(ポートランド市でのデモ参加者と対峙する連邦の職員たち【7月22日 Newsweek】
【オレゴン州のブラウン知事「この国は民主主義であり、独裁主義ではない」」】
私はアメリカの地理には疎いので、オレゴン州と言われてもピンときませんが、西海岸の太平洋に沿って北にワシントン州、南にカリフォルニア州と接する州です。そのオレゴン州で最大の都市がポートランド。
黒人男性が白人警官によって殺害された事件に端を発する人種差別への抗議行動はポートランドでも続いていましたが、一部過激化する行動に対し、「法と秩序」をアピールするトランプ大統領が連邦政府による介入を行ったことで、民主党系の地元知事・市長とトランプ政権の対立が激化しています。
****デモ激化で警察組合のビルに放火、「暴動」発生を宣言 米ポートランド市****
人種差別への抗議デモが続く米オレゴン州ポートランドで18日夜、警官組合のビルが放火され、当局が「暴動」発生を宣言した。
同市内ではデモ参加者らが身分を明示しない連邦当局のチームに拘束されるケースが相次ぎ、ウィーラー市長らが抗議している。
ポートランド警察が19日朝までに投稿したツイートによると、市北部でデモ隊が暴徒化し、ペンキ入りの風船や石などを投げ付けられた警官数人が負傷した。市中心部でも連邦裁判所付近に集まった参加者らが周囲のフェンスを撤去するなどの行動に出た。
同市では少なくとも50日にわたり、人種差別や警官の暴力に抗議するデモが続いている。平和的なデモが大半を占める一方で、暴力も散発している。
警官組合ビルの前では19日、地域社会のリーダーや活動家らが記者会見を開き、暴力や破壊行為をやめるよう呼び掛けた。
市内では、国土安全保障省(DHS)のチームが所属表示のない迷彩服姿でデモ参加者らを拘束し、一般車両に乗せて走り去る場面が繰り返し目撃されている。
ウィーラー氏は19日、CNNとのインタビューで、こうした拘束は相当の理由や適正手続きという要件を満たしていないと主張。連邦チームの存在がかえって状況を悪化させていると非難した。
オレゴン州のブラウン知事も連邦当局者の撤退を求めている。州司法長官は先週、DHSを相手取り、拘束する側の身分表示などを求める訴訟を起こした。
これに対してトランプ大統領は同日、「我々はポートランドに害を及ぼそうとしているのではなく、助けようとしているのだ」とツイートした。【7月20日 CNN】
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トランプ大統領はツイッターに「ポートランドを助けようとしている。同市の指導者は何カ月にもわたり、無政府主義者や扇動者をコントロールできずにいる。連邦の財産と国民を守る必要がある」と書き込んでいます。
ウィーラー市長(民主党)は、連邦当局が事態を急速に悪化させていると主張。「彼らの存在が暴力や破壊行為の拡大につながっている」とし、撤収を求めています。
7月20日には、全米各地で人種差別への抗議ストが実施されました。
****米国で差別撤廃求め大規模スト 160都市、黒人暴行死事件受け****
米中西部ミネソタ州の黒人男性暴行死事件を受けて反差別の機運が高まる米国の各地で20日、人種差別撤廃や経済格差の是正を求める大規模なストライキが実施された。
医療関係者や食料品店の従業員らエッセンシャルワーカーが多数参加し、待遇改善を訴えるデモも行った。
米メディアによると、ストは労働組合や市民団体が共同で企画。ニューヨークやデトロイトなど、約160都市で実施された。
新型コロナ対応で最前線に立つエッセンシャルワーカーは、黒人やヒスパニックなど非白人の割合が高い。スト参加者は、差別撤廃とともに最低賃金の引き上げや医療保障の充実を求めた。【7月21日 共同】
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【トランプ大統領 「リベラルな民主党員市長は行動を取るのを恐れている」「やつら(暴徒)は無政府主義者だ」】
一方、トランプ大統領は収まらない抗議行動に対し「力」で対処する姿勢を強めています。
****トランプ氏、デモ続く都市に連邦職員を送り込むと威嚇****
ドナルド・トランプ米大統領は20日、同国で続く人種差別などへの抗議行動を抑えるためとして、主要都市に連邦の法執行職員らを派遣すると威嚇した。
トランプ氏はホワイトハウスで記者団に、法と秩序が大事だと強調。「法執行職員を派遣する」、「都市でこうしたことが起きるのを放っておくわけにはいかない」と述べた。
また、ニューヨーク、シカゴ、フィラデルフィア、デトロイト、ボルティモア、オークランドの各都市を挙げ、「私たちの国でこうしたことが起こるのは認められない。どの都市もリベラルな民主党員が市長を務めている」と述べた。
それらの市長について、行動を取るのを恐れていると批判した。
【解説】 トランプ大統領は軍を出動できる? アメリカの騒乱で
一方、オレゴン州ポートランドに2週間前、抗議行動を沈静化させるために連邦職員を派遣したことについて、職員らは「素晴らしい仕事」をし、治安を回復したと賞賛した。(中略)
現地の当局者は、連邦職員らによって事態は悪化していると話している。
職員の一部は所属の明示がない車両を使い、軍人用の迷彩服を着用しており、民主党や活動家らが非難している。先週以降、デモ参加者とこれら職員との間で緊張が高まっており、地元指導者らは連邦職員の退去を求めている。
また、トランプ氏が大統領選挙を前に政治的に目立つ行動を取り、状況を悪化させているとの批判も出ている。
「無政府主義者だ」
トランプ氏は、オレゴン州のケイト・ブラウン州知事、ポートランド市のテッド・ウィーラー市長、同州議会議員たちについて、「アナキスト(無政府主義者)」に恐れをなしていると述べた。
「みんなデモ参加者たちを怖がっている」、「それが私たちの助けを望まない理由だ」。
さらに、「(連邦職員らは)3日間現地にいて、短期間に素晴らしい仕事をしており、まったく問題がない。数多くの人を逮捕し、リーダーを収監した。やつらは無政府主義者だ」と述べた。
派遣された職員は、国土安全保障省(DHS)の新設部隊の一部。連邦保安局や税関・国境警備局のスタッフらで構成されている。
国内の歴史的記念碑を守ることを目的とし、トランプ氏が先月署名した大統領令の下、デモの取り締まりに乗り出した。この大統領令は、州の許可なしに連邦職員を派遣できるとしている。
シカゴに派遣か
米紙シカゴ・トリビューンは20日、DHSが今週、シカゴに150人規模の職員を派遣する予定だと報じた。犯罪を取り締まる他の連邦職員や地元警察を支援するという。
トランプ氏はしばらく前から、シカゴでは暴力的な犯罪が抑制されていないとして、同市の指導者層を非難している。警察によると、先週末だけで同市では64人が銃撃され、うち11人が死亡した。
シカゴ市のロリ・ライトフット市長は、トランプ氏による連邦職員の派遣に懸念を表明している。
「バッジを着けず、通りから人を違法に連行し拘束する連邦職員は必要ない」
ポートランド市のウィーラー市長は19日、米放送局CNNで、「連邦職員の存在がさらなる暴力と破壊行為を招いている」、「ここでは求められていない。来るよう頼んでもいない。出て行ってほしい」と述べた。
オレゴン州司法長官は、連邦政府を相手に訴訟を提起。連邦職員が違法に抗議デモ参加者らを拘束し、集会の権利を侵害し、適正な手続きを守らなかったとしている。【7月21日 BBC】
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トランプ大統領が連邦政府要員のさらなる派遣・介入を示しているのに対し、介入を示唆された都市も法廷闘争を辞さない考えを示すなど反発を強めています。
****連邦要員派遣なら法廷闘争へ、NY市長などトランプ氏発言に反発****
米ニューヨーク市のデブラジオ市長は21日、トランプ大統領が人種差別に対する抗議デモ対応でニューヨーク市などに連邦政府要員を派遣する考えを示したことに関して、強行すれば法廷闘争を辞さない考えを示した。
トランプ大統領は前日、抗議デモが続くニューヨーク、シカゴ、フィラデルフィア、デトロイトなどの主要都市に連邦要員を派遣する計画を明かし、こうした都市の市長は「リベラルの民主党だ」と述べた。市長と州知事が民主党のオレゴン州ポートランドでは先週、連邦職員が抗議デモの取り締まりを開始し、反発が広がっている。
デブラジオ市長は、単なる脅しである可能性があるとしつつも、実行されれば、ニューヨーク市は法廷で闘うと表明。その上で「この大統領は虚勢を張り、実行すると表明しつつも、実行されないのが日常だ。発言は真実でないことも多く、過大評価すべきでない」と述べた。
シカゴのライトフット市長も法廷闘争を辞さない構えを示しつつも、「現時点でトランプ政権がシカゴに不特定の連邦職員を実際に派遣することはないと理解している」と語った。
同市長は、代わりに、米連邦捜査局(FBI)、麻薬取締局、アルコールたばこ火器爆発物取締局からの派遣があり、既に犯罪対策で市当局と協力している連邦機関と統合するとの見方を示した。
フィラデルフィアのケニー市長は、連邦要員投入は裏目に出ると指摘。「ホワイトハウスは新型コロナウイルス対応で、何カ月も連邦政府としての責任を回避してきた。このような形で連邦介入することは、皮肉で不快だ」と批判した。
ミシガン州のウィットマー知事(民主党)は、トランプ大統領がデトロイトへの連邦要員派遣の可能性を示唆したことを受け、「政治的動機に基づく脅し」と述べた。
マクナニー大統領報道官は、要員派遣について、国土安全保障長官が連邦政府の所有地保護などを目的に連邦職員を代理に任命することを可能とする連邦法によって正当化されると主張した。
オレゴン州司法長官は先週、国土安全保障省を提訴し、連邦要員を阻止する命令を連邦判事に求めている。【6月22日 ロイター】
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【「法と秩序」を守る指導者をアピール】
トランプ大統領の姿勢は新型コロナ対応への批判が強まるなか、「法と秩序」を守る指導者をアピールするという再選戦略によりものですが、共和党内部にも懸念の声があるようです。
****共和党議員も懸念****
連邦職員の派遣は、トランプ氏の肝いりによるものだ。
デモが各地に広がるなか、トランプ氏はデモ隊と対峙(たいじ)する姿勢を強め、6月には自身の写真撮影のために、ホワイトハウス前の平和的な集会を催涙ガスで強制排除する場面もあった。さらに、民主党の知事や市長らの対応を「弱腰」と批判。地元当局が強硬姿勢を取るように迫っていた。
「(連邦政府の法執行機関は)本当にファンタスティックな仕事をしている。たくさんの連中を刑務所に入れた。彼らはデモ隊じゃない。無政府主義者だ」
トランプ氏は20日、米ホワイトハウスで記者団にこうまくし立てた。ニューヨークやシカゴなど民主党の市長の都市を挙げ、「極左が運営している」と批判。「我々はもっと多くの法執行機関を送るつもりだ」と述べ、ポートランド以外にも武装した連邦職員を派遣する考えを示した。
トランプ氏の狙いは米大統領選の再選戦略に深く結びついており、「『法と秩序』の共和党VS.無政府主義者を野放しにする民主党」というイメージを作りあげることにある。
特にやり玉に挙げていたのが、知事と市長が共に民主党であるオレゴン州ポートランドでのデモの長期化だ。「(民主党の地元政治指導者たちは)無政府主義者、扇動家たちをコントロールできなくなった」と攻撃した。
しかし、地元政府の頭ごしにデモ隊を鎮圧する手法は、州政府との関係で連邦政府の権限を厳しく限定した「連邦制」の仕組みを壊しかねない。オレゴン州の司法長官は17日、連邦職員の行為が米国憲法違反だとして、差し止めを求めて米連邦地裁に提訴した。
民主党は「悪質な権力乱用だ」(ペロシ下院議長)と激しく反発。共和党の一部からも「連邦軍であれ所属不明の連邦職員であれ人々を意のままに追い立てることは許されない」(ランド・ポール上院議員)と懸念の声が上がっている。【7月23日 朝日】
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【各都市への連邦政府要員派遣は、“国内各地の暴力対策強化”として「典型的な犯罪取り締まり」を強化するものとして行う】
こうした反発・批判を考慮したのか、22日、トランプ大統領は“国内各地の暴力対策強化”として、連邦政府の法執行職員を「大量」に派遣すると表明しています。
これは「典型的な犯罪取り締まり」を強化するもので、ポートランドに派遣されている国土安全保障省の職員が「暴動や暴徒による暴力から守る」ことを目的としているのとは、性質が異なるといのことです。
****トランプ米大統領、「大量の」連邦職員を派遣方針 都市の犯罪対策強化に****
ドナルド・トランプ米大統領は22日、国内各地の暴力対策強化として、連邦政府の法執行職員を「大量」に派遣するとホワイトハウスで表明した。
イリノイ州シカゴやニューメキシコ州アルバカーキーなどで、警察暴力への抗議を機に激化するデモ行動について、トランプ氏は「この暴力の横行はこの国の良心に衝撃を与える」と述べた。シカゴとアルバカーキーの市長は共に、野党・民主党所属。
トランプ氏はウイリアム・バー司法長官と共にホワイトハウスで記者団を前に、暴力犯罪対策強化の「レジェンド作戦」を発表。6月にミズーリ州カンザスシティーの自宅で眠っていたところを撃たれて死亡した4歳のレジェンド・タリフェロちゃんの名前にちなんでいる。記者発表には、レジェンドさんの母親も同席した。カンザスシティーの市長も民主党所属。
司法省によると、「レジェンド作戦」では連邦捜査局(FBI)や連邦保安官局などの連邦機関が、各地の地元捜査機関と連携して、犯罪急増に取り組む。
トランプ氏は、自分と対立する野党・民主党が犯罪に弱腰だと批判。「このところ、警察組織を解体させようとする過激な運動」が全米各地で相次ぎ、それが「銃撃、殺害、凶悪暴力事件のショッキングなほどの急増」につながったと述べた。
「この流血は終わらせなくてはならない。この流血は終わる」と、トランプ氏は強調した。
「地域や街の安全確保に必要な対策を政治家が実施しようとしなかったという、ただそれだけのために、母親が死んだ子供を自分の手に抱くなどということがあってはならない」
記者発表でバー司法長官は、カンザスシティーに連邦政府職員約200人を派遣したと発表。さらに「同程度」の人数をシカゴに、35人をアルバカーキーに派遣すると述べた。
暴力事件の相次ぐ都市で警察官を増員するため、連邦予算約6000万ドルを地方都市への補助金に充てる方針という。
バー長官は、法執行権限をもつ連邦政府職員を増員し、「典型的な犯罪取り締まり」を強化する方針だと話した。これは、西海岸オレゴン州ポートランドに派遣されている国土安全保障省の職員が「暴動や暴徒による暴力から守る」ことを目的としているのとは、性質が異なるという。
司法長官は昨年12月にも同様に、7都市での犯罪急増に対して連邦職員の増派で対応すると発表している。
警察暴力や人権侵害への抗議を機にデモが5月下旬以来続くポートランドでは、派遣された国土安全保障省の職員がデモ参加者を拘束している。こうした動きは市民や市当局、州政府から強い反発を呼び、むしろ緊迫する現地の状況悪化につながったと批判されている。
トランプ氏に批判的な人たちは、コロナ禍でアメリカの死者が14万2000人を超え、大統領支持率が低迷する渦中で、11月の再選を意識した動きだと警戒している。(後略)【7月23日 BBC】
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実際、名前が挙がっているシカゴ、アルバカーキー、カンザスシティーでは、殺人事件などの凶悪犯罪が増加しています。
なぜ犯罪が増加したかについては、刑務所での新型ウイルス集団感染を防ぐため、受刑者を早期釈放したこと、重大事件の被告でも裁判所は審理開始前に仮釈放しなくてはならないとした保釈制度改革法、警察への抗議が続く状況での犯罪者側の増長、警察批判の高まりにいらだつ警官が犯罪取り締まりに消極的になっている可能性・・・等々が挙げられています。当然、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う大量失業も影響しているでしょう。
いずれにせよ、“トランプ氏は今回の発表により、民主党は犯罪に弱腰で、地元住民の安全を守ることができない党だと位置付ける試みを一段と強化した。”【7月23日 CNN】
「典型的な犯罪取り締まり」強化ということであれば、“無政府主義者”暴徒の鎮圧行動よりは穏当でしょう。
ただ、トランプ大統領が今回対応で見せた、抗議行動へのいら立ち、力による封じ込めの姿勢は、まるで中国やロシアなど独裁国家で起きているようなことのようにも思えます。この人の民主主義とは異質な性向を感じます。
法律の抜け穴ばかり狙って生きてきた人間が「法と秩序」をアピールというのも笑える話です。