孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ブラジル  感染爆発のなかでコロナ軽視のボルソナロ大統領の支持率上昇 キーワード「働くこと」

2020-07-25 23:04:07 | ラテンアメリカ

(【7月20日 TBS NEWS】 マスクを外して(一定の距離が保たれていた)支持者に語りかけるコロナ陽性のボルソナロ大統領 記者会見中にもマスクを外し報道協会が提訴する方針を発表・・・・といった騒ぎにも。このときは記者団から2メートルほど離れた際、マスクを外し、彼なりに気を使ったのでは・・・との声も)

 

【世界第2位、200万人超の感染拡大のなかで“通常の生活を少しずつ取り戻しつつある”】

ブラジルやアルゼンチンなど中南米で新型コロナが猛威を振るっているのは周知のところです。

 

その中南米でも、アメリカに次ぐ世界第2位の感染者を出しているのが地域大国ブラジル。

“ブラジルの保健省によりますと、22日までの感染者は222万7514人、死者は8万2771人に上っています。また、一日の新たな感染者は6万7860人と過去最多を更新しました。”【7月24日 テレ朝news】

 

感染拡大は続いていますが、インドなど貧困を抱える諸国同様に、失業や貧困の深刻化に耐え切れず経済再開を進めており、それがまた感染拡大を招くという状況にもなっています。

 

*****ブラジル、感染者200万人=経済再開の流れは止まらず―新型コロナ****

ブラジル保健省は16日、新型コロナウイルスの累計感染者が201万2151人、死者が7万6688人になったと発表した。ともに米国に次いで世界で2番目に多い。(中略)

 

感染確認は1日4万人前後で推移しており、1カ月足らずで100万人増加した。人口10万人当たりの感染者数は日本の約53倍に当たる957.5人。感染者には新型コロナを軽視してきたボルソナロ大統領(65)も含まれている。

 

ブラジルでは、感染者が急増した3月下旬から各州・市が商業施設閉鎖などの対策を実施。しかし、失業や貧困の深刻化に耐え切れず、6月に入ってから経済を回し始め、一部の州ではプロサッカーも再開している。市民は収まる気配のないコロナ禍におびえながらも、通常の生活を少しずつ取り戻しつつある。

 

感染者が最も多い最大都市サンパウロは、市民68人に1人が感染した計算になる。同市在住の日系3世の大学生トシロウ・トクヨシさん(31)は「他の国と異なり、最も深刻な時期に経済が再開している。政治家は確かに無責任で怠慢だが、人道危機に対応する社会的態勢が整っていないという現実もある」と嘆く。【7月17日 時事】 

*******************

 

人口1200万人のサンパウロでは累計感染者が20万人、死者が9000人に上っており、市民60人に1人が感染した計算となります。【7月25日 時事より】

 

1日4万人の新規感染者で、累計では200万人を超える感染拡大のなかで“通常の生活を少しずつ取り戻しつつある”・・・・1日数百人の感染者で大騒ぎしている日本からはなかなか想像できませんが、その一端を示す風俗業の現状に関するレポートが↓。

 

****昼間に営業されても…」 時短営業で“閑古鳥”の風俗の現状を丸山ゴンザレスが解説****
■明暗わかれる風俗業界

コロナ禍で世界中がパニックに陥っている。なかでも異様な状況なのがブラジルだ。ボルソナロ大統領が新型コロナウイルスを軽視する発言を続けており、会見の最中にあえてマスクを外すパフォーマンスを見せるなど、徹底的な「コロナ軽視」の姿勢である。

だが、言うまでもなくブラジル国内は深刻な状況だ。いまや感染者の累計は215万人を超え、米国に次いで感染者数第2位(7月22日現在)である。ブラジルの一般市民たちはどう思っているのだろうか。サンパウロ在住の友人は「みんな食うのに必死だから、今も普通に働いている」と話す。

しかし、経済が順調に回っているかといえば、そうではない。友人によれば、「失業者が目に見えて増えている」といい、経済的なダメージは大きいようだ。

それは“風俗業界”についても同様である。ブラジルの風俗にはいくつかの種類があるが、代表的なのが「ボアッチ」である。

 

ボアッチとは、大きなホールで食事や酒を楽しみながら、店内にいる女性を交渉次第でホテルへ連れ出せるというものだ。これはブラジルの風俗としては伝統的なスタイルである。だがボアッチの場合、店内で大勢の人が密集してしまうこともあり、いまだに多くの店が夜間営業を休止しているという。

「昼から夕方までは営業しているけど、風俗店がその時間に開いていてもね…」
友人が指摘するように、多くの店では閑古鳥が鳴いているという。

一方で、『丸山ゴンザレスが香港の“風俗マンション”に潜入してみたら…』(1月16日配信)で紹介した「置屋」のように、一対一で対面する風俗であれば“密”になることもなく、新型コロナウイルスを気にしない人が行くこともあるようだ。

「ブラジル人はあまり気にしないで出歩いています。出歩かないほうが少数派ですよ」

歓楽街のヴィラミモザで働いている女性たちの多くは低所得者層とされており、今後、経済的に困窮する人が出てくるかもしれない。感染のリスクがあっても、彼女たちは働かざるを得ないのである。【7月23日 丸山ゴンザレス氏 AERAdot.】

*******************

 

【奇異な言動で批判も多いボルソナロ大統領 支持率上昇で再選も可能な状況】

こうした感染拡大が続く状況で、日本のメディアに大きく取り上げられているのは、極右政治家ボルソナロ大統領の「コロナは風邪のようなもの」といった新型コロナを軽視した“奇行”ともいえる言動で、本人も感染して隔離されているのは周知のところです。

 

「それみたことか」とも言われそうですが、大統領本人は相変わらずで、“ボルソナロ大統領は、3度目のPCR検査でも陽性反応が確認されましたが、支持者の前に姿を現すなど自主隔離を軽視しています。” 【7月24日 テレ朝news】とのこと。

 

そのボルソナロ大統領、国際的にはボロクソですし、国内的にも感染防止対策を重視する州政府と激しく対立し、国民の間でも批判が高まっていました。

 

私個人は、ボルソナロ大統領の極右的、差別容認的言動は大嫌いですが、ただ、新型コロナに関しては「国民の多くは働かないと生きていけない」とする彼の主張には一定に共感する部分もあります。

 

ブラジルのような社会で、ソーシャルディスタンスを保つとか、自宅で自粛するというのは、それが可能な中産階級の価値観であり、どうしても生きるために外で働かなければいけない、自宅そのものが三密状態の貧困層の利害を反映していないのでは・・・という感じも。

 

実際、州政府の外出規制に対し、働くことを求めて抗議するデモなども起きていました。

 

そして今、大統領の支持率は・・・・コロナ以前よりは落ちてはいるものの一定の水準を維持しており、むしろ最近は上昇気味で、再選も可能なレベルにあるようです。

 

****ブラジル大統領、コロナ対応で批判浴びるも支持率上昇 世論調査****

ブラジルで今週発表された3社の世論調査で、同国のジャイル・ボルソナロ大統領の支持率が上昇し、新型コロナウイルス危機への対処をめぐって物議を醸しているにもかかわらず、2022年の大統領選で再選する可能性が高いことが分かった。

 

「熱帯のトランプ」とも称される極右のボルソナロ大統領は、国内で新型ウイルスが爆発的に広がっているにもかかわらず、感染拡大を軽視する発言をして現在、自身も感染している。同国は感染者数・死者数ともに米国に次いで世界で2番目に多い。

 

しかし、24日に発表された世論調査の結果によると、ボルソナロ氏は危機を比較的うまく切り抜けているようだ。

 

ニュース週刊誌ベジャに24日に掲載された最新の世論調査結果では、ボルソナロ氏は次期大統領選において、対立候補次第で得票率27.5〜30.7%を獲得し、第1回目の投票でリードする可能性が高い。

 

多くの支持を集めている強敵のセルジオ・モロ元法務・公安相や、左派のルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ元大統領らが相手でも、決選投票で圧勝するとみられている。

 

一方、ニュースサイト「Poder360」が23日に発表した世論調査結果では、ボルソナロ氏の支持率は2週間前の40%から43%に上昇。不支持率は1ポイント減り、46%だった。

 

同サイトによると、新型コロナウイルスの緊急援助金の受給者の間では、ボルソナロ氏の支持率は52%に上った。この援助金は、外出制限措置で経済的影響を受けている貧困層を支援する目的で、一人当たり月600レアル(約1万2000円)が支払われている。

 

証券会社のXPインベスティメントスが20日に発表した世論調査では、ボルソナロ氏の支持率は5月の25%から30%に上昇した一方、不支持率は同50%より下がり45%だった。 【7月25日 AFP】

********************

 

【貧困層から白人富裕層 多彩な支持層のキーワードは「働くこと」】

ボルソナロ大統領の支持者は、自粛できずに働くことを求める、あるいは緊急援助金に期待する貧困層かといえば、それだけでもなく、むしろ積極的な支持層は極右体質に共鳴する白人富裕層とか。

 

****ボルソナーロ大統領でブラジルはカオス状態 コロナ感染者は今後も激増、軍事政権復活をのぞむ声****

(中略)これでは大統領の支持者も離れていくような気もするが……。

 

「大統領の支持率は今年初めに50%近くありましたが、コロナの感染拡大の影響で30%くらいに落ちています。ただ、大統領の支持は依然として根強くあります。支持しているのは白人の富裕層で、彼らは今年の3月から6月にかけて反民主主義デモを行っています。“反連邦議会・反最高裁”を主張し、ブラジルの軍事政権(1964〜1985年)の復活を訴えています」(同)

 

いまさら軍事政権とは……。

「ブラジルの民主主義では汚職が蔓延している。軍事政権時代は統率されていて汚職が少なかったというのが、軍事政権復活を望む理由です。ブラジルでは、今も国民の2割が軍事政権のほうが良かったと考えています。

 

反民主主義デモには、大統領派の下院議員4人の議員割当金から約15万レアル(約300万円)が使われています。このデモには、大統領も時々参加し、閣僚に軍の経験者を次々に送り込んだことも、反民主主義デモを勢いづかせています」(同)

 

これに対して司法当局は、民主主義は憲法で規定されているので、反民主主義は憲法違反になると主張。さらに、デモに大統領派の下院議員の割当金が使われていたこともメディアに報じられ、デモは6月下旬に中止に追い込まれた。(中略)

 

ボウソナーロ大統領は現在、新党「ブラジル同盟」を結成準備中という。まさか本気で軍事政権の復活を目指すつもりではあるまい。【7月14日 デイリー新潮】

********************

 

貧困層と白人富裕層・・・・そこに共通するキーワードは「働くこと」であるとの指摘も。

 

****ボルソナーロ大統領の新型コロナ対応を探る(ブラジル)****

ブラジルは4月から、新型コロナの急速な感染拡大期に入った。そうした中、ジャイール・ボルソナーロ大統領が新型コロナウイルスを「単なる風邪だ」と発言し、パン屋を訪問して支持者と写真撮影する姿がメディアで放映された。

 

一見して人命軽視や危機感のなさに映る大統領の行動は、当初、国民から批判を浴びメディアの格好の標的となった。しかし、毎週末に行う商店への訪問を一向にやめようとしない。一体なぜ、大統領は批判を受けても止めようとしないのか。

 

その背景には、ブラジル社会を二分する大きな意見対立がある。ブラジル全土では現在、ロックダウンは行っておらず、制限措置の内容は各州知事の判断にゆだねられている。ブラジル保健省は、自宅に待機して外部との距離を取るよう要請している。(中略)

 

対して、ボルソナーロ大統領は柔軟な措置を推奨している。重症化リスクの高い高齢者などだけに限定して、行動を制限する措置を主張しているのだ。(中略)

 

ボルソナーロ大統領の真意は

主要州の知事や保健相と対立しながらも、ボルソナーロ大統領が主張したいことはなんだろうか。ブラジル国営メディア(EBC)によると、大統領は4月12日に以下のメッセージを発信している。(中略)

 

ブラジルは国民1人1人が現実に備えるためパニックにならず、「本当に起こっていること」を把握する必要がある。

新型コロナ感染が流行する中でも、国民は自由を必要とする。

多くの商業施設閉鎖といった社会活動制限措置に伴う経済的損失を懸念する。とりわけ観光業やレストラン部門などは甚大な損失を被っている。

州政府・各都市が現在実施している社会活動制限措置を終了して、高齢者や慢性疾患などのリスクがある人に限定した外出禁止措置を講ずる。40歳未満の若者や健康な成人は、通常通り仕事をする。

 

財政出動による経済対策だけでは限界

また、ボルソナーロ大統領は、財政赤字の大幅な増加を覚悟で、経済対策を講じている。連邦政府は、新型コロナの感染拡大防止措置の導入に伴い、以下を発表している。

 

中小零細企業への融資や課税停止などによる雇用維持 弱者への資金提供・救済 医療資材調達や体制の強化

 

観光、航空など影響の大きい特定産業へのつなぎ融資などを目的とした緊急経済対策実施

中でも、目玉は中小零細企業への融資や企業の雇用維持と、低所得者への資金提供・救済だ。低所得者救済策は、3カ月間にわたり1人当たり月額600レアル(約1万2,000円、1レアル=約20円)を支給するもの。(中略)

 

連邦政府としては財政悪化を覚悟で打つべき手は打っており、これ以上の財政支出は厳しい。これが、ボルソナーロ大統領が制限措置の緩和を主張する理由の1つだ。

 

ボルソナーロ大統領は2020年4月9日、「国家の活動が3〜4カ月以内に正常化しないと経済シナリオは混乱する」と述べている。新型コロナとの闘いで多額の財政出動をしており、「川にかかる橋が崩壊寸前だ」とも強調した。

 

ボルソナーロへの投票を後悔した人は全体の17%に過ぎず

ブラジル国民は当初、支持者などと積極的に握手を交わしセルフィ―写真を撮影するボルソナーロ大統領の行動を批判し、夕食時に鍋をたたいて抗議する姿勢を示す「パネラッソ」を行っていた。(中略)

 

しかし、州政府による厳格な措置に反対するデモが4月11日、12日、18日に発生。デモ参加者は「我々は働きたい」と訴え、逆に、制限措置を継続し、場合によってはより厳格な措置を辞さない構えのドリア・サンパウロ州知事の辞任を求めている。

 

4月1~3日に実施された世論調査ダータ・フォーリャによると、2018年の大統領選挙の決選投票でボルソナーロ大統領に投票した有権者を対象とした問い「ボルソナーロ氏への投票を後悔しているか」に「はい」と答えた人は、17%に過ぎなかった。これに対し、「いいえ」が83%に及ぶ。(中略)

 

働く自由と私有財産は「守るべき神聖なもの」

そもそも、ボルソナーロ大統領は2018年大統領選で有権者に何を公約していたのか。(中略)

 

ブラジル国家を真の所有者であるブラジル人に戻す政府 そして、最も大事な選挙公約として、「人生の果実は神聖なもの!」と題して以下を訴えている。

 

ブラジルは多様な意見、多様な肌の色、多様な志向を持つ国。人々は自由に自分の人生を選択し、その選択で果実を生まなければならない。

 

国は他人の生活の本質的な側面に干渉しないことを条件とする。(中略)

 

働く自由を奪われた有権者の悲痛な叫び

このボルソナーロ大統領の公約を、2018年の大統領選で支持した有権者は誰か。それは、過去の労働者党左派政権の支持母体である労働組合組織でも、過去の政権と癒着した企業家でもなく、露天商、職人、商店主、個人運送業、家政婦、家族経営農家、農園主、農家、企業家、実業家らだ。

 

ファベーラと呼ばれる貧民街に住む人から富を築いた人までさまざまで、共通したキーワードは「働くこと」。

ハングリー精神を有し、さまざまな人生の夢の実現、家族を養うために働く人々である。

 

その歴史的な原点は、多くがキリスト教を信仰する移民開拓者(エバンジェリカと呼ばれるキリスト教福音派の人々も、その一部)に求められる。

 

ボルソナーロ政権の主要閣僚は、(1)キリスト教福音派、(2)軍人、(3)自由主義経済を唱える知識人、(4)汚職撲滅・治安専門家、(5)族議員で構成されており、大統領の中心的な支持基盤はキリスト教福音派と自由主義政治思想によるイデオロギーグループとなっている。

 

新型コロナ感染拡大防止のために自治体が課している措置は、国民の働く権利、人生の夢、生活を奪ってしまうという側面がある。(中略)

 

ボルソナーロ大統領は諦めない

大統領は、2019年のクリスマス前と2020年4月の第2週に演説を行った。2018年の大統選挙遊説中に腹部を刺される事件に巻き込まれながらも当選を果たしたわけだが、大統領選で公約した国民の働く権利、生活を守る活動をやめてはいない。大統領の年齢は65歳。商店への訪問は、死のリスクを覚悟した訪問とも言えるだろう。

 

大統領が提案するのは、高齢者や慢性疾患などのリスクがある人に限定した措置だ。新型コロナ感染が拡大する中でも国民の働く権利、そして人生の夢と暮らしを守るというのが、その狙いなのである。(中略)

 

大統領の行動が正しいか否かは今後、証明されることになるだろうが、大統領の行動は、有権者と約束した働く自由と生活を守るためのものであり、国民の一定の理解を得ていることを強調したい。【5月13日 大久保 敦氏(ジェトロ・サンパウロ事務所長) JETRO】

*****************

 

上記レポートが書かれてから2か月以上が経過し、状況は変化しています。

また、ややボルソナロ大統領に好意的に過ぎるような感も。

 

ただ、世界第2位の深刻な感染拡大に見舞われながらも、これを軽視する大統領の支持率が落ちない、むしろ上昇する動きも・・・という現状を理解するうえで一助となりそうです。

 

【追加】“ブラジルのボルソナロ大統領は25日、PCR検査で陰性となったとツイッターで明らかにした。”【7月25日 共同】

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする