(BBCが入手した動画より かつて華やかなファッションモデルだったウイグル族のギャパーさんは、中国政府が「再教育施設」と主張する施設において、汚れた服で、手錠でベッドにつながれ、シラミと戦っています。https://www.youtube.com/watch?v=ycq9nrc0gBY)
【中国のウイグル族弾圧問題で広がる国際批判】
中国との対決姿勢をアピールするアメリカ・トランプ政権が中国に対し、香港・台湾・南シナ海・5Gファーウェイなどと並んで新疆ウイグル自治区におけるウイグル族等への弾圧に関する圧力を強めているのは周知のところ。
“ドナルド・トランプ米大統領は先月、ウイグル人権法に署名した。ウイグル族などイスラム教少数民族への弾圧に関与した中国当局者や企業への制裁を認めるものだ。
また米国務省は、共産党中央政治局を構成する25人の委員の一人で、新疆ウイグル自治区トップを務める陳全国氏などを対象に制裁を科した。
さらに米国は同自治区からの輸入品の一部を禁止し、強制労働で生産された可能性がある製品を監視対象にした。”【7月30日 WSJ】
最近の動きでは・・・
****米、中国新疆の「国家内国家」組織に制裁 人権侵害で****
米国は7月31日、中国北西部の新疆ウイグル自治区で横行するイスラム系少数民族ウイグル人の人権侵害に加担したとして、同自治区で莫大な利権を握る準軍事組織「新疆生産建設兵団(通称:兵団)」に制裁を科した。
独自の町や大学、メディアを運営する兵団は「国家内国家」的な組織とみなされており、手掛ける開発事業の対象は中国の多数派民族である漢人に大きく偏っている。
米財務省は、兵団の米国内の資産を凍結し、兵団との取引を禁止。兵団幹部の彭家瑞氏と元幹部の孫金竜氏にも制裁を科した。
マイク・ポンペオ国務長官は中国による少数民族への待遇を「世紀の汚点」と批判。兵団がウイグル人を含む新疆ウイグル自治区のイスラム系少数民族の大量強制収容に「直接関与した」と指摘した。
ポンペオ氏はさらに「世界中の無数の家族に影響を及ぼしているCCP(中国共産党)による自国民への凶悪な人権侵害をわれわれと共に非難するよう、全ての国に求める」と呼び掛けた。 【8月1日 AFP】AFPBB News
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こうしたウイグル族弾圧に関する厳しい対応は欧州にも広がっています。
****中国によるウイグル人の人権侵害「吐き気を催す」 英国が非難****
英国政府は19日、中国西部・新疆ウイグル自治区のイスラム系少数民族に対する中国政府の対応に「吐き気を催すような甚だしい人権侵害」があると非難し、「深い憂慮」を表明した。
人権団体や専門家は、ウイグル人をはじめとするチュルク語系の少数民族100万人超が拘束され、各地の強制収容所群に収容されているとみている。
ドミニク・ラーブ英外相は、新疆ウイグル自治区で強制不妊手術や大量拘禁が行われているとの報告に、もっと国際社会が注目する必要があると主張。「吐き気を催すような甚だしい人権侵害が行われているのは、明らかだ」「深く、深く憂慮している」とBBCに語った。
ラーブ氏は、こうした報告について「われわれが長いこと目撃することのなかったものを思い出させる。しかも、それは国際社会からの真摯(しんし)な扱いを求めている主要国で起きていることだ」と発言。「わが国は(中国とは)前向きな関係を望んでいるが、このような行いを見て、黙っていることはできない」と付け加えた。(後略)【翻訳編集】
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****仏、ウイグル問題で監視団派遣を要求 中国側は「デマ」と一蹴****
中国・新疆ウイグル自治区で、イスラム系少数民族のウイグル人が不当に拘束されているとされる問題をめぐり、フランスは21日、独立人権監視団の派遣を求めた。これを受けて中国側は翌22日、仏側の主張は受け入れ難く、ウイグル人をめぐる疑惑は「デマ」だと一蹴した。(中略)
ジャンイブ・ルドリアン仏外相は、中国の行為は「容認できない」として、「断固糾弾する」と述べていた。
これに対し、中国外務省の汪文斌報道官は22日の定例記者会見で、「新疆関連の問題をめぐる虚偽の報道と疑惑について、中国は繰り返し対応し、説明してきた」と述べた。
その上で、新疆の問題は人権や宗教、民族の問題ではなく、「暴力的なテロリズムと分離主義との闘い」に関わる話だと主張。
汪報道官は、「新疆では宗教の自由が制限され、イスラム教徒が弾圧されているとのデマに関しては…最近になって米欧の一部の政治家とメディアが、新疆における合法的なテロと過激主義との闘いに汚名を着せたというのが真実だ」と語った。
欧米と中国間の緊張は、中国による香港への国家安全維持法導入や、 中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)製品を排除する欧米側の動きなど、複数の問題をめぐって急激に高まっている。 【7月22日 AFP】AFPBB News
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【「ウイグル文化を抹殺するためにウイグル知識人を拘束している」】
中国政府の見解は上記のとおりですが、やはりウイグル族の文化そのものを根こそぎ抹消しようとするジェノサイドの印象を強める報道が今でも続いています。(単に文化的ジェノサイドではなく、不妊手術などによる「ジェノサイド」そのものだ・・・との主張については、7月10日ブログ“中国の不妊手術を強制するウイグル族弾圧は「ジェノサイド」に該当”でも取り上げました。)
****中国の弾圧にさらされるウイグル文化、知識人が相次ぎ消息不明に****
中国・新疆ウイグル自治区の自宅から、ブグラ・アルキンさんの父親であるアイエルケン・イブライン氏が突然、公安関係者によって連れ去られてから、2年近くがたった。
2018年10月に拘束される以前、イブライン氏は多数の書籍をウイグル語に翻訳する大手出版社を経営していた。だがアルキンさんはそれ以降、父親の消息を知らない。
「父親は、ウイグルの出版業界に強い影響力を持っていた。そのせいで、中国政府の標的になった」
米カリフォルニア州に住むアルキンさんはそう説明し、「これはまったく受け入れられないことで、私たちの生活は文字通り破壊された」と語った。
だがこれは、アルキンさんに限った話ではない。
米首都ワシントンに本部を置く人権擁護団体「ウイグル人権プロジェクト」によると、2017年4月以降、ウイグルの知識人少なくとも435人が拘束されたり、消息を絶ったりしている。
ウイグル人の言語研究者や学者、出版者の摘発は、ウイグル人のアイデンティティーや文化を拭い去り、同国の多数派である標準中国語を話す漢民族に同化させようとする、中国共産党による活動の一環だと、海外の人権擁護団体はみている。
その一方で中国外務省は、「いわゆる『ウイグル文化を抹殺するためにウイグル知識人を拘束している』という見解は、まったくのデマであり中傷だ」と反論した。
ウイグル人の文芸評論家で作家のヤルクン・ロジ氏は、新疆ウイグル自治区共産党委員会書記に強硬派の陳全国氏が就任した後、2016年10月の一斉摘発の第一波で拘束された知識人の一人だ。(中略)
息子のカマルトゥルク・ヤルクン氏によると、ロジ氏が拘束されたのは、10年以上にわたって使用されてきたウイグル文学の教科書の編集を担当していたことに関係していると、当局は示唆したという。教科書に携わったロジ氏の同僚全員が、この時期の前後に拘束されている。
新疆では2012年以降、260万人近い生徒たちに向けて、学校において標準中国語とウイグル語の2言語教育を徐々に適用してきた。これ以前には、主にウイグル語やその他の少数派言語で授業が行われていたという。
「こうした教科書の廃止とウイグル語教育の撤廃によって、ウイグルの次世代の若者たちは、自らとウイグル文化のつながりを見いだせなくなるだろう」とヤルクン氏は指摘。
「ウイグル人の全てのアイデンティティーを消し去り、中国語を話し、中国語で考え、自分たちの歴史や文化を知らない人々…になるように同化させるのが中国のやり方だ。これについて私は、悲しみと同時に憤りを覚える」と話した。 【7月26日 AFP】
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【中国の主張する「再教育施設」の実態を暴く動画・メール?】
ウイグル族などを収容する施設の内部を撮影した生々しい映像も明らかにされています。どういう事情でこういうものが目に触れる形になったのかはよくわからない部分もありますが。
****ウイグル族のモデル、中国の収容施設から動画 BBCが入手****
中国西部の新疆ウイグル自治区にある、ウイグル族などを収容する施設の内部を撮影した極めて貴重な映像を、BBCのジョン・サドワース記者が入手した。同記者が報告する。
撮影したのは、マーダン・ギャパーさん(31)。新疆芸術学院でダンスを学んだ後の2009年、豊かな生活を求めて新疆ウイグル自治区を出た。中国の大規模オンラインショップ淘宝(タオバオ)のモデルになり、多額の報酬を得ていた。
モデル時代の華やかな姿とは大きく異なり、ギャパーさんの自撮り動画には、薄汚れた壁に囲まれ、窓には鉄格子がつけられた部屋で、汚れた服を着た彼の姿が写っている。
足首は腫れ上がり、左手首にはめられた手錠は、唯一の家具であるベッドの鉄フレームにつながれている。
この4分38秒にわたる映像と、ギャパーさんの多数のメールは、新疆ウイグル自治区で中国政府が進める「3つの悪(分離主義、テロリズム、過激主義)」との闘いがどのようなものかを示す新たな証拠だ。
帰郷して手続きするよう指示
広東省仏山市でモデルの仕事をして暮らしていたギャパーさんは、2018年8月に大麻を販売したとして逮捕され、1年4カ月の刑が言い渡された。彼の友人は、容疑はでっち上げだったと主張する。
ギャパーさんは2019年11月に刑務所を出たが、1カ月もたたないうちに警官が尋ねて来て、新疆ウイグル自治区に戻って型どおりの手続きをする必要があると言われた。当局の関連書類には、「地元で数日間の教育を受ける必要があるかもしれない」と書いてあった。
今年1月15日、ギャパーさんは当局の2人付き添われ、仏山市から新疆ウイグル自治区クチャ市に飛行機で移送された。家族は再教育施設に入れられたと考えた。
その1カ月後、家族のもとにギャパーさんから連絡があった。彼は何らかの方法で、携帯電話を使えるようになっていた。
新型ウイルス感染リスクも
信頼できる推定によると、過去数年間で100万人超のウイグル族と他の少数民族が、新疆ウイグル自治区にある収容施設に入所させられている。中国は高度に警備されたこの施設について、反過激主義の教育を目的とした、自主的に入る学校だとしている。
最近の調査では、何千人もの子どもが親から引き離されている。また、女性には避妊手術が強制されている。
中国は「再教育施設」のほとんどは閉鎖されたとしているが、ギャパーさんの報告は、ウイグル族が今も大規模に拘束されている様子を示している。
また、新型コロナウイルスの感染が新疆ウイグル自治区でも急増している状況で、入所者たちは不衛生で高密度の環境に置かれ、深刻な感染リスクに直面していることも表している。
BBCは中国外務省と新疆ウイグル自治区の当局にコメントを求めたが、ともに返事はなかった。
「ここで死にたくない」
ギャパーさんが中国のメッセージアプリ微信(ウィーチャット)を使って収容施設から送ったメッセージには、おぞましい状況が記されていた。
「50平方メートルもない狭い部屋に50〜60人が拘束されていた。男性は右側、女性は左側にいた」
「全員、『フォー(4)ピース』と呼ばれるものを身に着けていた。頭にかぶる黒い袋、手錠、足かせ、手錠と足かせをつなぐ鉄チェーンだ」
ギャパーさんもそれを着用するよう命じられた。
「私は頭の袋を取り、警官に手錠がきつくて手首が痛いと言った」「彼は怒りをあらわにし、『今度フードを取ったら殴り殺してやる』と言った。それ以降、話をしようとは思わなくなった」「ここでは絶対に死にたくない」
ギャパーさんは、叫び声がどこかから絶えず聞こえてくるとし、「尋問室」があるようだと記している。
また、入所者は全員でプラスチック製のボールとスプーンを共用し、シラミに悩まされているとするなど、不衛生な環境についても書いている。
全員がマスクを着用
中国が新型ウイルス流行の危機を迎えていた1月22日、全国的な対策が取られていることが、収容施設にも伝わってきた。
施設内では警官が全入所者にマスクを着用させた。ただ、相変わらず混雑した部屋で、頭にはフードをかぶらなくてはならなかった。
あるとき、職員が入所者の検温をすると、ギャパーさんを含め数人の体温が摂氏37度を超えていた。彼は上階の部屋に移された。そこでは拷問の音がさらにはっきり聞こえたという。「男の人が朝から晩まで叫び声を上げていたこともあった」
数日後、入所者は小型バスでどこかに移送された。かぜをひいて鼻水が出ていたギャパーさんは、別の施設に移された。彼が「感染流行管理センター」と呼ぶその施設の部屋で、今回の動画を自撮りした。室内では手錠でベッドにつながれた。
「体中シラミだらけだ。毎日捕まえて体から取り除いている。とてもかゆい」
「もちろん、みんなといた警察署よりこっちのほうが環境はいい。ここでは1人だ。ただ、2人に監視されている」
ギャパーさんは施設を移ったとき、私物へのアクセスが認められたと思われる。携帯電話も職員に気づかれなかったようだ。彼は警察の施設で18日過ごした後、突然、外界への連絡が可能になった。
ギャパーさんからの連絡は数日間続いた。しかし突然、メッセージは途絶えた。
それ以来、ギャパーさんから音沙汰はまったくない。当局は彼の所在や、拘束を続けている理由について、何の説明もしていない。(中略)
「息ができない」
ギャパーさんの家族には5カ月前から、彼のメールが届かなくなった。今回、映像を公表することで、彼に圧力や罰が加えられる恐れがあることは認識している。
しかし、ギャパーさんとウイグル族の苦難を明らかにすることで、アメリカで警官の暴行によって死亡したジョージ・フロイドさんの映像が反人種差別の抗議デモを引き起こしたのと同様、世論を動かせるのではないか――。オランダで暮らすギャパーさんのおじ、アブダルハキム・ギャパーさんは、そう考えている。
「(マーダン・ギャパーさんとフロイドさんは)どちらも人種を理由に虐待された」、「アメリカでは人々が声を上げたが、私たちの場合は沈黙が続いている」。
「ウイグル族全体がジョージ・フロイドさんのようだ」、「息ができない」。(後略)【8月5日 BBC】
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手錠をするような施設が、携帯の使用に気付かない・・・このあたりはよくわからないところです。
これが本当の情報なら、「再教育施設」は閉鎖したという中国政府の主張が揺らぎます。
【アメリカ ウイグル族弾圧批判とウイグル亡命者の米国内扱いは別物】
アメリカ・トランプ政権がこの問題で厳しい中国批判を行っているのは冒頭で述べたとおりですが、そのことと、アメリカ国内のウイグル族亡命者への扱いはまた別物のようです。
****米に亡命のウイグル人、手続き進まず不安定な身分****
米国の亡命政策変更で手続きが滞るように
カルビヌル・アウットさんは大学院で勉強するため、2015年に中国の西端から米国にやって来た。留学先のロードアイランド大学に到着した直後、政治亡命を申請した。彼女が主にイスラム教徒の少数民族ウイグル族の一員として暮らしていた新疆ウイグル自治区では、スカーフの着用をめぐって中国当局から嫌がらせを受け、留学を申し出た直後には一時拘束もされた。
米国市民権・移民業務局(USCIS)が運営するサイトに今月、彼女がログインすると、今までと同じメッセージが現れた。「あなたの申請は1796日間、 USCISで保留中です(遅延期間を除く)」とあり、待機日数のみが更新されていた。
約2年前、中国政府のウイグル族に対する扱いが米国で広く認知されるようになった。同自治区の強制収容所のような場所に約100万人のウイグル族が集められていると報道されたためだ。
それとほぼ同じ頃、米国の亡命政策が変更され、本国で危険に直面していると主張する多くの人々の申請手続きが滞ることになった。その結果、トランプ政権が新疆の問題に関して対中制裁を発動したにもかかわらず、アウットさんのように米国に亡命を求めた数百人のウイグル族は何年も放置され、中ぶらりんの状態に陥っている。
亡命希望者は決定を待つ間、米国で就労が可能なことに感謝しているが、その選択肢には限界があると話す。将来の雇用主や家主が彼らの法的立場に警戒を抱く可能性がある。また就労許可の更新に伴う弁護士費用や手数料、暫定的な法的書類(運転免許証など)に関する懸念が常につきまとう。正式な滞在資格がないため、本国に送還される可能性も残っている。(中略)
この問題の政治的認知度がかつてないほど高まっても、移民局に滞留した亡命申請の処理を前進させる効果はほとんど生じていない。
トランプ政権は、米国が制裁を強化しているキューバやベネズエラを含め、どこか特定の国からの亡命希望者を例外扱いすることはまずない。中国による国家安全維持法の制定を受け、米議会は香港市民の一部を難民として米国に迎えることを目指すが、これは亡命手続きとは別に行われる予定だ。(後略)【7月30日 WSJ】
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