(パリで差別と警察の暴行を訴えるデモ行進【7月7日 FNNプライムオンライン】)
【「僕は嫌いじゃないよ、だって僕は白人だから」】
フランス共和制の重要な理念は「自由・平等・友愛」であり、人種や宗教の違いによる差別をせず、助け合っていくのがフランス社会の伝統的な価値観・・・・のはずですが、そのフランスで、アメリカにおける黒人差別への抗議運動に連動する形で、フランス社会における人種差別への抗議運動が広がっています。
人種差別の象徴とされているのは、2016年に黒人のアダマ・トラオレ氏が3人の白人警察官に職務質問され連行される途中に死亡した事件であり、差別への抗議の矢面に立っているのは警察です。
****黒人アダマ・トラオレ氏の事件*****
黒人男性のアダマ・トラオレ氏は、2016年9月パリ北西部で口論から3人の治安部隊に拘束されたあと呼吸困難を訴え、移送される車の中で意識を失い、その後死亡した。
遺族は治安部隊の暴行と拘束方法が死亡の原因だと訴えたが、警察当局は検視の結果、トラオレ氏に持病があったと発表した。
問題はトラオレ氏を拘束した3人以外、逮捕の瞬間を目撃した人も、監視カメラの映像もなく、彼らの証言と検視官の判断のみで死因が結論づけられたことだ。
遺族側も担当判事側も死因が「窒息死」という点では一致している。だが、その原因が、暴行なのか持病のためなのかについては対立している。
事件が発生してからすでに4年近くが経つが、トラオレ氏の死因については、いまだに真相が明らかになっていない。【7月7日 FNNプライムオンライン】
****************
日本では、警察官に対しては「おまわりさん」というような信頼・親近感もありますが(もちろん、それとは異なる面もあります)、フランスでは、と言うより日本以外では事情が異なります。
そもそもの“高圧的”な存在に加え、“人種”に対する問題も指摘されています。
****フランス警察が抱える人種差別問題 現地在住の日本人が今も忘れない酷い扱い*****
アメリカのジョージ・フロイド氏の死をきっかけに広がった「#Black Lives Matter」は、フランスにとっても他人事ではありません。黒人差別や警察の横暴に対するデモが全土で行われています。
フランスでも2016年、黒人のアダマ・トラオレ氏が、3人の白人警察官に職務質問され連行される途中に死亡するという、フロイド氏と同じような事件が起きています。健康だった若い男性の突然死に、家族は死因の再調査を求めたところ、「圧死の疑い」という結果が出て、白人警察官による暴行死ではないかとされているのです。
コロナ禍の影響で10人以上の集会が禁止されているにも関わらず、若者を中心にフランス各地で計約2万3千人が集まるなど、フロイド氏の事件をきっかけに4年前の抗議活動が再燃しています。
とはいえ、警察はトラオレ氏の死の責任が自分たちにあるとは認めていません。国家警察委員組合も「警察による人種差別と暴力に関する議論は、政治的、イデオロギー的な少数派によって行われている。彼らは選挙や裁判において勝てないために暴動を起こしている」という声明を出しています。
ゼロトレランスが招いた警察からの反発
一方、警察を管轄するクリストフ・カスタネール内務大臣は、フロイド氏の事件を受けて、「フランスは警察、憲兵隊による人種差別に対してはゼロトレランス(一切許容しない)」、また「フランスでは(フロイド氏の事件のような)首を絞める拘束の仕方が今後行われないようにする」と発言し、警察からの反発を招いています。
大臣のこの発言後、フランス全土で警察官が大臣への怒りの表明として「手錠を地面に捨てる」という抗議活動をしています。
警察と人種差別へ抗議する人達との溝が深まるばかりか、大臣と警察も内輪もめを始めてしまいました。
そもそも日本とフランスの警察は、同じ治安維持を目的としている組織でもイメージはかなり違います。日本の場合は交番の存在もあり、犯罪に関することだけでなく、落とし物を届けたり、道を聞いたり、迷子を捜してもらったりするので、一般市民にとって身近な存在です。
それに比べ、フランスには交番はなく、パリ市内は基本的に1つの区に1つずつ、市町村にもそれぞれ1つの警察署があるだけです。日本の「おまわりさん」のような親しみのある呼び名もありません。
昨年、ガソリン税の値上げをきっかけにフランス全土に広がったデモ「黄色いベスト」などでも、警察官やパトカーが襲われたりするなど、一般市民との衝突や争いが多く見受けられます。
また、フランスで起こるデモや抗議活動では、「みんな警察を嫌っている」という文言がたびたび使われます。
フランスの警察というと、高圧的で、デモや暴動を鎮圧する役割というイメージが強く、少なくとも日本のような「市民を助けてくれる」という印象はないようです。
とはいえ、白人のフランス人に単刀直入に警察についてフランス人は警察が嫌いなのかと聞くと、「いや、嫌いということはない」「時と場合によるのでは?」と、あいまいな返事が多いのです。
ある50代の白人男性が「僕は嫌いじゃないよ、だって僕は白人だから」とはっきり言ったのを聞いた時は、ブラックジョークかと思いました。少なくとも警察官から不快な思いをさせられた経験のある白人は、私の周囲にはいません。
これは、フランスの警察には圧倒的に白人が多いことと深く関係していると思います。フランス人に「フランスで黒人の警察官を見た記憶がない」と言うと、「…いないことはないと思う」「少ないかもしれないけど、黒人警察官もいるはず」と言われました。
人種別の人口統計はありませんが、少なくともパリ市内を歩けば黒人はたくさんいます。その一方で、白人警察官は街中で見かけるのに、黒人警察官を見かけたことはありません。例えば、「フランス 警察」とインターネットで画像検索してみても、黒人の警察官はまず見つかりません。
また警察官全員ではないでしょうが、警察官の中に人種差別主義的な人が多いのは事実のようです。
例えば、6月5日に「StreetPress」というウェブメディアによって、フェイスブック上にある「TN Rabiot Police Officiel」という警察官のプライベートグループで、人種差別的、或いは外国人を揶揄・嘲笑する会話が数多くされていると暴露されました。
このグループのメンバーになるには警察官のIDなどが必要で、警察関係者約8000人登録していると報じられています。
このグループの目的は「公安・警察の仕事と使命に関する情報、討論」だったようですが、報じられたスクリーンショットは衝撃的なものでした。黒人に対する悪口(汚い言葉遣い)が散見され、「このような黒人を野放しにしているのがこの国だ」、「反白人主義の人間たち(=黒人)め」といったコメントがいくつもありました。
「フランスでは警察に遭遇すると危険を感じる人達が多く、私もその一人です」とテレビで話した黒人女性歌手の容姿を侮辱したり売春婦呼ばわりしたり、「この女の顔に排泄して顔じゅうに広げて変なことを言えないようにしてやりたい」などと、気分が悪くなるコメントもありました。
警察による暴行への抗議デモを中心になって行っているトラオレ氏の家族への中傷など、読むに堪えないような内容が少なくありませんでした。
StreetPressの報道を受けてTN Rabiot Police Officielには多くの非難の声が上がり、検察による捜査も行われているようです。このほか、WhatsAppというメッセージアプリで人種差別的なコメントをした6人の警察官に懲戒処分が行われたという報道もありました。
実際、黒人は街を歩いていると、よく職務質問されます。フランスのTF1というテレビ局では、「フランスの移民系の若者たちは、他の若者に比べて職務質問に合う可能性が20倍高い」という調査を紹介していました。またDIJONCTER.infoいうウェブメディアは「警察に殺された人の内90%は移民である」と述べています。(中略)
警察官の差別意識
でも、よく考えれば、警察官が高圧的な態度を取ることと、人種差別をすることは別の問題のはずです。本来なら、切り分けて考えるべきものでしょう。
高圧的な態度を取るのは、デモで暴徒を鎮圧するなど、いわゆる取り締まりにおいて必要とされているのでしょう。ですから、警察だからと親切さや優しさを期待することがそもそも間違っているのかもしれません。
では、なぜフランスの警察官には差別意識を持つ人がいるのでしょうか。
人種差別に関しては、元々の思想の問題でもあります。フランスの警察官は半数以上が右派を支持していて、左派を支持する割合は10%以下という調査もあります。そして右派は「反移民」をスローガンに掲げています。
フランスに移民として住む外国人にそもそも良い感情を抱いておらず、しかも移民の中にはオーバーステイ(ビザの期限が切れているのに帰国しない)など不法滞在者がいるのも事実です。そういった取り締まりも警察が行っているわけで、白人を職務質問しても自国民のフランス人である可能性が高く、自然と「外国人」の可能性の高い黒人やアジア人に目が行くのかもしれません。
加えてフランスの近代警察の発祥は、植民地からの移民や貧民の統制、抑え込みであったと言われています。一般的に、移民は貧困層の地区に住んでいる人も多く、そのような地区は犯罪率が高いというイメージもあり、差別意識を持つ根底には移民問題や犯罪率などが複雑に関係しているのでしょう。
しかし、肌の色だけで黒人やアジア人を何かと疑ってかかり、相手をはなから犯罪者扱いして威圧したり、ケガをさせたりすることは許されません。(後略)【7月6日 ヴェイサードゆうこ氏 デイリー新潮】
*******************
【「奴隷制はジェノサイドではなかった。でなければ、アフリカや英国にこれほど多くのいまいましい黒人はいなかっただろう。」】
イギリスでも人種差別への批判が高まっていますが、そうした中で、ある意味“差別する側”の本音を示したような騒動が。
****英歴史教授、ケンブリッジ大を辞任 奴隷制めぐり「いまいましい黒人」と発言****
「奴隷制はジェノサイド(大量虐殺)ではなかった」と発言した英国の歴史学者が、ケンブリッジ大学の名誉フェローを辞任したことが分かった。出版大手ハーパーコリンズも、今後は同氏の著書を出版しないと発表した。
デービッド・スターキー教授は、英チューダー朝が専門。チューダー王家が英国を治めていた1500年代は、欧州諸国がカリブ海や南北米大陸で植民地を拡大し、奴隷貿易が盛んに行われていた。
スターキー氏は6月30日、右派の英国人コメンテーター、ダレン・グライムズ氏とのオンラインインタビューで「Black Lives Matter(黒人の命は大切)」運動について、「米国の黒人文化の最悪な側面」を象徴していると発言。次のように続けた。
「奴隷制はジェノサイドではなかった。でなければ、アフリカや英国にこれほど多くのいまいましい黒人はいなかっただろう。かなり大勢が生き残ったということだ」
「英国では1830年代に奴隷制を廃止したが、ほぼ同時にカトリック教徒解放が起きた。われわれは、それについてわめき散らしたりしない。歴史の一部であり、もう解決された問題だからだ」
この発言に対し、パキスタン系のサジド・ジャビド前英財務相は今月2日、ツイッターへの投稿でスターキー氏を「人種差別主義者」と非難した。ジャビド氏は以前から、パキスタンから英国に来た父親が差別に直面したことを語っている。
ジャビド氏のツイートが英メディアで報じられた翌日、ケンブリッジ大学フィッツウィリアム・カレッジはスターキー氏の辞表を受理した。また、スターキー氏が客員教授を務めていたカンタベリー・クライスト・チャーチ大学も、同氏を解任した。
ハーパーコリンズ英国法人は、スターキー氏の見解を「道徳的に許し難い」と指摘。同氏の著作の出版は今後一切行わないと表明するとともに、同社から出版された過去の著作についても、同氏の発言や見解を踏まえた再調査を行っていることを明らかにした。 【7月6日 AFP】
********************
【トランプ氏の新たな戦略は、リベラル的価値観と戦う「文化戦争」】
一方、一連の人種差別批判の震源地アメリカでは、トランプ大統領は差別批判を逆手にとって、抗議行動への白人保守層の不満・不安を煽る形で、自身の再選に向けた推進力に変えようとしています。
****トランプ政権、機能不全 分断・権力乱用の果て、自分第一に変質 アメリカ総局・園田耕司****
6月20日、米オクラホマ州タルサで開かれたトランプ大統領の選挙集会の参加者はほとんど白人で、マスクを着けていなかった。
赤い帽子の老夫婦は、イリノイ州から10時間かけて車を運転してきたと笑ったが、人種差別抗議デモについて聞くと顔を曇らせた。「『黒人の命も大事』と言うけど、みんなの命が大事だ。彼らは店を燃やすなどしているからね」
トランプ支持者は被害者意識と攻撃性を併せ持つ。白人優位からマイノリティー優位の社会に変わるという恐怖感。社会の多様化を後押しする民主党やメディアへの嫌悪感。そんな彼らが応援するのがトランプ氏だ。
新型コロナウイルスの直撃で、好調な経済を強みとしてきたトランプ氏の大統領選再選戦略は破綻(はたん)した。しかもコロナ対応の遅れなどが批判され、「人々の関心を変える必要が出てきた」(元トランプ政権高官)。そこにミネアポリス事件が起きた。
トランプ氏の新たな戦略は、リベラル的価値観と戦う「文化戦争」だ。人種差別抗議では警察側に立ち「法と秩序」を訴える。マスクを着けなかったのは支持層と重なる右派が「個人の自由」から着用に反対するからだ。
だが、文化戦争は社会の分断を深める。6月末には白人男性が「ホワイト・パワー(白人の力)」と叫ぶ動画にトランプ氏は「素晴らしい人たち、ありがとう」とコメントをつけてツイッターに投稿。世論調査で民主党のバイデン氏に差を広げられつつある中で、人種差別的な言葉を使ってでも中核の支持者を固めようとしている。(後略)【7月6日 朝日】
***************************
ほかにも、以下のような“敢えて対立をあおるような”言動が報じられています。
“「米英雄の国立公園」新設…トランプ氏の突然の提案に浮上する疑問”【7月6日 朝日】
“黒人レーサーの告発は「作り話」=トランプ氏が一方的非難―米”【7月7日 時事】
“米先住民由来チーム名変更に異議 トランプ大統領、配慮しすぎと”【7月7日 共同】
“トランプ米大統領、南軍旗を擁護 白人保守層にアピール”【7月7日 共同】
このあたりが並みの政治家とは異なる、どうしたら支持者の心をつかめるかを熟知しているトランプ大統領の真骨頂であり、彼が大統領になれたのも、また、再選を狙う位置にあるのも、このしたたかさがあってのことでしょう。
ただ、トランプ氏自身はそれで再選できるかもしれませんが、引き裂かれたアメリカ社会はどうなるのか?
そんなことにはお構いなしのトランプ大統領です。
【中国・日本では】
欧米だけの問題ではありません。
中国も黒人差別が顕著な国で、新型コロナに関して広州で黒人がアパートから追い出される、レストラン・タクシーも黒人を拒否するといった騒ぎがあり、アフリカ諸国が抗議するといったこともありました。
日本では、表立った露骨な差別はさほど多くないようにも見えますが・・・・どうでしょうか?
“言葉だけのリスペクトでは「無意識の差別」は防げない 歴史や文化に興味を持たない日本人が犯している罪”【7月7日 47NEWS】