孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

EU 異例の長期協議を経てコロナ復興基金創設で合意 その存在感を示す

2020-07-21 22:43:56 | 欧州情勢

(記者会見後、笑顔で撮影に応じたミシェルEU大統領(右)とフォンデアライエン欧州委員長(21日、ブリュッセル)【7月21日 日経】 両氏の笑顔が協議の成功を物語っています。)

 

【ミシェルEU大統領「EUは共に行動できることを示した」】

新型コロナウイルス禍で落ち込んだ経済の立て直しに向けたEUの「復興基金」創設に関する協議は、イタリアやスペインなど、被害が大きく財政基盤の弱い国々が補助金中心の構成を求めたのに対し、財政規律を重視するオランダやオーストリアなどが、補助金と融資の割合を変えることや、補助金の配分について厳格な審査を求めて譲らず、異例のロングラン協議になりました。

 

難しい協議の結果、結論先送りではなく、補助金に対し融資の割合を増やす形で合意にこぎつけ、EUの存在を一定にアピールすることにもなりました。

 

****EU「復興基金」創設で合意 共同債で92兆円調達、連帯示す****

欧州連合(EU)首脳会議は21日、新型コロナウイルスで打撃を受けた経済再建に向け、7500億ユーロ(約92兆円)の「復興基金」の設立に合意した。EUが危機対応のため、債務を共有する初の仕組みで、財政統合に新たな一歩を踏み出した。

 

復興基金はEUの欧州委員会が債権を発行し、金融市場で全額調達。EU予算に組み込み、ウイルス被害国に対し、医療や景気対策のため支給する。総額7500億ユーロのうち3900億ユーロは返済義務のない補助金。3600億ユーロは返済義務がある融資とされる。

 

17日に始まった協議は5日間に及び、EU史上最も長い首脳会議となった。協議が難航したのは、財政規律を重んじるオランダやスウェーデンなど5カ国が「原則融資にすべきだ」と主張したため。共通債務で自国の負担が増えることを嫌った。

 

ミシェルEU大統領が20日、当初案で5千億ユーロだった補助金を圧縮して融資分を増やすなどの妥協案を提示し、合意が成立した。

 

シェル氏は21日の記者会見で、「EUは共に行動できることを示した」と述べた。EUは復興基金とあわせて、総額1兆740億ユーロの2021〜27年中期予算案でも合意した。【7月21日 産経】

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各国は、これらの財源を景気対策や環境、デジタル分野などへの投資に優先的に使って経済再建と雇用拡大などを同時に目指すことになり、合意によってEUが経済を立て直すことができるかどうかが注目されます。

資金はEUの執行機関、ヨーロッパ委員会が債券を発行して市場で調達するため、事実上、各国が共同で債務を負うことになり、EUの財政政策の統合に道を開く可能性もあると指摘されています。【7月21日 NHK】

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【マクロン大統領「ヨーロッパにとって歴史的な日だ」】

協議を主導したフランスのマクロン大統領は、みずからのツイッターに「ヨーロッパにとって歴史的な日だ」と投稿して、その意義を強調しました。

 

****独仏首脳 合意の意義強調****

EUの経済の立て直しに向けた基金の設立に向けて、議論を主導してきたドイツのメルケル首相と、フランスのマクロン大統領は21日、共同で会見を行い、首脳会議での合意の意義を強調しました。

この中でメルケル首相は「とてもほっとしている。今回はやり遂げることができた」と述べて、予定を大幅に延長して行われた厳しい協議を振り返りました。

そのうえで「異なる背景をもつ27の加盟国からなるEUが、ともに行動できることは、ヨーロッパを越えて重要なシグナルになる」と述べ、新型コロナウイルスの感染拡大が世界的に続く中、多国間で協調する重要性を訴えました。

また、マクロン大統領は「合意できなければ今後、数か月、あるいは数年、もっと多くの出費を迫られていた」と述べて、今回の首脳会議で合意に至った重要性を強調しました。

マクロン大統領は今回、設立された復興基金でEU加盟国の共同の責任のもと、市場から資金を調達する仕組みが盛り込まれたことについて「ヨーロッパの結束に基づく復興基金は、ヨーロッパにとって。そしてユーロ圏にとって歴史的な変化だ」と指摘しました。【7月21日 NHK】

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【メルケル首相の決断「EU弱体化はドイツ経済にも打撃になる」】

各国が共同で債務を負うことについては、結果的に財政力の強いドイツなどが負担することにもなり、ドイツ国内には以前からそうしたスタイルには強い抵抗がありましたが、今回メルケル首相が同意したのは、「EU弱体化はドイツ経済にも打撃になる」という判断があったためとされています。

 

****メルケル独首相、米中対立の中で歴史的転換 EU復興基金****

欧州連合(EU)は21日、新型コロナウイルス禍に対応するため、共同債券を使った「復興基金」設立で合意し、財政統合へと前進した。

 

議長国ドイツのメルケル首相は未曽有の経済危機に直面して、国是だった財政均衡路線からの歴史的転換に踏み切り、「EUの団結」を優先した。

 

EU史上最長の5日に及んだ協議の後、メルケル氏はマクロン仏大統領とともに記者会見し、「よい合意ができてうれしい。今は安堵(あんど)している」と述べた。復興基金は今年5月、独仏首脳が共同提案した。

 

EU共同債といっても、打撃の大きいイタリアやスペインは債務国で、借金返済の力がない。経済大国ドイツ政府と国民が大半を肩代わりすることになる。それでもメルケル氏が決断したのは、「EU弱体化はドイツ経済にも打撃になる」という判断からだ。

 

コロナ危機でドイツは、財政黒字で蓄えた潤沢な予算を生かし、総額約1・2兆ユーロ(約146兆円)の経済対策を決定した。だが、国内総生産(GDP)は4割以上を輸出に頼る。しかも輸出総額の6割はEU圏向けだ。EU全域の復興は、ドイツ経済回復の前提条件と言ってよい。

 

メルケル氏の方針転換を支える環境もあった。新型コロナにより、EU域内で12万人以上が感染死する中、ドイツは死者数を約9千人に抑えた。メルケル氏は国内で高く評価され、支持率は71%に達した。「われわれの未来は欧州にある。責任を示すべきだ」という訴えは、国民の共感を得た。

 

ドイツの財政均衡へのこだわりは、第一次大戦後の超インフレに根差す。通貨価値がほぼゼロになるという苦い歴史を経て、EU共同債は「債務国の放漫財政につながる」という嫌悪感が国民に浸透していた。

 

ドイツだけでなく現在のEUには、「コロナ時代」の国際情勢に強い不安が広がっている。トランプ大統領の米国と習近平国家主席の中国が激しく対立する中、EU各国には米国に頼らず、「欧州の団結」を求める底流があった。

 

EU内で、財政基盤の弱い南欧と、財政規律を求めるオランダや北欧の対立は今後も続く。だが、今回の首脳会議で27カ国首脳は、「合意見送り」に逃げなかった。米中対立の中での強い危機感が、妥協を成立させた。【7月21日 産経】

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【コンテ伊首相 力強く再出発する機会が得られた】

新型コロナで大きな打撃を受けたイタリアは、今回合意を「力強く再出発する機会」として歓迎しています。

 

****EU復興基金、イタリアの改革を支援 割り当て2090億ユーロ=首相****

イタリアのコンテ首相は21日、欧州連合(EU)首脳が復興基金案の設立で合意したことについて、イタリアの改革を後押しし、EUが新型コロナウイルス危機に「強力かつ有効に」対応することにも寄与するとの見解を示した。

コンテ氏は7500億ユーロの復興基金の28%に相当する約2090億ユーロがイタリアに振り向けられるとし、このうち約810億ユーロが補助金、約1270億ユーロが融資になるとの見方を示した。

今回の合意でイタリアは「力強く再出発する機会」が得られたとし、政府は国家運営を一変させる責任があると述べた。

「資金を投資と構造改革に活用する必要がある」とし、「グリーン化、デジタル化を進め、より革新的、持続可能で包摂的な国にする格好の機会を得た。学校や大学、研究、インフラに投資するチャンスだ」と語った。

コンテ政権が崩壊の危機にあるとのうわさについては、政府は「強力」で、復興基金を巡る合意でイタリア政府の行動が強化されると述べ、これを否定した。【7月21日 ロイター】

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【クルツ・オーストリア首相「われわれ小国が結束を示したことで、いい合意をもたすことができた」】

財政規律を重視する立場のオーストリアも、合意を高く評価しています。

 

****オーストリア首相「いい結果 倹約国で連携」****

今回の首脳会議で、財政規律を重視するオランダ、オーストリア、そしてデンマークやスウェーデンなど北欧の国々は「倹約国」と言われ、当初、EU=ヨーロッパ連合が提示した案に反対し、補助金の割合を減らすよう強く主張し、復興基金については、環境やデジタル分野などへの投資に使うよう求めていました。

合意について、オーストリアのクルツ首相はツイッターに投稿し、「EUそしてオーストリアにとっていい結果を達成した」と評価しました。

また、クルツ首相は、記者団に対しても、「これは歴史的なものだ。『倹約国』との協力はきょうで終わりではなく、今後も続けていく。それがEU内の力のバランスにも関わるものとなる。EU内では大国のドイツやフランスが音頭をとっているため小国であるオーストリアなどが、立場を主張することは難しいが、首脳会議では最後の数日、われわれ小国が結束を示したことで、いい合意をもたすことができた」と述べ、今後もオランダなど財政規律を重視する国々と連携し、EU内で存在感を発揮したい意向を示しました。【7月21日 NHK】

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【今回の合意は、日本を含め世界経済にとってもよいニュース】

今回EUが合意を得たことは、日本経済や世界経済にとってもよい影響があると評価する指摘も。

 

*****専門家「基金通じた支援はEU復興の起爆剤に」*****

EU=ヨーロッパ連合が経済の立て直しに向けて、およそ92兆円の基金の設立で合意したことについて、第一生命経済研究所の田中理主席エコノミストは「EUは、危機の初期段階で自国で医療資源を抱え込んで国境を閉鎖してしまい、イタリアやスペインに医療支援を提供できないなど必ずしもうまく対応できなかった。今回の復興基金の設立でEUが結束しなければ、その存在意義を問われかねない状況だった。債務の統合を部分的にでも実現できたことで結束は保たれた」としています。

そのうえで、この基金の設立がEU経済の回復につながるかどうかについて「イタリアのように財政不安を抱えていて、自力での財政出動が難しい国もある中で、基金を通じた支援はヨーロッパの景気回復につながる政策だ。環境やデジタルなどへの投資も含まれていて、EUの復興の起爆剤になる可能性を秘めている」と分析しています。

そして「アメリカなど世界での感染が増加の一途をたどっても金融市場は意外なほど安定している。その理由は、各国が財政政策や金融政策を総動員しているためだ。万一、基金の設立で合意できていなければ、金融市場に非常に動揺が広がっていただろう」と述べて、今回の合意は、日本を含め世界経済にとってもよいニュースだという見方を示しました。

さらに、今回合意したEUの基金のように、複数の国の共同の責任のもと市場から資金を調達する仕組みが他の地域でも可能かどうかについては「EUは、長年時間をかけて通貨などの統合を進めてきた。今回の基金の設立の合意は、そうした経緯があってようやくできた債務の共有化だ。他の国のために国民の税金を提供するのは非常に難しいことで、ほかの国や地域では非常にハードルが高い」として、こうした合意はEUだからこそ実現できた政策だと強調しました。【7月21日 NHK】

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なんだかんだで問題も多く、批判も多いEUですが、今回合意は「EUならでは」のものでもあり、一定にその存在感を示すものとなったようです。

 

【米英韓のコロナ関連経済対策】

なお、EU以外の国々のコロナ復興対策にについては下記のようにも。

 

****米英韓の経済対策は****

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、世界各国では大規模な経済対策が行われています。

〈アメリカ〉
このうちアメリカでは、今月までに日本円で総額300兆円規模の経済対策が発表され、職を失った人に対する失業保険の給付や、中小企業の支援などにあてられています。

〈イギリス〉
また、イギリス政府は、GDP=国内総生産の15%にあたる45兆円規模の企業の資金繰り支援に加えて、仕事がなくなった従業員の賃金の支払いを肩代わりしたり、飲食や観光の分野で日本の消費税にあたる付加価値税の税率を半年間、大幅に引き下げたりするなど、さまざまな対策を相次いで打ち出しています。

〈韓国〉
韓国では、これまでに3つの補正予算を成立させるなどして、日本円にしておよそ25兆円規模の政策パッケージを推進し、経済対策や感染対策などを行っています。

ムン・ジェイン(文在寅)大統領は先週、経済対策として、「韓国版ニューディール」と名付けた新たな計画を発表し、医療や教育をはじめ、あらゆる分野でデジタル化を進めるなどしてウイルスによる危機を克服していくとしています。【7月21日 NHK】

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日本のコロナ対策は、給付金等の遅れ、浮き彫りとなったIT化の後進性、GO TO トラベルの迷走など、もたつきも目立つのは周知のとおり。

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