孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  コロナウイルスよりも問題は「事実上の軍政継続」政権と国民に不人気な国王

2020-07-01 23:09:13 | 東南アジア

(ついたてが設置で始まった、およそ1カ月半遅れの新学期【7月1日 FNNプライムオンライン】)

【市中感染はここ5週間ゼロ それでも続く非常事態宣言】
今日(7月1日)の新型コロナ新規感染者数は、これまでのところ全国で126人、東京で67人とのことですが、タイでは帰国者に散発的に感染者が見つかるものの、市中感染はここ5週間ゼロということで、少なくとも数字上は日本よりはるかに安定した状況にあります。

そうした状況を受けて、非常に慎重な対応を続けるプラユット政権のもとでも、「日常」が戻りつつあるようです。

****非常事態宣言下のタイ 学校・ナイトクラブ再開 ****
非常事態宣言が続くタイでは、およそ1カ月半遅れの新学期が始まった。
感染予防策として、1クラス20人以下に制限したうえで、机は互いに1メートル以上離し、校庭にある机にも、ついたてが設置されている。(中略)

一方、バーやナイトクラブも1日夜、再開する。
3カ月半ぶりの営業を前に、バンコクのあるクラブでは、室内を消毒するなど準備を進めている。
ただ当面、スタッフが隣に座っての接客などは、禁止されたままの営業になる。【7月1日 FNNプライムオンライン】
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また、日本からの入国もビジネス目的に限ってではありますが、認める方針とされています。

****タイ、日本からの入国緩和へ 非常事態宣言は延長 ****
タイ政府は29日、外国人の入国規制を7月から緩和する方針を明らかにした。

日本を含む一部の国・地域から訪れるビジネス目的の渡航者などについて、1日200人程度の入国を認める。非常事態宣言は7月末まで延長する。いずれも30日の閣議で正式決定する。

日本、中国(香港含む)、韓国、シンガポールからの短期出張者は、渡航前に新型コロナウイルスの陰性証明書を取得し、到着時にも検査を受けることを条件に14日間の隔離措置を免除する。

このほか労働許可証の保持者とその家族や、医療ツーリズムの患者らの入国を認める。

長期滞在者には自費による14日間の隔離を求める。タイ政府は3月末の非常事態宣言以降、外国人の入国を原則的に禁止していた。(後略)【6月29日 日経】
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なお、“30日の閣議で正式決定”というニュースはまだ目にしていません。

観光立国タイとしては、これ以上の渡航制限での観光ビジネス停止は多くの国民にとって死活問題となる事情があります。ただ、「感染国」日本への警戒感は一定にあるようです。

****まずは外貨を落とす「医療観光」から再開か? タイ****
(中略)日本がタイを含む4カ国と入国制限緩和の検討を始めたことについても前向きに受け止められており、経済全般を統括するソムキット副首相は7月から外国人旅行者の入国受け入れ再開ができないかの検討を指示。政府機関は、国際線就航の許認可権限を持つタイ民間航空局や航空各社と協議をしている。  

タイ観光協議会も同月中の外国人旅行者受け入れ再開を求めて政府に働き掛けている。国内旅行会社の多くは「休業状態は資金面からも6月末が限界」としており、旅行者受け入れが7月以降を大きくずれ込めば倒産などの2次被害が広がる見通しだ。  

このため、市場では7月初旬からまずは商用の一部とタイで盛んなメディカルツーリズム(医療観光)に限った入国受け入れが認められるのではないかとの観測が広がっている。

中でも、後者については年間5000億円以上もの外貨獲得にもつながるだけに、政府も全面的な後押しをしたい考えだ。  

タイの民間大手病院の設備は欧米並みの水準で、こうした国々で高度な医学や技術を習得した医者が数多く在籍する。特に生活習慣病や美容整形などの人気が高く、欧州や中東、アジアなどから医療観光目的でタイを訪れる外国人は年間約350万人にも上っている。  

一方、空前の日本ブームに沸くタイでは、コロナ終息後に出かける海外旅行先として日本がトップに上がっている。日本インバウンド・メディア・コンソーシアムが行ったインターネットアンケートで、「新型コロナが終息した後に真っ先に行きたい国」として75%のタイ人消費者が日本を挙げた。中でも、北海道や京都などの人気が高い。  

ただ、一般のタイ人の中には、日本を依然として「感染国」と見る人が少なくなく、国内の各種世論調査でも「自分では日本へ旅行したいが、日本からは旅行者は来てほしくない」という意見が一定程度カウントされている。日本政府のコロナ終息に向けたメッセージも必要となってくるだろう。【7月1日 時事】
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タイに関して言えば、むしろこれだけコロナ事情が落ち着いているのに、なぜ3月末に発令された非常事態宣言が今も続けられているのか・・・という点が不思議に思われます。

プラユット政権は、感染の再燃を警戒して・・・とは言っていますが、政府批判を封じ込めるのに有効な「非常事態宣言」を解除したくないのでは・・・という政治目的が推測されます。

****タイ、日本からの入国緩和へ 非常事態宣言は延長**** 
(中略)一方、6月末が期限の非常事態宣言は1カ月間延長する。延長は3度目となる。

市中感染は1カ月以上確認されていないが、7月1日からバーや風俗店の営業再開を予定しており、感染の再拡大が懸念されるためだ。

プラユット首相は「外国では活動制限の緩和で感染者が増加している」と述べ、同宣言を継続する必要性を強調した。集会の禁止やメディアの検閲ができるため、権力維持に利用しているとの批判が上がっている。【6月29日 日経】
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【「事実上の軍政継続」プラユット政権 強まる「軍事色」】
プラユット政権は、クーデターで実権を掌握した軍事政権の流れを引き継ぐ政権で、政府批判やメディアへの対応において民主主義の観点からすれば問題もある政権です。

****タイ人活動家、カンボジアで拉致=自国首相批判直後、安否不明****
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は(6月)5日、カンボジアを拠点とするタイの反政府活動家ワンチャルーム氏(37)がプノンペンで何者かに拉致されたとして、カンボジア当局に調査と安全確保を求める声明を出した。HRWは「安否は分からない」と懸念を強めている。(中略)
 
ワンチャルーム氏はタイのプラユット首相が政権を掌握するきっかけとなった2014年5月のクーデター後に国外逃亡し、カンボジアからインターネット交流サイト(SNS)を通じ、タイ政府を批判するコメントを発信。3

日には「プラユット首相は国を統治できない」と非難する映像を投稿した。タイの裁判所は18年、コンピューター犯罪法違反の容疑で逮捕状を発付している。【6月6日 時事】
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政権の強権的姿勢はむしろ強まることも懸念されています。

****タイ与党党首に元陸軍司令官 学界出身と交代、「軍政色」強まる****
タイのプラユット政権の最大与党・国民国家の力党は27日、新党首にプラウィット副首相を選んだ。

プラウィット氏は元陸軍司令官で、学界出身の党首と交代した。ポスト配分などをめぐる内紛の末だが、プラウィット氏の党首就任で政権の「軍政色」はより強まった形だ。
 
2014年の軍事クーデターを陸軍司令官として主導し、軍事政権を率いたプラユット氏は、昨年3月の民政移管に向けた総選挙を経て首相に就任。軍政時代に続いて陸軍司令官の先輩であるプラウィット氏らを閣僚に迎え、「事実上の軍政継続」と批判された。
 
一方で、プラユット氏を支える国民国家の力党は党首、幹事長に文民をあてることで「軍政色」を薄めていた。だが、同党は寄り合い所帯で、閣僚ポストの配分などをめぐって内紛が発生。半数以上の役員が辞表を出し、党首や幹事長らの追い落としに動いた。
 
新党首のプラウィット氏は利害調整能力には定評があるが、野党や民主化勢力の反発が強まりそうだ。【6月23日 朝日】
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ウイルスよりも人間に問題がありそう・・・。

【国民の苦難に寄り添わない国王の施す「慈悲」は?】
問題と言えば、プラユット政権の強権色の他にも、国王に関しても。
プラユット首相は、国王を頂点としたタイの伝統的社会秩序を重視する立場ですが、肝心のワチラロンコン国王の国民的人気がプミポン前国王時代に比べると遠く及ばないという問題があります。

皇太子時代から素行には多くの問題がありましたが、国王に即位しても・・・。

****コロナ禍で愛人と“おこもり”したタイ国王 国民は前代未聞の王室批判を展開****
(中略)3月末、タイのチャクリー王朝10代目「ラーマ10世」ことワチラロンコン国王(67)の振る舞いが、世界を仰天させたのをご存じだろうか。舞台となったのは、タイから約9000キロ離れたドイツ。

国王は、側近数百人を引き連れ、アルプスを一望できる有名リゾート地・バイエルン州のガルミッシュ・パルテンキルヒェンにある高級ホテル「グランド・ホテル・ゾンネンビッヒル」を貸し切り、“コロナおこもり”ともいえる自主隔離生活を送っていたことが発覚した。(中略)

いうまでもなく、世界は新型コロナパンデミックの真っただ中。ドイツでも大規模な検疫が実施され、国境が封鎖されていたにもかかわらず、ドイツ当局はタイ国王の入国及び滞在を特別に許可していた。

さらに驚くべきは、国王ご一行の中には、愛人20人を伴っていたという事実。コロナ禍の最中に、ドイツで“ハーレム”状態にあったというのだ。
 
2016年12月に就任した国王は、3度の離婚歴の持ち主でもある。昨年5月には4人目の妻となるスティダー王妃と結婚している。ところが今回の自主隔離に、この新妻は同伴せず。『ビルト』は、「ドイツに同伴した国王側近のうち119人が新型コロナ感染疑惑でタイに送還された」と報じている。

『CEO WORLD Magazine』などによると、タイ国王は“世界一リッチな王”で、資産は約430億ドル。英エリザベス女王の個人資産の約80倍にも相当するという。(中略)

(タイでは)ロックダウン措置もとられ、予測されていた失業者数は1000万人。生活苦による無理心中なども発生し、まさに国家的な危機的事態にあった。
 
当然、タイの国民の怒りは爆発。タイ語で「我々はなぜ、国王が必要か」というハッシュタグが登場し、ツイッターには国王を批判する150万件以上の投稿が寄せられた。このタグは、一時タイ国内の「Twitterトレンドワード」トップになったほどだ。
 
厳しい批判を受けた国王は、歴代国王を恭敬する重要儀式のため、4月6日の「チャックリー王朝の日」に一時帰国したものの、翌日、ドイツにトンボ返り。(中略)
 
しかし、タイ国内でこうした国王批判が展開されるのは異例のこと。タイには、国王や王妃、王位継承者、さらには国王の愛犬の“ロイヤル・ドッグ”までも対象に、批判や侮辱を厳しく罰する「不敬罪」(刑法112条)が存在しているからだ。

これまで、例年、平均で数十人単位が逮捕・起訴されてきた(ちなみにロイヤル・ドッグを侮辱し、86日間拘留されたケースがある)。
 
こうした厳しい法律があるだけに、国民は王族批判を公には行えなかった。それだけに、今回の批判噴出は前代未聞といえるのだ。
 
ヌードパーティー映像が流出
タイ国民を唖然とさせた現国王の振る舞いは、実は今回が初めてではない。国王は皇太子時代からタイの王室行事には参加せず、1年の大半を王室が所有するドイツ・ミュンヘンの“別宅”で過ごしてきた。今回のスクープを放ったドイツ誌『ビルト』は、そんな国王の奇行ともいえる振る舞いをたびたび報じてきている。(中略)
 
王室めぐる政治事情
国王のスキャンダルが報じられるのには、ややきな臭い事情もありそうだ。(中略)
 
クーデター政権は、前国王の承認を得て成立している。王室は、軍事政権の正当化に利用されている節があり、ゆえに反軍事政権側(タクシン派)としてみれば、継承者である現国王および王室の権威失墜は、軍事政権打倒の活動の一環でもあるのだろう。ゆえに一連のスキャンダル発覚の背景には、タクシン派の思惑があるとの見立てもある。
 
実際、先に紹介したハッシュタグによる批判運動も、発端はパリで暮らすタクシン派のタイ人のフェイクブック投稿であるといわれている(英『インディペンデント』報道)。(中略)

さらに、スキャンダルが暴露される背景には、王位継承の事情もありそうだ。(中略)“世界一の資産”を巡り、現国王の流れを王室が継承していくことを快く思わない勢力もいるのだ。
 
タイでは5月2日から3日間にわたり国王戴冠1周年を祝う記念行事が予定されていたが、国王はドイツで自主隔離中のため、欠席。母国を顧みない国王によるこうした行動は、王本人や王政、背景にある軍事政権へのタイ国民の怒りをあぶり出した。

タクシン派と反タクシン派、さらに親国王派・反国王派の複雑化した対立構図も渦巻く。5月21日には、5月末までとされていた非常事態宣言を1ヶ月延長する方針が明かされた。これについても、感染拡大防止を建前に軍事政権は反政府活動を抑え込もうとしている、との見方もある。

コロナ禍が今後のタイの民主主義復活にどう影響するか、予断は許さないだろう。【5月27日 末永恵氏 デイリー新潮】
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上記記事にもあるようにタイには厳しい「不敬罪」があるので国王・王室批判はできません。上記のような記事はタイ国内ではもちろんご法度です。
ワチラロンコン国王も国民的不人気を気にしているのか、この不敬罪を一時的に停止する「慈悲」を施したとか。

****タイの「不敬罪」停止は手放しで歓迎できない****
最近バンコクーポスト紙に掲載された記事は、こんな言葉で始まっていた。「国王陛下の大権により不敬罪が一時停止されたことは、特筆すべきことである」(中略)
 
6月中に明らかになった不敬罪の一時停止を歓迎すべきニュースだと考える人もいるだろう。近年はあまり適用されていなかったが、この法律の下、ワチラロンコン現国王や王族を中傷したり、侮辱したり、敵意の対象にしたりした人物は、最高で15年、最低でも3年の禁鋼刑が科される場合がある。
 
タイのように言論の自由が十分に保障されていない国では、検閲的性格を帯びる法律の適用が停止されれば、普通は朗報と見なされるはずだ。
 
しかし、結論を早まらないほうがいい。あなたがタイの民主活動家なら、不敬罪の適用が続くほうがまだましだと思うかもしれない。不敬罪の一時停止は、国王の権力を弱めるものでもなければ、市民の自由を拡大するものでもないからだ。 

不敬罪が適用されなくなったとしても、言論の自由は改善しない。タイには、「コンピューター犯罪法」など、検閲のために用いることができる法律がほかにもある。つま、不敬罪がなくなっても、同じ発言を理由に投獄される可能性はなくならないのだ。
 
不敬罪の一時停止は、いま起きていることから目をそらさせる手段になっている。(中略)

不敬罪が一時停止されたのは、それが不当な法律だからではなく、国王が臣民に「慈悲」をかけたからだと、政府は位置付けている。つまり、民がその「慈悲」の気持ちを踏みにじる行動を取ったと見なされれば、不敬罪はいつ
でも復活できるのだ。【7月7日号 Newsweek日本語版】
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そもそも、この不敬罪一時停止が本当に実施されるのか?
1月には、激しい交通渋滞を更に悪化させている王族の通行に関し、やはり「国王の慈悲」に関するニュースがありました。

*****全面通行止めせず タイ王族車列の交通規制緩和****
タイ王室の公式ツイッターの12日の投稿によると、タイのワチラロンコン国王は王族の車列が通過する際の交通規制を緩和するよう交通警察に指示した。

これまでは、車列が走行する道路のほか、車列が走行する道路上の立体交差、高架高速道路などが一時通行止めとなっていた。今後は、走行する道路の一部レーンを車列専用とし、全面通行止めは行わない。立体交差、高架高速道路の利用も認める。

王族の車列をめぐっては、ラッシュアワーにバンコクの幹線道路が全面通行止めとなり、歩道橋の利用が禁止されるなどし、交通に支障が出ていた。

昨年には、サイレンを鳴らした救急車が王族の車列の通過にともなう通行止めで警察に停車させられたという情報と写真がインターネットの交流サイト(SNS)上で拡散し、警察の対応に対する批判が高まっていた。【1月14日 newsclip.be】
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3月にタイを観光した際に、バンコク在住のタイ人にこの件を話したところ、「何それ? そんな話全然知らない。国王が国民のために? 信じられない。日本ではそんなニュースが報じられているの?」という反応でした。

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