(バングラデシュ沖で救助されたイスラム教徒少数民族ロヒンギャの集団(4月16日)【4月18日 日経】)
【マレーシア 難民船は沖合に押し返す 上陸した者は不法入国者としてむち打ち刑】
東南アジアのイスラム国で“むち打ち刑”と言えば、イイスラム原理主義的なンドネシア・アチェ州の公開むち打ち刑を連想しますが、(東海岸の一部地域を除いて)宗教的には穏健とも思われるマレーシアでも行われているようです。しかもロヒンギャ難民に対して。
****不法入国のロヒンギャ難民をむち打ち刑へ 人権団体、マレーシアに廃止要求****
ミャンマーからの非常に危険な船旅を生き延びてマレーシアにたどり着いたイスラム系少数民族ロヒンギャの難民集団に対し、マレーシアに不法入国したとしてむち打ち刑が執行される予定であることが分かった。人権団体が21日、明らかにした。
むち打ちは「野蛮な」刑罰だと非難し、こうした処罰を廃止するよう求めている。
近年数十万人のロヒンギャの人々が、仏教徒が多数を占めるミャンマーでの迫害と暴力から逃れるため、隣国バングラデシュや、船でマレーシアに向かっている。
だが新型コロナウイルスの大流行発生以降、これまでロヒンギャ難民船の上陸を受け入れてきたマレーシアなどの東南アジア諸国は、難民の中に感染者がいる可能性を危惧して着岸を拒否するようになった。
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによると、4月にロヒンギャ難民202人を乗せた船がマレーシア北西部に上陸したが、この一団からは少なくとも男性20人に禁錮刑とむち打ち刑が言い渡されたという。
当局にコメントを求めたが、これまでに回答はなかった。
新型コロナウイルスの流行が始まって以来、マレーシアは海上パトロールを強化しており、同国への入国を試みる船を幾度となく押し返している。
しかし先月にも、ロヒンギャ難民260人超を乗せた船が同国に着岸している。 【7月21日 AFP】
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むち打ち刑も問題ですが、“同国への入国を試みる船を幾度となく押し返している”というのも、押し返された難民船がその後どうなるのか・・・・。
****漂流のロヒンギャ32人死亡 マレーシアなど上陸拒否****
ロイター通信は17日までに、バングラデシュ当局が15日、同国沖合で約2カ月間漂流していた船を救助したと報じた。
船にはイスラム教徒少数民族ロヒンギャが約400人乗っており、マレーシアとタイで難民と認められず上陸を拒否され、保護されるまでに少なくとも32人が死亡していた。新型コロナウイルス予防を理由に上陸を拒まれた可能性があるとみられる。
一方マレーシア軍は17日、約200人のロヒンギャが乗った船を16日に同国北部ランカウイ沖合で発見したが、新型コロナの感染拡大を防ぐため入国を拒否し追い返したと発表した。船の行方は明らかにしていない。
マレーシア政府は感染拡大を受け、先月18日から外国人の入国を原則禁止している。これまで多くのロヒンギャがバングラデシュの難民キャンプなどから、密航船でマレーシアに逃れてきたが、今後こうしたルートが閉ざされる可能性がある。
マレーシア軍は声明で「不法移民の新たなクラスター(感染者集団)の発生を防ぐためだ」と説明。フェイスブックに公開した船の写真には、子どもを含む多数の人々が窮屈そうに乗り合わせている姿が写っている。【4月18日 日経】
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【状況を変えた新型コロナ】
マレーシアの対応が厳しくなったのは、上記にもあるように新型コロナ感染の関係。
****マレーシア首相、これ以上のロヒンギャ難民受け入れは不可能と表明****
マレーシアのムヒディン首相は26日、今後ミャンマーからのロヒンギャ難民を受け入れるのは不可能と表明した。新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済の困難と資金減少を理由に挙げた。
イスラム教徒が国民の多数を占めるマレーシアは長らく、ミャンマー軍による掃討やバングラデシュのキャンプから逃れてくるロヒンギャ難民にとって好ましい避難先となっていた。
しかしマレーシアは難民認定を行なっていないほか、国内では外国人が新型コロナを持ち込んで乏しい国家資金を消費しているとの怒りが噴出しており、同国は最近、難民船を拒否したり、数百人のロヒンギャ難民を拘束したりしている。
首相は、ミャンマーを含む東南アジア諸国連合(ASEAN)指導者との電話会議で、「新型コロナにより我が国の資金と対応能力はすでに限界を超えている。これ以上の難民は受け入れられない」と述べた。
また「にもかかわらず、マレーシアはより多くの難民受け入れを不当に期待されている」と付け加えた。
ロヒンギャ族の扱いについてはASEAN内で意見が分かれており、イスラム教国のマレーシアとインドネシアが仏教国のミャンマーを批判するとともに、ロヒンギャ難民が人身売買船で到着していると不満を強めている。【6月29日 ロイター】
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【インドネシア 地元民の要望もあって、積極的ではないが庇護方針】
一方、インドネシアでは・・・
****海上のロヒンギャ船を漁師らが救助、上陸拒否した当局に憤慨し インドネシア****
インドネシア・スマトラ島沖で立ち往生していた100人近いイスラム系少数民族ロヒンギャが25日、海岸へと無事たどり着いたのは、新型コロナウイルスを懸念して収容を拒否する当局の判断に憤慨した地元住民の力添えによるものだった。
ミャンマーで迫害を受けて逃れて来た、子ども30人を含むロヒンギャ難民94人前後は今週、壊れかけた木造船から漁師たちによって助け出された。
だがその後、スマトラ島最北端に位置するアチェ州の管海官庁が介入。同島北部沿岸に位置するロスマウェ市当局は、新型ウイルスへの懸念からロヒンギャの人々の上陸を拒否したという。
その対応に憤った地元の人々は25日、自分たちで何とかしようと船に乗り込み、ロヒンギャの人々を上陸させた。現場にいたAFP記者によると、海岸に集まった住民たちからは声援が上がったという。
「全くの人道的な理由からだ」と、漁師の一人は動機を説明。「子どもたちや、おなかの大きい女性たちが海上に取り残されている様子を目にしてつらかった」と話した。
地元の警察トップは25日、ロヒンギャの人々を仮設の避難所に移送するのではなく、海上へ戻したいとしていたが、当局は住民らの意向を受けて態度を軟化させたとみられ、現在は人々を一時的に民間住宅に収容している。
アチェ州の救急当局によれば、ロヒンギャの人々が新型ウイルスに感染していないか、医療従事者が検査を行うことになっている。 【6月27日 AFP】
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同じイスラムの国インドネシアも事情は同じですが、マレーシアに比べるとやや緩やかな面も。これは単に難民に対してというより、万事につけ・・・というお国柄かも。
*****ロヒンギャ族難民受け入れで明暗****
(中略)
■ 状況に劇的変化を与えたコロナ
イスラム教徒であるロヒンギャ族にとって、イスラム教国であるマレーシア、イスラム教国(イスラム教を国教と定める国)ではないものの世界最大のイスラム教人口を擁するインドネシアの両国は地理的位置、海流の関係なども加えて「宗教的」にロヒンギャ族にとってはこれまで「海路による避難先」として有力候補地だった。
ところが状況が一変した。理由は新型コロナウイルスで、東南アジア各国は自国での感染者拡大をどう防止するかで手一杯の状況にあり、国内での蔓延とともに海外から帰国する自国民や外国人によるコロナ流入を極度に警戒して厳しい入国制限を実施している。
そんな状況でロヒンギャ難民をこれまでのように無条件に受け入れることはコロナ対策という保健衛生上からも、それに伴う財政困難という観点からも極めて困難になっているという状況が生まれているのだ。
■ 不法入国で禁固、むち打ち マレーシア
(中略)こうしたことからマレーシアは領海内などで航行中のロヒンギャ族の船舶を発見した場合は必要な援助を与えるものの「着岸、入国を拒否して領海外に誘導」する方針を取っている一方で、発見時にすでに着岸していた場合はやむなく上陸保護するものの、例外措置はあるものの「不法入国者」として扱っている実態が明らかになっている。
■ 積極的ではないが庇護方針 インドネシア
こうしたマレーシアの対応に対してインドネシア政府は積極的ではないもののあくまで「人道的見地」を強調した対応を取っている。
6月24日にインドネシア・スマトラ島最北部アチェ州の沖で故障して漂流中の船舶を周辺海域で操業中のインドネシア漁船が発見し治安当局などに通報、保護を要請した。(中略)
報道では地元当局は当初コロナ感染の危険性があるとして上陸拒否を示していたが、地元漁民の要請で最終的に受け入れを決め、ロヒンギャ族全員にコロナ感染の検査を実施、全員の陰性が確認されたとしている。
その後インドネシア外務省は「人道的見地から」として当該ロヒンギャ族難民の保護方針を示し、第3国への移送を含めて今後対応することとなった。
インドネシア政府は1951年の「難民条約」には加盟していないため、今後の手続きには時間がかかるものの、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と連絡を取り合って進めるとしている。
ジョコ・ウィドド大統領は以前から「同じイスラム教徒」という立場もありロヒンギャ族の支援には前向きで、4月にはロヒンギャ族難民問題を仲介すべくレトノ・マルスディ外相をミャンマーやバングラデシュに派遣している。
その後、インドネシアでのコロナ禍が深刻化する状況を受けてもジョコ・ウィドド政権は「以前のように積極的ではないまでもロヒンギャ族難民を庇護し支援するという姿勢には基本的に変化がない」(外務省関係者)との立場を取り続けている。
マラッカ海峡を挟んだマレーシアとインドネシアのこうした海路避難してくるロヒンギャ族難民への対応の違いが浮き彫りになる中、ロヒンギャ族の脱出は今も続いている。
必死の航海で追い返されたり、上陸しても不法入国者として訴追されたりするケースのあるマレーシアではなくて、
ロヒンギャ族難民たちはなんとしてもインドネシアを目指したいところだろう。
しかし、ロヒンギャ族が命を託す船は老朽化した小型船でエンジンの故障も多く、その航路は風任せ、海流任せ、そして神任せ、運任せというのが現状だ。【7月23日 大塚智彦氏 Japan In-depth】
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