孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  学生らの抗議行動、タブーとされてきた王室批判にも言及 高まる政治的・社会的緊張

2020-08-17 20:56:48 | 東南アジア

(8月14日夕方、最高学府のひとつチュラロンコン大学 大学側が会場の使用を認めなかったが、SNSで情報を得た学生ら500人以上が集まりゲリラ的に開催された抗議集会 【8月15日 FNNプライムオンライン】)

 

【2014年以降で最大規模の民主改革を求めるデモ】

タイで、新型コロナ感染は抑制されているにも関わらず、軍事政権の後継となるプラユット政権は大規模集会を禁じる非常事態宣言を4度延長しており、「反対派弾圧のために非常事態宣言を利用している」と反発が起きているという話は、8月6日ブログ“タイ  新型コロナ沈静化で再開する反政府抗議行動 政権は非常事態宣言継続で封じ込め狙う”で取り上げました。

 

学生ら若者主導の民主的改革を求める抗議行動はその後も拡大しています。

 

****タイ民主派デモに1万人 14年以降最大規模****

タイで16日、反政府デモが行われ、警察によると1万人以上が参加した。民主派の運動が活発化する中、同国で行われた政治デモとして2014年以降で最大規模となった。

 

タイではここ1か月、学生主導のグループが同国各地でほぼ毎日デモを展開。元陸軍司令官のプラユット・チャンオーチャー首相と親軍のプラユット政権に抗議し、大規模な民主改革を求めている。

 

デモ隊は16日夜までに、首都バンコクの民主記念塔周りの主要交差点を占拠。学生らは「独裁体制をつぶせ!」と声をそろえ、参加者の多くが政権を批判するサインを掲げた。平和の象徴であるハトを形取った切り抜き絵を持った人もいた。

 

警察は同塔を囲む主要道路を通行止めにした。警察当局によると同日午後6時(日本時間午後8時)までに集まったデモ参加者は1万人に及んだ。民主記念塔は専制君主制を終わらせた1932年の立憲革命を記念して設立されたもので、同塔で行われた集会としては、2014年にプラユット氏が主導したクーデター以降最大規模となった。

 

学生らは政府の全面的な見直しと、2017年に公布された憲法の改訂を要求。軍政下で草案されたこの憲法が、昨年の総選挙でプラユット氏率いる親軍政党に有利に働いたと訴えている。 【8月17日 AFP】AFPBB News

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【タブーとされてきた王室批判で高まる政権との緊張 社会的対立の可能性も】

前回ブログでは、抗議行動に“ハム太郎”とか“ハリポタ”といったキャラクターが使用されていることを紹介しましたが、そうした緩い雰囲気が変化し、主張は次第に過激化する様相を見せています。

 

前回ブログの記事にも“非常に繊細な問題とされる不敬罪関連法に反対するプラカードを掲げる参加者も、最近ではみられるようになった”という記載がありましたが、この“非常に繊細な問題”、さらにはタブーとされてきた王室批判も前面に出てきており、一時は民主化運動を懐柔するような姿勢も見せていたプラユット政権との間で再び緊張が高まっています。

 

単に政権との関係だけでなく、王室というタブーに触れることで、王室への信頼が篤かったタイ社会において、この種の抗議行動がどのように受け入れられるのか注目されます。

 

“篤かった”と過去形なのは、文字どおり篤く信奉されていた前国王と異なり、現国王に関してはいろいろなスキャンダルも海外で取り上げられる状況で、タイ国民の人気も前国王に及ばないということがあるためです。

 

もちろん、たとえそうであっても王室批判に対しては・・・という感情も当然これあり、今後の反応が注目されるところです。

 

****激化するタイの民主化運動、「王室批判」のタブーも****

昨年7月、約5年ぶりに軍事政権から民政に復帰したタイで、首都バンコクを中心に「反プラユット政権」を叫ぶ学生や若者らによる民主化を要求するデモや集会が続いてきた。

 

ところがここにきて治安当局の締め付けが一段と厳しくなってきた。この締め付けによって、タイの民主化の芽は摘まれてしまうのだろうか。

 

2014年のクーデター以降、軍事政権が続いていたタイは、2019年3月実施の総選挙の結果を受けて同年7月に発足したプラユット政権によって民政に復帰した。

 

とはいえ、2014年のクーデターは陸軍司令官だったプラユット首相が主導したものだったし、クーデター決行後の首相も一貫してプラユット氏だったことからも分かるように、現在は民政とはいえとも、軍の強い影響下にある。

 

憲法や議会にしても、軍政時代と大きな変化はなく、言論や報道の自由も制限された状況が続いているのだ。

 

民主化要求デモの変質

8月4日の定例閣議でプラユット首相は、前日の3日に約200人の学生らが参加してバンコク市内で行われた反政府デモに対して、「タイ政府は今コロナ対策など多くの重要な課題に直面しており、この時期にさらに事態を悪化させるようなこと、社会の混乱を扇動するようなことは止めるべきだ」と発言して、デモを厳しく取り締まる姿勢を明らかにした。

 

実はプラユット首相は、7月からバンコク市内や一部の地方都市で始まった反プラユット政権のデモや集会に対して「タイ社会の将来を考えている若者には配慮しているし、その声を聞く用意がある。若者には集会を開く権利もある」と柔軟な姿勢で一定の理解を示していた。

 

8月4日の閣議での発言は、その方針の転換を意味していた。

 

方針転換の理由として指摘されているのは、デモや集会での主張が当初はプラユット政権批判が中心だったのに、途中からそこにワチラロンコン国王や王族への批判、中傷も加わり始めて、「反王室」運動へと変質しはじめたことだ。

 

「不敬罪適用停止」は「国王の慈悲」

タイでは王室は絶対的な存在で、批判することもタブーとされている。国王を侮辱した者は3年から15年の禁固刑に処せられるという「不敬罪」も存在する。

 

実際、2014年のクーデターでプラユット首相が政権を掌握して以来、タイでは約100人が不敬罪で起訴されたといわれている。

 

だがそれも、2018年9月以降は「不敬罪」適用による検挙事例はないとされてきた。このことから、タイ社会で長年タブーとされてきた「絶対的権威」である王室に対する批判についても緩和の方向にあるとの認識が国民の間には少しずつ浸透していたのだ。

 

この「不敬罪適用停止」の理由について、この6月にプラユット首相は、「ワチラロンコン国王の直接指示による慈悲」であると明らかにしていた。タイの報道各社の分析によれば、プラユット首相の真意は「国王の慈悲は王室批判を野放図に許すことではない」と見られている。

 

ところが7月以降、学生らの反政府デモが「王族の権限見直し」、さらには「不敬罪撤廃を含めた表現・報道の自由」という具合に、一気に「王室批判」にまで及ぶに至り、ついにプラユット首相も警戒感を抱くようになった、と見られている。

 

「政府批判はある程度許容されても、国王や王族への批判、中傷は限度を超えることは決して許されない」との認識で、学生らの主張がタイ社会の根底をなす王室の存在まで揺るがしかねないようになったため、厳しく対処するしかなくなったというのだ。

 

運動のリーダー格の逮捕

王室批判の中心的人物が、人権派弁護士のアノン・ナムパー氏(35)だ。アノン氏はこれまで集会などで、「我々は王政の廃止を求めているわけではなく、改革を求めている。国家の元首としての国王とともに民主主義を実現したいのだ」との主張を繰り返してきた。

 

前述のプラユット首相が閣議で批判した8月3日の集会でも、組織者の1人として演壇に上がり、大胆な王室批判のスピーチも行った。ところがこれに当局も黙ってはいなかった。7日になってアノン氏の逮捕に踏み切ったのだ。

 

容疑は「不敬罪」ではなく、別の集会で社会を扇動したことだった。また同じく集会主催に関わった活動家のパヌポン・ヤノック氏も同日、逮捕されている。

 

ただアノン氏は翌8日は保釈された。地元メディアなどによると裁判官が「今後同じような活動をしない、もし同様の活動をした場合は罰金10万バーツ(約3200ドル)を科す」との条件で釈放を決めたという。タイではこの逮捕は、アノン氏の「口封じ」と他の活動家への見せしめのためのものだったと受け止められている。

 

しかしアノン氏の方は、そんな逮捕に全く屈する様子はなかった。10日夜にもタマサート大学で開かれた学生集会に参加。そこで再び、政府の改革と王族権力の縮小を訴えたのだ。果たしてプラユット政権は、アノン氏に対して再逮捕などの処置を下すのかどうか注目されている。

 

「王室批判」の扱いが焦点

民主化運動に対する寛容な態度を硬化させたプラユット首相の姿勢転換の背景としてタイで注目されているのは、そこに「国王からの直接の指示」があったのかどうか、ということだ。

 

地元メディアは明確に報じていないが、一部で「民主化要求デモに対して国王が怒った」との情報が広まっている。その意を受けたからこそプラユット首相も強硬姿勢に転じた可能性がある、というのだ。

 

さらに「未確認」としながらも活動家の一人が「不敬罪」で逮捕されたという情報もタイでは広まっている。事実であれば「不敬罪」の復活を意味することになる。そうなると「王室批判」がなかなかやりにくい状況になるのは間違いない。これからの学生デモや集会で「王室批判」がどう扱われるかも焦点になってくる。

 

現在、タイで「王室批判」が大きくなっているのにも背景がある。

 

2016年10月に死去したプミポン前国王へのタイ国民の敬愛と支持は絶大なものがあった。ところが現在のワチラロンコン国王は、普段はドイツに滞在していることが多く、また女性関係や服装が海外メディアなどから興味本位で取り上げられることも多い。そんなことから、国王に対する国民の尊敬の念は、前国王ほどまでには至っていないと言われる。

 

タイ政府は目下、コロナウイルスの感染拡大防止に全力を挙げている。そちらに手いっぱいの中で、「軍政の名残が色濃い現政権、議会の解散」などを強く求める若者らの動きが先鋭化することは、政権基盤を揺るがす運動に拡大する可能性もある。

 

そこに加えて、学生たちがタイの「国体」にも関わる「王室改革」というタブーにまで触れるようになると、王室を支持する国内保守層から「学生運動活動家やデモ参加者に対して当局は法に従って厳正に対処せよ」との強硬論が飛び出し、国論が二分されるようなことにもなりかねない。

 

「微笑みの国タイ」は一体どこへ向かうのだろうか。【8月17日 大塚智彦氏 JB Press】

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学生らの王室批判、政権との緊張、社会的な影響・・・ほぼ同内容になりますが、別記事でも。

 

****タイで広がる前例なき「王室批判」の行方****

タイで相次いでいる反政府デモで、これまでタブーとされてきた王室を公然と批判する動きが出はじめる異例の事態となっている。

 

参加者は高校生や大学生などの若者が中心で、当初の訴えは軍主導の現政権に対する批判や、議会の早期解散・総選挙などだった。しかし8月に入るとタイ王室に対する直接的な批判が加わったため、反政府デモを取り巻く雰囲気は一変している。

 

8月14日夕方、最高学府のひとつチュラロンコン大学のスタジアムで予定されていた反政府集会が、大学の命令で中止寸前に追い込まれた。大学側が会場の使用を認めなかったためだ。

 

学生らは大学構内の別の場所でゲリラ的に集会を始め、SNSで情報を得た学生ら500人以上が集まりプラユット政権の退陣や憲法改正、格差の是正を訴えた。

 

この集会では「パリットを助けよう」というスローガンが何度も叫ばれた。パリットとは、ちょうどこの日にタイ警察に扇動などの容疑で逮捕された反政府運動の学生リーダーの一人、パリット・チワラック氏を指す。パリット氏は翌15日に保釈されたが、活動家逮捕の一報に、デモ参加者の間には緊張が走った。

 

最近の反政府集会は、デモが始まった7月の雰囲気とは明らかに雰囲気が変わってきている。7月末の段階では、集会の最後にアニメ「とっとこハム太郎」の替え歌を合唱するなど会場の雰囲気は穏やかだった。そしてデモを見つめる市民の目も温かいものだった。

 

デモを取り巻く雰囲気が一変

しかしデモを取り巻く雰囲気は8月に入ると一変した。
転機となったのは8月3日、反政府運動のリーダー格で人権派弁護士のアノン・ナムパー氏が批判の矛先を王室に向け公然と改革を訴えたことだ。

 

タイでは王室は絶対的な権威であり、公然と批判することは許されない対象だ。不敬罪(刑法112条)も存在し、国王や王族を中傷・侮辱したと判断されると最高で15年、最低でも3年の禁固刑が科される可能性がある。

 

この人権派弁護士ら2人は不敬罪ではなく扇動の容疑で逮捕され、学生らの強い反発を受け、2人は8日に保釈された。しかし王室に対する批判はさらにエスカレートしている。

 

なかでも8月10日にタイの名門校の一つであるタマサート大学で開催された反政府集会は、タイ社会に大きな衝撃を与えた。

 

およそ4000人の学生らが参加した集会の最後に学生代表の一人がタイ王室の改革を求める「10項目の要求」と名付けられた声明文を読み上げ、その内容が王室への直接的な批判とも受け取れるものだったからだ。

この声明には、王室批判に対する不敬罪の撤廃や、王室の権限強化の動きの撤回などが含まれる。

 

ワチラロンコン国王は2016年に即位して以降、国王の権限を強化してきた。2017年には1兆4000億バーツ(約5兆円弱)とも試算される王室の財産に関する法律が改正され、国王は王室財産を運用できるようになった。学生らの要求はこうした国王の権限強化の撤回を求めるものだ。

 

前例ない動き…タイ社会に衝撃

反政府集会の先鋭化の動きは、タイ社会に大きな衝撃を与えている。これまでタイでは幾度となく政治的な混乱が起きてきたが、王室に対する挑戦はほとんどなかったためだ。

 

政権内でも警戒感が高まっている。プラユット首相はこの翌日、反政府集会の動きについて「やりすぎだ」と不快感を示し、閣僚の一人は「国の最も重要な根幹を侵さないよう気をつけなければならない」とデモ参加者を強く牽制した。前述のようにそうした警戒感が冒頭の活動家逮捕など、取締り強化の動きにあらわれている。

 

これらの反政府集会を主催する団体が今後、タイ王室を支持する保守派と衝突するおそれも出てきている。8月10日には両者が互いに近接する場所で集会を開催し、衝突を懸念する声も出た。

 

保守派のリーダーの一人は「我が国の統治システムや文化の破壊に繋がりかねない」と反政府団体の動きを強く批判し、怒りをあらわにした。

 

徐々に広がりをみせる王室批判の動きの一方で、タイでは王室を大切な存在と考えている人も多くいて、今回の動きを嫌悪する声も広がっている。政権側は今後、この問題にどう対処していくのだろうか。

 

もし強権的に若者らの取り締まりに踏み切った場合は、学生側のさらなる反発が予想される。しかし、この状態を放置しておくことも様々なリスクを生む。多くのタイ国民がデモの行方を注視している。

【8月15日 FNNプライムオンライン】

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タイにはこのほか、コロナ対策による外国人観光客消失の観光立国に与えている深刻な打撃、イスラム教徒が多いタイ深南部で続くテロといった問題もありますが、それぞれ長くなるので、また別機会に。

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