(中国の対艦弾道ミサイル「東風21D」(いわゆる「空母キラー」)【8月27日 産経】)
【トランプ大統領 「中国とのビジネスはしなくてもいい」】
今後の覇権を争う米中対立の火種は香港、台湾、ウイグル、南シナ海、ファーウェイなど5G関連、さらにはTikTokと多々ありますが、トランプ政権は大統領選挙対策もあって、敢えてこの対立を先鋭化させたい姿勢です。
****国務長官、米中対立「冷戦以上」 東欧で演説、共産党批判を先鋭化****
東欧4カ国を歴訪中のポンペオ米国務長官は12日、チェコ上院で演説し、米中関係を冷戦期の米ソ対立と比較し「中国共産党の脅威に対抗するのはそれよりもずっと難しい」と述べ、中国の台頭に警鐘を鳴らした。
経済発展を支えつつ中国の民主化を促した歴代米政権の関与政策の転換を宣言した先月の演説に続き、対中批判を先鋭化させた。
ポンペオ氏は中国共産党体制について、冷戦期のソ連より「マルクス・レーニン主義」を引き継いでいると非難。米国をはじめとする民主主義国の経済、政治、社会に大きな影響力があるとして「今起きていることは新たな冷戦どころではない」と警告した。【8月13日 共同】
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とは言え、米ソ冷戦と異なり、現在の米中は経済的に相互依存関係にある点が大きく異なりますが、これに関してもトランプ大統領は「分断」も辞さないとの発言。(実際に可能かどうかは別問題ですが)
****トランプ氏、中国との取引「しなくてもいい」 経済デカップリングに言及****
トランプ米大統領は、FOXニュースのインタビューで、米中経済のデカップリング(分断)の可能性に言及した。
23日に放送されるインタビューの抜粋によると、トランプ氏は、中国とのビジネスは「しなくてもいい」と述べ、その後、デカップリングに言及。「彼らがわれわれに適切に対応しなければ、私は確実にそれをするだろう」と語った。
米中は約1年半にわたって貿易戦争を繰り広げた後、今年1月に第1段階の通商合意に達したが、トランプ氏は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を巡り中国の対応を批判。第2段階の合意に向けた交渉の扉を閉ざしている。
ムニューシン米財務長官は6月、米企業が中国で公平に競争できない場合、米経済と中国経済のデカップリングが発生する恐れがあると述べている。【8月24日 ロイター】
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【高まる南シナ海での緊張 中国「空母キラー」発射で米をけん制】
そうした米中の対立の中でも、最近目立つのが南シナ海における緊張の高まりです。
この問題は、他の対立要因と異なり、軍事行動を伴っており、意図せざる偶発事故の危険もあります。
“南シナ海、対立先鋭化 米…2度の空母演習「中国抑止」 中…同時期に訓練、戦闘機配備”【7月27日 朝日】
“米、中国の企業と個人に制裁 南シナ海の人工島造成で”【8月26日 AFP】
****中国、南シナ海に弾道ミサイル4発発射=「空母キラー」で米けん制か****
米軍高官は26日、中国軍が中国本土から南シナ海に向けて中距離弾道ミサイル4発を発射したと明らかにした。中国は25日に米軍偵察機が軍事演習区域を飛行したと非難したばかり。今回の発射には中国の南シナ海領有権主張を否定し、経済・軍事両面で対中圧力を強めるトランプ米政権をけん制する意図があるとみられる。
米軍高官によると、弾道ミサイルは南シナ海の西沙(英語名パラセル)諸島と海南島に挟まれた海域に着弾した。「ミサイルの種類については現在分析中」という。
香港紙サウス・チャイナ・モーニング・ポスト(電子版)によると、中国軍は26日午前、内陸部の青海省から「東風26」(推定射程4000キロ)、沿岸部の浙江省から「東風21D」(同1500キロ)を南シナ海に向けて、それぞれ1発ずつ発射。
中国軍筋は「米軍が頻繁に軍用機や艦艇を南シナ海に派遣し、潜在的危機を高めていることに対する中国の返答だ」と警告した。【8月27日 時事】
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この「空母キラー」、アメリカが優位に立つ空母打撃群にとっても厄介な存在と言われています。
これに先立って、米軍のU2偵察機が中国軍の演習空域(中国北部の渤海および黄海)に侵入したと、中国国防省が異例の非難声明を出す事案もありました。
“中国、米偵察に過敏反応 「撃墜の危険あった」”【8月26日 産経】
****中国のミサイル発射、米空母排除の“切り札” 急がれる対中同盟網****
中国軍が26日に南シナ海へ中距離弾道ミサイルを発射したのは、米軍の空母打撃群を排除する“切り札”を誇示し、中国近海で軍事プレゼンスを急速に高めている米軍に警告する狙いがある。
中国人軍事研究者は発射されたとみられる対艦弾道ミサイルについて、米海軍への「接近阻止・領域拒否」戦略の基盤だと解説。「実力誇示は長期的な方針だ」としつつ、発射時期は「米軍偵察機が中国北部の海域に入ったことと関係あるだろう」と指摘する。(中略)
トランプ米大統領が共和党全国大会で大統領選候補に指名された直後にミサイルを発射したことで、トランプ政権に的を絞って牽制(けんせい)する動きとの観測もある。
一方、トランプ政権は、中国が弾道ミサイルで南シナ海や西太平洋に展開する米軍を攻撃する態勢を確立した場合、米軍の優位が一層低下しかねないとして危機感を強めるのは確実だ。
事態を受け、2026年までを目標とするグアムの米軍基地での弾道ミサイル防衛システム「イージス・アショア」の配備を前倒しするなどの対応を加速化させるとみられる。(後略)【8月27日 産経】
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【米「1インチたりとも譲歩せず」 中国「選挙目的」】
エスパー国防長官は26日、「中国が東シナ海や南シナ海でこれまで以上に挑発行為を展開してくるのは必至だ」と指摘。インド太平洋地域の同盟諸国との連携を強化していくと表明した。
インド太平洋地域の同盟諸国には当然日本も含まれます。
****米国防長官が中国批判演説、太平洋で「1インチたりとも譲歩せず」****
エスパー米国防長官は26日、米国は太平洋で指導役を担う責任があり、自らの政治体制がより良いと考えている他国には「1インチたりとも譲歩しない」と述べた。中国を念頭にした批判だ。
長官はハワイで演説し、たとえ約束を繰り返し反故にしている中国が積極的な軍近代化を追求するとしても、ルールに基づく国際秩序を中国に尊重させるため同国と協力することを望んでいると述べた。
また、中国は国際法順守の約束に従ってこなかったとしたほか、世界に力を誇示したいと考えていると付け加えた。
「CCP(中国共産党)のアジェンダを進めるため、人民解放軍は今世紀半ばまでに世界クラスの軍になろうと積極的な近代化計画を引き続き追求している」と指摘。「これは疑いようもなく、南シナ海、東シナ海、および中国政府が自国の利益に重要だとみなしている地域における人民解放軍の挑発的行為を伴うだろう」とした。
ただ、米国は中国抑止を目指す一方、「願わくば、国際ルールに基づいた秩序とより協調する路線に中国を戻すため、同国との協力を続けたい」と望んでいると述べた。
長官は、インド太平洋を「中国との大国競争」の中心地と表現。ただ、それはロシアとも一緒だと付け加え、中国のプレゼンスは今や世界に及んでおり、米国は世界で両国に対処できるようになる必要があるとした。
「米国は指導する責任がある。われわれは相当長い間、太平洋国家であり、インド太平洋国家だ」と指摘。「政府の形態、人権に対する見方、主権に対する見方、報道の自由・宗教の自由・集会の自由に対する見方、これらあらゆる事柄について、われわれの多くが共有しているものよりも自らのがより良いものだと考えている別の国には1インチたりともこの地域でわれわれが譲歩することはない」と述べた。(後略)【8月27日 ロイター】
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これに対し、中国はアメリカ・トランプ政権が選挙目的で「軍事的衝突すら起こそうとたくらんでいる」と批判。
****米大統領を非難=「選挙目的で衝突企図」―中国国防省****
中国国防省の呉謙報道官は27日の記者会見で、中国周辺で米軍が頻繁に活動していることに関して「米国の一部の政治屋は大統領選を前に自らの利益のために中米関係を破壊し、軍事的衝突すら起こそうとたくらんでいる」と述べ、名指しを避けながらもトランプ大統領らを非難した。
また、呉氏は、台湾の蔡英文政権と米国が連携を強めていることに対し、「いかなる米台の公式交流や軍事関係にも断固反対する」と強調した。中距離核戦力(INF)全廃条約の失効を受け米国が開発中のミサイルの配備先として日本が候補に挙がっていることについても「関係国が強行するなら、中国は断固報復する」と語った。【8月27日 時事】
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他方、エスパー米国防長官は中国の強軍路線が米国や周辺国に脅威を与えていると主張、国際社会に対応を呼びかけています。
****強まる米中軍事摩擦 米「ソ連を研究したように備えよ」****
中国国防省は25日夜、中国軍が実弾演習のために設定した飛行禁止区域に米軍のU2偵察機が無断で立ち入り、訓練を妨害したとする非難声明を発表した。
一方、エスパー米国防長官は中国の強軍路線が米国や周辺国に脅威を与えていると主張、国際社会に対応を呼びかけた。米中対立が激しさを増すなか、軍同士の摩擦も目立ち始めている。(中略)
エスパー氏は24日、米紙ウォールストリート・ジャーナルへの寄稿で「中国軍は国家ではなく、中国共産党に属している」と指摘。米国や同盟諸国の利益を損なう経済・外交政策を実現するために軍事力を高めているとし、「20世紀にソ連軍を研究・対応したように、世界は中国軍の動きに備えなければならない」と訴えた。
一方の中国軍も7月以降、南シナ海などで軍事演習を展開しており、現在も黄海に加え渤海、南シナ海で演習中だ。27日から東シナ海でも訓練を始める。
フランスの軍事専門サイトによると、中国は26日、内陸部の青海省、東部の浙江省から南シナ海に至る二つの空域に警戒情報を出した。「空母キラー」とされる弾道ミサイル「DF21D」などの発射訓練が実施された可能性がある。
南シナ海情勢を分析する中国のシンクタンクによると、米偵察機RC135が嘉手納基地から南シナ海へ向かい警戒にあたったという。
中国国防省は一連の訓練について、新型コロナウイルスの影響で6月までの訓練が滞っていたと強調し、「あくまで年度計画に基づくものだ」と説明。中国軍事筋は「米大統領選への牽制や米海軍が主催する環太平洋合同演習(リムパック)への対抗という見方は間違いだ」とする。
今月6日にエスパー氏と電話会談した魏鳳和国防相も「状況をエスカレートさせる危険な行動は避けてほしい」と呼びかけ、米国を挑発する意図はないとの姿勢を示したが、エスパー氏の寄稿は、中国が「防衛のため」とする強軍路線そのものを問題視する立場の表明ともいえ、双方の溝が深まる可能性がある。【8月27日 朝日】
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【台湾・蔡英文総統 偶発的衝突を防ぐ対話の維持をアピール】
米中の対立激化で日本も「show the flag」という要請を強く受けることにもなりますが、その影響を一番受けるのが台湾。
緊張の高まりで、今月10日のアザー米厚生長官訪台のように、アメリカが台湾重視を強めるというメリットもありますが、万一「衝突」に至ったら、中国軍の矢面に立たされる危険もあります。
もちろん、米中ともに「けん制」が目的で、本気でミサイルを撃ち合う事態は望んでいないでしょうが、ものごとには“はずみ”というものもあります。
****偶発的な衝突のリスク高まる、対話の維持が必要=台湾総統****
台湾の蔡英文総統は27日、南シナ海や台湾周辺の緊張で偶発的な衝突のリスクが高まっていると指摘、判断ミスのリスクを防ぐため、対話を維持する必要があると主張した。
総統はオーストラリア戦略政策研究所主催のフォーラムで「すべての関係者が衝突のリスクを慎重に管理する必要がある。中国政府が地域の大国としての責務にふさわしい自制を続けると期待している」と述べた。
総統は、国際社会が香港情勢や中国の南シナ海軍事化を注視しており「その結果、台湾海峡情勢にも関心が高まっている」と発言。
「地域で軍事活動が拡大していることを踏まえると、今後もアクシデントのリスクが非常に懸念される。したがって、すべての関係者が対話とコミュニケーションを維持し、誤解や判断ミスを防ぐことが重要だ」と述べた。
総統は、台湾の防衛力を強化する必要があると主張。「これは現状を踏まえれば、力と抑止は相関関係を持ち得るためだ。軍事的冒険主義のリスクを減らすことにもつながる」と発言した。
総統は「中国が互恵関係に貢献する限り、中国と対話する用意がある」とした上で、中国は民主主義が台湾の将来を決めることを受け入れる必要があると述べた。【8月27日 ロイター】
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米中対立の必然性というのはあるのでしょうが、今は中国も言うように「選挙目的」で緊張が煽られている側面も。
11月まで、さらに緊張が高まるのかも。