムだ。

 

(中略) だが、建設中から李鵬派官僚による「汚職の温床」と化し、手抜き工事も起こった。

 

2008年に試験貯水が開始されると、がけ崩れ、地滑り、地盤の変形が生じ、ダムの堤体に約1万カ所の亀裂が見つかった。貯水池にためた膨大な水が蒸発して、濃霧、長雨、豪雨が頻発した。

 

そして水利専門家たちの指摘どおり、上流から押し寄せる大量の砂礫が貯水池にたまり、ダムの水門を詰まらせ、アオコが発生し、ヘドロや雑草、ごみと交じって5万平方メートルに広がった。

 

もはや中国政府も技術者も根本的な解決策を見いだせず、お手上げ状態だったのだ。

そこへもってきて、今年の豪雨と洪水だ。

 

(中略)29日には三峡ダムの貯水池の水位が最高警戒水位を2メートル超え、147メートルに上昇。そのため、三峡ダムを含む4つのダムで一斉に放水が開始された。

 

気象当局によると、今夏は大雨や豪雨が予測され、洪水被害はさらに増大すると見込まれている。

 

中国水利省の葉建春(イエ・チエンチュン)次官は6月11日、記者会見で「水害防止対策により今は建国以来の最大の洪水を防御できているが、想定以上の洪水が発生すれば、防御能力を超えた『ブラックスワン』の可能性もあり得る」と口にした。

 

<決壊すれば、約30億立方メートルの濁流が下流域を襲う>

ブラックスワンとは、「あり得ないことが起こり、非常に強い衝撃を与える」という意味で、予測できない金融危機や自然災害を表すときによく使われる。そのブラックスワンが三峡ダムにも潜んでいるというのだ。

 

実際、三峡ダムの耐久性はほぼ臨界点に達していると言えるのではないか。 環境保護を無視し、フィージビリティースタディー(事業の実現可能性を事前に調査すること)も行われず、汚職による手抜き工事で構造上にも問題があった。

 

万が一決壊すれば、約30億立方メートルの濁流が下流域を襲い、4億人の被災者が出ると試算されている。安徽省、江西省、浙江省などの穀倉地帯は水浸しになり、上海市は都市機能が壊滅して、市民の飲み水すら枯渇してしまう。

 

上海には外資系企業が2万2000社あり、経済的なダメージ次第では世界中が損害を被る。 上海が「水没」したら、経済が回復するまで10~20年かかるかもしれない。もし三峡ダムが臨界点を超えたらと思うと、気が気ではない。 【Newsweek 7月14日号】

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なお、三峡ダム建設を推し進めた李鵬首相は“ソ連留学から帰国した後の1955年から1961年まで吉林省の豊満水力発電所の副所長兼技師長であった。”【前出 現代ismedia】という、その方面のテクノクラートでもあります。

 

さすがに「決壊」はないだろう・・・との見方も。

 

****洪水被害が広がる中国、三峡ダムは果たして持つのか****

(中略)主に台湾メディアが、このところ「三峡ダム決壊説」を報じていて、それが一部の日本メディアにも伝播している。

 

台湾メディアでは、「三面挟攻」(サンミエンジアコン)という表現を使っている。空から降ってくる豪雨、長江の上流から流れてくる激流、それに三峡ダムの放水による「人工洪水」という「三面からの挟撃」に遭って、武漢や上海など、長江の中下流地域が甚大な被害に見舞われるというのだ。

 

そして「三面挟攻」の結果、「そもそも50年しかもたない三峡ダムが決壊するリスクができた」と報じている。

 

逆に中国メディアは、水利の専門家たちを登場させて、「三峡ダム決壊説」を強く否定している。(中略)

 

私は、台湾メディアも中国メディアもウォッチしているが、「三峡ダム決壊」はないと思う。

 

もし万一、そんな悲劇が起これば、それは長江中下流の数億人に影響を及ぼすばかりでなく、習近平政権自体が崩壊の危機に見舞われるだろう。

 

実はこれまでにも、中国国内で「三峡ダム決壊論」は議論されてきた。だがそれは主に、軍事的側面からの考察だった。「米中戦争になったら、アメリカは真っ先に三峡ダムを狙い撃ちする」というのだ。

 

今回のような「豪雨による決壊論」が取り沙汰されるのは、初めてのことだ。それだけ、2006年に完成以来、三峡ダムがこの14年で最大の危機に見舞われているということは言える。(後略)【7月9日 近藤 大介氏 JBpress】

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【「三峡ダムを取り壊すなら早い方が良い。遅くなれば取り壊せなくなる」とは言っても、政治的に無理】

今回あるいは数年中に・・・ということはないにしても、今後のことを考えた場合、「三峡ダムを取り壊すなら早い方が良い。遅くなれば取り壊せなくなる」(王維洛氏)という指摘は重要ですが、この種の決断が容易でないのは日本でも同じ。

 

まして国家の威信をかけて建設したダムを・・・となると、まず無理でしょう。それは江沢民・李鵬時代を否定することでもあり、政治的に多大な血が流れます。(なお、胡錦濤元党総書記も発電技師出身のテクノクラートであり、三峡プロジェクトを強力に推進した経緯があります)

 

そうすると、10年後、20年後・・・・。

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