(【5月29日 CNN】 駆け落ちしたことで、父親に首を切り落とされたイランの14歳少女ロミナ・アシュラフィさん)
【娘の首を切り落として禁固9年】
このブログでもときおり取り上げる「名誉殺人」という不似合いな言葉で呼ばれる、忌まわしい不名誉な単なる殺人。
****名誉殺人****
婚姻拒否、強姦を含む婚前・婚外交渉、「誤った」男性との結婚・駆け落ちなど自由恋愛をした女性、さらには、これを手伝った女性らを「家族の名誉を汚す」ものと見なし、親族がその名誉を守るために私刑として殺害する風習のことである。
射殺、刺殺、石打ち、焼殺、窒息が多く、現代では人権や倫理的な客観から人道的問題としても議論される。(中略)
殺害被害者は基本的に女性側であり、男性の場合は同性愛者の場合である。「名誉の殺人」ともいう【ウィキペディア】
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この種の殺人はいつになっても後を絶ちませんが、最近話題になったのがイランの事件。
****駆け落ちした10代少女を父親が斬首、激しい非難の声 イラン****
イランで15歳年上の男性と駆け落ちした10代少女が父親に首を切られ殺害される事件が発生し、国内で激しい非難の声が上がっている。
ハッサン・ロウハニ大統領は27日の閣議で遺憾を表明し、同様の暴力事案に対応する法案を早急に通す意向を示した。
地元メディアによると、死亡したのはロミナ・アシュラフィさん。アシュラフィさんは21日、北部ギラン州ターレシュの自宅で就寝中に父親によって斬首されたとみられている。
男性が親族の女性を殺害するいわゆる「名誉殺人」とみられるこの事件はイラン国内で広く報じられており、地元紙エブテカールは一面で「安全でない父親の家」という見出しで報じた。
報道によると父親が男性との結婚を許さなかったため、アシュラフィさんは家出。しかし、父親が警察に通報した後、アシュラフィさんは自宅に戻ったという。
またアシュラフィさんは当局に発見された際、自宅に戻れば命の危険があると訴えていたとイランメディアは伝えている。
ただ、一般の人々を最も憤慨させていることは、父親が寛大な刑罰に処される可能性が高いことだとエブテカールは指摘。父親は3〜10年の禁錮刑を言い渡される見通しだが、処罰が著しく軽減される可能性もあり、同紙はイランの「家父長制度」における「慣行化された暴力」の問題を強く批判している。
ツイッターではアシュラフィさんの名前を表すペルシャ語のハッシュタグが登場し、事件を非難する投稿が多く寄せられている。
イランの法律では、女性が結婚できる年齢は13歳からと定められている。 【5月29日 AFP】AFPBB News
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こうした事件が大きく報道されたのは“たまたま”に過ぎず、世界的には年間5千件、あるいは、それ以上が起きているとも言われています。事件として扱われることなく、闇から闇に葬られるものも多数あると想像されます。
事件そのものも忌まわしいものですが、上記記事にもあるように、こうした事件を一定に「許容」する社会的風潮あるいは宗教的判断があるというところが、やりきれません。“国内で激しい非難の声が上がっている”のは救いでもありますが。
この事件で下された判決は、禁固9年。
私の理解では“不当に軽すぎる判決”に思えますが、“父親は3〜10年の禁錮刑を言い渡される見通しだが、処罰が著しく軽減される可能性もあり”ということでは、実際の判決は想定されたもののなかでは比較的重い方だったというべきでしょうか。
****駆け落ちした14歳の娘を斬首、父親に禁錮9年の判決 イラン****
イランで、10代の娘を就寝中に斬首した父親が、禁錮9年の判決を言い渡された。地元メディアが28日、報じた。ただ殺害された娘の母親は、死刑を望んでいるという。
男性が親族の女性を殺害するいわゆる「名誉殺人」とみられるこの事件に対しては、国民の間で激しい怒りが広がり、メディアは「制度化された暴力」だとして非難を繰り広げた。
メディアの報道によると、14歳のロミナ・アシュラフィさんは北部ギラン州ターレシュの自宅で頭部を切り落とされた。
少女の母親ラナ・ダシュティさんはイラン労働通信に対し、「司法当局が『特別な対応』を主張したにもかかわらず、判決は私と家族にとって恐ろしいものになった」とコメント。「夫には二度と私たちの村に戻ってきてほしくない」とし、判決を見直して「死刑」にするよう訴えている。
ダシュティさんは他の家族の命を危惧しているという。
報道によると、ロミナさんは15歳年上の男性との結婚を父親が許さなかったために駆け落ちした。だが当局に保護され、自宅に戻れば命の危険があると懇願したにもかかわらず、自宅に連れ戻されていた。
現地メディアによると、ロミナさんが結婚を望んでいた男性は禁錮2年の判決を言い渡された。だが罪状の詳細は明らかになっていない。(後略)【8月29日 AFP】AFPBB News
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イランでは同性愛は死刑を含む刑罰で罰せられるのに対し、娘の首を切り落として禁固9年というのは・・・・。
文化・宗教の違いといってしまえば、それまでですが。
【地域的因習「名誉殺人」を誘発、是認、隠蔽する側面があるイスラム教】
この「名誉殺人」はイスラム教国に多くみられますが、インドなど他の宗教国家でも見られ、宗教にもとづくものではなく、地域的因習に依拠するものと言われています。
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アムネスティ・インターナショナルは、名誉殺人が行われている国および地域として、バングラデシュ、トルコ、ヨルダン、パキスタン、ウガンダ、モロッコ、アフガニスタン、イエメン、レバノン、エジプト、ヨルダン川西岸、ガザ地区、イスラエル、インド、エクアドル、ブラジル、イタリア、スウェーデン、イギリスを挙げている。
名誉殺人は、主に中東のイスラーム文化圏を中心に行われているため、イスラーム教と関連した風習と見なされることが多い。
しかし、イスラーム教徒以外の間でも行われており、実際はイスラーム教とは無関係であり、もっぱら地域の因習によるものであるとされる。【ウィキペディア】
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上記で欧州の国家があがっているのは、中東などからの移民がその風習を持ち込んだことによるものです。
“イスラーム教とは無関係”とは言いながらも、イスラム教国以外で目立つのはインドぐらいという現実を見ると、こうした地域的因習をイスラム教が「容認」している面も関係しているように思われます。
****斬首、毒殺......イランで続発する「名誉殺人」という不名誉****
<勧められた結婚の拒否、性的暴行被害のほか、運動することや高等教育・キャリアを望む姿勢も「名誉を汚す行動」に含まれる>
年上の「彼氏」と駆け落ちした14歳の少女が家に連れ戻されたあと父親に鎌で斬首され死亡、夫以外の男と関係したと疑われた18歳の妊婦が父親と兄弟に毒を飲まされ死亡、夫以外の男と逃走した19歳の女性が夫といとこによって斬首され死亡、帰宅が遅れた22 歳の女性が父親に鉄の棒で殴られて死亡......。
これらはいずれも、2カ月ほどの間にイランで発生したいわゆる「名誉殺人」である。
名誉殺人は家族の名誉の回復を目的として実行される殺人だ。家族内の女性が「名誉を汚す行動」をしたり、そう噂されたりした場合に、当該女性を殺害することで名誉を回復させることができる、と信じられている。
根源にあるのは、名誉が慎み深さや「処女性」と結び付いており、家族の名誉は家族内の女性の行動に懸かっているという考えだ。
女性の家族の行動を管理するのは男性の責任だとされる。この考えを共有する人々の中で、名誉殺人は今も容認されている。
「名誉を汚す行動」には、勧められた結婚を拒否する、異性と交流する、性的暴行の被害を受けるなどのほか、自転車に乗る、運動をするといった「処女性」を失う可能性のある行動や、「西洋的過ぎる」こと、つまり両親に従順でない、頭髪を隠すヒジャーブを着用しない、西洋的な服装をする、高等教育やキャリアを望む、異教徒の友人や彼氏を持つことなども含まれる。
国連は2000年、世界で1年間に約5000件の名誉殺人が発生しているという推計を発表した。しかし名誉殺人は自殺として処理されたり隠蔽されることも多く、正確な数は不明だ。
それはアジアや中東だけでなく、欧米でも発生している。 一般に名誉殺人はイスラム教とは無関係と説明される。
しかしニューヨーク市立大学スタテンアイランド校のフィリス・チェスラー名誉教授は、名誉殺人の加害者の91%がイスラム教徒だという調査結果に立脚し、名誉殺人は主にイスラム教徒のイスラム教徒に対する犯罪だという論文を発表した。
また国際法学者のハンナ・イルファンや犯罪学者のリンゼイ・ディバースは、イスラム教には名誉殺人を誘発、是認、隠蔽する側面があると指摘する。
サウジアラビアの法学者サーレフ・マガムシー師は2014年、「娘や息子を殺した父は殺される(死刑に処される)か?」という質問に対し、「父は息子のために殺されない」という預言者ムハンマドの言葉を典拠とし、「多くの法学者は、父は殺されないとしている」と回答した。
<死刑判決は下されないと知っていた父親>
イスラム法は殺人について、被害者親族が犯人に対して同害報復刑か賠償金を決める権利を有すると定めるが、スンニ派4法学派のうち3派は父が娘を殺しても同害報復刑の対象にはならないとし、1派のみ母親がそれを求める権利を認める。
イラン・イスラム刑法も、娘を殺した罪で有罪となった父に対し、最長で禁錮10年の刑を科するにとどめる。
ニューヨーク・タイムズ紙は既出の14歳の娘を殺した父親について、あらかじめ法の専門家に相談し、娘を殺しても死刑判決が下されることはないと知っていたと報じた。
ポンペオ米国務長官は7月1日の会見で、イランで続発する名誉殺人に言及し、「イランの腐敗した指導者たちは40年間こうした殺人を容認し、女性たちの人間性を奪ってきた」と批判した。
しかしこれはイランだけの問題ではない。 必要とされるのは名誉殺人を厳しく罰する法の整備と、家族の名誉のために女性が殺されることはあってはならないと教える教育である。女性の人権の確保は、真の民主主義実現には絶対不可欠だ。【7月31日 飯山陽氏(イスラム思想研究者)Newsweek】
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【イスラム教国の中でもひときわ多発する、中央政府の統制力が弱いパキスタン】
「名誉殺人」が横行するイスラム教国にあっても、ひときわ多発(年間1000件、あるいは、それ以上)するのがパキスタンで、上記イランの事件と前後して下記の事件が報じられています。
****また「名誉殺人」。男性と動画に映ったパキスタンの10代少女2人が、家族によって殺害される****
パキスタンでは今でも、“名誉”殺人で女性たちが犠牲になっています
パキスタン北西部のワジリスタンで、男性と一緒に動画にうつっていた10代の少女2人が、家族に殺害された。
パキスタンの警察は、殺人と証拠を隠した容疑で少女の父と親戚を逮捕したと発表。
家族や親戚による「名誉殺人」として捜査を進めている。
■動画がきっかけで殺された
事件は5月14日に、北ワジリスタンと南ワジリスタンの境にある村で起きた、とパキスタントゥデイは伝える。
警察の報告書によると、殺されたのは16歳と18歳の少女で、家族の名誉のためという理由で親戚に射殺され、その後に埋められたという。
2人がうつっていた動画は、1年前に携帯電話で撮影されたものと考えられているが、最近になってソーシャルメディアに投稿されたという。
動画には男が3人の少女と一緒にいる様子がうつっており、そのうちの2人に男がキスした、とBBCは伝える。
3人目の少女は身を隠していると考えられおり、警察は彼女を守るために居場所を探している。
少女にキスした男と動画をアップロードした男の友人も逮捕したと警察は発表したが、殺人を実行した犯人はまだ捕まっていない。
■法律ができた後も続く、名誉殺人
名誉殺人は、家族に“不名誉”がもたらされたと主張する家族や親戚による殺人で、ほとんどの場合、被害者は女性だ。
パキスタンでは、2013年にダンスを踊っている動画見た親戚によって、15歳と16歳の少女が殺された。
2016年には、SNSに自撮り写真を投稿したモデルの女性が、兄によって殺害された。
この事件の後、名誉殺人を厳罰化する法案が採決された。しかしその後も名誉殺人は減っていない、とパキスタン人権委員会(HRCP)は訴える。
今回の事件の後、名誉殺人に厳しく対処するよう求める声明をHRCPは発表した。
「2016年に法律が採択されて以降、名誉殺人の件数と、それを社会が許容するケースが減ったという証拠は、ほとんどありません」
「女性の体と行動には名誉が伴う、という古くて死を招く考え方は、今でもパキスタン全体に広がっています」
「性差別を簡単に許容する家父長制、そして“名誉”殺人を正当化し、承認し、実行する家父長制を、どちらも決して許容するべきではありません」
HRCPはまた、今回の殺人事件をソーシャルメディアで批判している人たちに対して脅迫や揶揄が起きていることにも懸念を示しており、名誉殺人の支持者を容認しないよう国に強く求めている。【5月20日 安田 聡子氏 HUFFPOST】
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“アフガニスタンと国境を接する北ワジリスタンおよび南ワジリスタンの部族地域は保守性が極めて強い。アムネスティ・インターナショナルによると、女性だけでの外出は認められないこともあり、女性がどれだけ家族に対して従順であるかによって一家の社会的立場が判定される。
2019年のヒューマン・ライツ・ウォッチの報告によれば、パキスタンでは年間推計1000件の名誉殺人事件が発生している。しかし公式統計はなく、報告されないままだったり、家族が自殺や自然死として届け出ることもある。”【5月19日 CNN】
パキスタンで多発する理由としては、“パキスタンは中央政府の統制力が弱く、地方においてはその土地の部族の力が伝統的に強いため、部族の慣習法が国の法律に先立つ状態となっているためである”【ウィキペディア】とも。