孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  やまないタリバンの攻撃 先行き不透明な和平協議

2020-07-22 22:53:32 | アフガン・パキスタン

(アフガンの10代少女、タリバン戦闘員2人を射殺 両親を殺害され【7月21日 AFP】)

 

【地方政府 バーミヤン遺跡破壊して道路建設】

今日目にしたアフガニスタン関連のニュースを2件。

最初は、かつてタリバンによって大仏が破壊されたバーミヤン遺跡に関するもの。

 

****道路建設でバーミヤン遺跡を破壊 世界遺産、登録抹消も****

国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産に登録されているアフガニスタン中部バーミヤン遺跡で、地元政府が無許可で舗装道路を建設し、遺跡の一部を破壊していたことが22日までに共同通信の取材で分かった。

 

事態を把握したユネスコは「極めて遺憾」と表明。今後、登録が抹消されるとの懸念も出ている。

 

情報・文化省などによると、2016年にバーミヤン中心部と新市街を結ぶ全長約1.4キロの道路建設が始まり、昨年末に完成した。現場の丘にはタペ・アルマスと呼ばれる遺跡があったが、道路は一帯を切り崩す形で建設されたため、跡形もなくなった。【7月22日 共同】

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これまでも何回も紹介してきましたが、かつてタリバンが大仏を破壊した際に、あるタリバンが次のように語ったとか。

 

「今、世界は、我々が大仏を壊す言ったとたんに大騒ぎを始めている。だが、わが国が旱魃で苦しんでいたとき、彼らは何をしたか。我々を助けたか。彼らにとっては石の像の方が人間より大切なのだ。そんな国際社会の言うことなど、聞いてはならない」【高木徹氏著「大仏破壊」】

 

高木徹氏も指摘していますが、国際社会が「何もしていない」というのは事実ではありませんが、高木徹氏同様、私も少なからずこの発言に共感するものがあります。

 

今回の遺跡破壊(故意なのかミスなのかを含めて、事情は全く知りません)はタリバンではなく、地方政府ですが、「遺跡保護なんかより、住民の生活を少しでもよくしてくれる道路の方がずっと大切だ。」という思いがあったのかも。

 

【両親を殺害したタリバンを自ら自動小銃で射殺した10代少女】

もう1件は、ある少女の“勇敢な”行為。

“勇敢”では済まされない、アフガニスタンの悲劇でもあるのですが・・・

 

****アフガン少女、両親殺害したタリバン戦闘員2人を射殺****

アフガニスタンで、旧支配勢力タリバン戦闘員らに両親を殺害された少女が、戦闘員2人を射殺し、複数人を負傷させた。当局が明らかにした。

 

事件は先週、中部ゴール州のある村に住む10代の少女、カマル・グールさんの自宅に、戦闘員らが押し入った際に起きた。

 

地元警察署長はAFPの取材に対し、戦闘員らは村長であるグールさんの父親を捜していたと明かした。

 

戦闘員らは、少女の両親が政府を支持しているとして家から引きずり出し、母親が抵抗すると、2人を家のそばで殺害したという。

 

同警察署長は、「家の中にいたグールさんは家族が所有していた自動小銃AK47を手に取り、まず両親を殺したタリバン戦闘員2人を射殺し、さらに数人を負傷させた」と話した。

 

他の当局者らの話では、グールさんの年齢は14~16歳。アフガニスタンでは、自分の正確な年齢を知らないことは珍しくない。

 

事件の後、タリバンの他の戦闘員らがグールさんの家を再び襲撃しようとしたが、村人や親政府の民兵らが応戦し、銃撃戦の末に撃退した。

 

州知事報道官によると、グールさんとその弟は治安部隊によって安全な場所に移されたという。

 

事件を受けてソーシャルメディア上には、グールさんの「勇敢な行為」をたたえる声が多く寄せられた。

 

タリバンは、政府や治安部隊の情報提供者になっていると疑いをかけた村人らを襲っては、殺害している。ここ数か月は、アフガン政府との和平交渉に合意したにもかかわらず、治安部隊への攻撃を強めている。【7月21日 AFP】

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平和な社会にあっては、自分の手で報復というのは許されない行為でしょうが、アフガニスタンは戦場ですから・・・

 

女性の権利を軽んじるタリバンに、一人の少女が自動小銃で報復・・・というのも、無責任な言い様ですが、痛快な感じも。

 

“グールさんとその弟は治安部隊によって安全な場所に移された”とのことですが、こうした保護がいつまで続くのか・・・今後の少女の身の安全が気がかりです。

 

【やまないタリバンの攻撃 アメリカは圧力を強めていく方針表明】

肝心の和平協議の方は、タリバンの攻勢がやまず、今後が懸念されています。

 

****タリバンが情報機関襲撃、11人死亡 アフガン北部****

アフガニスタン北部サマンガン州アイバクで13日、情報機関・国家保安局の事務所が襲撃を受け、治安要員少なくとも11人が死亡した。当局が明らかにした。同国の旧支配勢力タリバンが犯行声明を出した。

 

タリバンは声明で、車に乗った自爆犯が事務所近くで装置を爆発させ、同時に武装集団が建物に侵入したとしている。

 

同州のアブドゥル・ラティフ・イブラヒミ知事がAFPに語ったところによると、爆発と銃撃で11人が死亡、63人が負傷。負傷者の大半は民間人だった。同知事の報道官によれば、襲撃は4時間近くにわたり、治安部隊が襲撃犯3人を射殺し収束した。

 

アフガン政府は現在、タリバンとの和平会談に向け準備を進めている。アシュラフ・ガニ大統領は事件を「テロ攻撃」と呼び非難し、タリバンに暴力行為の停止を要求。大統領府の出した文書の中で「交渉で譲歩を得るために暴力に訴え人々を殺害することは、タリバンがとってきた中で最悪の方法だ」と明言した。

 

タリバンは長年の紛争終結に向けた政府との協議に合意したものの、ここ数か月にわたりほぼ連日アフガン部隊に対する攻撃を行っている。 【7月14日 AFP】AFPBB News

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和平に道筋をつけて、アフガニスタンから撤退したいアメリカは和平プロセスの前進に向けてタリバンへの圧力を強めていく意向を示しています。

 

****アフガン和平実現に圧力強化=タリバン合意、第1段階完了―米代表****

米国のハリルザド・アフガニスタン和平担当特別代表は13日、米国が2月末にアフガンの反政府勢力タリバンと締結した和平合意で駐留米軍削減の期限としていた135日が経過したと述べ、米国側は合意を履行したと強調した。

 

一方、タリバンはアフガン政府軍に対する攻撃を続けているとし、和平プロセスの前進に向けて圧力を強めていく意向を示した。

 

ハリルザド氏はツイッターで「米国は和平合意における第1段階の約束を履行するために懸命に努力した」と主張。アフガン政府とタリバンが互いに拘束者を解放すると定めた合意事項については「遅いながらも大きな進展がある」と評価した。

 

ただ、「(タリバンによる)暴力行為はここ最近高い水準にある」と批判。米軍の全面撤収に向けて和平合意の履行が次の段階に移る中、拘束者の解放や暴力削減、アフガン政府との対話開始などの実現を要求していくと語った。【7月14日 時事】

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【完全撤退を選挙戦で“成果”としてアピールしたいトランプ政権】

11月の大統領選挙前に完全撤退を実現して、“成果”をアピールしたいというのがトランプ政権の目論見ですが、そのように事が運ぶかは不透明です。

 

****暗雲たちこめる米国の悲願「アフガン和平」****

アフガニスタンではタリバンの活動が活発化しており、アフガン和平プロセスに暗雲が立ち込めている。

 

7月7日付けのForeign Policy(電子版)の解説記事‘Resurgent Taliban Bode Ill for Afghan Peace’は、以下の諸点を指摘している。

 

・最近アフガニスタンでは予算不足のため警察官に給料が払えず、タリバンに参加する警察官が増えている。

・2月29日の米・タリバン合意でタリバンはアルカイダと手を切る約束をしたが、国連の最近の報告書は両者の関係が緊密であると述べ、米国防省の報告はアルカイダがタリバンの下層のメンバーとの共闘を続けていると言っている。

・3月に始まることになっていたアフガン政府とタリバンの話し合いはまだ行われていない。1つの障害は捕虜の交換で、政府が5000人のタリバンの捕虜を釈放する一方で、タリバンが1000人の政府軍兵士の捕虜を釈放することが合意されたが、まだ実現していない。

・アフガン政府とタリバンが交渉のテーブルについても、なんらかの永続的平和や安定を達成するのは大分先のことになるだろう。

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そもそもアフガン和平プロセスは複雑で、当初からスムーズにいくとは予想されていなかった。まず枠組みが複雑である。アフガンの和平合意は米国政府とタリバンの間で行われ、アフガン政府は蚊帳の外に置かれた。

 

アフガン和平合意に基づく和平の話し合いはタリバンとアフガン政府の間で行われる。本来はアフガン政府の後ろ盾として米国政府があるはずであるが、米国および米国民は2001年以来の米国のアフガン関与にうんざりしており、トランプの最大の関心は米軍の撤退となっている。

 

アフガン政府とタリバンの話し合いで重要な要素である捕虜の交換は、タリバンと米国政府の間で合意された。アフガン政府が不満なのは当然で、当初ガニ大統領は「捕虜5000人を釈放すると約束していない」と述べ、3月11日にタリバンの捕虜1500人を釈放するように命じたことを明らかにした。しかし今はタリバンの捕虜5000人の釈放はやむを得ないと考えているようである。

 

米軍の撤退については2月29日の米国政府とタリバンの和平合意で、合意から135日以内(7月半ば)に米兵1万3千人を約8,600人に減らすことが決まった。

 

これはタリバンがアフガン国土をテロ攻撃の拠点としないとの約束と引き換えに米国が約束したものである。そしてタリバンが合意事項を遵守すれば、和平合意から14か月以内(21年春ごろ)にアフガンから完全撤退すると明記された。

 

トランプ大統領が11月の大統領選挙を控え、完全撤退したいと考えているのは明らかである。米メリーランド大学が2019年秋に行った世論調査では、米国民の62%がアフガンでの米軍縮小を支持すると答えたとのことである。

 

このように世論がアフガンからの米軍の撤退を望んでいることを踏まえ、トランプは完全撤退が選挙民にアピールすると判断しているものと思われる。

 

米軍のアフガンからの完全徹底には「タリバンが合意事項を遵守すれば」という条件が付されているが、これは当初の米軍撤退の条件とされた「アフガン国土をテロ攻撃の拠点としない」とのタリバンの約束と解釈できるわけであり、トランプはタリバンとアフガン政府の和平の話し合いが合意に達しなくても完全撤退を考えているものと推測される。

 

アフガンの和平は米国政府の悲願であり、米国政府はタリバンとアフガン政府の和平プロセスの進展を望み、双方に交渉の促進を要請するだろうが、本来ならタリバンに対する重要な交渉の切り札となるべき米軍の撤退は、米国の国内事情で決められるという皮肉な結果になりそうである。【7月22日 WEDGE】

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“トランプはタリバンとアフガン政府の和平の話し合いが合意に達しなくても完全撤退を考えているものと推測される。”・・・・撤退の名目さえ得られれば、あとは野となれ山となれということでしょう。

 

腐敗と非効率のアフガニスタン政府、和平について内部的にどこまで意思統一されているのか疑問なタリバン、アフガニスタンの民主化に関心を失ったアメリカ・・・これら三者でどのような和平が構築されるのか・・・はなはだ疑問です。

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